はげちゃんの世界

人々の役に立とうと夢をいだき、夢を追いかけてきた日々

第72章 最良のパートナー

20億年以上前に私たちの祖先である嫌気性の古細胞アーキアは、好気性のアルファプロテオバクテリアと出会い、細胞内で共生を始めました。古細胞アーキアはアルファプロテオバクテリアを外敵から守ることで、進化に必要なエネルギーを手に入れました。

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1 腸内細菌

 1 腸内環境

人間の腸は、栄養を吸収して食物のカスを通らせる長い管だけではないのです。腸には多くの神経細胞があり、有害なものが入るとすばやく体外へ排出しようと反応します。多くの免疫細胞も腸にあり、体の免疫システムの70%を担っています。

さらに、2万種類以上もの腸内細菌が棲息して食物の分解を促し、ビタミンや酵素や、ホルモンまで合成しているのです。従来、腸内細菌は培養できる菌のみで培養され、一人の人間の腸に生息する腸内細菌は約100兆個と考えられてきました。

ところが近年、最近全体の遺伝子を解析する「メタゲノム解析」という手法で、培養できない菌が町内細菌のほとんどを占めることが明らかになりました。そして、町内細菌の数は2万種類1千兆個にも及ぶことがわかってきたのです。

町内細菌はおおまかに善玉菌、悪玉菌のほか、日和見菌に分けられます。本来細菌に善悪はないのですが、便宜上このように呼んでいます。日和見菌は、善玉菌が優勢の時は善玉菌に、悪玉菌が優勢の時は悪玉菌に一斉に加勢します。

心身の健康を保つには、善玉菌を増やして腸内環境を日和見菌の加勢を受けた善玉菌優勢の状態にしておく必要があります。悪玉菌は少ない方が望ましいのですが、ゼロにすればいいというわけではありません。また、日和見菌にも重要な役割があるのです。

現代と違って、私達は子どもの頃に日和見菌を摂取する機会に恵まれていました。ハクサイを切り取った後、土の中に残された硬い切株を掘り出してナイフで切って生のまま食べていました。ニンジンを引き抜いて、土を手でこすり落としてそのまま食べたり、畑でトマトを丸かじりしていました。

殺菌とは無縁の生活で自然に土壌菌がとれる生活をしていました。土壌菌とは土の中にいる細菌類で、1g当たり数億個の微生物がいます。発酵食品を調べると、乳酸菌などの善玉菌や数多くの土壌菌が含まれています。土壌菌は糖に入ると日和見菌になります。

土壌菌を含んだ大豆発酵食品そのものを食べることは、町内細菌を増やすうえで有効です。納豆、みそ、熟成した発酵食品にはたくさんの土壌菌がいます。積極的に食べるようお勧めします。

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 1-2 ウンコの化学

腸が生き生きと元気であれば、肌や髪を美しく保つことができます。肌にシミやしわが増えるのは、細胞を傷つける活性酸素の攻撃を受けているからです。腸内細菌が元気に活躍していると活性酸素を退治してくれますが、腸内バランスが崩れると細胞が活性酸素に傷つけられてしまいます。

活性酸素は酸化力が非常に強いので、細胞を参加させて傷つけ、老化を促進させてしまいます。活性酸素は、腸内細菌を減らす最大の要因です。若さや美容の秘訣は、腸内細菌を増やして腸内環境をよくすることだと断言できます。

健康な人の腸内細菌はおよそ1.5kgと言われています。腸内細菌は常に生死を繰り返し、生きている腸内細菌と死んだ腸内細菌の両方がウンコとして体外へ排出されながら、町内バランスを維持しています。ウンコは食べカスと腸内細菌、はがれた腸粘膜などで構成されているのです。

腸内で善玉菌が優位の状態であれば、老廃物と共のウンコが適切なタイミングで出るのですが、現代人の腸内環境は急激に悪化しています。冷凍食品や総菜が蔓延し、働く女性が増えて手作りの料理が各段に減りました。食物繊維の摂取量は各段に減ったのです。

