1 消化管
1-1 消化管の仕組み
消化管は食物が通る1本の管です。食物はまず口腔・咽頭・食道を通過します。唾液に含まれるアミラーゼでデンプンを分解しますが、この部分の消化管には特に重要な機能はなく、単なる管のようなものです。
胃では、食物に塩酸を含む胃液をよく混ぜてどろどろにし、3~6時間かけて消化・吸収しやすい状態にします。胃液にはペプシンという消化酵素が含まれているので、たんぱく質を分解します。
次に進む小腸は、消化管の中では最も重要な役割を果たします。小腸は、十二指腸・空腸・回腸に分けられます。十二指腸は、胃の幽門から続く小腸の最初の部分です。長さ約25cm程度で、指を12本横に並べた長さであることから十二指腸と呼ばれています。
十二指腸では胃から送られたどろどろになった食物に、膵液や胆汁を混ぜて吸収しやすくします。成人の小腸の長さは5~7mあり、腸の入口から5分の2を占める空腸と肛門側の5分の3を占める回腸で消化吸収を行います。
小腸には、輪状ひだや絨毛があることから表面積が200平方メートルと広く、効率的に栄養素を吸収することができます。大腸は、盲腸、結腸(上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸)、直腸に分けられます。
大腸では小腸で消化した残りや、水・電解質などを吸収し、栄養素がなくなった残りかすが肛門まで送られます。水の惑星と呼ばれる地球に住んでいる人類は、食物や飲み物から1日におよそ2リットルの水分を摂取しています。
消化管内へ分泌される水分は1日に、唾液が1.5リットル、胃液が1.5リットル、胆汁が0.5リットル、腸液が1.5リットルになります。大便に含まれる水分は100ミリリットル程度で、尿や汗、呼吸などから出ていく水分は1リットル程度です。
口から入る水分や分泌される消化液など、消化管に流入する水分の大半は小腸と大腸で再吸収されます。失われる水分は、尿や汗、呼吸などとなって出ていく1リットル程度ということになります。ですから、殆どの水分は小腸と大腸で再利用されているのです。
1-2 消化という化学反応
胃は、食物に塩酸を含む胃液をよく混ぜてどろどろにして消化・吸収しやすい状態にしていますが、栄養素はほとんど吸収していません。ただし、アルコールだけは胃から吸収されています。
消化とは、食物に含まれる栄養分を分解して吸収しやすい状態に変えるはたらきのことで、消化前の炭水化物(デンプン)はブドウ糖に、タンパク質はアミノ酸に、脂肪は脂肪酸(モノグリセリド)に分解されます。
唾液に含まれる消化酵素「アミラーゼ」で炭水化物(デンプン)を分解します。胃液に含まれる「ペプシン」はタンパク質を分解するはたらきがあります。胆汁には消化酵素は含まれませんが、脂肪を小さな粒にして脂肪の消化を助けるはたらきがあります。
すい液には「アミラーゼ」「トリプシン」「リパーゼ」などの消化酵素が含まれ、炭水化物・タンパク質・脂肪を分解します。小腸壁にも消化酵素が含まれ、炭水化物はブドウ糖に、タンパク質はアミノ酸に分解されます。
消化された栄養分はおもに小腸から吸収されます。小腸壁は「柔毛(ジュウモウ)」と呼ばれる小さな突起がたくさんあり、小腸の表面積を大きくして効率よく吸収をおこなうことができるようになっています。
柔毛には「毛細血管」と「リンパ管」の2つの管があり、ブドウ糖とアミノ酸、無機物などが、柔毛の表面から吸収されて毛細血管に入り肝臓を通って全身に運ばれます。脂肪酸とモノグリセリドは、柔毛の表面から吸収されてリンパ管に入ります。リンパ管は首の下で血管と合流するので、脂肪も血管を通り全身に送られます。
胃に関係するホルモンで重要なのは、ガストリンとセクレチンです。ガストリンは、胃に食べ物が入ってきたら逆流しないように食道との通路を閉め、胃酸を出させて胃の出口を開けます。セクレチンは十二指腸から出て胃酸を止め、胃の出口を閉めて脾液を出させます。
口腔から食道までと肛門は、強い刺激に耐えうる頑丈な重層扁平上皮細胞からなり、それ以外は吸収や分泌をつかさどる単層円柱上皮細胞からなります。このため、食道や肛門にできるがんは扁平上皮がんが多く、大腸にできるのは線がんが多くなります。
1-3 腸内細菌はどこから
人間の腸内細菌組成パターンは、生後約1年でほぼ決まることが分かってきました。善玉菌多めのパターンの人もいれば、悪玉菌多めのパターンの人も1歳までに決まります。腸内細菌組成パターンは一人一人異なり、基本的には一生変わることはありません。
