はげちゃんの世界

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第33章 心臓疾患の治し方

2018(平成30)年10月20日、新札幌アークシティホテルで開催された医療法人札幌ハートセンター主催の第11回ハーとセミナーで札幌心臓血管クリニック副院長の光島隆二医師の講演「心臓疾患の治し方」の要約です。

1 心臓の病気

 1-1 心臓栄養血管の病気

  1-1-1 冠動脈狭窄

冠動脈の狭窄が進行して血管に流れる血液量が減少し、十分な酸素や栄養素を心筋に供給できなくなると胸痛や胸部圧迫感を招きます。これが一般的な狭心症の症状です。現在では冠動脈CTもしくはMRIが多く施行され、確定診断のためには心臓カテーテル検査が必要です。

  1-1-2 冠動脈攣縮

冠動脈のけいれんのことで、瞬間的に起こるため病院で心電図検査を行ってもほとんど見つかりません。しかし、狭心症の6割に冠攣縮が関与しているといわれ、突然死も起こす恐ろしい病気であり、さらに日本人の冠攣縮性狭心症は欧米人に比べて約3倍多いと言われるので早期発見と早期治療が大切です。

  1-1-3 冠動脈瘤

冠動脈瘤とは心臓に血液を送る冠動脈の壁が壊れてこぶのように膨らむ病気です。冠動脈瘤の成因として、先天性つまり生まれつきのタイプから後天性つまり生まれてから川崎病などの感染その他の原因で発症するタイプがあります。先天性心疾患である冠動脈瘻が原因で発生する冠動脈瘤もあります。

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 1-2 心臓弁の病気

  1-2-1 狭窄症

大動脈弁の性質が硬化し、血液の通過できる面積が狭くなる病気です。心臓が大動脈を経由して全身に血液を送り出す時に、大動脈から心臓に血液が逆流しないように一方向弁の役割をしているのが大動脈弁です。さまざまな原因(動脈硬化・リウマチ熱・二尖弁など)により弁の性質が硬化し、通過できる面積が狭くなることで大動脈弁狭窄症となります。

  1-2-2 閉鎖不全症

大動脈弁閉鎖不全症とは、大動脈弁の閉まりが悪くなったために、左心室から大動脈に押し出され血液が左心室へと逆流してしまう病気です。通常、血液は左心室から大動脈に送り出されます。大動脈弁閉鎖不全症により血液の一部が左心室に逆流をすると、全身に充分な血液を効率的に送り出すことができなくなります。

  1-2-3 感染性心内膜炎

感染性心内膜炎は心内膜に生じる感染症で、主に心臓弁に感染が及び弁破壊と弁膜症を起こします。細菌(または頻度は少ないが、真菌)は、血流中から侵入して心臓弁にとどまり、心内膜に感染します。異常のある弁や損傷した弁、あるいは人工弁は、正常な心臓弁よりも感染症にかかりやすくなります。僧帽弁や大動脈弁に生じることが多いようです。

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 1-3 心臓内に発生した遺物

  1-3-1 粘膜腫

心臓にできる良性腫瘍(良性のできもの)の1つで、その中で最も頻度が高く左心房にできやすいのが心臓粘液腫です。息切れや失神やめまい、息苦しさなどのさまざまな症状が現れ、無症状の場合でもその後に心臓の動きに悪影響を及ぼしたり血栓をつくったりする原因になるので、手術で腫瘍を取り除く必要があります。

  1-3-2 血栓

血栓とは血の固まりのことです。血栓の形成はもともと破れた血管をふさぎ、止血を行うために生体に備えられた防御反応です。止血の過程で、血管の破れたところに血小板が集まり、くっついて固まり血栓となって傷をふさぎます。これと似た現象が、動脈硬化ができて傷ついた血管壁でも起こります。

  1-3-3 心臓癌

心臓ガンはあまり耳にする病名ではありません。なぜなら、ほぼ存在しないといってもよい病気だからです。心臓はほとんどが筋細胞で、生まれてから後は細胞分裂をしないため、心臓がんが発生する可能性が低いそうです。

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 1-4 不整脈

  1-4-1 慢性不整脈

不整脈のなかで最も多いのは、予定されていないタイミングで脈が生じる「期外収縮」です。期外収縮は、発生しても自覚症状が現れないことがあります。また、危険性のない不整脈です。

