3 詩情溢れる人情豊かな街
3-1 歌謡曲の世界
札幌が舞台となっている歌謡曲(大衆的歌曲)の中から、「アカシア」または「アカシヤ」という単語が含まれる歌詞を探しました。房アカシアや銀葉アカシア、その他のアカシア属などではなく、「ハリエンジュ」や「ニセアカシヤ」をさしていると推定できるものに限定しました。
歌詞の中に、「アカシアの街、アカシア花咲く街で、アカシアの咲く北のこの町で、夕焼けアカシア北国の、夜霧にないてるアカシアの町、アカシア並木雲の下、アカシア並木大通り、ふたり歩いたアカシアの道」などという表現もありましたが、これだけでは札幌が歌の舞台となっているとは特定できません。
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北のこの町、北国、アカシア並木、大通りなどは札幌以外にも多々あります。歌詞名と歌詞に「さっぽろ、サッポロ、札幌」の文字が含まれているものと、解説書などに札幌発と明記されているものに限定しました。したがって、北原白秋作詞の「この道」のように札幌駅前通や北一条通のアカシヤと、故郷柳川の風景の二説があるものは除きました。発表された歌謡曲をすべて調べることはできませんが得られた結果は次のとおりです。
明確に札幌が舞台と特定できる歌謡曲を五十音配列にしました。恐縮ですが作詞家と作曲家並びに歌手の方々の敬称は略させていただきました。
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3-2 アカシアが登場する詩
1. アカシアの雨がやむとき 作詞 水木かおる 作曲 藤原秀行 歌唱 西田佐知子
歌詞一番 アカシアの雨に打たれて
歌詞二番 アカシアの雨に泣いてる
歌詞三番 アカシアの雨がやむとき
2. アカシアは咲いた 作詞 池田充男 作曲 吉田 正 歌唱 三田 明
歌詞一番 アカシア路で おまえは泣いた
歌詞三番 アカシア咲いて ひとりの俺さ
3. アカシア物語 作詞 井谷俊也 作曲 大谷明裕 歌唱 加門 亮
歌詞一番 アカシアのアカシアの 花に浮かぶよ面影が
歌詞二番 アカシアのアカシアの 花の香りが身を責める
歌詞三番 アカシアのアカシアの 花に祈るよ幸せを
4. 思い出はアカシア 作詞 山口洋子 作曲 弦哲也 歌唱 石原裕次郎
歌詞一番 想い出はアカシア 別れの白い花
歌詞二番 想い出はアカシア 二人の白い花
歌詞三番 想い出はアカシア 瞼の白い花
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5. 北国の街 作詞 丘灯至夫 作曲 山路進一 歌唱 舟木一夫
歌詞一番 ふたりでかえる アカシヤの道
歌詞三番 肩よせあるく アカシアの道
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6. 札幌えれじぃ 作詞 久仁京介 作曲 中川博之 歌唱 竹島宏
歌詞一番 札幌 アカシアの街
歌詞三番 札幌 アカシア並木
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7. 札幌ふたりづれ 作詞 たかたかし 作曲 市川昭介 歌唱 都はるみ
歌詞一番 燃えて花咲くアカシアも
8. 札幌ブルース 作詞 川内康範 作曲 曽根幸明 歌唱 青江美奈
歌詞一番 アカシア並木は雪化粧
9. 中の島ブルース 作詞 斎藤保 作曲 吉田佐 歌唱 内山田洋とクールファイブ
歌詞一番 燃えて花咲くアカシアの
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3-3 アカシヤが登場する詩
1. 赤いハンカチ 作詞 萩原四郎 作曲 上原賢六 歌唱 石原裕次郎
歌詞一番 アカシヤの花の下で
歌詞三番 アカシヤの花も散って
2. アカシヤの駅 作詞 岩崎 なみ 作曲 ジーヤ千里 歌唱 星乃ひとみ
歌詞一番 つきぬ想いのつきぬ想いのアカシヤの駅
歌詞二番 だけばせつないだけばせつないアカシヤの駅
歌詞三番 声もとぎれる声もとぎれるアカシヤの駅
3. アカシヤの並木道 作詞 大高ひさお 作曲 福島正二 歌唱 真木富士夫
歌詞一番 アカシヤの花の匂いの雨が降る
歌詞二番 アカシヤの花の笑くぼに紫の
