はげちゃんの世界

人々の役に立とうと夢をいだき、夢を追いかけてきた日々

第53章 過酷な旅路

新しい生命の始まりは精子と卵子というたった二つの細胞の出会いから始まる。しかも卵子の策略によって数々の困難が待ち受け、精子の授精は一億分の一という確立である。このような過酷なレースは、弱肉強食の世界を生き抜くための知恵である。

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1 卵子と精子の誕生

 1) 女性の生殖器官

卵巣は卵子の成熟にかかわる性腺で子宮の両側に位置している。卵巣は親指大の臓器で長さ3~4cm、幅は1~2cm、重さ5~6gのアーモンド状の器官で、卵胞という袋に詰まった一生分の卵子が用意されている。

月に一度左右の卵胞へ性ホルモンが届くと、数万から数百万の原始卵胞の中で黄体期=高温期に、次の周期に排卵する「候補」が20~30個決められる。排卵できるまでに最も優れた卵胞に育った、主席卵胞卵子と呼ばれる卵子が卵管へ出ていくのが排卵である。

左右の卵巣から交互に排卵されたり同じ側の卵巣から排卵されることもあり、卵子の選ばれ方は規則的に定まっているわけではない。個人差はあるが平均的な周期は25~38日で、その周期の中間くらいで排卵が行われる。

排卵が起きると卵子は卵管の先端にある卵管采から取り込まれ、卵管内で精子と出会うために待機する。妊娠しないと排卵後およそ10日で黄体が変性し始め、子宮内膜を維持してきたホルモンが減少し、排卵後約2週間で内膜がはがれて「月経」となる。

女性膣内はデーデルライン桿菌によって乳酸が産生され、pHは酸性(4~5)に保たれ腟自浄作用が働いている。女性の膣壁から内臓である膣を保護するために、分泌される無色透明又は白濁した粘性のある液体を膣分泌液という。

膣分泌液は乾けばカサカサになる。性交時には腟内を保護する潤滑剤の役割も担っている。分泌が不十分なまま、または体質に起因して分泌量が少ないまま性交すると挿入が困難になったり、不快感や痛みを伴う場合がある。

平常時でも膣分泌液は一定量は分泌され、膣の粘膜を湿潤に保ち膣の自浄作用を担っている。前戯不足や望まぬ性交(レイプなど)の際にも、繊細な内臓である膣を摩擦や傷害から守るために自動防御として分泌される。

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 2) 男性の生殖器官

男性の生殖器は、精巣(睾丸)、精巣上体(副睾丸)、精管、精嚢、前立腺、尿道球腺、陰茎、陰嚢などで構成される。精巣は陰嚢中に左右1対あり、線維性の白膜に包まれ多数の小葉に分けられる。各小葉には数条の曲精細管がありその中で精子が作られる。

精巣(せいそう)は精子を作る生殖腺であり、アンドロゲン(男性ホルモン)を分泌する内分泌器官でもある。精子は、精細管壁の精上皮から精祖細胞が生じ、精母細胞、精娘細胞と分化して精子細胞となる。精子細胞は成熟し形を変えて精子となる。

精巣からは精路が伸び、副睾丸で精子に運動能力と受精能力が与えられる。精管は前立腺を貫き、精嚢の導管と合流して射精管となり尿道に開いている。精嚢からアルカリ性の分泌物が出され、射精時に前立腺の分泌物とともに精液として排出される。

陰茎は尿路と交接器を兼ねる器官で、背側の陰茎海綿体、腹側の尿道海綿体、その先端の亀頭で構成される。尿道海綿体のほぼ中央を尿道が通り、亀頭の先端に外尿道口として開いている。陰茎海綿体は血管に富み、多量の血液が注がれて勃起の主役となる。

陰茎(いんけい)は尿道を含む外生殖器で、尿道は海綿体というスポンジのような組織で取り囲まれている。性的興奮によって海綿体に血液が流れ込むと、陰茎が勃起(ぼっき)して腟への挿入と射精を可能にする。