  1-4-2 発作性心房細動

1分間に450~600回の頻度で心房が不規則に興奮し、突然起こる心房細動です。心房細動の原因は、呼吸器疾患や甲状腺疾患などに合併しますが、基礎疾患のない患者さんにも起こります。発作性心房細動とは48時間以内に自然停止する心房細動です。慢性の心房細動と比較して脈が速いことが多く自覚症状も強いです。

  1-4-3 心室細動

心室細動は不整脈の一種であり、1分間に300回以上、不規則に心室がブルブルと震える状態を指します。この状態になると心室が正常に機能しなくなり、全身に血液供給を行えなくなります。全身への血液供給がおこなえなくなると、いわゆる心停止と呼ばれる状態となります。

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2 血管の病気

 2-1 大動脈の病気

  2-1-1 大動脈瘤

胸部大動脈あるいは腹部大動脈の径が拡大し、こぶ状になってきたものです。多くの大動脈瘤は、徐々に径の拡大が進行するために、初めはほとんど症状がありません。とくに胸部大動脈は胸のなかにあるため胸部大動脈瘤の自覚症状は乏しく、胸部X線写真で異常な影を指摘されて、初めて気づくことがまれではありません。

  2-1-2 大動脈解離

大動脈は、外膜、中膜、内膜の3層構造で十分な強さと弾力を持っていますが、なんらかの原因で内側にある内膜に裂け目ができ、その外側の中膜の中に血液が入り込んで長軸方向に大動脈が裂けることを大動脈解離といいます。原因は不明ですが、動脈硬化や高血圧が関係しているともいわれています。

  2-1-3 大動脈狭窄

大動脈弁の性質が硬化し、血液の通過できる面積が狭くなる病気です。心臓が大動脈を経由して全身に血液を送り出すにあたり、大動脈から心臓に血液が逆流しないように一方向弁の役割をしているのが大動脈弁です。さまざまな原因(動脈硬化・リウマチ熱・二尖弁など)により弁の性質が硬化し、通過できる面積が狭くなることで大動脈弁狭窄症となります。

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 2-2 末梢動脈の病気

  2-2-1 閉塞性動脈硬化症

日本において、糖尿病患者の閉塞性動脈硬化症の合併頻度はごくわずかなものであるとされてきました。近年になると閉塞性動脈硬化症の疾患は増加しており、特に高齢者、長期の糖尿病罹患、インスリン治療を行っている糖尿病患者、高血圧、高脂血症、喫煙、肥満、他の動脈硬化性疾患を罹患している患者においてその発症リスクが高いことがわかっています。糖尿病患者においてはそのリスクはおよそ4倍もあり非常に危険な疾患です。

  2-2-2 末梢動脈瘤

足の動脈が狭くなったり詰まったりして血液の流れが悪くなり、足にさまざまな症状を引き起こす病気です。喫煙と関係の深い「バージャー(ビュルガー)病」も末梢動脈疾患に含まれます。原因はさまざまですが、多くは動脈硬化によって、腹部大動脈から下肢動脈が詰まります。同じく動脈硬化を原因とする狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などを合併することが多いため目を光らせておく必要があります。

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 2-3 静脈の病気

  2-3-1 静脈瘤

下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)は足の血管の病気です。静脈瘤は血管(静脈)が文字どおりコブ(瘤)のようにふくらんだ状態のことをいいます。下肢静脈瘤は良性の病気ですので急に悪化したり命の危険はありません。しかし、足のだるさや、むくみなどの症状が慢性的におこり生活の質を低下させます。まれに湿疹ができたり、皮膚が破れる潰瘍(かいよう)ができ重症になることがあります。

  2-3-2 深部静脈血栓症

深部静脈血栓症とは、身体の深くに存在する静脈に血栓が生じる病気です。多くの場合は、下肢の静脈に生じることが多く、エコノミークラス症候群として肺塞栓症を引き起こすこともある病気です。深部静脈血栓症は、長時間のフライトや車中泊をきっかけとして発症するリスクが高まります。下肢を動かすことで発症リスクを下げることができるため同じ体勢を避けるためにも足を動かすなど適度な運動を心がけることが重要です。