食物繊維をしっかり取ると腸内環境が整い、便秘解消のカギとなります。善玉菌は食物繊維をエサに乳酸菌や酢酸を作り出します。この酸が大腸の蠕動運動を活発にして便秘を解消させます。食物繊維も体内の有害物質を吸着して、善玉菌が増えやすい環境を整えます。

人間の体は、死んだ町内細菌とある程度の生きている腸内細菌を輩出して腸内バランスを保とうとするので、ウンコの大きさは腸内細菌の大さと比例すると考えられます。戦前の日本人はウンコをドッサリ出していました。約400グラムです。

現代人のウンコは約150グラムです。便秘がちの若いOLは80グラム程度です。戦前の日本人は食物繊維が和食のおかげで欧米人よりも大きなウンコをしていましたが、戦後は食の欧米化により食物繊維の摂取量が減り、ウンコも小さくなったのです。

ウンコを見れば腸内が健康かどうかわかります。バナナのような形、つやのある黄土色、あまりにおいがきつくないものが理想的です。排便後は、ウンコをじっくり眺める余裕を持ちたいものです。

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2 共生で生まれた進化

 2-1 体の中の異生物

私たちは普段体を動かし、頭でものを考えていますが、このためにはすべてにエネルギーが必要です。このエネルギーを利用できるのは、私たちの体に別の生物が住み着いてエネルギーを提供しているからです。その生物は、細胞小器ミトコンドリア官のミトコンドリアです。

ミトコンドリアが元々別の生き物だった証拠は、独自のDNAを持っているからです。ミトコンドリアのDNAは輪ゴムのような円形で、私達が良く目にする人の長い鎖状のDNAとは形がまるで違います。左下図はミトコンドリアのDNAで、右下図は人のDNAです。ミトコンドリアのDNAと人のDNA

ミトコンドリアがいたからこそ体を動かして使えるのです。私たちが生まれてからずっと、パートナーとして働いてくれているのがミトコンドリアです。呼吸をするのも、食事をするのも、すべてミトコンドリアに届けるためなのです。

なぜなら、ミトコンドリアは酸素を使ってエネルギーを生み出してくれるからです。その反面、ミトコンドリアは私たちの老化や病気の原因にもなることがわかってきました。ミトコンドリアに劣化が進むと、私たちはたちまち死への道を歩むことになるのです。

なぜ、私たちの体の中に、それほどまでに重要な別の生き物が棲み着いているのでしょう。最も古くて大切な友人でもあるミトコンドリア、それほどまでに重要なものでありながら人類はまだ多くのことを知らないのです。

いま世界中でミトコンドリアの研究が進んでいます。生体内の大部分のエネルギーを作り、生と死を制御しているミトコンドリアは、我々の健康に非常に重要だとわかってきました。でも、なぜミトコンドリアは細胞内に住み着いているのでしょう。

生命科学の研究者がいろいろな視点で研究すると、なぜかミトコンドリアにたどり着くのです。ミトコンドリアは、私たちの老化や病気の原因にもなりうるようです。現在の研究段階は、生命現象にミトコンドリアがかかわっていることの解明です。

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 2-2 ミトコンドリアとの共生

50歳以上になったら、ご飯やパン、麺類など炭水化物や砂糖をたっぷり含んだ甘いお菓子などの糖類を食べ過ぎないようにしましょう。私たちの体にはエネルギーを生み出すエンジンが二種類あります。「解糖エンジン」と「ミトコンドリアエンジン」です。

私達の祖先が誕生したのはまだ酸素がない頃です。糖を原料とした解糖という化学反応を起こすことで、生物はエネルギーを生み出す解糖エンジンを備えました。地球に酸素が増え始めた頃、解糖エンジではエネルギー不足で進化できないと悟った生物がいました。

酸素は何でも酸化してしまう毒です。酸素を利用できるように進化した好気性のアルファプロテオバクテリアは、餌を横取りされウイルスなどに襲われ、外敵から身を守るために日々戦っていました。わたしの身を守ってくれる生物はいないだろうかと考えました。