尿道は泌尿器系と生殖器系の両方に属しているが、尿と精子が一緒に通過することはない。精子が尿道の前立腺部に入ると膀胱の括約筋が収縮し、尿が尿道内に漏れ出ないように遮断している。

1回の射精で射出される精液の量は個人差が大きく、数ミリリットル程度が一般的である。短時間のうちに3~4回射精すると一時的に精嚢がほぼ空になることはあるが3日間で満たされる。精子は常に作り続けられ、古い精子は分解され体内に吸収される。

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2 精子の大冒険

 1) 出発点は膣内

勃起した陰茎が腟内で射精すると、数10センチから1mにも及ぶ勢いで精液と精子は外子宮口に当たり周囲に飛び散る。射精の液量は平均3.5ミリリットルだが個人差も大きく、約0.2~6.6ミリリットルと幅があり、数滴しか出ないこともある。

亀頭の前方にあたる外子宮口が精子のスタート地点で、ゴールまでは人間の場合18cmである。精子は全長50μ(ミククロン)だから、精子を人間の大きさにしてみるとおよそ6kmという距離になる。この6kmを全力で泳ぎ切らなければならない。

精子にとって最初の関門は外子宮口である。内部はネバネバばした体液が満たされている。精子の頭部はタンパク質でおおわれているが、外子宮口はこのたんぱく質で人間の精子かどうかを判定し、さらにゴールまで到達できる馬力があるかも判定される。

多量に生産された精子はすべて完全無欠というわけにはいかない。形状が異なったり、寸法が異なったり、頭部が大きすぎたり、鞭毛に長短があったりと不完全な精子も存在するのである。これらの精子は外子宮口を通過できない。

外子宮口から6kmの大海原を泳ぎ切るにはエンジンが必要であり燃料も必要となる。エネルギーを生み出すエンジンに相当するのがミトコンドリアである。しかし、ミトコンドリアは人体が作り出したものではない。

酸素を使ってたくさんのエネルギーをつくりだすことができる好気性細菌αプロテオバクテリアという細胞内寄生生物が細胞に取り込まれ、細胞内に住み着いてミトコンドリアになったと考えられている。これを細胞内共生説という。

ミトコンドリアの主な働きは酸素を使ってエネルギーをつくることから、細胞の中の発電所に例えられる。発電をするには燃料が必要になる。精子は卵の黄身に相当する燃料を持っていないから、透明なゼリー状のものと白い液体が混ざり合った精液を利用する。

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 2) 命がけの冒険

透明なゼリー状のものは精嚢腺から出る分泌物で、白い液体のほうは前立腺からの分泌物である。二つの分泌液を精漿といい、精漿成分と精子成分を合わせて精液という。精液は前立腺から出るスペルミンという酵素の作用で、サラサラした白い液体に変る。

精液は弱アルカリ性(PH7.0~8.4)で精子の運動や栄養に必要なたんぱく質、アミノ酸、果糖、電解質酸フォスファターゼが豊富に含まれている。精子はこの弱アルカリ性の栄養たっぶりの精漿の中で、もっとも活発に運動する。

射精された直後から精子は毎分2~3ミリの速度で前進する。精液中の果糖を消費しながら鞭毛運動を行う。無酸素運動であるため、精液中に乳酸が形成され液性は酸性に傾いていく。膣内は弱酸性のため数時間で精子の活動が失われる。

無事に子宮内へ入った精子は卵管を目指して泳ぎ始める。しかし、卵管内に卵子がいるかどうか、左右どちらの卵管に卵子がいるか全くわからない。精子は左右どちらの卵管へ進むか当てずっぽうで選択しなければならない。これは全くの運である。

逆流を突破した精子は卵管へ到達するころには100ほどに減っている。卵管の内部は液体で満たされている。卵管の収縮により、液体は子宮内へ向かって移動する。精子は逆流の中を必死で泳ぎ続ける。一方卵子は、排卵により卵管内で精子を待つ。

子宮頚管で精子は3~7日間生き続け、卵子との受精チャンスを待つ。卵子と巡り合えなければその場で死亡し吸収されてしまう。卵子に到達した精子は、卵子の皮を破って内部へ突入する。一匹の精子が卵子の内部へ入ると、卵子は他の精子の突入を阻止する。

