はげちゃんの世界

人々の役に立とうと夢をいだき、夢を追いかけてきた日々

第35章 いびきの治療

2018(平成30)年12月21日、札幌市白石区民センターで開催された札幌市徳洲会病院主催の医療公開講座で、札幌市徳洲会病院の酒向陽翠臨床検査技師より経験に基づいた講演「いびき!あまくみていませんか」の要約です。

1 いびきが起きるメカニズム

 1-1 検査技師とは

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 1-2 なぜいびきが起きるか

〇 狭くなった上気道

〇 いびきをかきやすいタイプ

 ① のどの近くの形状
     口蓋垂が大きい、扁桃腺炎の肥大等

 ② 下顎が小さい

 ③ 首が太くて短い

 ④ 歯のかみ合わせが極端に悪い

 ⑤ 肥満 → 首の周囲にも脂肪がつく
     口上気道を圧迫
      BMI30以上の人はいびきをかく危険率は一般人の二倍。

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 1-3 いびきは体に悪いのか

〇 いびきは気道が狭くなることによっておきます

〇 気道が狭くなると、体内に空気が十分に送り込まれない。

〇 その結果、循環機能に負担をかけ、不整脈高血圧などの症状が現れることがある。

〇 夜間の眠りが浅い ⇒ 日中の眠気
    ⇒ 仕事の能率が低下・交通事故

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 1-4 いびきを防ぐ方法

〇 減量に努める

〇 鼻づまりがある場合は耳鼻咽喉科を受診し原因疾患を治療する。

〇 寝る前のお酒を避ける、節酒を実行する。

〇 枕は、ノドの奥が広がった体勢になるようにやや低めのものを勧める

〇 横向き寝に努める。パジャマの背中のところにポケットを作り、そこにテニスボー
  ルを入れる。

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2 睡眠時無呼吸症候群

 2-1 SASとは

SAS(Sleep Apnea Syndrome) 睡眠中に呼吸停止または低呼吸になる病気
   10秒以上続く無呼吸が一晩(7時間以上の睡眠)に30回以上、もしくは一時間
  に平均5回以上起こること

● 睡眠中無呼吸症候群は日本の人口の2~4%の有病率と言われています。

   日本の人口 約1億2000万人
      ⇒ 約240万人~480万人が睡眠中無呼吸症候群?

● 現在、日本では米国に比べ終夜睡眠ポリグラフィ検査(PSG)を行うことのでき
  る施設が極めて少ない。
   そのため睡眠呼吸障害に対する治療を満足に行うことができていないのが現状。

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 2-2 SASの症状

■ ひどい「いびき」のほかに日中の「眠気」を伴う。

   ⇒ 交通事故・職場や家庭での事故に直結

■ 集中力の欠如・意欲の低下

■ イライラしやすい

■ 血圧が高い

■ 夜中に頻繁にトイレに起きる

■ 起床時のだるさ、頭痛

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 2-3 無呼吸の種類

  2-3-1 閉塞性無呼吸

上気道の閉塞に起因する無呼吸、呼吸努力(胸郭・腹壁の動き)が認められる。

  2-3-2 中枢性無呼吸

呼吸中枢から呼吸筋への出力が消失するため、呼吸努力がなくなる。

  2-3-3 光合成無呼吸

無呼吸中に中枢型から閉塞型に移行する。

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 2-4 SASへの注目

2003年2月26日にJR西日本の山陽新幹線運転士の居眠り事故により、睡眠時無呼吸症候群が広く知られるようになりました。この事故は、800名の乗客を乗せた新幹線が運転士が眠ったまま時速270kmで8分間走行し、岡山駅100m手前で自動列車制御装置(ATC)の作動により停車したというものでした。

駅員が不審に思い乗務員室のドアをたたいたが応じず、車掌が先頭車両の運転台に行くと運転士(33)は停車した事実にも気付かないまま居眠りしていた。ATCが正常に作動して列車は停車したが、作動していなければ大惨事となっていたかもしれない。