アルファプロテオバクテリアが生息していた20億年前に、古細胞アーキアという怠惰な生き物がいました。解糖エンジンを使ってわずかなエネルギーを生産し、それ以外のことは何もしないという怠け者ですが、バクテリアより図体が大きかったのです。

図体が大きいので、ウイルスなどから身を守ることができました。これが我々の祖先である古細菌アーキアです。アルファプロテオバクテリアはアーキアにすり寄り、アーキアの細胞膜に寄生しました。そして、しだいに細胞幕の内部へ入り込みました。

アーキアの細胞内へ入ったアルファプロテオバクテリアは、アーキアが嫌う酸素を利用してATPを作る能力がありました。ATPはアデノシン三リン酸の略称で、全生物の共通エネルギーとなる生命活動に必要なエネルギーです。

嫌気性の古細菌アーキアにとって酸素は猛毒になりますが、好気性のアルファプロテオバクテリアは、酸素を使うと解糖エンジンの20倍のエネルギーをつくることができたのです。同じ栄養から20倍のエネルギーをつくってアーキアに提供したのです。

アーキアとアルファプロテオバクテリアは、細胞内共生を図りました。これによりアルファプロテオバクテリアは、身を守るための2000以上の遺伝子を50分の1の37個にまで減らし、古細菌アーキアは進化を加速するエネルギーを入手できたのです。

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3 ミトコンドリアとは

 3-1 ミトコンドリアは生き物

私たちが教科書などでミトコンドリアを勉強する際に、その形態を下図のピーナッツ状の構造物(大きさ~10μm)にした図を目にします。ミトコンドリアミトコンドリアは、Mito(糸状)+Chondrion(粒状)という言葉の合成語で、上から見ると左下図のように糸状に見え、断面図は右下図のような粒状に見えるという意味になります。

ミトコンドリア


 細胞質全体に管状の網様構造を形成して分布し、絶えず融合と分裂を繰り返す運動性に富んだ細胞小器官です。このようなダイナミックな形は、全てが核にコードされた10数種類のタンパク質群によって調節されています。

ミトコンドリアが働きすぎて不調になると、ミトコンドリアとミトコンドリアが融合してミトコンドリアダイナミクスになります。おそらくGTPの加水分解時に放出される高エネルギーを利用して、合体すると考えられています。

機能を失ったミトコンドリアと元気な活性をもつミトコンドリアが融合することで、活性を維持できるようです。ミトコンドリアは品質管理のために、このような融合や分裂を繰り返して、ミトコンドリア同士が助け合って活性を維持しています。

約80%のミトコンドリアDNAが変異しない限り正常に機能が保たれることから、ミトコンドリアの機能不全よる脳や筋肉の異常を改善できる可能性が出てきました。変異する場所にもよって少し変わりますが、50~60%変異しても機能は正常に保たれます。

例えば、発生過程やシナプスの形成、さらには免疫反応においてもミトコンドリア・ダイナミクスは重要であることが明らかになってきました。ミトコンドリア・ダイナミクスの破綻は、ヒトの疾患とも密接に関係していることが報告されてきました。

今後の研究により、その調節メカニズムに関するタンパク質群の役割と、動物実験を中心とした個体レベルでの生理機能解析が互いに補完すれば、関連するミトコンドリア疾患の予防や、将来的には創薬探索などにおける有効な実験系の確立に期待ができます。

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 3-2 ミトコンドリアの構造

では、ミトコンドリアの内部はどうなっているのでしょう。細胞を特殊な加工法で固めて電子顕微鏡で見ると、1ミリの百万分の1にあたる1ナノメートルの世界を観察することができます。

ミトコンドリアは外膜と内膜という2枚の脂質膜に覆われ、その最も内側は「囲まれた場所」を意味するマトリックスと呼ばれるスペースです。ここにはミトコンドリアDNAを含む核様体があります。

ミトコンドリア

酸素を使って効率良くエネルギーを取り出している呼吸鎖複合体群が内膜上にあり、電気エネルギーを使ってATPが生産されます。この時に一部の電気が「漏電」してその漏れた電子が酸素に渡ってしまい活性酸素が発生します。