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 2-4 不整脈

  2-4-1 心室性不整脈

心室内で異常自動能が生じたり、心室内を回帰したりする頻拍で、上室性(心房で起こっている)頻拍より重篤と判断されます。動悸とともに胸痛や胸部不快感を感じる場合があり、 血圧が下がった場合はめまいやふらつきもあります。

  2-4-2 心房性不整脈

心室が小刻みに震えて全く心臓がポンプの役割を果たせなく全身に血液を送り出すことができなくなります。血圧が下がり非常に危険ですから、電気ショックで停止させることができます。放置していると数秒で意識を失い全身痙攣します。

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2 心臓手術の様子

 2-1 人工心肺の取り付け

心臓を止めて行う手術は、心臓と肺の代役として体外で血液を循環させる「人工心肺」を使うことはよく知られています。人工心肺を使用しなければならないケースは大きく2つあります。1つは心臓の中から血液を排出して空にする必要がある場合。もう1つは衰えた心臓を術中に補助して全身の臓器を保護しなければならない場合です。

心臓の中にある弁を交換・形成したり、心臓内の筋肉を処置する手術が必要な場合、心臓の中は常に血液で充満しています。心臓の中の血液を排出して空っぽにしなければ、患部の構造が見えないのでメスを入れることができません。このような場合に人工心肺が必要になるのです。

ただ、人工心肺にはデメリットもあります。赤血球の寿命が短くなったり、免疫反応が変化して合併症を招くリスクがあるため、人工心肺を使わなくて済むなら、使わないに越したことはありません。人工心肺を使うか使わないかは、患者さんの心臓や血管の状態によって判断します

  胸骨を開けて心膜を切り開き、人工心肺の脱血管を取り付けています。

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 2-2 胸部動脈瘤の手術

大動脈は人体で最も太い血管で、内側から内膜、中膜、外膜という3層で構成された計2mm程度の厚みをもっ丈夫で弾力のある血管です。心臓の左心室から送り出された血液は、大動脈弁を通過すると大動脈になります。

大動脈はまず最初に心筋に血液を送る冠動脈を分枝し、その後縦隔内を上方に走行します。続いて胸部上方で脊椎の左横方向に向かいつつ頭部、上肢に血液を送る重要な3本の血管を分枝します。

その後脊椎の左側を下方に走行し、横隔膜を貫き脊椎の前側を下方に走行しながら腹部の重要な血管を分枝します。そして骨盤のやや上で、左右に分かれるところまでが大動脈と呼ばれる部分です。

大動脈には常に高い圧力(血圧)がかかり、動脈硬化などにより脆くなった血管は徐々に膨らみ「こぶ」が生じることがあり、これが大動脈瘤です。いったん「こぶ」が生じると、さらに「こぶ」の部分の血管がもろくなり、どんどん拡大し破裂に至ります。

動脈瘤の多くは無症状で経過し、胸部レントゲン写真などで偶然に見つけられる場合がほとんどです。また、胸背部の痛みなどの症状が出現する場合は、破裂の前兆となる場合があり危険なサインです。

  わき腹を切り開いて、胸部下降大動脈瘤内部の血栓を取り出します。

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 2-3 腹部動脈瘤の手術

腹部の大動脈が正常な太さよりも1.5倍以上に膨らんだ状態になると、大動脈瘤と診断されます。腹部大動脈の場合、正常な太さは約2センチほどですから、1.5倍の3センチ以上に膨らむと腹部大動脈瘤と診断されます

腹部大動脈瘤が破裂した場合は激痛を伴い、出血性のショックで命を落としてしまう恐れがあります。破裂した場合の致死率は90%であり、緊急搬送されて手術されたとしても救命率は50%と言われます。コブが破裂する前に治療を始めることが大切です。

  動脈瘤を切り開いて、内部にある血栓を取り出しています。

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3 血管手術の様子

 3-1 心臓や血管の治療方法

薬で治らない患者に対して、症状により様々な治療法の中から最も適した方法を選択します。

〇 心臓栄養血管(冠動脈)の病気

   バイパス術 ⇒ カテーテル形成術(PCI)

〇 心臓弁(弁膜症)の病気

   弁置換術 ⇒ カテーテル弁置換(TAVI)
    弁形成術 ⇒ カテーテル形成術(Mitara Clip)