歌詞三番 アカシヤの花の旅路の行きずりに
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4. アカシヤの街よさようなら 作詞 吉川静夫 作曲 豊田一雄 歌唱 三浦洸一
歌詞一番 アカシヤの花匂う夜は
歌詞三番 さらばアカシヤ札幌よ
5. 美しかったあの人は 作詞 西沢 爽 作曲 和田香苗 歌唱 有田弘二
歌詞一番 アカシヤの街 あの娘の瞳も空も輝いていた
歌詞三番 さらばアカシヤ札幌よ
6. 北一条のブルース 作詞 内村直也 作曲 飯田三郎 歌唱 大津美子
歌詞一番 雨あがる宵 アカシヤの
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7. 北の雪虫 作詞 池田充男 作曲 徳久広司 歌唱 キム・ヨンジャ
歌詞二番 アカシヤが咲いていた
8. 恋の町札幌 作詞作曲 浜口庫之助 歌唱 石原裕次郎
歌詞二番 アカシヤも散った恋の町札幌
9. 札幌シャンソン 作詞 吉川静夫 作曲 服部良一 歌唱 武山逸郎/服部登美子
歌詞一番 ああ 白いアカシヤ
10. 札幌の星の下で 作詞 星野哲郎 作曲 中川博之 歌唱 黒沢明とロス・プリモス
歌詞一番 アカシヤの梢にともる
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11. 札幌ラブストーリー 作詞 雨宮英子 作曲 望月吾郎 歌唱 アローナイツ・篠路佳子
歌詞三番 アカシヤ並木夜も更けて
12. サヨナラ札幌 作詞 鳥井実 作曲 吉屋潤 歌唱 松平直樹・マヒナ・スターズ
歌詞一番 雨に濡れてるアカシヤの花
歌詞三番 雨の舗道にアカシヤの花
13. そよ風のビギン 作詞 杉本譲之 作曲 利根一郎 歌唱 小幡 実
歌詞一番 今年も又アカシヤの花咲いたと
歌詞三番 今年も又アカシヤの花咲いたと
14. 東京の雨を札幌で 作詞 山口洋子 作曲 鈴木淳 歌唱 秋庭豊とアローナイツ
歌詞一番 アカシヤ並木を銀の糸で煙らせて
15. 時計台のある街 作詞 池田光男 作曲 上村張夫 歌唱 ?
歌詞二番 アカシヤの道 あゝ時計台
16. 時計台の鐘 作詞作曲 高階哲夫 歌唱 村井満寿
歌詞二番 アカシヤの木に日は落ちて
17. ひとりの札幌 作詞 池田充男 作曲 鶴岡雅義 歌唱 三条正人
歌詞三番 冬枯れアカシヤ花が咲く
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18. 星影の小経 作詞 矢野 亮 作曲 利根一郎 歌唱 小幡 実
歌詞一番 あなたの囁きは アカシヤの香りよ
歌詞二番 私は散ってゆくアカシヤの花なの
19. 魅せられてサッポロ 作詞 志賀大介 作曲 中川博之 歌唱 ロス・プリモス
歌詞二番 アカシヤ色した夜景がゆれてる
20. 陽気な喫茶店 作詞 斧椰子夫 作曲 米山正夫 歌唱 黒木曜子
歌詞一番 アカシヤ並木の街角の(二番三番同じ)
21. ラ・サッポロ 作詞 星野哲郎 作曲 美樹克彦 歌唱 アローナイツ
歌詞三番 アカシヤ花詞
22. 忘れないでね札幌 作詞作曲 和田早苗 歌唱 島倉千代子
歌詞一番 あなたと歩いたアカシヤ並木
札幌を舞台とする歌謡曲に登場する「アカシア」は「8」曲、「アカシヤ」は「22」曲ありました。歌の世界では、はりえんじゅを特定できるアカシヤという名前に加え、やさしく聞こえる子音の響きが好まれているようです。
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4 ニセもの扱いを考える
「ニセ」という言葉の意味は「本物のように見せかけること。本物に似せていつわること。また、そのもの。」で、「相手をだます、相手を困らせる、相手に被害を与える」意図が含まれています。決してよい印象を与える言葉ではありません。株式会社岩波書店発行のCD-ROM広辞苑の第五版に「にせ」が付く印象の悪い言葉は14種類ありました。
・ にせ-いん(贋印・偽印)偽造の印形。偽判。にせはん。
・ にせ-がき(贋書・偽書)似せて書くこと。また、そのもの。偽筆。
・ にせ-がね(贋金・偽金)偽造または変造した貨幣。
・ にせ-くび(贋首・偽首)その人の首らしく見せかけた他人の首。仮首。
・ にせ-ごえ(似せ声)その人に似せた声。
