はげちゃんの世界

人々の役に立とうと夢をいだき、夢を追いかけてきた日々

第64章 自律神経を正常に1

高齢になられたあなたは、自分自身に自信があるだろうか。忍び寄る高齢化に伴う認知症や介護の不安、いつ襲われるかしれない異常気象による災害、そして、ついていけないテクノロジーやスマトホの操作。しかし、自律神経を制御すれば対処は可能となります。

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1 優れている催眠療法

 1-1 現状の認識

公益財団法人長寿科学振興財団は、高齢者の神経症を次のように説明しています。「高齢になると、身体的不調や身体疾患が出現しやすくなり、さらに疾患のために生活が制限されることが多くなります。

また、定年退職や引退、隠居といった地位や役割を失う事や、収入が減るといった経済的な問題、近親者や知人との死別といった生活環境の変化があります。さらに、自分自身の死という危機感が増強します。

これらの事柄が、高齢者における神経症の要因となる可能性があります。神経症になりやすい傾向の性格も、神経症の要因となる可能性があります。神経症の要因としては、身体要因、環境要因、性格要因が関連した心理的要因が挙げられます。

たとえ性格要因といったひとつの要因が弱くても、環境要因や身体要因といったほかの要因が強いと神経症を発症する可能性があります。高齢者においてよく認められる神経症には、抑うつ神経症(神経症性うつ病)や、不安障害、心気症が挙げられます。

抑うつ神経症は神経症うつ病とも呼ばれ、不安、焦燥感などの症状を伴う抑うつ気分を主体とした疾患です。うつ病では、気分が朝に悪いという症状が一日のうちで変化するという事が一般的にありますが、抑うつ神経症ではこのような変化は見られなく、また、心理的要因がなくなるとうつ症状もうつ病に比べ速やかに改善します。

心気症は、十分な医学的説明がなされない身体症状が存在し、その身体症状に対する誤った解釈に基づき、自分が重篤(じゅうとく:病状が非常に重いこと)な病気にかかる恐怖、または病気にかかっているという観念にとらわれることを特徴とします。

心気症以外では、高齢者はより若い世代に比べて、神経症にかかっている人の割合は低いという報告があります。しかしながら、高齢者は不安やそれに伴う身体症状を年のせいや身体疾患のためと思い込むために見過ごされ、神経症にかかっていると思わず治療を受けていない可能性があります。高齢者が神経症にかかりにくいとは断言できません。」

このような症状を回復させるために様々な方策が考えられてきましたが、医学的治療も薬学的治療も効果はいま一歩という状態のようです。これらの症状を解消するために、平井富雄博士が考察された「自己催眠術」からその要旨を紹介しましょう。

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 1-2 赤面恐怖症

小学校の教員だった長尾盛之助氏は、1964年に鶴書房から「新・自己催眠法」を出版された。明治34年に催眠術をかけているのを目撃して1度で覚え、改良して長尾式瞬間催眠法を完成された。著書で催眠治療について次のように述べている。

「まず、どのような病気治療に効果があるのか、それを簡単にいうと、医者でも薬でもなおりにくい、あるいはなおらない難病(細菌の作用によらない精神的原因による病気)が催眠治療の対象となるのです。従ってつぎのように病気の種類ははなはだ少ないのです。

治癒病名:神経衰弱、神経質、ヒステレー、リュウマチ、顔面神経痛、肋間神経痛、坐骨神経痛、四十肩、五十肩、てんかん、どもり、じんましん、赤面恐怖症、対人恐怖症、糖尿病、不眠症、乗り物酔い、めまい、頭重、ビル病、冷え性、バセドー氏病、パーキンソン氏病、チック病など。」

様々な方が催眠についての書籍を出版されているが、私が愛読したのは平井富雄博士が1942年10月に光文社から出版された「自己催眠術」だった。平井富雄氏は東京大学医学部卒業の医学博士で、日本精神神経学会理事長を務められた方である。

赤面恐怖症を例にとると、赤面症で悩む人は、顔が赤くなってしまうことを「絶対にあってはならないもの」と決めつけてしまう。顔が赤くなってしまうことは、自分にとってデメリットだと考えてしまうのだ。そう言われてみると納得する。

人前に出た時に不安や緊張するのは自然なこと、それによって顔が赤くなること自体は問題ではないのだ。だが、「顔が赤くなってしまうのではないか」ということに注意が向いてしまうことが問題なのだ。

