1 寿命のメカニズム
1. テロメア
テロメアは1030年代に、ハーマン・J・マラーはショウジョウバエに対するX線照射によって生じる染色体逆位の細胞学的研究から、バーバラ・マクリントックはトウモロコシを用いた遺伝学的研究から発見された。
テロメアは細胞内にある染色体の先端部分で、染色体の先端部を束ねる蓋の様な形をしている。染色体を保護する役割を果たしているが、細胞が分裂するたびに少しずつ短くなり、およそ50~60回程の分裂を繰り返すと分裂や増殖が止まってしまう。
テロメアの単位は塩基で、生まれたときには約1万塩基のテロメアを持っている。それが細胞分裂によって短くなり、5千塩基になると寿命が尽きる。普通に暮らしている場合は年間に平均して50塩基ずつテロメアが減るといわれる。
テロメアは、A(アデニン)、Y(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)という4種類の塩基配列でできている。DNAの上にはこの4種類の塩基配列があり、その並び方によってすべての遺伝情報が伝えられる。
哺乳類の場合、DNAの末端部分は「TTAGGG」という6個の塩基のセットがいくつも続く形になっている。この6塩基のリピート部分がテロメアである。テロメアには遺伝情報が入っていない。つまり、なくなっても大丈夫なようにできている。
私たちの身体はおよそ60兆個の細胞でできているが、細胞分裂により毎日6千億もの細胞が死んでいる。髪の毛や爪は死んだ細胞の集まりであり、皮膚をこすると出てくる垢(あか)も細胞がはがれ落ちたものである。
細胞が分裂するときDNAがコピーされるが、完全にコピーすることはできず、末端の部分だけ欠けてしまうという。この欠ける部分がテロメアだ。染色体として見ると、細胞分裂する度に末端部分のテロメアが欠けて、短くなっていくことになる。
テロメアは人によって長さが異なり、染色体の端にあり細胞分裂のたびに短くなるため年とともに縮みこれが老化現象をもたらす。癌や脳卒中、心臓や血管の病気も、テロメアが短くなることで発症しやすくなるという調査結果もあるそうだ。
これらのことからテロメアは、別名「命の回数券」とも呼ばれている。定期券ではなく使用期限が決まっていないから回数券と呼ばれ、大事に使えば寿命も長くなるし、雑に扱えば寿命も短くなる。
細胞分裂の回数は限りがあり、細胞のDNAの末端にあるテロメアが細胞分裂の数を覚えていて分裂のたびに短くなる。そして、最後には細胞分裂ができなくなり、すべての細胞の分裂が止まると人間の寿命も尽きてしまう。
2. テロメラーゼ
2003年にアメリカのマサチューセッツ工科大学のレオナルド・ガレンテ博士が、酵母の長寿遺伝子「Sirtun2 (サーチュイン)」を発見したことがきっかけで「Sirtun1」から「Sirtun7」まで7種類の「長寿遺伝子」があることが明らかになった。
その後の研究により「長寿遺伝子」が働くことによって100近くあるといわれる老化の原因を抑え、脳や肌、血管など、さまざまな器官が若く保たれることもわかってきた。動物実験によると寿命も20%から30%延びたという。
しかし、2011年9月にロンドン大学ユニヴァーシティ・カレッジの研究チームが、これまで行われてきたサーチュイン遺伝子で寿命を延ばすという実験結果は、多くの研究チームが追試を行ってきたが効果は表れず大きな欠陥があると発表した。
一方、テロメアの発見以降研究は進み、アメリカ合衆国の生物学者エリザベス・H・ブラックバーン博士はテロメアを伸長する酵素・テロメラーゼを発見した業績で2009年にノーベル生理学・医学賞を受賞された。
テロメアの内部で創り出されるテロメラーゼという酵素がある。テロメラーゼは細胞分裂のたびにDNAを補填し、染色体の端を再建してテロメア短縮に対抗する。そのおかげで染色自体は保護され、その正確なコピーが新しい細胞のためにつくられる。
細胞が分裂するたびにテロメアは徐々に短くなり、ある危機的な数値に達すると、細胞分裂をやめるようにサインを出す。だが、テロメラーゼは細胞分裂のたびにDNAを補填し、染色体の端を再建してテロメア短縮に対抗する。
こうして細胞は自己複製を繰り返していくことができる。細胞分裂にともなうテロメアの短縮を、テロメラーゼは遅くしたり、防いだり、覆すことすらできる。テロメアはテロメラーゼによって元どおりになるともいえるそうだ。
老化とは早まったり遅くなったりする動的なプロセスであるが、老化とは長いあいだ考えられてきたように病気や衰退へと一直線に滑り落ちる坂道ではない。人間はみな、年はとる。だが、どのように老いるかを大きく左右するのは細胞の健康状態なのだ。
ただし、テロメラーゼが過剰に活性化すると癌につながる恐れがある。癌細胞ではテロメラーゼが過剰に活性化していることが確認されているからである。従って、テロメラーゼのサプリメントは危険なため製造がおこなわれていない。
3. 時計遺伝子
私たちの身体には時計と呼ばれる遺伝子があり、朝日と朝食によって1日24時間のリズムをリセットさせるようになっている。まるで振り子のように時を刻むから時計遺伝子と命名された。時計遺伝子はテロメアの別名である。
普通に暮らしている場合は、年間に平均して50塩基ずつテロメアが減るといわれる。朝日を浴びて朝食を取ることで時計遺伝子をリセットさせ、暴飲暴食をせず、適度に運動をし、夜更かしせずにしっかり睡眠をとる生活のことである。
規則正しい生活をしていれば、テロメアの減り方は年間に50塩基となり、少なくとも100歳までは生きられることになる。テロメアが長い人ほど免疫力が強く、長いテロメアと関係しているのが運動・ビタミン・不飽和脂肪酸である。
そして、普通の生活なら7年間で350塩基しか減らないテロメアを、1000塩基も減らしてしまった人たちがいる。彼らは、朝食抜きの生活や暴飲暴食、睡眠不足などの不規則な生活をして、テロメアを短くしてしまったのである。
短いテロメアと関係しているのは肥満・喫煙・ストレスである。特に、喫煙はテロメアの長さを保つ上で大きな障害となる。テロメアが短い人ほど心臓病、糖尿病、ガンなどに罹りやすいと言われている。
生体リズムと云えば思い出すのはバイオリズムである。バイオリズムは、ドイツのベルリン大学のフリーズ博士が自分の患者を診察した結果、発病が男性では23日、女性では28日周期で起こることを発見してPSI学説として提案した。
Pは身体の頭文字で23日周期で変わると決めた。Sは感情の頭文字で28日周期で変わると決めた。Iは知性の頭文字で33日周期と経験から一律にきめた。したがって科学的根拠はなく、金儲けの手段として多くの人に利用された。
似たようなものに、A・B・AB・Oという4つの血液型にしたがって人の性格を4つに分類するという占いとも言えない、お遊びみたいなものが流行している。血液型性格判断は科学的根拠がなく、人間を単純に4つの型に分類できるはずがない。
生物は本質的に複雑であり、複雑さをいっそう獲得するように分化していくのが生物である。人間を単純に4つにわけるのは、およそ生物の本質を踏まえていない暴論であり、これも科学とは無縁である。