4 腰痛の予防法
4-1 日常生活での注意
① 買い物をするとき
荷物は小分けして両手に持つ。ショッピングカートを利用する。
② 者を持ち上げるとき
片膝を立て、もう一方の膝を十分に曲げて、体を物に近づけてから持ち上げる。
③ 長時間立ち続けるとき
高さ10cmくらいの台に片足を乗せる(時々左右の足を置き換える)。
④ 寝るとき
円背(背中が円い)の人が仰向けに寝ると、背骨に無理な力がかかる。横向きで寝
るのがお勧めで、安定しない時は背中のそばに枕を挟む。
⑤ 運動のすすめ
運動は腰痛予防に非常に効果があります。腰痛体操以外にも、散歩や水泳など長続
きする運動を積極的に行いましょう。(圧迫骨折の急性期などでは、最小限の安静も
必要です。運動は医師の指示のもとに行ってください。)
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4-2 腰痛を防ぐための姿勢
年齢と共に背骨が曲がり、背中が円くなる「円背」が増えてきます。円背の姿勢は、筋肉や神経に負担をかけ、腰痛の一因となります。円背の人でも、正常な背骨に近づけようと意識することが大切です。
腰部脊柱管狭窄症の人は、背中を反らせすぎないように注意してください。
腰痛を予防し、腰痛を改善したり防止するために、正しい姿勢を意識して出来るところから姿勢矯正に取り組みましょう。悪い姿勢は腰に負担をかけるので腰痛の原因になります。「前かがみ」「中腰」などの姿勢をとらないなど、日頃から腰に良い姿勢を心掛けるとともに、「ひねったり、急な動作をしない」ように注意しましょう。
中腰での前かがみが一番あぶない姿勢と言われます。体重70kgの人の腰にかかる力は、立っているだけで100kg、軽くおじぎをした状態で150kgがかかるのだそうです。
4-2-1 立っている姿勢
軽くアゴを引き、背筋と膝をキチンと伸ばします。真横から見た場合、耳から肩・股関節・膝・くるぶしを結んだ線が直線で描かれていることが、一般的には良いとされているようです。
壁を利用した簡単なチェック方法があります。背中を壁にあてて立ちます。この時、後頭部・肩甲骨・仙骨(お尻)・踵、が壁につく状態であり、腰の後ろの隙間に手が入るくらいが、正しい姿勢の目安です。
腰の後ろの隙間に、拳が楽に入ってしまうのは「出っ尻の状態」で腰椎が彎曲しすぎています。逆に、手が入らないようですと、「猫背」の状態で腰椎の彎曲が少なすぎることをあらわしています。
立つときの正しい姿勢、姿勢矯正のためのチェックポイントは次の通りです。
① 体が反り過ぎていませんか
② 猫背になっていませんか
③ あごをひき過ぎていませんか
④ 胸をはり過ぎていませんか
⑤ ガニマタで立っていませんか
⑥ 片方の足だけに重心がかかっていませんか
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4-2-2 座っている姿勢
正座は、自然に背筋が伸びるため腰にやさしいとされます。背中が丸まらないように注意し、お尻の下に座布団などを挟むと背骨の自然なカーブが維持しやすくなり、ひざへの負担も減ります。
イスに腰かける場合は、お尻が背もたれに密着するように深く腰掛け、軽くアゴを引いて背筋をのばし、お腹をひっこめます。膝がお尻よりわずかに高くなるのが理想です。あぐらや足を投げ出して座る、体育すわりなどは腰に負担をかけてしまいます。また、足を組んだり、片肘をついたりすることも、腰に良い姿勢ではありません。
座るときの正しい姿勢、姿勢矯正のためのチェックポイントは次の通りです。
① イスの前の方に座わっていませんか
② 足を投げ出していませんか
③ 極端に高かったり低いイスにすわっていませんか
④ やわらかすぎるソファーに座っていませんか
⑤ 20分に一度は立ち上って腰を動かしていますか
⑥ 畳の上ではあぐらを組んで座っていませんか
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4-2-3 重いものの持ち方
まず、どれくらいの重量があるのか、床で荷物を傾けるなどして重さを把握します。一度しゃがみこんでものにできるだけ近づき、膝を十分に曲げてお尻を落とし、腰を曲げずに体全体で持ち上げるようにします。
持ち上げるときは、荷物をお腹に抱えた込状態で足の力で立ち上がります。荷物を運ぶときは荷物を体に密着させて運ぶようにしましょう。
上半身を倒して腕の力だけで持ち上げようとしたり、荷物を体から離して持ち上げようとすると腰に大変大きな負荷がかかり、ぎっくり腰などの急性腰痛を起こす危険性があるので絶対にやめましょう。
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4-2-4 寝る時の姿勢
敷布団(マットレス)は軟らかすぎず硬すぎず、体が軽く沈み込むくらいですと背骨の自然なカーブが維持できるため、腰の負担が小さくなります。軟らかすぎると背中が丸まり、固すぎると反りが大きくなって腰に負担がかかります。
痛みがある時は、横向きでやや前かがみ(横向きエビ型)の姿勢で寝るのが一般的には楽な寝方と言われています。仰向けに寝るのはイビキをかいたり無呼吸になりがちのためお勧めしません。