不安や恐怖が余計に強まってしまい、そのせいで赤面する。無くさなければと思うほど、よけいに注意が自分の赤面に向いてしまう。このようにして赤面症は不安が悪循環して高まっていき、赤面恐怖症になる。

私は20代のころ極度の赤面恐怖症だった。人前に立つと上がり汗が噴き出して人の顔が霞み、舌はもつれて言いたいことの十分の一も言えなくなる。それが平井富雄博士の自己催眠術のおかげで、30代の後半に300人の前でも冷静に講演できるようになった。

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 1-3 自己催眠とは何か

長尾盛之助氏が学んだのはフランスのエミール・クエ氏の「自己催眠法」だった。平井富雄氏はドイツチュービンゲン大学クレッチュメル教授の「自己催眠法」や、ベルリン大学の精神身体医学者のJ・H・シュルツ博士の考案された「自律訓練法」だった。平井富雄博士は次のように説明されている。

「自己催眠は、自己の心の奥底にあるものを「抑圧」や「緊張」なしに、自然に意識という舞台に登場させてくれる。ここにはつねに新鮮な、心のドラマの展開がある。それを自分自身で演出すること、自分の演出した舞台の出来栄えを素直に見守る観衆の目…これら二つの緊密な連絡が自己催眠の心の状態を形作っているといえる。

他者催眠では、催眠者が被催眠者に対して絶対的優位な立場にあり、被催眠者の心は催眠者の暗示しか受け取らないようになってしまっている。だから、被催眠者は催眠者によって催眠状態からさましてもらわなければならない。

ところが、自己催眠では催眠者と被催眠者は同一個人である。つまり一人二役で催眠者としての自己、被催眠者としての自己が、自我の中で相互に働きかけている状態である。催眠者としての自己はいつでも、被催眠者としての自己を催眠状態からさますことができる」

自己催眠による催眠状態は、このような半無意識、半覚醒なのである。平井富雄博士はシュルツ博士が催眠の本質を、緊張の開放、心の安らぎ、あるいは爽快なエネルギーの自覚として捕らえたのは慧眼であったと評価されている。

人間の心は常に外から、そして自分自身のうちからも色々な制限や抑圧、あるいは逆に誇大な自負や意識的な自己修飾によっていつも捻じ曲げられている。とくに都会に生活する現代人にこの傾向が多かれ少なかれあると思われる。

だから現代人はよく働く。よく遊ぶ。そのあとで妙な自責感とらわれたり、むなしい孤独感にあえいだりする。ノイローゼの人は、この傾向のとりわけ強い人と言われる。不平不満は裏返せば自分の過信につながるし、恐怖症は自分の過少評価からくる心の萎縮の結果である。

だれも他人はよく見える。そして、鏡に映った自分の姿勢を良いとうぬぼれる人もいるし、嫌だとしり込みする人もいる。この時の鏡は、本当の自分を映し出しているのだろうか。

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案外、社会の、会社の、友人の、同僚の、そういう他人の目の合成鏡かもしれない。だから他人は、自分より良く見えるのである。受験生も、教育ママも、余裕がない。自分自身を失って、自分の形を万華鏡のような鏡に映して、伸ばしたり縮めたりしている。

本来、人間はそんなに器用な動物ではない。だから、自然を住みよいように変え、多くの機械が人の無器用さを助けるために考案されてきたのである。しかし「心」の問題に関する限り、あまりに現代人は器用すぎないだろうか。

この器用さが人の本来の心の姿をゆがめたとき、ノイローゼというやっかいな病気が発生する。ここまでいかなくても、器用になれない自分の心をむりに鞭うつマゾヒズムが生まれ、余裕のない心がいつもなにかを求めて、あくせくしエネルギーの空費をつづけてはいないだろうか。

人がみんな同じ目標で生きるようになると、どうしても競争が激しくなる。しかし、人間には「自己」がある。自己を殺してまで、他人と競争することが必要なのだろうか。また、競争をしていて負けたら大変という「不安が」生じないだろうか。

競争に勝ち抜くことがすなわち生き抜くことにつながる。それが生きるための最低条件ならば、あなたはなぜ、あなた自身について知ろうとはしないのだろうか。機械のようにフル回転のような努力をしても、だれもが同じ能力が発揮できるわけがないのだ。

