はげちゃんの世界

人々の役に立とうと夢をいだき、夢を追いかけてきた日々

第32章 不整脈

2018(平成30)年10月20日、新札幌アークシティホテルで開催された医療法人札幌ハートセンター主催の第11回ハーとセミナーで札幌心臓血管クリニック循環器内科の北井啓之医師の講演「健康診断で不整脈と言われたら…。?病院へ行く必要はありますか??」から「不整脈」要約です。

1 病院へ行くべき理由

札幌心臓血管クリニックには外科と内科に21名の医師が勤務しています。多くの患者さんを受け入れるために札幌市内に20ヶ所の外来施設と、道内に17ヶ所の外来施設があります。

どのような方が病院へ来るかと言うと、症状が強くなって救急車で運ばれてくる人、症状が弱かったり症状をあまり感じないが病院へ行くのを勧められた人です。症状が弱かったり症状をあまり感じな人ほど病院へ来てほしいのです

皆さんが病院へ行きたくない理由は何でしょう。小さいときに注射をされて痛かったから、採血をするとき中々採血ができず何度も針を刺し直されたから、苦しいけど治ったから行かなくてもいいか、行ったら先生に怒られるからなどで、できれば病院へ行きたくないというのが本音でしょう。

本日の説明を聞いて、症状がなくても病院へ行った方がいいんだと思ってくれると大成功です。不整脈の外来で病院へ来る患者は、今困っている症状が強い方と将来困るかもしれないという症状が弱い方です。将来困るかもしれないという方は、健康診断やかかりつけの医師から精密検査を受けるように勧められた患者です

健康診断の場合は、心電図の所見欄に心臓細動という表示がある方です。今困っていない人がなぜ病院へ行くべきか、理由は2つあります。一つは心電図異常が心臓病発見の第一歩となることがあるからです。

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心臓は循環器系の中心的な臓器です。胸部中央(縦隔)に位置し、大きさは大体握りこぶしくらいになります。重量は男性で330g、女性で250g程度です。心臓は全身に血液を送り出すポンプの役割があります。ポンプが弱って全身に血液を上手に遅れない状態を心不全と言います。

心臓は、筋肉・弁・血管・刺激伝達系の四つの要素で成り立ちます。弁の病気は、弁膜症、弁が狭い、逆流する等です。筋肉の病気は、心筋症、肥大、薄くなる、痛む等です。血管の病気は、狭心症、心筋梗塞、詰まる、細くなる等です

刺激伝達系は洞結節から信号が出ています。刺激伝導系の病気は、不整脈、脈が遅い、脈が速い等です。また、複数の要素がそれぞれ絡み合って複数の症状が出ていることもあります。

循環器内科の仕事は、4つの要素をまんべんなく調べて治療することです。健康診断で行う検査は、レントゲン、心電図、聴診と問診などですから、毛管や筋肉ついてはほとんど診られていないのです。

ですから、循環器の病院へ来ると、エコ-検査で心臓の筋肉が発達し過ぎていないか傷んでいないか、弁のうごきが正常か血液が逆流していないかを診ます。CTで調べると、左冠状動脈回旋枝、左冠状動脈前下行枝、右環状動脈などの血管の状態を見ます。

重要なことは、心電図異常は病院にかかる大事なきっかけで、病院で「問題がない」と言われることが大事です。自己判断の問題がないではなく、筋肉・弁・血管・刺激伝達系の四つの要素に問題がないということですから安心してよいわけです

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2 不整脈と脳塞栓

今困っていない人がなぜ病院へ行くべきか、二つ目の理由は不整脈が脳梗塞の原因となる可能性があるからですが、すべての不整脈が脳梗塞の原因ではありません。ほとんどの脳梗塞の原因は心房細動です

有名な方で言うと、野球の長嶋監督やサッカーのオシム監督が心房細動で脳梗塞になった方です。心臓が心房細動を起こすと早い人になると、上の部屋が1分間に20~300回も動きます。下の部屋も100回から150回も動きます。左心室には左心耳と言う小部屋があり、この中に血の塊ができやすくなります。

右上の写真の血栓は小さなものですが、心臓の鼓動のたびにひらひら動いてます。下の写真の血栓はいずれも大きいもので、これが剥がれて脳血管に入ると大きな脳梗塞になることが分ります。これは健康診断ではわかりません。

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でも、脳梗塞の起こりやすさは分かります。心不全になったことはありますか、血圧はどうですか、年齢は75歳以上ですか、糖尿病を患っていませんか、一回ぐらいは脳卒中をやったことがありますかとの質問でわかるのです

心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版)のCHADS2スコアの採用には点数が示され、これを加算することで脳梗塞の起こりやすさが自分でもわかります。
   心不全・左心機能不全     1点
   高血圧            1点
   75歳以上          1点
   糖尿病            1点
   脳卒中/TIAの既往     2点

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脳梗塞という爆弾を抱えていても気づかず、病院で検査を受けたこともないという人が非常に多いのが現状です。海に浮いている氷山のように、目に触れる患者よりも目に見えぬを減らすために、病院もさらに本日のような啓蒙活動が必要と感じます

重要なのは心房細動は脳梗塞と関連しているので、脳梗塞の予防が大事です。札幌白石記念病院野中雅理事長のお話にありましたように、脳梗塞の危険度に応じて抗凝固剤(血液をサラサラにする薬)が必要になります。

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症状が強くなって救急車で病院へ運ばれてくる人の場合、下の心電図写真が普段の様子です。これで1分間に50~60回くらいです。