さらに、ミトコンドリア内膜はマトリックスに貫入して、カーテンのひだが密集しているような姿を見せます。これをクリステと言います。クリステという呼び名はラテン語の「峰」や「波頭」を意味する言葉に由来しています。

ミトコンドリア内で大量の活性酸素を発生させたりカルシウムを強制的に増やしたりすると、ミトコンドリアがダメージを受けて細胞が死んでしまいます。

老化に伴って私たちの脳や心臓のミトコンドリア機能が低下することから、心筋細胞や神経細胞などでクリステ構造が老化で損なわれていることが予想されます。クリステ構造が壊れるとミトコンドリアの 機能が低下するのでしょうか。

ミトコンドリア機能が低下したからクリステ構造が壊れたのか、そもそもクリステ構造は本当に必要なのか、次々と疑問が湧いてきます。まず、ミトコンドリアの大きさについて考え、それから生きた細胞のミトコンドリア内部をのぞいて見ましよう。

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 3-3 細胞内をのぞくと

日本人男性の平均身長はおよそ1メートル70センチ、うるさいハエは1センチ、かゆいイエダニは1ミリで、細胞の身長はおよそ10マイクロメートルで、1ミリの100分の1にあたります。これが肉眼で認識できる限界です。

ところがミトコンドリアの直径は500ナノメートルで、1ミリの2000分の1しかなく、大腸菌よりも小さいのです。こんなに小さいと普通の顕微鏡を使ってもその内側を見ることはできません。これを「光学限界」と言います。

電子顕微鏡では特殊加工が必要ですから、生きた細胞のミトコンドリア内を見ることはできません。そこで超解像レーザー顕微鏡を使います。"超解像"とは聞き慣れない言葉ですが、これは光学限界を超えることを意味しています。

普通のレーザー顕微鏡では、特定波長のレーザー光を蛍光物質に当てて誘導放出された蛍光を観察しますが、光学限界付近でぼけてしまいます。そこで、ドイツのヘル博士は通常のレーザー光(例えば緑色)を照射した直後に小さな穴の開いたドーナツ状の超波長レーザー光(例えば赤色)を被せること超解像の原理を思い付きました。

こうすると、後から被せたレーザー光がぼけを消してしまい、より小さな構造を数10ナノメートルに迫る解像度の蛍光画像として観察することができるようになったのです。この功績で、ヘル博士は2014年にノーベル賞をもらいました。

超解像の原理は蛍光物質をレーザー光(緑)によって励起した直後に、ドーナツ状のレーザー光(STED光、赤)を照射すると超解像の蛍光スポット(黄色)が得られます。このようにして超解像レーザー顕微鏡で観察したミトコンドリア内部がみえたのです。

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 3-4 超解像レーザー顕微鏡

ミトコンドリア内膜の電気エネルギーに引き寄せられて赤い蛍光を発する色素と、DNAに入り込んで緑の蛍光を発する色素で、同時にヒトの肺がん細胞を染め、生きたまま超解像レーザー顕微鏡で観察しました。

すると幅90ナノメートルで、150ナノメートル間隔に存在するひだ状の構造が赤く染まって見えてきました。クリステ構造をとる内膜です。緑に染まる核様体がその間にはまり込んでいます。下の写真は生きた細胞のミトコンドリア内部の様子です。

赤く染まる内膜クリステ構造と緑は順番に(A)核様体、(B)マトリックスタンパク、(C)外膜タンパク。白い線の長さは500ナノメートルです。

生きた細胞のミトコンドリア内部

電子顕微鏡などのデータから計算したクリステの幅はおよそ30ナノメートル。超解像では一つの点が60ナノメートルの解像度で見えたので、30プラス60の合計90ナノメートルの幅でクリステを観察することができました。

次にマトリックスに入れた緑色の蛍光タンパクと比べてみました。すると市松模様のように緑と赤が交互に見え、クリステ構造がマトリックスを取り囲んでいる様子を観察することができます。