この運転士の新幹線運転歴は1年7カ月で、事情を聴取したところ「病気ではない、居眠りしてしまった」と話した。自動列車制御装置により列車がホーム前で緊急停車したおかげで事故はなかったが、上り3本が遅れるなどの騒ぎがあった。

運転士は広島市内の病院で検査を受け、医師に「5~6年前から寝ている最中に何回も目が覚める」「家族から、いびきをかいているときに息が止まっているようだと指摘されたことがある」と話していたという。運転士は体重約100kgで、睡眠中のいびきも多かった。

大きな社会問題となり、当初は「気のゆるみ」が原因と発表されたが、精密検査の結果で睡眠時無呼吸症候群と診断された

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 2-5 SASは放置できない

● 睡眠中に呼吸が止まると肺に酸素が取り込めず、血液が酸欠状態となるので身体へ
  の影響は重大です。

● 健康な人の睡眠はレム睡眠とノンレム睡眠を一晩に90分周期で繰り返します

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 2-5 SASの検査

パルスオキシメーター

指先にセンサーを付けて、血液中の酸素の状態と脈拍数を測定し、睡眠中の無呼吸を予測します

〇 睡眠中の血中の酸素量をチェックします。

〇 睡眠中前に手首と指先に機器を装着します。

〇 これで眠っている間の酸素の血中濃度(酸素
  飽和度)を測定します。

〇 睡眠中の動脈血の酸素量をモニタリングします。

〇 睡眠中の無呼吸や低呼吸に伴う酸素量に伴う酸素量の低下回数から、呼吸障害の程
  度を客観的に把握できます。

〇 簡単な検査機器を使って、自宅でチェックできます。

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 2-6 簡易検査

呼吸の状態や血中の酸素の状態などを測定し、睡眠呼吸障害の程度(AHI)を求めることができます。AHIが40以上で眠気などSASの症状が明らかな場合、CPAP療法の対象となります。AHIが40未満であれば、さらに精密検査(PSG検査)が必要です。CPSP両方の手領効果測定の検査として行うこともできます。

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 2-7 PSG検査

専門の検査施設等に入院して確定診断を行います。様々なセンサーを取り付け、実際の睡眠の質(深さや分類の状態)を評価します。また、睡眠中の行動異常、不整脈などの評価も行い、他の睡眠障害、合併症の有無について診断します。

PSGの検査は、専門の検査担当者が様々なセンサーを装着していくこともあり、入院して行うことになります。また、脳波という微細な信号を捕らえていくため、検査指摘した部屋での入院いなります。しかし、痛みは全くありません。センサーも眠っている間に取れてしまわないようにしっかりと取り付けます。

睡眠時無呼吸症候群の主な治療法は、持続性陽圧呼吸補助装置(CPSP)を使用します。鼻マスクを着けて空気を送り込み、上気道の閉塞を防ぐ方法を取ります。成人の閉塞性無呼吸の治療に最も効果的です。

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CPSP(持続性陽圧呼吸補助装置)

閉塞性睡眠時無呼吸は寝ているときに、上気道がふさがり無呼吸が発生します

CPSP療法は、CPSP装置からホース、マスクを介して処方された空気を起動へ送り、常に圧力をかけて空気の通り道が塞がれないようにします。

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 2-8 CPSPの効果

〇 健康で睡眠力が高く、深く眠れているAさん

Aさんはステージ4まで深く眠れています。

〇 BさんのCPSP治療前の睡眠状態

Bさんの治療前は、ほとんどステージ2以下で、10時間近く寝ても目が覚めません。

〇 BさんのCPSP治療後の睡眠状態

BさんはCPSP治療で、深い眠りが取れるようになりました。

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 2-9 CPSP治療までの流れ

平成18年4月から診断報酬改定によりCPAPの治療効果を判定するために、6ヶ月に1回を限度として保険診療が可能となりました。

AHIが40以上、または20以上でCPAP治療となるのは、あくまでも保険診療によるものであり、これに限りません。

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3 SASへの対応

 3-1 こんないびきに注意!