この人に不整脈が起きました。どのような症状になるかと言いますと、1分間に180回くらい心臓の動きですから、下の心電図写真を見ると息切れがしそうになります。このように心電図が見つかる人は、逆の意味で幸せかもしれません。

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病院へ来たんだけど、来た時には不整脈が止まっているんだよねという方もいらっしゃいます。先ほど説明しました発作がたまに起きるわけで、常に不正薬が出ているわけではないので不整脈が捕まるかどうかが問題になります。

病院へ来た時まで不整脈が続いている、もしくは病院に入院しているときにたまたま不整脈が見つかった場合は病院の機器で不整脈を記録できます。

ところが、突然のドキドキする胸の苦しさで救急車を呼ぼうかなと考えたが、車で病院へ来てみると動悸が治っていた、どうしよう。そんなときに医師に何しに来たんだと言われたら、病院へ来る気がなくなります。

不整脈の発作で何が大事かと言うと、すべて現行犯逮捕でなければなりません。発作が起きているときの心電図をしっかり捕まえるということになります。しかし、そんなにタイミングよく不整脈は出ません。普段困っているのに検査するときには出ないものです

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不整脈が出たとき、家から病院へ行くのに1時間かかります。そのようなときは、病院へ申し出て、24時間連続して心電図を計測できるホルター心電図を装着します。装着している間は入浴ができませんが、入院することなく心電図を記録することができます。

1週間に1度程度しか不整脈が起きません、2日に1度程度しか不整脈が出ませんと言う人は、1週間ホルター心電図もあります。入浴時は外せますし、入院の必要もありません。最大40日間の心電図や心房細動も記録することができます。

ところが、1ヶ月に1回ぐらいしか不整脈がでないという人もいます。いわゆる忘れたころにやってくるという人には、携帯用心電図計をお勧めしています。不整脈が出たときに胸に当てると記録されます。これをもって病院へ行くと、不整脈の診断ができます。

女性の場合は、胸元を開いて携帯用心電図計を当てることは不可能ですから、手と手で心電図と血液酸素濃度を測定できる携帯用心電図計があります。また、不整脈が起きると気を失ってしまう方には、植え込み型の心電図計があります。

不整脈の発作は現行犯逮捕(心電図)が重要ですから、不整脈を発見する機器類は発達しています。動機で困っている方は積極的に探しましょう

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3 不整脈の見つけ方

不整脈は大きく分けて、遅くなる、速くなる、脈が飛ぶ・抜けるの三種類です遅くなる不整脈の症状は、倦怠感(こわくなる)、めまい、失神(気を失う)などです。この原因は、洞結節からの信号を受ける房室結節が傷んでいるか、信号を出す洞結節が傷んでいるかのどちらかです。

脈を速くする薬もありますがあまり効果がないので、ペースメーカーを埋め込む方が多いのが現状です。ペースメーカーを埋め込む手術は、麻酔を使って痛みを感じずに切ってから傷口を縫い終わるまで45分程度で終わります。

速くなる不整脈の症状は、動悸がするだけ、動悸と共に気を失いそうになる、動悸を感じずに気を失う(危険)などです。この原因は、いずれも発作性で突然に起こることが多い症状です。

発作性上室性頻拍は、房室結節から信号を伝える通路がもう一本ある人がいます。これにより信号がぐるぐる回る房室結節の回帰性頻拍が起こります。発作時の対応としては、治るのを待つ、息をこらえる、水を飲むことです。

病院では、点滴、内服、電気ショックなどがあります。予防的治療としては、内服で押さえるか、カテーテルアブレーションで余分な通路を焼き切る方法がとられます。

動悸を感じずに気を失う(危険)場合は、心臓は血液をもらう間もなく送り出そうとするのでカラウチ状態になり、脳や全身へ血液が流れなくなります。病院でAEDなどの電気ショックで押さえ、植え込み型除細動器を体に埋め込む方法が取られます。

脈が飛ぶ・抜けるなどの心室期外収縮は、内服やカテーテルアブレーションを実施します

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4 不整脈の治し方

最新の治療としては、肩に傷を作らないリドレペースメーカー、安全なアブレーション技術があります

肩に傷を作らないリドレペースメーカーは足の付け根の動脈から心臓の右心室へカテーテルでペースメーカーを入れて、心臓の内壁に固定します。リドレスペースメーカーのサイズは十円硬貨程度です。しかし、すべての患者に使えるわけではありません。

カテーテルアブレーション技術は、高周波発生装置につないだアブレーション用電極カテーテルを心臓へ入れ、肺静脈隔離と言うやけどを作る方法です。最新のカテーテルアブレーション技術は放射線や造影剤を微少に抑え、カテーテを心臓内へ入れるとカーナビのようにその位置が分かるようになり、安全性が高まりました。

発作性心房細動で入院された場合、1日目は血栓があると手術ができないので血栓評価を行います。2日目はカテーテルアブレーションで、全身麻酔で手術時間は平均120分(2時間)、手術後の安静時間は3時間で、3時間後から歩行が可能になります。

3日目は手術後の様子観察で4日目に退院となります。手術で使われる造影剤は3mlで痛みは感じません。1回の治療で80%の人が治ります。

〇 健康診断で心電図がひっかかると、心臓病の朝貢かもしれません。脳梗塞の原因(心房細動)かもしれません。

〇 動悸がある方は、原因を見つける方法があります。

必要な検査を行い、最適な治療を一緒に決めていきましょう!

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謝辞:文中に掲載した写真は、プロジェクターで投影されたものとレジメを撮影して掲載しました。ありがとうございます。