1 認知症高齢者の現状
1-1 平成22年の現状
平成22年に全国の65歳以上の高齢者人口は2874万人です。介護保険制度を利用している人高齢者(日常生活自立度Ⅱ以上)は約280万人です。日常生活自立度Ⅰ又は要介護認定を受けていない人は約160万人。正常と認知症の中間の人(MCIの人)は約380万人です。
ただし、MCIの人の一部は、早期診断・早期対応、認知症傷の普及・啓発、見守りなどの生活支援の充実など、地域での生活継続を可能にするという、認知症施策推進5か年計画で対応しています。このようにして、持続可能な介護保険制度を確立し、安心して生活できる地域づくりを目指しています。
認知症とはどのような症状でしょうか。認知症の定義は、いったん正常に発達した知的機能が、後天的な脳の機能性障害により持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたしている状態を言います。
認知症の条件は4つあります。1.脳の機能的障害が基礎に認められること。2.全般的な知能低下が認められること。3.意識が正常な状態で知能低下と日常生活の障害が認められること。4.非可逆的であること。
認知症の主な原因疾患は7種類上げられます。1.脳血管障害(脳出血、脳梗塞、くも膜下出血)。2.退行変性疾患(アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症、進行性核上麻痺、パーキンソン病、チントン舞踏病、ALS様症状を伴う認知症)。
3.内分泌・代謝性中毒性疾患(甲状腺機能低下症、下垂体機能低下症、ビタミンB1欠乏症、肝性脳症、肺性脳症、透析脳症)。4.感染症疾患(クロイツフェルト・ヤコブ病、進行麻痺、脳炎、髄膜炎)。
5.腫瘍性疾患(原発脳腫瘍、続発性脳腫瘍、髄膜癌腫症)。6.外傷性疾患(慢性硬膜下血腫、頭部外傷後遺症)。7.その他(正常圧水頭、多発性硬化症、神経ベーチェット病)。
1-2 認知症に気づく
認知症は静かに、そして徐々に始まります。しかし、毎日一緒に暮らす家族は「あれっ!」「なんか変だぞ!」などと気づく機会は少ないといわれます。次のような症状や言動がありましたら放置せず、かかりつけの医師などに相談しましょう。
* 何度も同じことを聞く。例えば「今日は何日だったかな」「(子どもに)ボクは何年生になったかな」など。
* 買い物で同じ物を買ってくる。家や冷蔵庫にあるものをまた買ってくる
* しまい忘れ、探し物が多い。財布や貯金通帳、健康保険証などをどこにしまったのか忘れてしまい、毎日こそこそ探し物をしている。
* 出来ていた手仕事ができなるなる。プッシュホンやATM、ファックスなどの操作ができなくなる。ネクタイが結べなくなる。
* 薬の飲み忘れが持続する(本人はきちんと飲んでいると思い込んでいる)
* 車の運転が危なくなる。
* 外出しても一人では目的地へうまく行けない。
認知症では早い時期から物忘れや日時の感覚や方向感覚の低下、判断力の低下などの症状が目立ちます。認知症の場合、本人が「病院にでも行ってみるか」などということは稀です。異常にはまず家族が気づくことが多く、丁寧に医療機関受診へと誘導しましょう。
1-3 早めの受診
医療機関への受診は早ければ早いほど素直に受診してくれます。遅れれば遅れるほど「受診の拒否」症状が出てきます。認知症には、自分が認知症とは認めない「病識の欠如」という症状があり、受診を拒否します。拒否は病気が進むほど強くなります。
受信拒否の対策は、「健康診断に行こうと誘う」「当血圧など現在通院中の病気に関連付けて受診する」「頭痛関節痛など今ある症状に関連付けて受診する」「かかりつけの医師から紹介してもらう」などの工夫が必要です。
いずれにしても受診前に、事前に受診予定の医療機関の医療相談室、外来看護師などに相談しておくことが大切です。事前相談なしでは受診は成功しません。また、訪問診療が必要になる場合もあります。札幌市医師会のホームページから訪問診療医を探すことができます。また、地域包括支援センターが相談に乗ってくれます。
札幌市では今年度から三か年計画で「認知症初期集中支援チーム」を各区に設置します。2015年ド後半に3っつの区で開始し、2017年度までに全区に設置されます。受信拒否認知症患者や認知症の症状が強く、閉じこもっている高齢者などを対象に医師・保健師・社会福祉士などがチームを作り支援する活動です。
1-4 認知症の種類と概要
認知症はいろいろな原因で発症します。頻度の高い順に紹介すると、①アルツハイマー型認知症、②血管性認知症、③レビー小体型認知症、④前頭側頭葉変性症、⑤アルコール性認知症などが挙げられます。