〇 疲れたときやお酒を飲んで眠っているときなどのいびきに関しては、あまり心配
  る必要がないことが多いようです

〇 睡眠時無呼吸症候群に掛かっている本人が気づくのは難しいので、周囲の人が以下
  の点について注意して観察してみましょう

 ① いびきに強弱がある。

 ② 仰向けになるといびきが大きくなる。

 ③ 朝まで継続していびきをかいている。

 ④ 依然と比較していびきの音が変化したり大きくなった。

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 3-2 入院検査は仕事を休まない

① 耳鼻科外来を受診

② 検査当日は、食事を済ませて18時頃来院。

③ 病室(個室)へ案内され、シャワー・洗面・はみ履き・トイレを済ませる。

④ 19時より電極の装着(約1時間)。

⑤ 21時に消灯して就寝。

⑥ 翌朝は電極を外してもらい、8時30分位は退院。

⑦ 検査料金は37,000円位です。

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 3-3 検査の事例

51歳の男性の場合

夜間のいびきと運転中の眠気があるので、パルスオキシオメーターで2日間検査した。

  3%ODI:7.1  9.6

3%ODIの判定基準
   ODIの正常値は10以下:正常
   10~15:SASを疑い
   15以上:SASの精密検査が必要。

判定結果はODI3%で正常であったがいびきと症状から終夜睡眠PSG検査を行う

〇 無呼吸低呼吸指数(1時間当たりの無呼吸と低呼吸回数)は10.3回/hであっ
  た。

   基準値は、軽症    5~15回/h
         中等症状 15~30回/h
         重症      30回/h以上

所見欄
  ① あなたの睡眠中の無呼吸・低呼吸の合計は71回で、1時間当り10.3回まで
   低下しています。
  ② 最も長い無呼吸・低呼吸は101.5秒でした。
  ③ 睡眠中の酸素飽和度は87%まで低下しています。仰臥位:AHI:12.3。

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 3-4 高血圧とSAS症例1

〇 46歳 男性 身長169cm 体重105kg BMI36.8

〇 会社の検針にて高血圧を指摘(215/138mmhg)

〇 血圧コントロールのため4剤を内服 日中の眠気がひどい

〇 SASを疑いPSG検査を施行するため入院

 ※ 入院の翌日病棟師長より、先生困ります。あの方のいびきで隣の二部屋の患者さ
   んから眠れないと苦情がありました

PSG検査結果 AHI:65回 SPO2の82%まで低下

CPAP導入を開始し、4剤から1剤でコントロールが可能となる。

血糖とコレステロール・中性脂肪まで改善した。

終夜睡眠ポリグラフ結果
  AHI:無呼吸低呼吸指数(1時間当たりの無呼吸と低呼吸回数)10・3回/h

基準値
  ① あなたの睡眠中の無呼吸・低呼吸の合計は71回で、1時間当たり10.3回。
  ② 最も長い無呼吸・低呼吸は101・5秒。
  ③ 睡眠中の酸素飽和度は87%まで低下している。

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 3-5 高血圧とSAS症例2

高血圧の患者でSAS(睡眠時無呼吸症候群)30~60%

・ SASの90%に高血圧が合併

・ SASの重症度であるAHIが高くなればなるほど高血圧合併症の頻度が高くな
  る。

AHI>15で高血圧合併の頻度は3倍増加し、
  脳梗塞・心不全などの血管イベントが1,6~2.4倍に増加する。

交感神経:活動的な時活躍する神経。
  尊像の拍動・血管を収縮させ血圧をあげるエネルギッシュな状態。

副交感神経:体を休息させる時に働く神経。
  脈拍はゆっくりとあり、血圧は下降。体も心も夜の眠りにふさわしい状態。

夜間の副交感神経が少ないために朝から血圧が高めになります。

  

謝辞:文中に掲載した写真は、プロジェクターで投影されたものを撮影して転載しました。ありがとうございます。

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