枕は、高すぎ・低すぎも良くありません。横向きに寝た時に、直線で「頭」「首」「体の中心線」が真っ直ぐになるようになる高さの枕を選択します。
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4-2-5 歩く時の姿勢
背中を丸めて常にひざが軽く曲がった状態で、上体を揺らしながら歩く「ひざ歩き」は日本人に多く見られます。歩くたびに頭が上下に動き、脚を踏み出すたびに右左へ全身が揺れる歩き方です。見た目にも悪く、腰と膝に余計な負担がかかります。
理想的な歩き方ができていると、体が左右にブレず、頭も上下に動かず一定の高さを保つのが特徴です。歩くときはあごを引いて、首・背筋を伸ばし軽く胸を張ります。足のかかとから着地をすることが基本ですが、勢いを付けて着地しないよう注意してください。
目線は水平にして周りに注意しながら、かかとから着地したら親指の付け根で踏み切るのが正しい歩き方の基本です。呼吸は吐くほうを重視しましょう。
歩くときの正しい姿勢、姿勢矯正のためのチェックポイントは次の通りです。
① 体を斜めにして歩いていませんか
② 背中を丸めてあるいていませんか
③ 体が反り過ぎていませんか
④ ズルズルと靴を引きずっていませんか
⑤ 内股・がに股で歩いていませんか
⑥ つま先から着地していませんか(かかとから着地しましょう。)
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4-3 腰痛予防のストレッチ
腰痛は予防が可能であるとされています。腰痛と無縁の生活を送るには、意識して姿勢を良くする、腰を守る深層筋肉をうまく機能できるようにする、日常から腰痛を発症させないように気をつけて行動することが大切です。
腰痛予防には、背骨のS字カーブを維持することができるように姿勢を良くする、腰を守ることができるようにインナーユニットの働きを良くするためのストレッチとトレーニングを行うことです。そして、仕事や生活においてなるべく腰に負担をかけないようにすることが大切です。
まず、良い姿勢を意識しましょう。つぎに、インナーユニットの機能を良くして腹圧を高め、腰が守られるようになるストレッチを行います。ストレッチ前よりも強い痛みを感じた場合は無理せずに中止してください。
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4-3-1 腹式呼吸
インナーユニットの働きを良くする基本的なエクササイズは腹式呼吸です。
① 仰向け寝でヒザを立てます。
② お腹に手を当て、息を吐きながらお腹を凹ませていきます。
③ 10秒以上かけて、細く長く腰を床に押し付けるようにします。
④ 馴れてきたら、より長い時間をかけて行うようにしてください。3~5セット行い
ます。
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4-3-2 逆腹式呼吸
腹式呼吸と同様の姿勢ですが、今度は息をゆっくりと細く吐きながらお腹を膨らませていきます。これも息を吐きながら腰を床に押し付けます。3~5セット行います。
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4-3-3 キャットバック・ストレッチ
猫が寝起きに伸びをするような動きをイメージしてください。肩とももの付け根から、床に垂直になるように手・ヒザをつき四つんばいになります。
背中を丸めながら天井へ引き上げます。この時に息を細く吐きながら、おへそに頭が近づいていくようにします。背中が丸められることで背骨にそった脊柱起立筋へのストレッチがかかります。
息を吸いながら、背中を反らしつつ上と前に伸びていきます。天井を見るように目線を上げて首を前にのばしていきます。両手で床をじんわりと強く押していってください。これを交互に1~2回繰り返し、3~5セット行います。
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4-3-4 腰痛予防対策指針
厚生労働省は2013年6月に「職場における腰痛予防対策指針及び解説」を改訂しました。職場で、重量の負荷、姿勢の固定、前屈等の不自然な姿勢で行う作業等の繰り返しなどで、労働者の腰部に過重な負担が加わり腰痛の大きな要因となっている。
このため、事業者は次の対策を講じることとしています。厚生労働省の取り上げた腰痛予防対策指針で、誰にでも該当する予防対策をご紹介します。
① 重い物を持ち上げる時や、カラダを曲げる時やひねる時の急激な動作に注意する。
② 前かがみや中腰等の不自然な姿勢を取らないようにする。。
③ 同じ姿勢を長時間取りつづけないようにする。。
④ 不自然な姿勢を取らざるを得ない作業や反復作業等を行う場合は、同じ作業が連続
しないようにする。
⑤ フィットした靴を履く。腰に負担のかかる作業を行う場合はハイヒールやサンダル
を使用しない。
⑥ 作業場内の温度が寒すぎないよう、また多湿にも注意する。
⑦ 心理的ストレスが、腰痛を発症させ悪化させる一つの原因となるので、心理的スト
レスが溜まり続けないように考慮する。