お母さんの胎盤内は無菌状態なので、胎児の腸内に細菌はいません。赤ちゃんが細菌と出会うのは、母親の子宮から離れるとき、つまり出産のときです。そこから赤ちゃんと細菌との共生が始まります。
赤ちゃんは子宮から産道を下りていくと、母親の膣とすぐそばの肛門にいるビフィズス菌などの細菌に出会います。お母さんの身の回りにいる菌や、お母さんの皮膚にいる常在菌などと接触するので、お母さんの腸内細菌パターンにほぼ似てきます。
お母さんからもらった菌は大腸の壁にくっつく能力が高く、母親の遺伝子を受け継いでいるから大腸壁から流れることなく常在菌となれるのです。大腸内の細菌は3歳までぐらいで腸内菌叢が出来上がってきます。
2013年、ベルギーにあるヤクルト本社ヨーロッパ研究所は、自然分娩の母子12組と、帝王切開の母子5組の腸内細菌を比較しました。すると、自然分娩で生まれた新生児のうち11人が、母親と同じ菌株のビフィズス菌を持っていたのに対し、帝王切開で生まれた新生児からは同じ菌株が見つからなかったのです。
生後1年ぐらいは赤ちゃんの腸内細菌組成パターンを形成する重要な期間となります。赤ちゃんはお母さんやお父さん、お婆ちゃんやおじいちゃんと触れ合うことで、様々な菌が存在している環境の中で過ごすことなります。これが赤ちゃんにとって重要なことです。
この世界に生まれる以上、我が子の可愛さあまり清潔に気をつけ過ぎるのもよくありません。過度に清潔にした状態で育てられた赤ちゃんは、免疫力を付けることはできなくなってしまいます。免疫力が弱いと病魔に狙われます。
腸内細菌はおおまかに善玉菌・悪玉菌・日和見菌に分けられます。日和見菌は、善玉菌が優勢の時には善玉菌に、悪玉菌が優勢の時は悪玉菌に一斉に加勢します。近年培養できない細菌類の多くは日和見菌に相当することが分かってきました。
心身の健康を保つには善玉菌を増やして、腸内を日和見菌の加勢を受けた善玉菌優勢の状態にしておくことです。悪玉菌は少なめが望ましいとはいえ、ゼロにすればいいというわけではありません。すべてはバランスが大切なのです。
1-4 ウンコでわかる腸内環境
腸内細菌のパターンを変えることはできませんが、善玉菌そのものであるビフィズス菌や、善玉菌のエサとなる食物繊維をとることで、腸内の善玉菌を優勢にすることができます。善玉菌にエサとなる食物繊維を与えなければ活動できません。
大腸で水や電解質などが吸収され、栄養素がなくなった残りかすが肛門まで送られてきます。大便の80%は水で20%が固形成分で、その3分の1が食べかすで残りの3分の2が腸内細菌と剥がれた腸の粘膜です。
人間の体は、死んだ菌とある程度生きている菌を排出して腸内バランスを保っています。ヨーグルトを食べても、そのの乳酸菌が大腸に留まることはできません。そして、腸内細菌が1千億個以上も住んでいる大腸が病気の発生源になります。
ウンコの大きさは腸内細菌の多さに比例すると考えられています。戦前の日本人はウンコをドッサリ、約500グラムも出していました。一方、現代人のウンコは約150グラム、便秘しがちな若いOLは80グラム程度です。
戦前の日本人は食物繊維が豊富な和食のおかげで、欧米人よりおおきなウンコをしていましたが、戦後は食の欧米化によって食物繊維の摂取量が減り、ウンコも小さくなったのです。食物繊維は有害物質をくっつけて体外へ押し出します。
腸内清掃の手抜きは老廃物が腸に溜まったままです。食物繊維は腸内の掃除をすることで、腸内細菌にとって快適な環境づくりを整えています。この結果、大きなウンコをする人が多い国は自殺率が低く、小さなウンコをする人が多い国は自殺率が高くなります。
各国の自殺死亡率について、世界保健機関の2021年統計を見ると、自殺率の第37位はイタリアです。第27位が英国で、第23位はドイツ、第19位はカナダ、第14位はフランス、第7位は米国、そして第4位は日本なのです。お隣の韓国が第1位です。
腸が健康であればウンコがどっさり出ます。健康な人の腸内細菌はおよそ1.5キログラムです。腸内細菌は生きている腸内細菌と、死んだ腸内細菌の両方がウンコとして排出されながら腸内バランスを維持しています。
腸内で善玉菌が優位の状態であれば、老廃物と共にウンコが適切なタイミングで出ますが、残念なことに現代人の腸内環境は急激に悪化しています。腸内環境が悪化すると、侵入してくる有害な物質を体の外へ追い出すことができなくなります。