4 ミトコンドリアと仲良く
4-1 ミトコンドリアは母性遺伝
生物が呼吸するのは酸素を取り入れるためですが、アーキアは嫌気性ですから酸素は毒です。呼吸することでアルファプロテオバクテリアに酸素を届け、エネルギーを作ってもらうのです。その後、アルファプロテオバクテリはミトコンドリアに進化しました。
精子が卵子にたどり着くと、精子のDNAにあるミトコンドリアは積極的に排除されます。私たちの体の中の細胞にあるミトコンドリアは母親から遺伝したもので、残念ながら父親から遺伝したミトコンドリアは皆無です。
なぜなら、母親と父親のミトコンドリア遺伝子が合体すると、それぞれの遺伝子は完璧であっても、合体することで遺伝情報はモザイク状になってしまいます。モザイク状になると、ひずみができて能力が発揮できなくなる恐れがあるのです。
ミトコンドリアはこのような危険性を避けるために、父方の遺伝を切り捨ててしまいます。受精するためにエネルギーを生み出していた、精子のしっぽに集まっているミトコンゴリアを切り離します。父性の遺伝情報を捨てて、母親の遺伝だけにすることを母性遺伝といいます。
ミトコンドリアの質と量を上げることがエネルギー獲得に大切です。ミトコンドリアの量は、トレーニングをすると増やせることが分かりました。魚の場合、泳いでいないと死んでしまうマグロは赤身魚、海底でじっとしているヒラメなどは白身魚です。
これはミトコンドリアに酸素を運ぶたんぱく質の色です。細胞の中でエネルギーが枯渇している状態、もっとエネルギーが必要だという状況を作らないとミトコンドリアは増えません。もうひとつ、摂取カロリーを制限する方法があります。
2~3週間食事量を30%と減らすと、ミトコンドリアは10%程度増えます。また、全身に温熱刺激を加えることでもミトコンドリアは増えることが実験で分かりました。さらに、寒冷刺激を与えると褐色脂肪細胞のミトコンドリアが熱をつくります。
しかし、ミトコンドリアがエネルギーを作り出すときに副産物として活性酸素も生まれます。活性酸素が漏れ出すとタンパク質や脂質に傷をつけてしまいます。活性酸素は大切なミトコンドリアDNAにも傷がつきます。これは突然変異の原因になります。
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4-2 糖の取りすぎはダメ
人間は若いときには解糖エンジン、50歳をすぎたらミトコンドリアエンジン主体に切り替わります。メインエンジンは切り替わりますが、解糖エンジンが活動しないとミトコンドリアエンジンは稼働しません。
赤血球や皮膚の細胞はおもに解糖エンジン、脳や肝臓、腎臓は主にミトコンドリアエンジンから生ずるエネルギーを得ています。
解糖エンジンでは、ブドウ糖1分子を原料として、ATP2分子とピルビン酸2分子が作られます。ピルビン酸はミトコンドリア内に運ばれ、さまざまな反応を経てATPが作られます。これがミトコンドリアエンジンが稼働するエネルギーの原動力になります。
脳は通常、ミトコンドリアエンジンで稼働しますが、ストレス時の反応やとっさの判断といった瞬発力を発揮するときは、解糖エンジンが必要です。現代では、瞬発力が求められる場面が多く、脳も体も疲れた時は糖を欲しがります。
しかし、炭水化物や砂糖を摂りすぎると、脳のなかの食欲をコントロールする細胞が傷つくということが、オーストラリア・モナッシュ大学の神経内科分泌学者であるゼーン・アンドリュースによって明らかになっています。
脳は疲れてしまうと「摂りすぎはよくない」といったブレーキをかけることなく、ひっきりなしに糖を要求することになります。それでも、腸は糖の取りすぎが良くないことを知っています。
腸が消化や免疫機能を維持して活性化を行うには、持続的なエネルギーであるミトコンドリアエンジンがスムーズに稼働しなければなりません。小腸は粘膜に吸収されたグルタミン酸を積極的に吸収しますが、エネルギー源として活用するわけではありません。
ミトコンドリアエンジンは糖が多すぎるとうまく活動しません。腸が糖の取りすぎを嫌がるのは、このためではないかと推測されるのです。細胞のなかにあるちいさな器官であるミトコンドリアの最大に役割は、酸素を使ってエネルギーを作り出すことです。
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4-3 活性酸素の発生を抑制
私たちは呼吸によって1日500リットル以上の酸素を取り入れ、食事でとった栄養素を燃やしています。大気から吸い込んだ酸素は、血液によって細胞内にあるミトコンドリアに届けられます。
ミトコンドリアエンジンは、酸素を利用して「酸化リン酸化」という反応を用いることで、大きなエネルギーを生み出しています。このエネルギー生成の際には、約2パーセントの活性酸素が発生します。
歳をとっても解糖エンジンが不必要になることはないのですが、糖を取りすぎて解糖エンジンをフル稼働させてしまうと、2パーセントよりも多くの活性酸素が発生してしまいます。ですから、主食やお菓子、白砂糖などの糖分を控えなければならないのです。
ミトコンドリアは、私たちが毎日食べている食物から獲得する栄養素と酸素を原料として、効率よくエネルギーを生成します。細胞の中にあるミトコンゴリアの数は、その細胞のエネルギー代謝次第で異なります。
