3 歯周病を予防しよう
3-1 歯周病とは
歯周病は、細菌の感染によって引き起こされる炎症性疾患です。あなたの口の中には約300~500種類の細菌が住んでいます。普段あまり悪いことをしませんが、ブラッシングが充分でなかったり、砂糖を過剰に摂取すると細菌がネバネバした物質を作り出して歯の表面にくっつきます。これを歯垢(プラーク)と言い、粘着性が強いのでうがいをした程度では落ちません。
歯と歯肉の境目(歯肉溝)の清掃が行き届かないと、歯垢に多くの細菌が集まってくるので歯肉の辺縁が「炎症」を帯びて赤くなったり、腫れたりします(痛みはほとんどの場合ありません)。
歯垢(プラーク)1mgの中には、むし歯や歯周病をひき起こす10億個の細菌が住みついていると言われます。歯垢は取り除かなければ硬くなり、歯石と言われる物質に変化し歯の表面に強固に付着します。
歯周ポケットと呼ばれる歯と歯肉の境目が深くなると、歯を支える土台(歯槽骨)が溶けて歯が動くようになり、最後は抜歯をしなければいけなくなります。
歯垢(プラーク)の中で増殖した細菌が、歯肉の毛細血管から体内へ入り込んで全身を駆け巡ると、肺炎や心不全、骨粗鬆症や早産などの原因をつくりだします。
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3-2 抜歯原因の第一位は歯周病
厚生労働省が昭和32年より6年ごとに実施している調査で、「平成23年歯科疾患実態調査」の結果が発表されました。この調査結果で8020達成者(80才で20本以上の歯を有する者の割合)は38.3%で、平成17年の調査結果より14.2%増加していました。
この調査は、全国を対象として平成23年国民生活基礎調査により設定された単位区から、無作為に抽出した300単位区内の世帯及び当該世帯の満1歳以上の世帯員を調査客体としており、今回の被調査者数は4,253人(男1,812人、女2,441人)でした。
20本以上の歯を有する者の割合は増加傾向にありました。75歳以上80歳未満、80歳以上85歳未満の年齢階級の数値を単純平均することで80歳での数値を推定すると、1 人平均現在歯数では13.9、20本以上の現在歯を持つ者の割合での推定値は38.3%となりました。80歳以上では、1人平均現在歯数で20本以上の歯を持つ者の割合は男性のほうが女性よりもやや高値を示しました。
※ 「一人平均現在歯数」の表は厚生労働省「平成23年歯科疾患実態調査」より転載しました。ありがとうございます。
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3-2-1 歯肉の状況
若年者では歯肉に問題のある人や診査対象で歯のない人は少なかったのですが、高齢になるにつれ歯肉に問題のある人および対象歯のない人が多いという結果でした。4mm以上の歯周ポケットを持つ人の割合は、前回調査(平成17年)と比較すると30~60歳代では概ね低い値を示しました。一方75歳以上の高齢者層では今回調査のほうが高値を示しました。歯を失う人の減少と考えられます。
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3-2-2 歯列・咬合の状況
12歳以上20歳未満で歯列に隙間のない人は約44%、歯列に隙間のある人は約12%でした。
正常咬合といわれる咬み合わせの場合は、上顎の前歯が下顎の前歯より少し前に出ていますが、上顎の前歯が前に出過ぎると上顎前突(出っ歯、オーバージェット)といわれます。前歯の水平方向の突出程度には12~15歳と16~20歳ではそれほど差はなく、0.5~3mmの吐出が多いという結果でした。
・平成17年度 0.5mm未満 52名、0.5~3mm 108名、4mm以上 49名
・平成23年度 0.5mm未満 32名、0.5~3mm 106名、4mm以上 71名
約半数の人でオーバージェットが小さいもしくは大きい結果を示しています。
前歯の咬み合わせの深さ(オーバーバイト)では、上顎の前歯が下顎の前歯に深く被さり過ぎる状態を過蓋咬合(ディープバイト)と呼びます。下顎の前歯が全く見えなくなるほどの過蓋咬合や、前歯が全く接触しないというケースもあります。このような場合は、食事にも発音にも支障が出てきます。
・平成17年度 0.5mm未満 28名、0.5~3mm 147名、4mm以上 68名
・平成23年度 0.5mm未満 19名、0.5~3mm 135名、4mm以上 90名
約40~45%の方が、オーバーバイトが小さいもしくは大きいという結果が出ています。
オーバージェットにしてもオーバーバイトにしても、歯並びというよりも咬み合わせに関する指標になります。見た目に関係する部分でもありますが、無理なく口を閉じることや咀嚼などの機能に関わってくる部分でもあります。一度ご自身の咬み合わせの状態を確認してみてはいかがでしょうか。
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3-2-3 フッ化物塗布の状況
1歳以上15歳未満でフッ化物塗布を受けたことのある人は64%であした。内訳をみると、約15%が市町村保健センター等で、4割弱がその他の医療機関で、そして約1割が両方で受診したと回答しました。フッ化物塗布を受けたことのある人の割合は調査を重ねるごとに増加しています。