それにもかかわらず、それを理想として、自分を機械にしている人のなんと多いことか。自己催眠術は、あなた自身をより深く知る科学にほかならないのだ。

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2 自己催眠術

 2-1 予備知識

平井富雄博士が推奨される自己催眠術は、シュルツ博士の自律訓練法を土台としているが、だれにでも手軽に実行できるよう平井富雄博士が工夫改良を加えたものである。自己催眠術の訓練は六段階に従って進める。

第一段階 ウデガオモイ(腕が重い)

第二段階 ウデガアタタカイ(腕が温かい)

第三段階 シンゾウガシズカニウッテイル(心臓が静かに打っている)

第四段階 コキュウガラクダ(呼吸が楽だ)

第五段階 オナカガアタタカイ(お腹が暖かい)

第六段階 ヒタイガスズシイ(額が涼しい)

これらの六段階は一つ一つが独立したものではなく、一段階をマスターできれば次の段階への移行が容易になるというように、難易度や安全度を勘案したうえで合理的に配列されている。従って、第一段階からひとつずつ順を追って進んでいかなければならない。

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 2-2 練習場所

最初は外的な影響を受けやすいので、自分の部屋など静かで落ち着けるところが良い。自分の部屋に閉じこもるのが理想的で、明るすぎないこと、熱くも寒くもないこと、通風状態が良いこと、などの条件を考慮できれば一層よい。

少し慣れてきたら、電車の中や公園のベンチなど、外的刺激の多いところでもできるようになる。ただし、どんな場所でも一定時間同じ姿勢でいられるところでなければならない。

なお、外的な刺激をなるべく少なくするために、練習中はメガネ、ベルト、ネクタイ、腕時計、靴下止めなど、身に着けているもので窮屈なものはすべてゆるめるか、取り外すことが望ましい。

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 2-3 姿勢

練習を進めていくには姿勢がひじょうに大切である。少なくとも、最初のうちは指示通り正しい姿勢で練習してほしい。姿勢が悪いと、どんなに練習しても催眠状態に入ることができないし、練習中や練習後に、不快感や凝りに悩まされることがある。

もちろん、少し練習が進んでくると、姿勢にあまりこだわらなくても、らくに催眠状態に入れるようになる。基本訓練が一通り終わってその強化の段階に入ってからは、なるべく所定の姿勢から離れどんな姿勢でも目的通りの暗示内容が実現できるようにしていく。腰掛姿勢

基本姿勢としては、「腰掛姿勢」「仰向け姿勢」「もたれ姿勢」があるが、なかでも「腰掛姿勢」は比較的簡単でどこでもできる。第三段階と第六段階は例外で、最初のうちは第三段階で「仰向け姿勢」と「もたれ姿勢」、第六段階では「仰向け姿勢」が最も入りやすい。

なお、原則として練習中は目を閉じる。肢体への注意集中はうまくいくが、雑念が起こりやすく眠り込んでしまうことがある。できれば、半分目を開けた状態の「半眼」をお勧めする。

仰向け姿勢ともたれ姿勢

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 2-4 練習中の心構え

基本的な暗示をたえず念頭に持ち続けることが大切で、「ウデガアタタカイ」と思うとき、これを言葉だけで考えず実際にそう感じるようにいつもつとめることが重要である。別なことを考えても催眠にかかるだろうか、という試みは好ましくない結果を生むことがあるので決してしてはいけない。

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 2-5 練習回数と時間

自己催眠開始から終了・覚醒にいたる一回の練習時間は極めて短く、普通30秒から90秒(慣れてきたら、さらに1分、3分とふえる)くらいである。この短い練習を、何回か間を置かずに集中的に繰り返すのである。このように短時間の練習を何回か繰り返すことを1セッションという。

1セッションは5分ないし2時間である。1日に3度、朝・昼・夜に行うのが理想的である。それが無理なら朝と夜の2セッション、あるいは朝か夜の1セッションでもよい。大切なことは1セッションでもよいから、毎日継続させることである。とくに、練習を始めたばかりのときは、なるべく一日でも中断しないほうが良い。

初心者は1セッションで3回練習する。1回は30~90秒である。1回の練習が終わったら、催眠の自覚がなくてもきっぱり終了・覚醒し、直ちに第2回目に入る。そしてその終了・覚醒後、ただちに3回目にうつる。

1回の練習に連続して3回分の時間を費やすよりも、短く断続したほうが効果的である。もちろんこれは初心者の場合で、少し訓練に慣れてきたら各階に練習を長く続けたほうが効果的である。かつ、1セッションの練習回数も3回に限らず自由に増やしてよい。