脳や筋肉、肝臓、腎臓と言ったエネルギーがたくさん必要な臓器では、一つの細胞のなかに数百から数千ものミトコンドリアが生息しています。逆に、赤血球や皮膚の細胞は解糖エンジン主体なので、ミトコンドリアがほとんど見られません。
解糖エンジンは体温が32~36度の時によく働きますが、ミトコンドリアエンジンは体温が約37度の時に活発に働きます。そのため、ミトコンドリアエンジンに切り替わる中高年になったら、エンジン稼働をスムーズにするために体を温める必要があります。
体を温めるのには入浴が最適です。冬でもシャワーで済ませてしまう人がいますが、たとえ夏場でも冷房で体が冷えているので、できるだけお風呂につかりましょう。ミトコンドリアエンジンは、脳や筋肉、肝臓、腎臓などの臓器の細胞にエネルギーを供給します。
女性の卵子もミトコンドリア系です。卵子は受精した後、分裂を繰り返して胎児をつくっていくので、大きなエルギーが必要となります。そのため、女性の卵子一個当たりに10万個前後のミトコンドリアが存在しています。
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4-4 付帯電子を防ぐ
女性が足を冷やしてはいけないというのは、ミトコンドリア系のエネルギーを十分に受けるためでもあるのです。一方、精子は数がたくさん必要なので、解糖系のエネルギー供給を受けています。精子を作り出すのは睾丸、精巣とも呼ばれます。
袋状に垂れ下がっている皮膚である陰嚢の中に、卵方をした精巣が納まっています。精子を作り出すには、卵子の逆に、体温よりも低い温度であることが望ましいのです。陰嚢がぶら下がっているのは、外気に触れさせて体から遠ざけることで冷やす空冷式です。
精子は32~34℃程度の温度が最適で、39℃以上になると弱って死滅するとされています。俗に言われる「金冷法」が子づくりにも良いとされているのは、れっきとした根拠があるのです。
ミトコンドリアエンジンには弱点があり、エネルギーを作り出すときに発生する電子をもらってしまう現象です。この現象により、フリーラジカルと呼ばれる活性酸素が生じてしまいます。
原子がもつ原子核のまわりには、マイナスに帯電した電子がまわっていますが、通常は原子核にある陽子と対になっています。まれに、ペアを持たない電子があり、これを付帯電子と言います。
フリーラジカルは付帯伝子を持つ原子または分子のことですが、このフリーラジカルは不安定なので、他の分子から強引に電子を奪い取って安定しようとするので、あらゆる細胞に見境なく働きかけます。
電子を奪われた細胞は傷つけられるため、生体にかなりのダメージを与えてしまい、とくに腸では消化機能や免疫系機能を低下させます。腸が野菜や果物を必要とするのは、その中に含まれているフィットケミカルという抗酸化物質が含まれているからです。
フィットケミカルは、ミトコンドリアエンジンがエネルギーを作り出すときに発生するフリーラジカルを消してくれるからです。この成分は、いままで栄養素として考えられていなかった成分です。
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4-5 体を温めよう
フィットケミカルとは、野菜や果物の中にある色素や香り、辛味などこれまで栄養素として考えられていなかった成分です。この成分は、野菜たちが紫外線から身を守るために自ら作り出したもので、活性酸素を無害化する働きがあります。
一般的に炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルの5大栄養素に、第6栄養素として食物繊維を加えますが、このフィットケミカルがさらに第7の栄養素として注目を浴びています。
私たちの体の細胞は、新陳代謝などで約2パーセントが生まれ変わっています。この生まれ変わりになかで、いわばコピーミスであるガン細胞が、毎日3000~5000個以上も生まれます。
ガン細胞は、活性酸素が正常な細胞の遺伝子を傷つけることによって発生します。活性酸素はガンを初め、心筋梗塞、脳卒中、糖尿病といった四大疾病のすべてに関係があります。活性酸素の除去はガンをはじめとした病気の予防には不可欠になります。
しかし、ガン細胞が毎日それだけ発生しているからと言って、すぐさまガンになるわけではありません。私達の体に備わっている免疫システムが、毎日新たに登場するガン細胞に攻撃を繰り返します。このようにガン細胞が増殖して進行するのを防いでいるのです。
新潟大学の故阿保徹教授はガン細胞は「先祖返りした細胞」で、体内を低体温、低酸素という古代地球のような環境にしたために、細胞が古に戻ったとされていました。ガン細胞は解糖エンジンに依存しているので、低体温、低酸素、高糖質の3要素がそろうと活発化します。
ミトコンドリアエンジンの弱点はフリーラジカルを発生させてしまうことですが、フリーラジカルは新陳代謝で劣化し不要となった細胞を、ガン化させずに死に至らしめるという長所もあるのです。ミトコンドリアエンジンに切り替わる中高年になったら、エンジン稼働をスムーズにするために体を温めましょう。
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参考資料:腸スッキリ健康法(藤田紘一郎、PHP文庫)、一般社団法人日本生物物理学会、地方独立行政法人東京都健康長寿医療センターなど。