1 栄養不足で疲弊している脳
1) ビタミンの奇跡
ビタミンCを摂ると頭が良くなるというと、あなたは信じるだろうか。アメリカのセントドミニオン大学精神科のハーレル・キャップ教授は、ビタミン大量投与による知的障がい児の治療を専門にやっている。彼女はこの方面の研究で国際的に知られている。
実験はアメリカのある小学校で行われた。子どもの発達障がいを検出する知能テストの結果をIQの段階表に当てはめて、70以下では発達の遅れがあるとみなされる。キャップ教授はIQ70の境界にある子どもを対象に、ビタミンCの大量投与を試みた。
彼女は言葉が不自由な男の子を診察してIQを25~30と判定した。この子たちに数週間、大量のビタミンを与えてみたが改善の兆しが見えない。思い切って標準値の300倍という、ビタミンCは1500ミリ、B1は300ミリまで投与量を挙げてみた。
すると、数日後にその子は口をきき始め、一か月もたたないうちに読み書きができるようになり、9歳の時に小学校へ入学した。IQは90になり算数における進歩が目立ったという結果である。ビタミンで頭が良くなったのである。
1960年代に化学調味料「味の素」で頭が良くなるという説が話題となった。味の素の主成分であるグルタミン酸が脳内に多く存在するという情報が発表されたことから、これに飛びつく母親が全国に多く出現した。
しかし、1年もしないうちに味の素ブームは消えた。味の素に問題があるのではなく、脳で働くグルタミン酸は体内で作られたものだけが有効で、外部からのものは脳まで届かないことが突き止められたからである。
1990年代からマグロの目玉に多く含まれている「DHA(ドコサヘキサエン酸)」という脂肪酸が、やはり脳に特有な物質であるということで注目された。だが、このDHAが脳の中でどんな働きをしているのか、未だにはっきりと解明されていない。
頭をよくするはずのDHAは、実は我々の体にとって大変危険な活性酸素の発生源なのである。生物の体はある特定の物質の集合体で、その物質の分子の大部分は遺伝子DNAによってつくられるが、脳細胞にだけ働く特別なものなどは存在しないのである。
脳を神秘のベールに包まれた特別なものと考えることは、脳の機能を高めるチャンスを自ら放棄するのと同じことである。体のさまざまな器官の一部として脳を捉えれば、その必要としている栄養が他の部分と変わらないことに誰もが気づくだろう。
2) 頭の良さは後天的
慶応大学医学部大脳生理学の木々高太郎教授は「良い頭も悪い頭も生まれつきではなく後天的に作られるものだ」とおっしゃっている。良い頭とは、記憶力が良く、判断力も高く、理解力に優れ、頭の切り替えがうまく、機転が早いとしている。
頭の良さが後天的なものであることは、言語について考えてみればわかる。言語というものは、どこの国のものにしてもなかなか複雑だ。外国語の辞書を見ればわかるとおり、ボキャブラリーというものはそれぞれに豊富だ。
だから外国語の学習は、良い頭でなければ困難と言ってよいだろう。ところが周りを見回してみると、日本語を巧みに操ることができない日本人はまず見当たらない。すべての人間は大した違いのない頭をもって生まれてきたことの証拠である。
人間の頭の基本性能に大した違いがなく、良い頭というものが後天的に作られるものであれば、その機能を高めるにはどうすればよいだろうか。何か足りないものがあるのだろうかと考えるのが生活の知恵である。三石巌の分子栄養学では栄養という答えが出る。
野菜サラダを食べることが推奨されている。野菜からビタミンを接種すべきと云う発想である。厚生労働省が2005年に発表したビタミンCの推奨量は12歳以上の全年齢で100mgとされる。皮をむいたレモンを1日に40個食べなければならない。
これが無理ということは誰でもわかる。無理なら合成品で行くしかない。これが科学的な考え方、態度というものである。ビタミンCは、天然品でも合成品でも全く同じ物質である事を記憶してほしい。ビタミンCはアスコルビン酸で、クエン酸ではない。
同じビタミンという名前でも、AとEなどの脂溶性ビタミンは、天然品に限ると言っていい。天然品と合成品では分子構造が同じでないからである。脂溶性の者は1日分を1回にまとめても良いが、水溶性のものは1日の量を2~3回に分けて摂った方が良い。
ミネラルになると、原則としてビタミンのような個体差はなく、不足を恐れるのみである。ミネラルは必要量の比が知られているものもあるが、万人に共通する摂取量がない。大抵のものは思い出した時にココアとか黒砂糖とかに手を出せば間に合うだろう。
3) 脳の進化
脳は神経細胞ニューロンの集まりであるが、ニューロンの原型はイソギンチャクのような腔腸動物に見られる。腔腸動物のような下等動物の神経系が進化して、われわれの持っている高級な脳となったのである。
ヒトは、不幸にして植物状態になることがあるが、それでも心臓や肺が動く。高騰な脳は動いていないが、低級な脳は働いているからである。ヒトの脳に重い障害があれば、腔腸動物の脳にまで逆戻りするということになる。