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4-4 ロコモを予防する食事
脊椎管狭窄症や腰椎すべり症の治療法は、手術で狭まった脊椎管を削って広げたり、腰椎のずれを元に戻す方法などがありますが、いずれも体にかかる負担が大きいのが難点と言われます。症状が進まないうちに食事にも気を配りましよう。
望ましい「ロコモを予防する食事」は筋肉を丈夫にする栄養素タンパク質(アミノ酸)を含む肉・魚・タマゴ・大豆製品・牛乳・乳製品などをバランスよく食べ、タンパク質合成を促進し、骨を丈夫にする栄養素ビタミンD、B6、K、カルシウムなどを摂取する必要があるというものです。
私たちが生きていくために、「糖質・脂質・タンパク質・ビタミン・ミネラル」という5つの栄養素が必要です。これらは5大栄養素と呼ばれ、カラダをつくる素になったり、動かすエネルギーになったり、調子を整えたりする役割を担っています。
糖質と脂質はエネルギーを生み出す源で、これがないとカラダを動かすことはできません。タンパク質は筋肉などカラダをつくる素になり、不足すると運動器をはじめカラダ全体が衰えてしまいます。ビタミン、ミネラルは栄養素の消化や吸収を助け、代謝を促したりする働きをします。健康に生活するには、これらの5大栄養素を毎日の食事から摂ることが重要です。
ロコモ予防のために5大栄養素をバランス良く摂ることが大切です。毎日の食事でご飯やパンなどの「主食」、肉・魚料理などの「主菜」、野菜や海藻などを使った「副菜」、「主食+主菜+副菜」を揃えるようにしましょう。
もうひとつの目安としては、1日に主食のほか10種類の食材(肉類、卵、魚介類、乳製品、大豆製品、緑黄色野菜、いも類、果物、海藻類、油脂類)を食べることを目指すことも推奨されています。
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筋肉量を維持するため、肉(タンパク質)をたくさん食べても十分とは云えません。タンパク質の消化・吸収を助ける野菜や果物、海藻など(ビタミン、ミネラル)も一緒に摂取すると吸収の効率がよくなります。栄養素は互いに影響しあうので、どれかひとつの栄養素だけを大量に摂取しても無駄になってしまいます。バランスが重要です。
仕事や家事が忙しい、一人なので料理が面倒という理由で、つい簡単な食事で済ませてしまうことはありませんか?ロコモのリスクも下げるには、どんなに忙しくても面倒でも食事を抜かないことが大切です。おにぎり1個、パン1枚でもいいので、三度の食事を食べるようにしましょう。
さらに、おやつを工夫するとさらに有効です。おやつには、乳製品、果物、いも類などを使った食品など、なるべく栄養価の高い食品を選ぶようにすると効果的です。普段から食が細く、あまり食べられないという場合は、スープタイプやゼリータイプの栄養補助食品などもおすすめです。
健康なカラダを維持するためには、食事を摂るタイミングや回数も意識しましょう。理想は1日3食、朝・昼・夜に分けて食べることです。とくに大切なのは朝食です。朝起きてすぐは半眠状態でも、食事をすることでカラダが目覚めてくれます。また朝から活発に動くこともできるので健康的です。朝食を食べる習慣で、夜更かしや朝起きられないといった生活リズムの乱れの改善しましょう。
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4-5 腰痛の運動療法
運動療法にはさまざまな方法があり、大きく分けて8種類が存在します。
① 通常の活動性維持(身体的制限があってもそれに抗して通常の活動を行うように勧
めるなど)
② 柔軟性訓練(ストレッチング)
③ 筋力強化訓練
④ エアロビック(ウオーキングやサイクリング)
⑤ アクア(プール内リハビリテーション)
⑥ 腰部安定化運動
⑦ 固有受容促通・協調運動
⑧ 直接的腰椎体操(McKenzie法など)
日本人の8割が一生に一度は経験する腰痛ですが、この腰痛の治療や診断が変わりつつあります。腰痛で受診したら、医師はまずレントゲンを撮り、骨に異常がなくても「まずは安静に」と指示されましたが、これからの治療はガイドラインの普及で変わると白土修教授はおしゃいます。
痛みを訴えて受診する人のうち、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症など原因が特定できる腰痛は約15%でした。ぎっくり腰を含め、病態不明の「非特異的腰痛」のほうが多いといのが現実です。この「非特異性腰痛」の原因の一つに「心理的・社会的なストレスがあり、これが改善を遅らせる要因にもなる」との視点が盛り込まれました。
欧米での研究で、ストレスと腰痛の因果関係が証明されています。「骨に異常がないのに、鎮痛薬などの治療をしても症状が改善しない人は、ストレスが関係している可能性が考えられます。ですから、腰痛のせいで人生真っ暗だと思い込んでいる人もいますが、腰のことばかり考えず、上手にストレスをコントロールして気分転換をしてください。」と白土教授。
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