1 コロナ後遺症
2019年の年末から中国の武漢で始まって新型コロナウイルス感染症は第8波と感染拡大を繰り返し、年が明けても多くの感染者が出ています。オミクロン変異株では重症化する罹患者は減っていますが、7日間の自宅療養期間を終えても症状がおさまらない場合があります。
急性期の臓器障害が長引いて後遺障害となっている場合や、集中治療後症候群あるいは心的外傷ストレス障害と言われるような他の感染症や、重症疾患でも見られるような病態や経過もあります。また、特徴的な労作後の倦怠感(疲れやすい)や、集中力低下、記憶障害、抑うつなどが見られる脳の霧、嗅覚障害、脱毛など様々な症状が見られます。
現在のオミクロン株では、2021年のデルタ変異株よりコロナ後遺症にかかる率は半減したといわれていますが、感染者数は一桁以上も多く、札幌市内の後遺症外来を受診する患者は増えています。
WHOが2021年にまとめたコロナ後遺症の定義は、「2か月以上の持続と発症から3か月以上経過している」となっていますが、実際には発症後2週間目にも、4週間目にも様々な症状が出ている方が多くみられます。
イギリスの研究でも、早期に治療を開始したケースの多くは3か月には改善しているので、病態的にも社会的にも早期に必要な治療を受けるべきと考えられます。
2 罹患後の症状
新型コロナウイルスに感染すると、次のような症状が現れます。呼吸困難や息切れ。倦怠感。運動後の倦怠感や持続力低下。頭の中がもやもやしたりぼんやりして集中できなくなることや、認知障害。
痰・咳、瑞鳴、鼻閉、副鼻腔炎、咽頭痛、嗄声。胸痛。頭痛。動悸・頻脈。関節痛、関節腫脹。筋肉痛、筋けいれん、こわばり、筋力低下。耳鳴り、難聴、光・音の過敏、ドラアイなどの感覚異常。
腹痛、腹部膨満感、嘔気、胸やけ。下痢、便秘、体重変化、食欲低下。不眠症とその他の睡眠障害。発熱、寒気、発汗異常、上半身がのぼせたように感じたりほてりや発汗。立ちくらみ、浮腫、四股の冷感。
日常生活機能や運動の障害。痛み、リンパ節の腫れ。蕁麻疹などの発疹、脱毛、爪の変化。不安、抑うつ、孤独感、自傷などの気分の変化。嗅覚障害または味覚障害。月経周期の不規則性、性機能低下。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にかかった後、ほとんどの方は時間経過とともに症状が改善します。いまだ不明な点が多いのですが、一部の方で長引く症状(罹患後症状、いわゆる後遺症)もあることがわかってきました。
ウイルスの一部が細胞内に残って炎症が続いているため、細胞内のミトコンドリアが機能異常を起こした可能性も指摘もあります。過去に感染した別なウイルスの再活性化や、免疫反応が延び延びになっているという説もあります。
あるいは自己免疫が関与しているという、脳の老廃物や炎症物質などが再説されにくくなっているという説、結果の障害で小さな血栓が生じているという説などが有力で、これらが重なり合っていることに加え、背景となる基礎疾患や心理社会的な要因も加わっていると考えられています。
3 後遺症の診断と治療
新型コロナウイルス感染症に罹患した後、「なんだか、(コロナ罹患前と比べて)違う。体調が良くない気がする」と訴える方がいることがわかっています。医師は、これを新型コロナウイルス感染症の罹患後症状と呼んでいます。
罹患後症状は、目に見える症状もあれば、目に見えず外見ではわかりにくい症状もあることから、周りの理解が得られにくく悩みを抱えている方もいます。
新型コロナウイルス感染症に罹患し入院された方を対象に実施した厚生労働省の研究事業では、入院時の重症度が高かった方、治療中に人工呼吸器管理を使用した方、女性、中年者(41~64歳)において、罹患後症状を訴える割合が多かったと報告しています。
多くの方は、時間の経過とともに症状が改善するとされるなか、長引く症状に悩んでいる方もいることが現状です。新型コロナウイルス感染症に罹患した後、感染性は消失したにもかかわらず、長引く症状があるときには、かかりつけ医などや地域の医療機関を受診し相談しましょう。
かかりつけ医や地域の医療機関などでは、ほかの疾患による症状の可能性も含めて診察します。罹患後症状の多くは、時間経過とともに症状が改善することが多いとされていますが、その過程で症状を和らげるなどの各症状に応じた対症療法をすることもできます。症状がつらい場合は我慢せず受診をしましょう。
かかりつけ医を持っていない方が少なくありません。そのような場合は、地域の医療機関を受診しご自身の症状について相談してみましょう。一人ひとりの症状や症状の程度に合わせた対症療法を受けることもできますし、専門医等へ紹介することも可能です。