さらにミトコンドリア外膜に緑色の蛍光タンパクを配置すると、その内側に赤く染まる内膜がすっぽりと収まる様子を見ることができました。ひだ状の構造がミトコンドリアの内側にあることがよく分かります。

今回の観察で、驚いたことにこのクリステ構造は高速で動いていることが分かったのです。私たちの細胞もゆっくりですがアメーバーのように動きます。じっと見ていても分かりませんが、1時間程度コマ送りすると形を変え動いている様子がわかります。

ミトコンドリアも同じで、10分程度コマ送りすると動く様子を見ることができます。今回の研究で緑に染めた核様体の周りの赤いクリステ構造が、秒単位でどんどん形を変えている様子を観察することができました。

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 3-5 生命のダイナミズム

電子顕微鏡では見ることのできない世界です。ここでは呼吸鎖複合体やその原料となる有機化合物が、激しく動きながらATPを創り出している生命のダイナミズムを垣間見ることができます。

ミトコンドリアは19世紀の半ばに発見されました。その後、20世紀の半ばにはミトコンドリアでATPが合成されること、その内側にクリステや核様体などの複雑な構造があることが解明されました。

現在、様々な方法によってミトコンドリア内部の、ミクロよりもはるかに小さなナノの世界での変化を捉えられるようになってきました。こうした微小世界での変化が発生から成長、病気や老化といった私たちの身体の変化とどのように関わっているのか、世界中で研究が進められています。

ミトコンドリア内部の激しい変化

ミトコンドリアの内部は激しく変化しています。赤く染まる内膜クリステ構造と緑に染まる核様体は、短時間で形態が大きく変化しています。

ミトコンドリアは好気性ですから、酸素を利用してエネルギーを生み出します。人間の脳は糖類を欲しがりますが、腸は糖類の取りすぎを嫌がるのです。

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4 ミトコンドリアと仲良く

 4-1 ミトコンドリアは母性遺伝

生物が呼吸するのは酸素を取り入れるためですが、アーキアは嫌気性ですから酸素は毒です。呼吸することでアルファプロテオバクテリアに酸素を届け、エネルギーを作ってもらうのです。その後、アルファプロテオバクテリはミトコンドリアに進化しました。

精子が卵子にたどり着くと、精子のDNAにあるミトコンドリアは積極的に排除されます。私たちの体の中の細胞にあるミトコンドリアは母親から遺伝したもので、残念ながら父親から遺伝したミトコンドリアは皆無です。

なぜなら、母親と父親のミトコンドリア遺伝子が合体すると、それぞれの遺伝子は完璧であっても、合体することで遺伝情報はモザイク状になってしまいます。モザイク状になると、ひずみができて能力が発揮できなくなる恐れがあるのです。

ミトコンドリアはこのような危険性を避けるために、父方の遺伝を切り捨ててしまいます。受精するためにエネルギーを生み出していた、精子のしっぽに集まっているミトコンゴリアを切り離します。父性の遺伝情報を捨てて、母親の遺伝だけにすることを母性遺伝といいます。

ミトコンドリアの質と量を上げることがエネルギー獲得に大切です。ミトコンドリアの量は、トレーニングをすると増やせることが分かりました。魚の場合、泳いでいないと死んでしまうマグロは赤身魚、海底でじっとしているヒラメなどは白身魚です。

これはミトコンドリアに酸素を運ぶたんぱく質の色です。細胞の中でエネルギーが枯渇している状態、もっとエネルギーが必要だという状況を作らないとミトコンドリアは増えません。もうひとつ、摂取カロリーを制限する方法があります。

2~3週間食事量を30%と減らすと、ミトコンドリアは10%程度増えます。また、全身に温熱刺激を加えることでもミトコンドリアは増えることが実験で分かりました。さらに、寒冷刺激を与えると褐色脂肪細胞のミトコンドリアが熱をつくります。

しかし、ミトコンドリアがエネルギーを作り出すときに副産物として活性酸素も生まれます。活性酸素が漏れ出すとタンパク質や脂質に傷をつけてしまいます。活性酸素は大切なミトコンドリアDNAにも傷がつきます。これは突然変異の原因になります。