ヒトの脳はワニの脳とウマの脳とヒトの脳と、三つの脳の合体したものだと云った人がいる。神経細胞ニューロンは層状に並んでいるので、その集合体を皮質という。ワニの脳は主として、脳幹と旧皮質からできている。
ウマの脳では、脳幹と旧皮質に古皮質が加わっている。そして、人間の脳では、進化が進むにつれて新皮質が加わっている。人類を特徴づける大脳新皮質に対して、旧皮質と古皮質を合わせて大脳辺縁系と呼ぶ。
大脳辺縁系に属する旧皮質には生命脳という別名がついている。脳幹とここが働いていれば生命は維持されるが、いわゆる植物人間で生きることになる。つまり、動物の脳のうち脳幹と生命脳はどれよりも大切である。
古皮質には情動脳という別名がついている。これは感情をつかさどる脳である。これを持っているのは高等哺乳類ということとなる。イヌには情動脳があるから喜怒哀楽を感じ精神的ストレスが起きてもおかしくないという理屈になる。
旧皮質を生命脳といい、古皮質を情動脳と呼べば新皮質は知性脳となる。どの段階の脳も情報を保持し、それを伝達する器官という点では同じである。新皮質に比べ、大脳辺縁系は情報伝達に使われるエネルギ―の効率が格段に悪い。知性脳は省エネになっている。
人間は言語を持っていて、情報を言語化することができる。無数の情報を言語化して知性能に収納しておき、必要に応じてこれを操作し、または取り出す。これは人間でなければできない芸当である。
4) 活性酸素の恐怖
知性能の活動を十分に発揮させるためには、エネルギーを大量に使う情動脳の活動を野放しにしないことである。エネルギーの消費量は酸素の消費量に通じるもので、酸素が消費されるときはその最低2%は活性酸素となる。
活性酸素は生命を傷つける殺し屋である。生体を作っている分子、たとえばタンパク質の分子は数千万の原子の集合である。原子は原子核とそれを取り巻く決まった数の電子を持っている。原子核と原子核とを電子で結合させている。
活性酸素は生体の分子から電子を奪う作用がある。分子から電子を抜かれると分子の構造が壊れる。電子を抜かれたタンパク質は分子としての本来の働きができなくなってしまう。活性酸素が電子を奪うのはタンパク質だけではない。
タンパク質をつくるための設計図であるDNAもそのターゲットとなる。DNA分子が電子を引っこ抜かれれば、遺伝情報の暗号が狂う。これが発ガンにつながることは容易に理解できる。
生体に細菌やウイルスが入ってくると、白血球が活動してこれを殺してしまう。白血球の仲間の好中球、マクロファージなどは体内で活性酸素を作って、細菌やウイルスなどに活性酸素を吹きかける。病原微生物は死ぬが、付近の生体に障害を与え炎症を起こす。
人類が他の動物より寿命が長いのは、障害性のある活性酸素を除去する酵素システムが優れていることによる。しかし、このシステムは40歳を過ぎると急速に衰えるので、その時点から活性酸素対策を意識的に採用しなければならない。
活性酸素は生体内で休むことなく発生している。呼吸によって体内に入る酸素の少なくても3%が、エネルギ発生の際に活性化する。活性酸素はストレスがあるとき、細菌感染があるとき、添加物や汚染物質、医薬品などを解毒するときにも発生する。
活性酸素にはいくつもの種類がある。細胞内のエネルギー発生器官ミトコンドリアで生じる活性酸素は、スーパーオキサイド(SO)と呼ばれる。SOの酸化力、電子を引き抜く力は中程度である。ミトコンドリはこのSOを除去するためにSODを用意している。
SDOはスーパーオキサイド除去酵素と言い、酵素が働くとSOが除去される代わりに過酸化水素水が発生する。困ったことに過酸化水素水は電子を引き抜く力があり、寿命が長く体内をうろつき回ることができる。これが非常に恐ろしい。
5) 活性酸素を除去する食品
体内で過酸化水素水が銅イオンや鉄イオンにぶつかると、最強の活性酸素ヒドロキシルラジカルに変身する。過酸化水素水を除去するのもやはり、カタラーゼやグルタチオンペルオキシダーゼというセレン酵素である。
酵素は、ネギ類やごま、いわし、マグロなどの魚肉、たらこ、すじこ、ウニ、ココアなどに含まれている。ビタミンCは、スーパーオキサイドや最強最悪のヒドロキシルラジカルをも防ぐことができる。
たしかにビタミンCは活性酸素を消してくれる。しかし、ビタミンCは活性酸素に似た強い酸化力があるので、1日に10mg以上を摂るのは注意したほうが良い。毎日2gなら問題はない。恐怖の活性酸素を除去する食品は次のとおりである。
スカベンジャー | 食品名 |
---|---|
ビタミンC (水溶性) | レモン、イチゴ、ミカン、柿、パセリ、トマト、 ブロッコリー、ピーマン、サツマイモ、番茶 |
ビタミンE (脂溶性) | アーモンド、コムギ胚芽、大豆、落花生、ウナギ、 シジミ、カツオ、アユ |
カロチノイド (脂溶性) | 緑黄色野菜(人参、南瓜、トマトなど)、柑橘類、 抹茶、赤身の魚、海藻、卵黄、魚卵(タラコ、スジコ、 ウニなど) |
ポリフェノール (脂溶性) | ゴマ、緑茶、赤ワイン、コーヒー、ショウガ、 香辛料、ハーブ |