アルツハイマー型認知症は、脳内にアミロイドベーターやタウという異常たんぱく質が溜まる病気で、やがて神経細胞が壊れてきます。新たなことを記憶できない、日時の感覚がぼやけてくるなどの症状が認められます。早期に診断できれば治療薬があります。
レビー小体型認知症は、実際にはないものが見える幻覚症状が特徴です。非現実的なものではなく、犬や猫、子どもや人が見える、しか生き生きとリアルに見えることが特徴です。レビー小体型認知症はパーキンソン病(筋肉が硬くくなる、起居動作が下手になる、手指に振動が起きるなど)を併発します。
最近新しい診断法(グッドスキャン脳SPECP)が認可され効果を発揮しています。前頭側頭葉変性症は、人柄の変化が出てくることが特徴です。優しい人が徐々に粗暴な態度をとる、話しかけても無視される。相談しても生返事しか返ってこないなどです。多くの認知症で薬物治療が可能です。また、認知症の治療、悪化予防では生活習慣の改善、運動療法など様々なことが大切です。
1-5 認知症の予防
認知症はある程度予防できる疾患になってきました。また、認知症になったとしても、その悪化を防ぐことができるようになってきました。すべてを防げるわけではありませんが、予防策を実践すると認知症のリスクをおよそ30%減らすことができます。
高血圧と糖尿病の治療
高血圧や糖尿病を放置している人は、認知症になるリスクは約2倍に達します。ぜひしっかり治療しましょう。塩分制限(1日8グラム以下)とカロリー制限に取り組みましょう。
運動不足の解消
息が上がらないようゆっくりと行う運動を「有酸素運動」といいます。具体的にはウオーキング、サイクリング、体操(ヨガなどを含む)が有酸素運動ですが、これを1日40~50分、一週間に4日くらいしましょう。認知症リスクを3割下げ、認知症の人には認知機能の認知機能がある程度回復します。
予防食を食べよう
野菜、海藻、魚介類、大豆製品、乳製品などです。また、カロリーの取りすぎに注意しましょう。中高年のサラリーマンでは2100キロカロリー程度が適切です。
睡眠
しっかり眠ることも大切です。動物実験ですが、眠らない脳にはアミロイドベーターという認知症を引き起こす物質が溜まるといわれています。しっかり眠りましょう。
社会的な活動
高齢になると徐々に人と接触しなくなります。顔を合わすのは家族、夫婦だけという方が多いのではないでしょうか。それぞれの状況で変わりますが、サークルや区民センターなどで行われるカルチャー教室、まちづくりセンターなどで行われる体操教室、いろいろなものへぜひ参加してみませんか。人は他人と顔を合わせることで健全な緊張感を持てます。引きこもっていては心身が徐々に退化していきます。
1-6 必ずやってくる介護
認知症になるとやがて介護を必要とする時期がやってきます。介護者が認知症という病気について(その特徴や介護の仕方、病気の進み方についてなど)を学んで介護に当たると、認知症の人の病気の進み方は遅くなります。
また、早めに介護申請を行い、介護サービスを活用する体制を整えましょう。介護者が自信をもって介護できると認知症の人の精神状態は安定するでしょう。
認知症は10~20年で中等症まで進みます。認知症を学び、どんな症状が出るか、症状にどんな対応をすればいいかを学びましょう。認知症で時々みられる「ものを取られ妄想」、犯人にされた介護者が「私は盗んでいない」と口頭で否定するとムキになってさらに執着して「盗っただろう」と主張し、感情的対立にまで発展します。
もの盗られ妄想の心理的背景には、自立して生活してきた自分が他人の世話を受けることになった負い目の感情があります。「負い目」という悔しさから逃れるために介護者を攻撃すると考えられています。
いったん引いて「大変だったね」などと相手の言い分をある程度認め、後で一緒に探そう、まずはお茶にしよう等の対応をとると感情的対立を避けられます。認知症はイライラする、激怒するなどの症状が出ます。苦労を掛けている妻を平気で怒鳴ります。認知症の人は周りの人の気持ち、自分が周りに迷惑をかけていることなどは理解できなくなっていきます。
これを「社会的認知の障害」と呼び、自分を取り巻く小さな社会の状況を自分が理解できなくなった状態です。その時、脳内では頭頂葉や側頭葉が壊れ始めていることがわかってきました。
社会的認知の障害が強くなると介護は困難ですが、その障害の法則性を理解して対応すると意外にうまくいくこともあります。札幌市医師会の会員の著書「社会脳から見た認知症(講談社ブルーパック2018年刊)」を参考にしていただければ幸いです。