男性のミトコンドリアは精子の鞭毛の付け根に存在し、鞭毛を動かすエネルギーを作り続けていたが精子が卵子の内部へ突入するとき鞭毛は切り捨てられる。このため男性のミトコンドリアは遺伝できない。受精卵の中には母親のミトコンドリアしか存在しない。

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3 生命の発生

 1) ゆりかごは胎盤

卵子は透明帯でおおわれている。卵子内に精子が突入すると、受精卵は卵管を移動して子宮に到達し、子宮内膜にもぐりこんで着床する。細胞分裂をくりかえし、胎児として成長していく。

卵子が受精すると精子の細胞と結合して受胎が起こり、子宮で受精卵が着床すると妊娠が開始する。受精卵に最初にできる器官は始原生殖細胞である。生殖細胞にとっては体は乗り物で遺伝子を運ぶ使い捨てのものである。遺伝子を継ぐことが最優先される。

胚芽は成長して支持と栄養を提供する構造に囲まれるようになる。胚芽が胎児に発達するにつれて、眼、四肢と器官が出現し、分娩と出産によって妊娠が終了するまで胎児は子宮の中で成長する。それまでに次の出産が可能な生殖器系を含むすべての身体系が整う。

精子と卵子は配偶子であり、それぞれが生殖のために必要な遺伝情報の半分を含んでいる。精子が卵子に侵入して受精すると遺伝情報が合体する。精子からの23の染色体と卵子からの23の染色体が対になり、受精卵と呼ばれる46染色体細胞を形成する。

受精卵が分裂して増殖し始め、受精卵が子宮の方へ進むと分裂して胚盤胞になり子宮壁に潜り込む。受精卵が輸卵管から約5日かけて子宮に達する。受精卵が移動すると、受精卵は分裂して内細胞塊と外側に保護リングを持つ胚盤胞に発達する。

それが発現するにつれてもう一方の側で、羊膜が液体で満たされ胚芽を囲み始める。他の細胞群は胎盤と臍帯を惹起し、それが栄養分を取り込み老廃物を除去する。受胎後15日目は胎芽期の初めとなる。

胚芽は3層に分化する平坦な胚盤となり、内胚葉、中胚葉と外胚葉が含まれる。人体のすべての器官はこの3つの組織に由来している。湾曲して折り重なり楕円形を形成し、4週目までに胚芽には特徴的な頭部と尾部、および拍動する心臓が認められようになる。

次の6週間で、四肢、眼、脳領域および椎骨が形成される。すべての身体系の原始的な形が現れ、10週目末までには芽は胎児となる。(注意: ここでは、胎児の在胎期間を参考にしている。)

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 2) 免疫寛容システム

体内には免疫システムがある、精子と卵子が受精して胎児が生まれると、胎児は免疫システムに拒絶されて死んでしまってもおかしくない。この免疫システムから守るのが胎盤で、子宮内では胎盤が免疫寛容のクッションとなっている。

妊娠の10週目から、臍帯によって供給される栄養豊富な血液に支えられ子宮の内部で胎児が成長し始める。胎盤は酸素と栄養分を胎児に提供し、胎児血液から老廃物を除去する。骨、筋肉、皮膚、および結合組織が形成されて身体系が発達する。

四肢と顔の特徴が形をなしてくる。36週目ごろに分娩過程が始まる。第一期(拡張期)には、ホルモン類が子宮壁の下方への収縮を促進する。収縮によって、子宮の下端で胎児の頭部が子宮頚部に押しつけられ子宮頚部が拡大する。

第二期(娩出期)には、強力な収縮によって頭部と身体の残りの部分が拡張した子宮頚部を通って、膣と陰門を通り外に押し出され乳児が生まれる。さらに収縮して胎盤を排出し胎盤期が終了する。

生殖器の構造は胚芽期に形成し始め、6週目までに未分化な性腺と性器が存在する。男性または女性になるかどうかは、精子によって運ばれる染色体のひとつによって決定される。この一対は、男性の精子からX性染色体またはY性染色体のいずれかを含みます。

