1 心原性塞栓症
1-1 心臓の血の塊が脳へ
一般的に脳血管障害とか脳血管疾患とか脳卒中とかで亡くなる方が多かったのですが、細菌はお年寄りの方が高齢化して肺炎で亡くなる方が多くなり、脳卒中で亡くなる方は第四位になりました。脳卒中は減っているのかと言いますと、グラフで見る通りさほど減ってはいないようです。
今日ここにお集まりの方の多くは、自分は歳をとってからには家族の世話になりたくない、家族に迷惑を掛けたくないといったことでおいでいただいているのではないかと思います。
介護が必要になった原因は、脳卒中と呼ばれる脳血管障害の方が18.5%いらっしゃいます。認知症も介護が必要になりますが、それよりも多い比率で脳血管障害が介護を必要としていることになり、脳死卒中を予防することができるなら予防したいと考えます。
下の図は、介護が必要になった原因をグラフで表したものです。脳血管疾患(脳卒中)が18.5%と最も高率になっています。最近介護が必要なことで話題になっている認知症は15.8%ですから、脳血管疾患は恐ろしい病気と言えます。
脳血管疾患(脳卒中)を大きく分類すると、脳内で出血する怖い病気は主に下の図のようになります。脳梗塞には、血栓性脳梗塞、心原性脳梗塞、ラクナ梗塞があります。本日は脳梗塞のなかの血栓性脳梗塞についてのお話になります。
心原性塞栓症は心臓あるいは頸動脈などの太い血管でできた血栓(血の塊)が、ある日突然血液の流れに乗って脳に運ばれ、脳の血管を詰まらせてしまうものです。比較的大きい病巣ができるため症状が強いことが多く、生命が危険な場合も多くなります。
正常な心臓に血栓ができることはありませんが、心臓の機能がおとろえたり、リズムがおかしくなったりすると、血流が乱れ血栓ができることがあります。血栓ができやすい心臓の病気には、心房細動、リウマチ性心臓弁膜症、心筋梗塞、心筋症などがあります。
脳の血管が、動脈硬化を起こしてもろくなっている上に高血圧が続くとさらにもろくなり、ついには破れて脳の中で出血が起こります。
脳から出血した血液は固まって塊(これを血腫といいます)になります。頭のなかで血腫が大きくなると、頭の中の圧力が高まったり、血腫がまわりの正常な脳を押したりするので脳の働きが悪くなります。
出血した場所によって症状は違いますが、片麻痺、感覚障害を伴うことが多く、重症ですと意識障害、さらには死亡につながることもあります。
脳は頭蓋骨に守られていますが、骨の下にはくも膜というクモの巣のように透明な薄い膜があり、その内側に脳があります。脳に血液を送る血管はくも膜の下を走っています。この血管に動脈瘤(こぶ)や動脈硬化があると、血圧が高くなったときに急に破れます。出血した血液は、くも膜と脳のすき間に拡がっていきますが、これがくも膜下出血です。
何の前触れもなく突然猛烈な頭痛、吐き気、嘔吐が起こり、そのまま意識不明になることが多い疾患です。出血が軽い場合、意識は回復しますが、出血量が多いときや、血液が脳内に流れ込んだ場合には死に至ることもあります。
1度出血した動脈瘤は、短時間の内に再出血することが多いため、入院しての絶対安静が必要です。高血圧と関連なく、脳動脈瘤が存在することもあります。
1-2 日本人に多い脳卒中
脳卒中は日本人に大変多い病気で、日本人の死亡原因の第一位であった時代が長く続いていました。現在も減ったとはいえ、毎年約10万9千人、全死亡の8.4%の方が脳卒中で亡くなっています。
死亡原因としてはかなり減ったものの、逆に脳卒中を発症する患者数は増加傾向にあります。現在、日本全国に約118万人の患者さんがいるといわれています。
脳卒中の患者さんの増加は、社会の高齢化が進みつつある日本においては大きな問題です。脳卒中の後遺症が原因で身体に障害をかかえる方々が増えつつあり、要介護の原因のトップの約16.6%を占めています。