なお、練習はいつ行ってもよいが、朝起きたときと就寝前が最も効果的である。要は練習するときを、食事前とか就寝前というように、きちんと決めておくことである。

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 2-6 終了と覚醒

一定の練習が終わったら自分で覚醒する。目を開けて、まず両腕、次に両足を2回強く屈伸し、次に頭を2回左右に傾けてから深呼吸を2回行う。この順序は各段階とも共通である。終了・覚醒の順序を狂わせると、めまいなど好ましくない結果が出ることがあるので、めんどくさがらずにきちんと守ってほしい。

練習を進めていくと、同じ催眠に入るまでに要する時間は次第に短くなり、外的刺激にあまり影響されずに効果的に暗示を受け入れるようになる。そして、ある段階の自己催眠術をマスターすると、その催眠効果は以後の段階にうつっても持続する。

つまり、第3段階までマスターしたときには、同時に第1段階と第2段階の催眠も起こっているのである。第6段階の暗示が短時間で実現されるようになれば、自己催眠はいちおうマスターしたことになる。

6段階の基本催眠は、毎日効率よく練習していけば、約四週間でマスターすることができる。練習の継続性や個人差によって、四週間より長くかかることもあるが、練習回数を増やしたり、練習中の条件の改善に留意すれば、案ずるほど長くはかからない。

練習者は、まず、最初の1段階を完全にマスターすることに努力してほしい。というのは、第1段階「ウデガオモタイ」と第2段階「ウデガアタタカイ」の2段階をマスターして強化訓練を続行するだけで、自己催眠によってもたらされるほとんどすべての効果を享受することができるからである

第1段階と第2段階をマスターすれば、後の段階は比較的容易に習得することができる。第1段階の訓練で、最初に本格的な自己催眠の状態を経験できるまではちょっとした忍耐が必要である。

練習中に眠り込んでしまったら、目覚めた後に必ず最初からやり直すことである。とくに、練習終了・覚醒の手続きを完全に行うこと。四股の屈伸は怠ってはいけない。

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3 第一段階

 3-1 自己催眠に入る準備

第1段階は腕の筋肉を弛緩させることで末梢神経を休め、ひいては緊張しすぎた心を自然のやわらいだ状態にもどす催眠術である。この訓練はいつ行ってもよいが、昼食後または夕食後、あるいは就寝直前が最も効果的である。

姿勢は腰掛姿勢で硬い椅子はさける。椅子にふかぶかと腰掛け、足を床に着けて手を膝の上に軽く起く。両手は触れ合わないように少し離しておく。足のつま先をいくらか開き、両かかとはわずかに離す。体が左右どちらにも傾かず正面を向くようにする。

体全体の力を抜き、だらしなくならない程度に全身をリラックスさせる。頭が前へ少し垂れ気味で、背中が丸くなっていても全身の力が抜けているようなら良い。

このような姿勢をとったら軽く目を閉じて、30秒から1分くらいこのままの状態で、頭の中から雑念を追い払う。何も考えてはいけない。すべてを忘れて頭を空白にしてしまう。ただし、眠ってしまわないように…。あなたの心は少しずつ落ち着いてきた。これで自己催眠に入る準備ができた。

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 3-2 ウデガオモイ

右利きの人は右腕、左利きの人は左腕に暗示をかける。まず、利き「腕が重いなあ」と思ってみる。思うというより、そう感じるように努めるのだ。

「腕が重い」の「重い」という感じは、重たいものを持った時の重いではなく、どちらかといえば「腕がだるい」という感じに近い重さである。

「ウデガオモイ…ウデガオモイ…ウデガオモイ…」と何度も繰り返しつつ、腕の筋肉に注意を集中しよう。無理に思い込んではいけない。だんだん、だんだん、自然に「重くなってきた」と感じられるようになる。

やがて、「腕の重さ」ないし「腕のだるさ」が、明らかに実感として脳裏に浮かんでくるだろう。腕が自分のものでないような感じがするかもしれない。ここまでくれば、もうしめたものだ。この実感が断続しないようにして、さらに暗示を繰り返す。

「ウデガオモイ…ウデガオモイ…ウデガオモイ…」もう、余計な努力はいらない。だんだん本当に腕が重たくなってくる。腕が重くなるに従い、あなたの心もあらゆる緊張から解放され、ゆったりとくつろいでいるのがわかるだろう。