染色体対がXYである場合、性腺は精巣に発達しこれは7週で始まる。 染色体対がXXである場合、性腺は卵巣になりこれは8週で始まります。 精巣はテストステロンを分泌し、10週ごろ男性生殖器を形成する。

テストステロンが存在しないと女性の性器が形成される。すべての生殖器の構造は、出産時または出産後まもなく整い、思春期で性ホルモンが増加すると成人の大きさに成長し生殖能力を持つようになる。

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4 性犯罪根絶のために

以下は、日本マンション学会常務理事で東京支部長の平澤修中央学院大学法学部准教授が、平成20年の講演「マンションにおける犯罪と防犯対策」を要約して一部補足したものである。

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 1) 講演の要旨

わが国での犯罪発生件数は平成14年に発生した来日外国人グループのピッキングによる連続侵入窃盗事件以降減少傾向に向かっているが、マンション特有の犯罪は侵入強盗強姦で、犯人の検挙率は極めて低いのが現実である。

平成17年12月8日、横浜市内のマンションへ盗みに入り、目的を達してテレビを見ながらくつろいでいた無職の男が、定期試験を終えて帰宅した高校3年の男子生徒(柔道部員)に取り押さえられるという事件が発生した。

犯人はマンション居住者同士のコミュニケーションがないこと、世帯主や配偶者の出勤時間と帰宅時間、高校生の登校時間と帰宅時間などを綿密に下見し、オートロックの脆弱性も認識していた。

下見による調査では、テレビを見てから風呂に入り、冷蔵庫内の料理を出してビールを飲む時間は十分にあった。盗みに入った日が高校の定期試験日であることを知らなかったことが、犯人にとって唯一つのミスである。

この事件でマンションを狙う犯罪者は十分な下見をしていることが分かった。居住者は無関心者が多いため下見をしていても見咎めることはなく、数日間をかけて綿密に家族を監視していたのである。

なぜマンションが狙われるのかといえば、犯人側からすると集合住宅ゆえの下見のしやすさ(家族構成や出勤と帰宅時間の確認が容易)、住民相互の無関心さと各住居の密室性、マンションは安全という居住者の勝手な思い込みが多いからといわれる。

認知件数の4割がマンションに対する放火で、小さな子供をねらった犯罪の3割近くがマンションの敷地内で発生し、女性への性的暴行の4割がマンションの階段やエレベータ内で発生している。

住居内へ進入すると凶悪犯罪へ発展する傾向が多く、当初は窃盗が目的であっても住居内に一人暮らしの女性や子どもがいると強盗に豹変し、強姦致傷や殺人へ発展する場合が多い。

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犯人の75%は逮捕されていないことから、繰り返されうる犯行に対する不安、防犯対策を怠った管理組合や物音を聞いても助けてくれない住人への不信感、そしてマンションの評判低下=資産価値の低下へと間接的な被害が広がっている。

気の毒なのは強姦致傷の被害者で、ほとんどの方は外へ出ることや人と顔を合せることを避け、人を信じられなくなり、物音に敏感となり、一割の方々は施錠した窓にカーテンを引いて真っ暗な部屋へ閉じこもったまま不具廃疾者となっている。

表現方法は良くないが、殺人は被害者からみて一瞬の恐怖感で終わる。強姦致傷は生きている限り悪夢がつきまとうことから、考えようによっては殺人罪よりも重い犯罪というべきである。

札幌で近年増加している30mを超える20階以上のマンションは防犯防災対策が施されている。単棟型で1棟当り100戸以上の大型マンションは、建築年代の違いによりセキュリティに差はあるが自治組織は比較的充実している。

単棟型の中低層マンションで1棟当りの戸数が少ないところはセキュリティに問題が多く、住民意識が貧困で自治組織は貧弱なところが多い。全国的な傾向を見ると、高齢者の居住率が高くなり、居住者間の連帯意識が希薄なマンションは犯罪者のターゲットになりやすい傾向がある。