罹患後症状に悩む方へのケアについては、医療者側の理解が追いついていないという専門家の意見もあります。厚生労働省は、かかりつけ医や地域の医療機関などで罹患後症状に悩む方に適切に対応できるよう、国内外の知見を盛り込んだ「診療の手引き別冊罹患後症状のマネジメント」を作成し、医療現場などにお届けしています。
この機会に、改めて、新型コロナウイルス感染症罹患後に、長引く症状に悩んでいる方がいることを知っていただきたいです。目に見えない症状もあり、職場や学校など、なかなか周囲の理解を得られず悩んでいる方もいます。罹患後症状に悩む方に、「気のせい」「気の持ちよう」などと言わず、寄り添った対応をすることが大切です。
診断は急性期から後遺症までの詳しい経過の問診や、検査で他の病気が隠れていないかどうかも詳しく調べて、ほかの病気がない場合に診断しています。実施には、貧血がコロナのちの倦怠感の原因になっている方もいました。
治療は、厚生労働省が作成した「罹患後遺症のマネジメント」、WHOが作成したリーフレットや米国のガイドラインなどを翻訳したものなどを使って療養指導をしています。
もっとも重要なのはエネルギーの節約で、倦怠感、微熱、痛みなどの症状の悪化を起こさないように身体的・精神的疲労をためず、個々の患者にあったペースを見つけることが重要です。
そこから追加していく運動、頭脳作業を含む日常生活に優先順位をつけて計画を立てること、低レベルから頻度を増やし、持続時間を増やして最後に強度を増やしていくという順序になります。
特効薬はなく、漢方薬や痛み止めなどの対処療法と、外国の研究論文などをもとにサプリメントや血圧やコレステロールの薬を併用することもあります。また、鼻の奥のほうに炎症が続いている場合は、耳鼻咽喉科で上咽頭擦過法という治療を行う場合もあります。
発症前にワクチンの追加接種を受けていることで、コロナ後遺症の発症を減らせるという科学的知見もありますので、まだ感染していない方は、コロナ今からでも接種を受けることをお勧めします
4 職場復帰
後遺症が重たい場合は、仕事や学校を長期に休む必要があります。英国やカナダの文献が参考になります。始業・就業・休憩のタイミングや、時短勤務などの勤務時間の制限、ペース配分、勤務内容などの勤務時間の制限、ペース配分、勤務内容やシフトの検討、リハビリテーションの延長と考えて職場と相談することも重要です。
会社内でテレワークの制度が整備されている場合には、その制度の範囲内でテレワークを実施することができます。このため、まずは会社の就業規則などの規定を確認し、会社と話し合ってみましょう。なお、厚生労働省では、テレワークに関連する情報を一元化した『テレワーク総合ポータルサイト』を設けていますので、参考にしてください。
新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けが変更されたことを理由として、使用者から出社を求められている場合は、原則として使用者が一方的にテレワークを廃止し出社させることはできません。
テレワークは、労働者と使用者の双方にとって様々なメリットのある制度であることから、その取り扱いについては使用者と労働者の間でよく話し合っていただくことが望ましいと考えられます。
1日の労働時間帯を、必ず勤務すべき時間帯(コアタイム)と、その時間帯の中であればいつ出社または退社してもよい時間帯(フレキシブルタイム)とに分けるものです。なお、コアタイムは必ず設けなければならないものではありませんので、全部をフレキシブルタイムとすることもできます。
働く妊婦の方は、職場の作業内容等によっては、感染について大きな不安やストレスを抱える場合があります。感染そのものだけでなく、これによる「不安やストレス」を妊婦の方が回避したいと思うのは当然のことです。
新たに、事業主の新型コロナウイルス感染症に関する妊婦の方への対応を法的義務としました(令和2年5月7日~令和5年9月30日)。具体的には、こうした不安やストレスが、母体または胎児の健康に影響があると、主治医や助産師から指導を受ける場合があります。
働く妊婦の方は、その指導内容を事業主に申し出た場合、事業主は、この指導に基づいて必要な措置を講じなければなりません。例えば、「感染のおそれが低い作業に転換させる」、「在宅勤務や休業など、出勤について制限する」といった措置が考えられます。
参考資料:札幌市医師会、厚生省等々。