2 心臓や大動脈の手術
虚血症心疾患(狭心症・心筋梗塞)の治療は、内科ではステント(カテーテル)治療、外科では冠動脈バイパス術を行います。内科ではステント(カテーテル)治療は簡単にできますが、再狭窄が起こる場合もあります。カテーテル困難症例もあります。冠動脈バイパス術では、その患者の血管で内胸動脈や胃大網動脈を使います。
札幌心臓血管クリニックでは、低侵襲バイパス手術(MIDCAB)とカテーテル治療(PCI)の良いところ取りをしたハイブリッド治療が行われています。これは非常にレベルが高くなければできない手術です。
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1) 心不全の原因
心不全は状態であって病名ではありません。心臓に器質的及びあるいは機能的異常が生じて急速に心ポンプ機能の代償機転が破綻し、心室拡張末期圧の上昇や主要臓器への還流不全を来たし、それに基づく症状や徴候が急逝に出現、あるいは悪化した病態と定義されています。
心臓のポンプ機能の異常に伴う心室充満圧の上昇で心拍出量低下が存在します。それによって引き起こされる体の異常症状です。心不全は、急性心不全と慢性心不全、右心不全と左心不全、収縮不全と拡張不全、虚血性心不全と非虚血性心不全に分類されます。
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2) 心不全の原因
① 心筋不全
ア 一次性心筋不全 心筋症、心筋炎
イ 二次性心筋不全 虚血性心筋障害、二次性心筋症
② 機械的障害によるポンプ不全
ア 流出障害 房室弁狭窄、収縮性心膜症、頻脈
イ 駆出障害 高血圧、動脈弁狭窄、房室弁閉鎖不全、心室瘤、肥大型心筋症
③ 循環の不全
ア 循環血液量減少 出血、脱水
イ 末梢循環不全 貧血
④ 不整脈
ア 心室頻動 頻動性心房細動
イ 房室ブロック 洞不全症候群
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左心不全の症状が起こるメカニズムは、心臓(特に左心室)の力が低下すると血液拍出量が減少します。これにより各臓器への血液供給が減少するので、下肢の疲労・だるさ・血圧低下などが起こります。
左心室から血液が出ていかないため、その手前で血液のうっ血が起きます。ということは肺のうっ血状態が起きることになります。したがって、肺での酸素取り込み量が障害されるため、酸素不足で息切れや呼吸困難になります。
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3) 心不全の症状と微候
① 左室充満上昇
呼吸困難・起坐呼吸・発作性夜間呼吸困難・ラ音や喘鳴、X線の肺うっ血
② 右室充満上昇
頸動脈怒張・浮腫・腹水・肝腫大・胸水・消化器症状
③ 艇心拍出量昇
疲労・精神錯乱・皮膚冷感・末梢性チアノーゼ・夜尿・乏尿
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4) 心臓弁膜症の治療
心臓弁膜症と心不全の違いは、心臓の弁が傷んでいるのが心臓弁膜症です。
① 薬剤治療 心臓の負担を取る治療
② カテーテル治療 TAVI,MitaraClip
③ 外科治療(病気の根本治療)
・ 弁形成術(自己遍温存)
・ 人工弁置換術 機械弁(樹脂製)・生体弁(動物材料)
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5) 弁形成術(自己遍温存)
主に閉鎖不全症(弁の逆流)に対しては、僧帽弁ではほぼ100%治せます。大動脈では非常に難しく経験の豊富な施設でのみ可能で、自分自身の弁がきちんと動くように作り変えてやる方法です。
大動脈弁狭窄症は、特に高麗者に急増しています。僧帽弁閉鎖不全症に対する弁形成術も増えていますし、大動脈弁閉鎖不全に対する弁形成術も増えています。
日本国内で65歳以上の大動脈弁狭窄の罹患率は2~3%と推定され、もっともよくみられる弁膜疾患です。米国では65歳以上の大動脈狭窄の罹患率は最大7%と推定されています。