本年2月9日の毎日新聞によれば、札幌市白石区内のマンションで発生した連続侵入強姦事件のうち3件は玄関がオートロックであった。このマンションでは居住者の交流行事がなく、総会は委任状で済まされるために居住者の七割がお互いの顔を知らず、人相風体がおかしくなければ無関心でありたいとする住民意識などにより、犯罪者が帰宅する人について入る「連れ入り」が可能となっていた。

この玄関に防犯カメラはなく、居住者がオートロックの脆弱性を認識するどころか、部外者が入って来られないという思い込みで住戸の扉にカギをかけず、被害女性が無警戒に自室から出入りする瞬間を共用部廊下や階段に潜んでいた加害者に狙われていた。

最近は入れ違いに入る犯罪者も多くなっている。人が出てくるときを狙って挨拶をしながら建物内へ入っていくと、顔を知らないために居住者であろうと錯覚する盲点をつかれている。

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 2) 性犯罪者の根絶を

平澤修中央学院大学法学部准教授のおはなしによると、「強姦致傷の被害者は外へ出ることや人と顔を合せることを避け、人を信じられなくなり、真っ暗な部屋へ閉じこもったまま不具廃疾者となっている」そうである。

被害者には生きている限り強姦致傷という悪夢がつきまとう。性犯罪者の75%は逮捕されず、再犯者が多いそうだ。このような状態を放置しておいてよいわけはない。性犯罪者を逮捕したら、二度と性犯罪を起こせなくすべきだ。

裁判の結果とは別に、一度性犯罪を犯した者は有無を言わせず交接器である陰茎のみを根元から切り落としてしまう。睾丸を含む陰嚢は切り取らずに体外受精で遺伝子の受け継ぎを可能にしておく。性行為はできなくなるが被害者に比べればまだましである。

性犯罪に会ったら必ず通報し罪を償わせなければならない。陰茎切り取りを周知しても性犯罪は治まらないが、かなり大きな抑止力にはなるだろう。

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5 国は国民を守れるのか

 1) 法律の建前

近年は共白髪まで添い遂げる風習が薄れてきた。ワードでも「ともしらが」は漢字に変換できないため、簡単に離婚してしまう例が多いようだ。離婚に際して財産分与が問題になるが、最も重要なことは残される子どもの養育費である。

養育費は、親が親である以上子どもに対して支払わなくてはならないお金である。厚生労働省の平成28年度「全国ひとり親世帯等調査報告結果」によると、母子家庭で「現在も養育費を受け取っている」世帯は24.3%にすぎない。

過去に養育費を受けたことがあるが15.5%、養育費を受けたことがないが56.0%である。父子世帯で、現在も養育費を受け取っているが3.2%、過去に養育費を受けたことがあるが4.9%、養育費を受けたことがないが86.0%となっている。

子どもの養育に無関心な親が多すぎる。養育費は親の義務であるにもかかわらず、支払われていない大きな理由は「養育費の取り決めをしていないから」とされる。約束をしなければ支払う可能性は低くなり、口約束の場合は簡単にうやむやにされてしまう。

2022年2月14日に法制審議会は、妊娠や出産の時期によって父親を推定している嫡出推定の制度をめぐり、再婚している場合は離婚から300日以内に生まれた子どもでも今の夫の子と推定するなどの法改正に向けた4つの要綱を古川法務大臣に答申した。

民法の改正に向けた要綱では、離婚から300日以内に生まれた子どもは、前の夫の子と推定すると規定されている「嫡出推定」の制度を、再婚している場合は離婚から300日以内に生まれた子どもでも今の夫の子と推定するとしている。

推定で決定するというのは非科学的である。なぜ遺伝子解析で特定しないのだろうか。現在は300人分に相当する1千億塩基を1日で読める装置が登場し、費用は1人当たり50万~100万円程度に下がり、簡易解析では1万円代のものが登場している。

父親、母親に授けられた自分のからだの設計図である遺伝子は、基本的に生まれてから死ぬまで変わることはない。法科学鑑定研究所では、国際司法上・行政上で利用することを目的とした法的DNA親子鑑定が行われている。