・ にせ-さつ(贋札・偽札)偽造または変造した紙幣。にせふだ。
・ にせ-じょうもん(贋証文・偽証文)偽造の証文。
・ にせ-てがた(贋手形・偽手形)偽造の手形。
・ にせ-はん(贋判・偽判)偽造の印判。にせいん。
・ にせ-ひつ(贋筆・偽筆)にせふで。
・ にせ-ふだ(似札・贋札)にせの証券。
・ にせ-ふで(贋筆・偽筆)他人の筆跡に似せて書くこと。また、その文書。
偽筆ぎひつ。にせひつ。
・ にせ-もの(贋物・偽物)似せてつくったもの。偽物ぎぶつ。偽造品。
・ にせ-もの(贋者・偽者)その人でなくて、その人といつわり称する者。
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はりえんじゅの花を見ても、アカシア属と間違えて蜜を吸いにくる昆虫がいたりアカシア属の花のようだと騙される虫たちがいるとは思えません。また、ニセアカシヤは自らの意思で人々をあざむき騙しとおす必要性があるでしょうか。房アカシアや銀葉アカシアと同じものと人を偽ってもニセアカシヤに得るものがあるでしょうか。
昭和56年小学館発行の「国語大辞典」を引くと、「にせアカシア」というのは「針槐(はりえんじゅ)の異名」であるとしています。「異名」というのは「本名又は本来の呼び名以外の名。別名。本名とは別に付けられた名。あだな。」を指します。「ニセ」が付いているからには、ニックネームのような愛称とは違いむしろ差別用語であると言えるでしょう。
札幌市白石区南郷通1丁目から厚別区厚別南1丁目までの約6km間、南郷通(道々札幌夕張線)の分離帯に「はりえんじゅ」が植えられています。そこには「ニセ(の)アカシヤ」と表示されています。良質な蜜源を提供し、坑木や枕木として人々の役に立っている樹木が「犯罪を犯したかのようにさらしものにされている」と感じるのは私だけでしょうか。
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5 詩情溢れる人情豊かな街に
房アカシアに代表される香りがアカシアの香りですが、一般的にアカシヤの香りとしてイメージされているのはニセアカシヤの香りです。しかも、蜂蜜を連想するときはアカシヤであっても良質な蜂蜜はニセアカシヤが蜜源となっています。
平成10年発行の角川国語辞典新版で「アカシア」を引くと「=アカシヤ」が現れます。アカシヤという発音が一般に認識されてきたことを示しているのでしょう。アカシヤという言葉は歌を愛する人々の心に刻み込まれ、大正時代より時計台の鐘という曲で「アカシヤの木に日は落ちて」と歌い継がれてきました。歌謡曲への登場数を考えても札幌には「アカシヤの花」や「アカシヤ並木」が似合います。
昭和50年代の歌謡曲の世界で「札幌でヒットした曲は、日本中で大ヒットする」というジンクスがありました。札幌文庫81「歌の中の札幌」で「ひょっとしたら札幌に住む人々は、日本で一番優れた「歌ごころ」の持ち主かも知れない。」と森道夫さんが述べておられます。歌ごころは、詩情あふれる人情豊かな街で育まれるものです。
アカシア属は存在しても、世界中のどこにも「アカシア」や「アカシヤ」という名の樹木は存在しません。ニセアカシヤから「ニセ」という首かせを取り去り、「はりえじゅ」に「アカシヤ」というブランド名を贈呈しようではありませんか。そして、詩情あふれる人情豊かな街・札幌を創造しましょう。
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※ 参考資料
牧野富太郎著 牧野日本植物圖鑑 昭和15年10月2日発行 株式会社北隆館
初島住彦著 日本の樹木 昭和51年11月20日発行 講談社
歌のふるさと 昭和45年発行 朝日新聞社北海道支社
北海道・歌謡の旅 昭和45年発行 振興楽譜出版社
北海道の歌謡曲 昭和47年発行 旭川叢書
北海道歌謡曲のある風景(道新PR版) 北海道新聞社
北海道のうた 昭和53年発行 讀賣新聞北海道支社
北海道のうた 平成元年発行 重森直樹
日本流行歌史 上中下巻 平成8年発行 社会思想社
さっぽろ文庫81 歌の中の札幌 平成9年発行 札幌市・札幌市教育委員会
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