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 4-2 糖の取りすぎはダメ

人間は若いときには解糖エンジン、50歳をすぎたらミトコンドリアエンジン主体に切り替わります。メインエンジンは切り替わりますが、解糖エンジンが活動しないとミトコンドリアエンジンは稼働しません。

赤血球や皮膚の細胞はおもに解糖エンジン、脳や肝臓、腎臓は主にミトコンドリアエンジンから生ずるエネルギーを得ています。

解糖エンジンでは、ブドウ糖1分子を原料として、ATP2分子とピルビン酸2分子が作られます。ピルビン酸はミトコンドリア内に運ばれ、さまざまな反応を経てATPが作られます。これがミトコンドリアエンジンが稼働するエネルギーの原動力になります。

脳は通常、ミトコンドリアエンジンで稼働しますが、ストレス時の反応やとっさの判断といった瞬発力を発揮するときは、解糖エンジンが必要です。現代では、瞬発力が求められる場面が多く、脳も体も疲れた時は糖を欲しがります。

しかし、炭水化物や砂糖を摂りすぎると、脳のなかの食欲をコントロールする細胞が傷つくということが、オーストラリア・モナッシュ大学の神経内科分泌学者であるゼーン・アンドリュースによって明らかになっています。

脳は疲れてしまうと「摂りすぎはよくない」といったブレーキをかけることなく、ひっきりなしに糖を要求することになります。それでも、腸は糖の取りすぎが良くないことを知っています。

腸が消化や免疫機能を維持して活性化を行うには、持続的なエネルギーであるミトコンドリアエンジンがスムーズに稼働しなければなりません。小腸は粘膜に吸収されたグルタミン酸を積極的に吸収しますが、エネルギー源として活用するわけではありません。

ミトコンドリアエンジンは糖が多すぎるとうまく活動しません。腸が糖の取りすぎを嫌がるのは、このためではないかと推測されるのです。細胞のなかにあるちいさな器官であるミトコンドリアの最大に役割は、酸素を使ってエネルギーを作り出すことです。

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 4-3 活性酸素の発生を抑制

私たちは呼吸によって1日500リットル以上の酸素を取り入れ、食事でとった栄養素を燃やしています。大気から吸い込んだ酸素は、血液によって細胞内にあるミトコンドリアに届けられます。

ミトコンドリアエンジンは、酸素を利用して「酸化リン酸化」という反応を用いることで、大きなエネルギーを生み出しています。このエネルギー生成の際には、約2パーセントの活性酸素が発生します。

歳をとっても解糖エンジンが不必要になることはないのですが、糖を取りすぎて解糖エンジンをフル稼働させてしまうと、2パーセントよりも多くの活性酸素が発生してしまいます。ですから、主食やお菓子、白砂糖などの糖分を控えなければならないのです。

ミトコンドリアは、私たちが毎日食べている食物から獲得する栄養素と酸素を原料として、効率よくエネルギーを生成します。細胞の中にあるミトコンゴリアの数は、その細胞のエネルギー代謝次第で異なります。

脳や筋肉、肝臓、腎臓と言ったエネルギーがたくさん必要な臓器では、一つの細胞のなかに数百から数千ものミトコンドリアが生息しています。逆に、赤血球や皮膚の細胞は解糖エンジン主体なので、ミトコンドリアがほとんど見られません。

解糖エンジンは体温が32~36度の時によく働きますが、ミトコンドリアエンジンは体温が約37度の時に活発に働きます。そのため、ミトコンドリアエンジンに切り替わる中高年になったら、エンジン稼働をスムーズにするために体を温める必要があります。

体を温めるのには入浴が最適です。冬でもシャワーで済ませてしまう人がいますが、たとえ夏場でも冷房で体が冷えているので、できるだけお風呂につかりましょう。ミトコンドリアエンジンは、脳や筋肉、肝臓、腎臓などの臓器の細胞にエネルギーを供給します。

女性の卵子もミトコンドリア系です。卵子は受精した後、分裂を繰り返して胎児をつくっていくので、大きなエルギーが必要となります。そのため、女性の卵子一個当たりに10万個前後のミトコンドリアが存在しています。