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6) 大動脈弁狭窄症の症状
① 狭心症と間違うような症状 胸部のうずき、焼き付き、不快感、膨満感、疼痛、または締め付けられるような感覚を覚えます。腕部、背部、頚部、肩部、および咽頭部で感じられる場合もあります。
② 失神 突然かつ短時間の意識喪失。
③ 息切れ 歩行または横臥時に息切れや疲れを感じる。
④ めまい
⑤ 頻脈または不整脈
⑥ 動悸 早い、または不規則な心拍を自覚し、不安を感じている状態。
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7) 大動脈弁狭窄症は急速に進行する
大動脈弁狭窄症は軽微な症状が出てからもゆっくりですが、大きな症状症状発見後の2年生存率は50%です。軽微な症状が発現した時点で、速やかに重度大動脈弁狭窄に対する外科的処置を施行することが望ましい。
重度大動脈弁狭窄で、心不全の症状が出たら2年、失神の症状が出たら32年、狭心症の症状がでたら5年の生存率と言われます。
心エコーガイドライン 重度大動脈弁狭窄の評価におけるゴールドスタンダード
指標 | 軽度 | 中程度 | 重症 |
最高血流速度(m/s) | <3.0 | 3.0~4.0 | >4.0 |
平均圧較差(mmHg) | <25 | 25~40 | >40 |
弁口面積(cm2) | >1.5 | 1.0~1.5 | <1.0 |
弁口面積指数(cm2/m2) | 非該当 | 非該当 | <0.6 |
2008年ACC/AHAガイドラインによる重度大動脈弁狭窄の定義
大動脈弁口面積<1.0cm2、平均圧較差>40mmHgまたは最高血流速度>4.0m/s
8) TAVI
TAVIは、内科と外科が共同で行う、きわめて低侵襲な大動脈弁の新たな治療手段です。これまでの手術が困難とされてきた患者にも朗報をもたしています。
大動脈弁置換術(AVR)に対するリスクが高い、または症状が重すぎる患者に対する新たな治療となり得ます。侵襲性が低く、人工心肺を使わずに大動脈便を生体弁で置換することができます。
しかし、手軽な操作で人工弁移植を行っている行っている反面、外科手術以上に危険なことを行っている要素も含んでいます。内科・外科ともに経験を持った施設で受けられることをお勧めします。
9) 僧帽弁形成術
僧帽弁閉鎖不全症は、左心室と左心房の間にある2枚の逆流防止弁(僧帽弁)が接合不良となり、左心室から左房へ血液が逆流する病気です。外科的手術が標準的治療でしたが開胸手術は身体への負担があり高齢者または他の持病等により困難な場合があります。
この治療法として小切開僧帽弁手術(MICS手術)が行われてきましたが、僧帽弁閉鎖不全症に対する新しい治療法として登場したのが、経皮的僧帽弁形成術(MitraClip)です。僧帽弁閉鎖不全症におけつ血液の逆流量をある程度減らし、心不全症状(息切れや浮腫など)を改善する効果が期待できると考えられています。
経皮的僧帽弁形成術は、欧州で2005年に1例目が行われ、欧州と米国で6万人以上に実施され、日本では2018年4月に保険償還され500人以上の方々に実施されました。
外科的弁形成術や弁置換術が高い、または不可能と判断された場合に適応されます。例を上げると、非常に高齢・心臓手術に既往があり・心臓の動きが悪い(ポンプの機能低下)・悪性腫瘍の合併がある・免疫不全の状態・脆弱(フレイル)などです。
上記の状態であってもクリップで僧帽弁を閉じると言う性質上、僧帽弁の解剖学的な形態により経皮的僧帽弁形成術による治療自体の治療自体が困難な患者もいます。最終的には全身状態の評価と共に、心臓超音波画像等で僧帽弁の評価を行い本治療が可能か否かをハートチームで総合判断しています。
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