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3-2-4 歯ブラシの使用状況
1歳以上の人で、毎日歯をみがく人の割合は95%でした。また、毎日の食事の後に歯みがく人の割合は近年増加しています。朝だけ・夜だけ歯を磨くという方もいますが、毎食後に磨くという人が一番多いそうです。
毎食後1日3回歯磨きをした場合に、歯ブラシの寿命は約1ヶ月と言われています。歯ブラシは、使っていくうちに汚れを落とす効果が弱まることも判明していますし、1ヶ月で交換すると汚れの取れ具合が違うことに気付くそうです。
歯ブラシは毛先が広がったら寿命と云われます。毛先が広がった歯ブラシでいくら丁寧にブラッシングをしても歯はきれいになりません。あまり早く歯ブラシの毛先が広がってしまうという場合は、力を入れてブラッシングし過ぎるからという結果が出ています。
使い終わった歯ブラシは流水で洗い流して歯ブラシスタンドに立てていますね。歯ブラシの雑菌をすべて洗い流すことは不可能ですし、空気中にも色々な菌がいます。神経質になりすぎることはありませんが、あまり長い間働かせると清潔とは言えなくなります。
歯医者が好きという方は少ないと思いますが、歯周病の原因は歯垢ですから、それをためない、増やさないことが基本です。健康な歯を保つためには虫歯がなくても年に一回程度は検診に行ったほうが良いといわれます。
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3-2-5 顎関節の状況
口を大きく開け閉めした時、あごの音がするか、痛みがあるかという質問に「はい」と答えた人は、どちらも女性に高い傾向を示ししました。
あごが痛い、口が開きにくい、音がする、あるいはものが咬みにくいといった症状は、顎の関節や顎を動かす咀嚼筋に異常が起こった場合で顎関節症といいます。顎関節の症状を抱えている人に男女差はないのですが、若い女性と中年の女性に多いのが特徴です。
女性の訴えが多い理由は、顎の筋力が弱いとか筋肉の血液循環が悪いといったことも考えられますが、女性の方が痛みを感じやすいが、痛みが強くても耐えられるために回復不可能な状態になってしまい病院を行かざるを得ない状態になってしまうと思われます。
顎関節症はかなり一般的な病気です。多少の症状は特別な治療をしなくても、やがて改善に向かい、自然に治まることも多いのですが、痛みや、口が開けずらい、物が食べにくいなどの症状で日常生活に支障があれば、病院で治療を受けるべきです。
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3-2-6 インプラントの状況
15歳以上の人で、インプラントが入っていると回答した人は2.6%であり、55~74 歳で高い割合を示しました。
インプラントとは歯を失ってしまった部分に人工の歯根を入れることです。しかし、インプラント治療は全ての方に100%の成功率で行えるものではありません。体の問題で出来ない方や、インプラントを再度入れ直さなくてはいけないこともあります。
インプラントは骨の中に人工歯根(インプラント)を埋め込む治療で、部分麻酔を使用した外科処置が必要です。場合によっては腫れや痛み、内出血などが起こることがあります。また、手術の時に血管を傷つけてしまうと出血が止まらなかったり、大きな神経を傷つけると麻痺が残ってしまうことがあります。
インプラントを骨の中に入れた後、インプラントと骨が付いた状態になり噛むことができます。しかし、稀にインプラントが骨と付かずに動いてしまうことがあります。特に悪い状態の歯を長期間そのままにしておくと、インプラントを入れても骨とつかないことがあります。重度の糖尿病や骨粗鬆症の方は避けた方が良いかもしれません。
インプラントはメンテナンスを怠ると歯周病で抜けてしまうことがあります。インプラントも歯と同じように歯石が付きます。インプラントは歯よりも防御する力が弱いため、インプラントの周りに細菌が残っていると、歯茎が腫れたり、膿が出たり、揺れてきたりすることがあります。
インプラントは治療をしてすぐに被せ物が入るものではありません。CT検査や噛み合わせの確認、インプラントが骨と付くのを待つ期間など最低3ヶ月程度はかかります。また、インプラント治療は一部の特殊な場合を除いては保険診療で行うことはできません。自費診療となり30万円から50万円程度かかります。
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3-2-7 噛み合わせの状況
15歳以上45歳未満の人では、両側で接触のある人が95%以上でしたが、45歳以上では年齢とともに接触のある人の割合が少なくなる傾向を示しました。
噛み合わせは、下顎を上顎に向かって閉じてくる行為をさす場合と、上下の歯の接触関係をさす場合とがあります。わたしたちが噛み合わせという場合は上下の歯が噛み合っている状態のことです。
上顎は頭蓋骨に固定され、下顎は主に複数の筋肉によって頭蓋骨から釣り下がっています。釣り下げている筋肉が収縮あるいは弛緩することで、顎関節(がくかんせつ)を中心にして下の顎が動きます。噛み合わせは、歯、筋肉、顎関節および中枢神経系が関与するので、そのうちのどれか一つに問題が生じると噛み合わせがうまくいきません。