脳卒中は何の前触れもないか、というとそうではありません。中には警告発作が生じているものもあります。その警告発作が「一過性脳虚血発作」と言われるものです。前触れの症状としては、舌がもつれた感じ、言いたいことが言えない、片側の手足がしびれるなどの症状があります。
症状が軽く一時的なことが多いためそのまま放置しがちですが、再び脳の血管を詰まらせる可能性は高く、このような症状がでたら大きい発作を起こす前に医療機関で受診すべきです。必ず医師に相談しましょう。
高血圧と関係のある心臓病には、心肥大、心不全、狭心症、心筋梗塞などがあります。高血圧の状態が長く続くと、全身に血流を送り出す心臓はより強い力が必要となり、心臓の壁が厚くなるという心肥大が起こってきます。心肥大が進展すると、心機能の低下や心不全につながります。
高血圧が続くと心臓に養分と酸素を送り込む冠動脈の動脈硬化が生じるため、血管が狭くなったり、詰まったりして、狭心症や心筋梗塞が起こりやすくなります。
高血圧によって血管に負担がかかり続けると、血管の壁が傷つき、その壁のなかにコレステロールがたまっていくのが動脈硬化です。動脈硬化が進むと血管の壁が厚くなり、血液の通り道が狭くなります。このようにして血液の流れが悪くなると、心臓の筋肉に必要な酸素や栄養がいきわたりにくくなります。
脳梗塞とは、何らかの原因で血管が閉塞し、その灌流域の脳細胞が死滅します。その原因は三つに分類されます。
1) 脳の太い血管が動脈硬化により細くなり詰まる・・・アテローム血栓性脳梗塞と
いいます。
2) 心臓や太い血管にできた血栓が脳動脈に流れ込み、血管を塞ぎます・・・脳塞栓
症といいます。
3) 脳の細い血管が動脈硬化を起こして血管が詰ま・・・・ラクナ梗塞といいます。
脳塞栓症には、心臓に原因がある場合は心原性脳塞栓症と、血管胃原因がある場合は血管原性脳塞栓症の二種類があります。心臓の中に何かの原因で血の塊ができます。この血栓が心臓の中にいる間は問題ないのですが、心臓は動いているので血の塊りは血管内に押し出されます。血液の三分の一が脳へ行きますので、大きな血も固まりが頭の方へ行くことが問題なのです。
1-3 警告サインの狭心症
動脈硬化が生じて血管が狭くなったり、詰まったりすると、心臓が激しい胸痛や圧迫感などの警告サインを出します。これが狭心症です。狭心症は上記の血管の狭窄によって起こるものの他に、冠動脈の一時的な痙攣によって起こるものもあります。
狭心症は2つのタイプに分けられます。1つは「からだを動かしているときに発作(胸痛や圧迫感)が起こる」もので、労作性狭心症と呼びます。もう1つは「寝ているときや、静かにしているときに発作(胸痛や圧迫感)が起こる」もので、安静時狭心症といいます。
労作性狭心症は動脈硬化で冠動脈が狭くなり、運動時などに心臓の筋肉が酸素不足になることが原因とされています。安静時狭心症は、冠動脈の強い痙攣によって起こることが原因とされ、特に夜間から早朝にかけて多いのが特徴です。
ただし、労作性狭心症と安静時狭心症ははっきり分かれるものではなく、労作時でも安静時でも発作が起こる人も多くいて、そのタイプは労作兼安静時狭心症と呼ばれます。
心臓に血液を送っている冠動脈が、動脈硬化などで狭くなったり、血栓が詰まったりして、完全に血管がふさがり血液が通らなくなると、その先にある心臓の細胞は死んでしまいます。これが心筋梗塞です。
心臓の筋肉で細胞の死んでしまったところは働きが悪くなりますから、心臓のポンプ機能がおとろえ、心不全に陥ることがあります。心筋梗塞では不整脈や心臓破裂などの合併症が起こると、死に至る危険があります。
狭心症は、心臓への血液の供給が一時的に減ることによって起こり、心筋は死なずに回復できます。一方、心筋梗塞は、血液の流れが比較的長く途絶えることによって、心筋細胞が死んでしまい、回復しないのが特徴です。