「ああ、腕が重たいなあ。それにのびのびとした、自由な気持ちになった」と実感できたら、第一段階の基本は完成である。

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 3-3 催眠を解く

催眠を解こう。まず、そっと目を開ける。すわったまま腕と足を軽く2~3回屈伸し、頭を左右に2~3回ゆっくり傾け、次に深呼吸を2~3回繰り返す。この催眠終了の手続きは、第2段階以後も共通であるから、順序を誤らないようにしてほしい。また、練習が終わったとき、座っている姿勢から急に立ち上がるようなことは決してしてはいけない。

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 3-4 練習中の注意

練習中に、咳やくしゃみが出そうになったり、肌にアリが這うような感じがあったら直ちに訓練をやめ、これらに刺激を十分に取り除いたのち、直ちに初めから練習を再開する。

第一段階は自己催眠の入口であり、この「ウデガオモイ」という自己催眠術さえ体得できれば、後の五段階はそれほど苦労なく進んでいける。そして、この段階をマスターすれば、あとはその強化訓練をするだけで、自己催眠による生理・心理的な効用をほとんど享受することができる。

全く初めての人は、本格的催眠状態を最初に体験するまでは少し時間がかかるだろう。ただ、「腕が重い」といってもとりとめがなく、なかなか「重い」感じをつかめないかもしれない。無理に腕の重い感じをだそうと努めて、かえって緊張をまねき逆効果になってしまうことがある。

そんな時には無理に力まず、好きな歌やメロディーを頭に浮かべて繰り返してみる。このような補助的暗示の中に「ウデガオモイ」を織り込んでいく。

最初のうちは1回の練習を30秒~90秒でやめなければいけない。1回が終わったら終了・覚醒を行い、直ちに次の練習に入る。短時間の練習を続けて行う1セッションは、3回にとどめておいたほうが良いだろう。

このような規則を守らなければならないのは。最初の数回である。少し慣れてきたら、2分、3分、5分と次第に延長していく。1セッションの回数も自由に増やしてよい

すぐに催眠状態が体感できないからといって、焦ることは禁物である。とくに暗示効果を強めようと、1回の練習時間をむやみに伸ばすのはかえって逆効果となることが多い。焦ると取り返しがつかなくなることもある。

毎日少なくとも1セッション(3分から20分くらいが適当)ずつ練習すれば、7日から10日目には、最初の自己催眠を体験できる。利き腕が重い状態が短時間(20~40秒)のうちに実現されるようになったら、第1段階の基本は完成である。

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 3-5 強化訓練

つぎに、この「重い」感じを両腕、両足に及ぼそう。順序は、右腕→左腕→右足→左足、さらに両腕、両足とする。右腕が重くなる自己催眠に成功したら、5日~7日の追加訓練で、重い感じを四股から全身へと広げることができるだろう。

注意集中後20秒~40秒で両腕両足、さらに全身が重く感じられるようになったら、第1段階は完成である。第1段階をマスターすると心の安静を失ったときにおこる軽度の精神障害、「あがりやすい」「すぐかおが赤くなる」「どもる」などの症状が改善する。

試験、面接、対談、会議など、われわれの日常生活では緊張が必要な場面がいくらでもある。緊張なくしては、重大な局面を打開していくことは不可能であろう。適度の緊張は頭の回転を速め、意欲を増し、エネルギーを集中させる。

しかし、この緊張がいきすぎたらどうだろうか。頭の回転が速くなるどころか思考能力は霧散し、自分の言っていることしていることもわからず、まさに「心ここにあらざれば見えれど見えず、聞けども聞こえず」というありさまになる。

これが「あがる」という症状である。あがってしまったらいくら能力があっても、あなたは普段の十分の一も実力を発揮できないだろう。

「あがる」とは、脳が刺激に過敏になり過度に緊張して、一時的な錯乱状態に陥ることだといえる。自己催眠術はまず体の緊張をとることによって脳をリラックスさせ、ひいては「過度の緊張」→「頭の錯乱」という悪循環を消し去るのである。

第1段階の自己催眠術は、重病人でない限り高齢者でも多少体の弱い人でも、指示通りに正しく行えばだれが実行しても全く危険はない。自己催眠術は8歳ないし9歳から可能である。硬くならず、ゆったりした気分でやってほしい。

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参考資料:新・自己催眠法(長尾盛之助、鶴書房)、自己催眠術(平井富雄、光文社)、公益財団法人長寿科学振興財団ホームページなど。