人の顎関節は回転運動の他に、前後左右にも動くことができる複雑な機構のため、トラブルが生じやすい環境にあります。肩こり、首の痛み、頭痛、腰痛、手足のしびれ、めまい、耳鳴り、むちうち、倦怠感などを感じて病院へ行くと「異常なし」と云われました。こんな時に考えれられる原因に噛み合わせの不正があります。
噛み合わせの狂いは、わずか1/100mmで全身に影響が出ることがあります。前歯のかみ合わせが悪くなると発音がしにくくなったり、話す時に唾が飛んだり、唇が閉じにくくなったり、口が渇いたり、見てくれが悪くなったりする場合があります。口腔内の違和感だけにとどまらず関節や筋肉にも影響を及ぼし、頭痛や肩こり、内臓疾患を引き起こす原因にもなります。
悪い噛み合わせは咀嚼(そしゃく)がしにくいといった口腔内の問題だけではなく、全身に対してさまざまな悪影響を及ぼす場合があります。もし気になることがあれば早めに歯科医師に相談してください。
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3-3 歯の清掃補助用具
歯ブラシできちんと歯を磨けていると思っても、歯と歯の間(歯間)に歯垢が残っています。歯と歯の間は歯ブラシの毛先が届きにくいので、歯ブラシだけでは口の中の歯垢を残さず落とすことはなかなか難しいのです。
歯と歯の間の歯垢は、歯ブラシだけでは6割程度しか取り除けません。歯の清掃補助用具であるデンタルフロスや歯間ブラシを併せて使うことで9割程度まで歯垢を取り除くことができます。
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3-3-1 デンタルフロス
デンタルフロスは歯と歯の間の隙間が狭い部分の清掃に適している歯の清掃補助用具です。デンタルフロスは、持ち手に糸が取りつけられているホルダータイプ(Y字タイプ、F字タイプ)と、必要な長さのフロスを切り取り指に巻きつけて使用するロールタイプの2種類があります。初めての方は、奥歯にも使いやすいY字タイプのデンタルフロスがおすすめです。
3-3-2 歯間ブラシ
歯間ブラシは、歯と歯の間の隙間が広い部分のプラークの清掃に適しています。ハンドルの形状やブラシのサイズがいろいろありますが、使用する部位(歯間の広さ)に合わせたサイズ選びが大切です。目安は歯と歯の隙間にスッと抵抗なく挿入できるサイズです。
歯間ブラシは、歯間がほとんど開いていない歯間に無理に通すことはできません。健常者の歯間部のすき間は平均0.8mm前後といわれていますが、最小通過径が0.7mmの歯間ブラシも登場し、歯周病などで歯肉が下がった人だけでなく、幅広い層で歯間ブラシが使用できるようになりました。できれば、最初は歯科医院に行って自分に合ったサイズを選んでもらうほうが安心です。
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3-4 口の健康
3-4-1 口の健康チェック
口に水を含んで「30秒間」ぶくぶくできるかやってみましょう。唇から水が漏れたり水を飲みこんでしまったら、口の筋肉が弱っている証拠です。ぶくぶくした水をコップに戻してみたら、食べ物の残りが混じっていませんか。このような場合、口臭が強くなる、歯や歯肉の病気になる、誤嚥性肺炎になる危険性があります。口腔ケアをしましょう。
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3-4-2 舌の体操
口を開けて行う体操(それぞれ5回行います。)
① 舌を思い切りだしたり、ひっこめたりする。
② 舌をできるだけ前に出して、左右に動かす。
③ 舌をできるだけ前に出して、口の周りをなめるように舌を左右代わる代わる回す。
④ 舌を出して、鼻のあたまや顎をなめるような感じで、上と下に動かす。
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口を閉じて行う体操(それぞれ5回行います。)
① 舌で上唇を押す。
② 舌で下唇を押す。
③ 舌で左右かわるがわるに左右の頬を押す。
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3-4-3 唾液を出しましょう
唾液には、会話をスムーズにする、口の中をきれいにする、良い菌の働きを助ける、消化を助ける、食べ物を味わう、飲み込みやすくするなどの効果があります。
ハンバーグに代表されるような、やわらかい食物ばかりを食べるような噛まない食生活を続けると唾液腺は退化します。唾液腺をマッサージをすると唾液がでます。刺激を受けることで唾液腺が活性化し、唾液が出やすくなります。
耳下腺は、耳たぶのやや前方、上の奥歯あたりの頬に人差し指をあて、指全体でやさしく押します。梅干しやレモン汁のような酸っぱい食べ物を想像すると、スーット唾液が出てくるところです。5~10回繰り返してやさしく押します。
顎下腺は、顎の骨の内側のやわらかい部分です。指をあて、耳の下から顎の先までやさしく押します。5~10回繰り返します。
舌下線は、顎の先のとがった部分の内側、舌の付け根にあります。下顎から舌を押し上げるように、両手の親指でグート押します。5~10回繰り返します。
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