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 4-4 付帯電子を防ぐ

女性が足を冷やしてはいけないというのは、ミトコンドリア系のエネルギーを十分に受けるためでもあるのです。一方、精子は数がたくさん必要なので、解糖系のエネルギー供給を受けています。精子を作り出すのは睾丸、精巣とも呼ばれます。

袋状に垂れ下がっている皮膚である陰嚢の中に、卵方をした精巣が納まっています。精子を作り出すには、卵子の逆に、体温よりも低い温度であることが望ましいのです。陰嚢がぶら下がっているのは、外気に触れさせて体から遠ざけることで冷やす空冷式です。

精子は32~34℃程度の温度が最適で、39℃以上になると弱って死滅するとされています。俗に言われる「金冷法」が子づくりにも良いとされているのは、れっきとした根拠があるのです。

ミトコンドリアエンジンには弱点があり、エネルギーを作り出すときに発生する電子をもらってしまう現象です。この現象により、フリーラジカルと呼ばれる活性酸素が生じてしまいます。

原子がもつ原子核のまわりには、マイナスに帯電した電子がまわっていますが、通常は原子核にある陽子と対になっています。まれに、ペアを持たない電子があり、これを付帯電子と言います。

フリーラジカルは付帯伝子を持つ原子または分子のことですが、このフリーラジカルは不安定なので、他の分子から強引に電子を奪い取って安定しようとするので、あらゆる細胞に見境なく働きかけます。

電子を奪われた細胞は傷つけられるため、生体にかなりのダメージを与えてしまい、とくに腸では消化機能や免疫系機能を低下させます。腸が野菜や果物を必要とするのは、その中に含まれているフィットケミカルという抗酸化物質が含まれているからです。

フィットケミカルは、ミトコンドリアエンジンがエネルギーを作り出すときに発生するフリーラジカルを消してくれるからです。この成分は、いままで栄養素として考えられていなかった成分です。

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 4-5 体を温めよう

フィットケミカルとは、野菜や果物の中にある色素や香り、辛味などこれまで栄養素として考えられていなかった成分です。この成分は、野菜たちが紫外線から身を守るために自ら作り出したもので、活性酸素を無害化する働きがあります。

一般的に炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルの5大栄養素に、第6栄養素として食物繊維を加えますが、このフィットケミカルがさらに第7の栄養素として注目を浴びています。

私たちの体の細胞は、新陳代謝などで約2パーセントが生まれ変わっています。この生まれ変わりになかで、いわばコピーミスであるガン細胞が、毎日3000~5000個以上も生まれます。

ガン細胞は、活性酸素が正常な細胞の遺伝子を傷つけることによって発生します。活性酸素はガンを初め、心筋梗塞、脳卒中、糖尿病といった四大疾病のすべてに関係があります。活性酸素の除去はガンをはじめとした病気の予防には不可欠になります。

しかし、ガン細胞が毎日それだけ発生しているからと言って、すぐさまガンになるわけではありません。私達の体に備わっている免疫システムが、毎日新たに登場するガン細胞に攻撃を繰り返します。このようにガン細胞が増殖して進行するのを防いでいるのです。

新潟大学の故阿保徹教授はガン細胞は「先祖返りした細胞」で、体内を低体温、低酸素という古代地球のような環境にしたために、細胞が古に戻ったとされていました。ガン細胞は解糖エンジンに依存しているので、低体温、低酸素、高糖質の3要素がそろうと活発化します。

ミトコンドリアエンジンの弱点はフリーラジカルを発生させてしまうことですが、フリーラジカルは新陳代謝で劣化し不要となった細胞を、ガン化させずに死に至らしめるという長所もあるのです。ミトコンドリアエンジンに切り替わる中高年になったら、エンジン稼働をスムーズにするために体を温めましょう。

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参考資料:腸スッキリ健康法(藤田紘一郎、PHP文庫)、一般社団法人日本生物物理学会、地方独立行政法人東京都健康長寿医療センターなど。