〇 不整脈(心室性・心房性)

   メイズ手術 ⇒ カテーテル電気償却(ABL)

〇 動脈瘤(胸部・腹部。解離性)

   人工血管置換術 ⇒ ステントグラフト置換術

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 2-3 腹部動脈瘤の低侵襲治療

低侵襲心臓外科手術は、心臓手術の切開より半分以下の切開で心臓外科手術をおこなうことをいいます。足の付け根の動脈からカテーテルを用いて、ステントグラフトを大動脈内に留置して大動脈瘤の破裂を予防する方法です。

ステントグラフトは、ステントという金属製の網状の筒に人工布を縫いつけた人工血管です。これを小さく縮めた状態でカテーテルに収納し、患部まで挿入して動脈内で広げて血管を補強します。入院も2泊3日程度です。高齢の方や体力が低下した患者に対して負担が少なくてすむ治療法です。

 動脈瘤の中へステントグラフトを入れて膨らませ、足への血管内へ伸ばします。

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 2-4 ステントグラフト

弓部大動脈から下行大動脈にまたがる大動脈瘤では、左胸を大きく開いて肺をつぶし、深くてよく見えないところで吻合しなければならなかったので肺への負担や出血が問題でした。手術による体への負担を小さくするため、大動脈を露出する範囲を最小限にしようと始められたのがオープンステントです

動脈が直線状の部分に動脈瘤ができた場合は、ステントグラフトで比較的容易に治療をできますが、血管が曲がっている部分では動脈瘤内へ血液の漏れが起き、脳梗塞の予防をコントロールできません。そこで、ステントグラフトを手作業でコントロールできるオープンステントグラフトを使います。

人工血管(グラフト)にばねのようなステントを縫いつけたもの(ステントグラフト)を大動脈の中に進め、正常な大動脈のところで開くとばねの拡がる力で人工血管が大動脈に密着します。

この方法のメリットは脳へいく動脈を触らないため脳梗塞が起こりにくいこと、そして低体温のため脊髄が守られやすいことなどが挙げられます。弱点としては体温をある程度下げるため手術時間がやや長くなることが挙げられます。

オープンステントグラフトは体温で反応する形状記憶合金でできています。

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 2-5 急性大動脈解離

急性大動脈解は、心臓から全身に血液を送る大動脈の壁(血管壁)に血液が流れこみ、外膜・中膜・内膜の3層になっている大動脈壁の内膜に亀裂が入って中膜が急激に裂けていく(解離する)病気です。ゆっくりと病気が進行していく慢性のものもありますが、急性大動脈解離は急速に進行していきます。

大動脈からは脳や心臓、そして全身の臓器へ向かう動脈が分岐しています。このため、解離が生じることによって分岐した先の血流が途絶えてしまうと、血液の循環が破綻して脳梗塞や心筋梗塞、消化管虚血といった極めて危険な状態となり、突然死の原因になる可能性があります。

大動脈解離には、心臓に最も近い上行大動脈が解離しているA型と、上行大動脈が解離していないタイプのB型に分かれます。A型は死亡する危険性が高く、発症した場合は緊急手術が必要です。

B型はA型よりも重症度が低く、内科的治療によって治療できる可能性があります。ただしB型の場合でも臓器障害を起こしたり、末梢への血流が途絶えていたりする場合には手術が必要です。

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 2-6 こんな症例も治せます

この患者は腹部にものすごい動脈瘤があり、上部にも下部にも動脈瘤があり、全身に動脈瘤がある状態でした。まず、腹部の動脈瘤は腎臓の血管に近すぎるのでステントグラフトでは難しいということになり、腹部の動脈瘤は人工血管に置き換えました。

腹部の動脈瘤を治して一ヶ月半後に、胸の動脈瘤は人工血管置換術とオープンステントグラフトを併用した手術を行いました。そして最後に下部の動脈瘤はステントグラフトでを使い、これですべての動脈瘤が治りました。

六ヶ月間で退院されて普通の生活に戻りました。従来の切る手術ですと体調が戻るまでに1年ほどかかりますが、この患者さんは六ヶ月で普通の生活ができるようになり、いまでも元気で通院されています。

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謝辞:文中に掲載した写真は、プロジェクターで投影されたものとレジメを撮影して掲載しました。ありがとうございます。