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 2) 事後の救済処置

まず相手と話し合って養育費の金額を決める。養育費は「毎月定額」を支払うのが原則で、一括払いなどは基本的にできない。養育費の金額は夫婦間の年収を基準し、家庭裁判所の養育費算定表が参考になる。分からないときは弁護士に相談する。

養育費の約束をしたら口約束は絶対に避け、必ず「公正証書」で合意書を作成する。近所の公証役場に申し込んで必要書類を揃え、指定された日に2人で公証役場に行くと、公証人に合意書を作成してもらえる。

話し合っても合意できない場合は、家庭裁判所のサポートを利用する。離婚前であれば「離婚調停」を申し立てれば調停委員の仲介のもとで離婚条件を定められる。調停委員は上記で紹介した養育費算定表をもとに相場を計算し適切な金額を提示してくれる。

離婚後であれば「養育費請求調停」を申し立てる。調停委員の関与のもとで養育費の取り決めができる。相手が支払いに応じない場合には「審判」に移行して、審判官が相手に養育費の支払い命令を出してくれるので支払ってもらえるようになる。

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 3) 難題の救済

◎ 養育費が社会情勢に合わなくなった場合

① 支払う側の収入が減ったり失われたりすると、養育費は減額される可能性がある。

② 支払う側が再婚すると再婚相手を扶養しなければならないため、その分養育費が減
  額される場合がある。

③ 支払う側が再婚相手との間に新しい子どもができたら、前婚の子どもへの養育費が
  減額される場合がある。

④ 支払いを受ける側が再婚し、再婚相手と子どもが養子縁組すると新たな養親となっ
  た再婚相手がまず養育義務を負う。血のつながった元配偶者については基本的に養育
  支払い義務がなくなる。

◎ 養育費の金額を変更する場合

① 支払う側から減額を求めたいときは、連絡なしに勝手に減額するとトラブルにな
  る。

② 話し合いで合意できなければ、家庭裁判所で調停手続を利用する。調停委員の関与
  のもとで養育費の金額変更について話し合いを進め、合意ができたら調停が成立し、
  新たな金額の設定が可能となる。

③ 話し合いで合意できない場合、審判官が新たな養育費の金額を指定する。なお、必
  ずしも養育費の金額が変更されるとは限らず、変更すべき理由がある場合のみ変更の
  決定が行われる。

④ 調停や審判で養育費の金額が変更される場合、通常は「調停申し立て時」からの分
  となる。養育費が高すぎる、低すぎるなど不満を感じているなら、早めに家庭裁判所
  で養育費に関する調停を申し立てる。

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 4) 行政の対応に期待

養育費をもらえないために貧困にあえぎ、人並みの身なりを整えることができなければいじめの対象にされる。学用品についてもしかりである。生活が豊かになったせいか、子どもたちのいじめは陰湿になっている。

日本で生まれた子どもに生体活動があれば日本国民であり、日本国憲法に「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」は「最大の尊重を必要とする」とある。たとえもの云えぬ子どもであっても、日本国民であることに変わりはない。

しかし、養育費が支払われないために、日本国憲法で保障している「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」が犯されている。これまで、このような環境に置かれた子どもを救うための施策があっただろうか。

政治家が頼りにならないことはよく知っている。党利党略に夢中で弱者救済には無関心なため、国民に最も近い役所が国民の権利を擁護してほしい。といっても、膨大に仕事を増やすわけではない。

離婚届を受理する際に、行政は「離婚届」に養育費についての「公正証書」の提示を求めるべきである。公正証書の内容を見て、養育費の支払いが明記されているかを確認するだけでよい。

養育費の負担が明記された公正証書の有無が子どもを救えるかどうかである。法律も知らずに物言えぬ子どもを救えるのは、心ある大人の使命ではないだろうか。行政の決断に期待したい。

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参考文献:ヒューマニエンス「精子と卵子」(井川正人、NHK)、医療法人東寿会ホームページ、脳細胞は甦る(三井巌、祥伝社)。