1 心不全の定義
一般社団法人の日本循環器学会と日本心不全学会は、2017年10月31日に「心不全の定義」について発表しました。心不全とは、「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気」としています。
我が国の循環器疾患の死亡数は癌に次いで第2位となり、心不全による5年生存率は50%と決して良くありません。その事実と心不全の怖さ(例えば完治しない等)については、あまり知られていないのが現状と述べています。
心臓が悪いとは、いろいろな原因で正常な機能(血液を全身に送り出すポンプ機能)を発揮できなくなることを表現したもので、心臓が悪いことを総合的に表現する言葉として心不全を「病気」と表現しています。
心臓が悪くなる原因として次の5点が挙げられていました。
① 血圧が高くなる病気(高血圧)
② 心臓の筋肉自体の病気 (心筋症)
③ 心臓を養っている血管の病気 (心筋梗塞)
④ 血液の流れを正常に保つ弁が狭くなったり、きっちり閉まらなくなったりする病気
(弁膜症)
⑤ 脈が乱れる病気 (不整脈)
心不全の初期に運動時の息切れや、両方の足にむくみが出現します。心不全そのものが完全に治ることはなく、症状がぶり返すことがあります。また、悪化と改善を繰り返しながら進行して行くことを、だんだん悪くなると表現しています。
心不全で入院したことのある人は平均で5年間に約半数の方が亡くなっています。これは肺がんよりは良好ですが、大腸がんとほぼ同等、前立腺がんや乳がんよりは不良です。
予防には心臓の働きを悪くさせる要因を除くことが必要で、高血圧、糖尿病、脂質異常症(コレステロール等が高い病気)、肥満を未然に防ぐことです。そのためには、禁煙、減塩、節酒、適度な運動が重要です。そして、心臓が悪くなりかけていることに早く気付き、上記の生活習慣の改善に加え、医療機関を受診して適切な薬物治療をすることにより心不全の発症や悪化を防ぐことができます。
1-2 心不全と心臓弁膜症
1-2-1 心不全とは
心臓に器質的あるいは機能的異常が生じて急速に心ポンプ機能の代償機転が破綻し、心室拡張末期圧の上昇や主要臓器への還流不全をきたし、それに基づく症状や兆候が急速に出現し、あるいは悪化した病態を言います。
・ 心臓ポンプ機能の異常に伴う心室充満圧の上昇で心拍出量低下の存在
・ それによって引き起こされる体の異常症状・初見
これら2つがそろうことが必要です。
1-2-2 心不全の分類
急性心不全・慢性心不全、右心不全・左心不全、収縮不全・拡張不全、虚血性心不全・非虚血性心不全。
1-2-3 心不全の原因(後天的疾患)
分類 | 原因 |
心筋不全 | |
一次性心筋不全 | 心筋症・心筋炎 |
二次性心筋不全 | 虚血性心筋障害・二次性心筋症 |
機械的障害によるポンプ不全 | |
流入障害 | 房室弁狭窄・収縮性心膜炎・頻脈 |
駆出障害 | 高血圧・動脈弁狭窄・房室弁閉塞不全・心室瘤肥大型 心筋症 |
循環の不全 | |
循環血液量減少 | 出血・脱水 |
末梢循環不全 | 貧血 |
不整脈 | |
心室頻拍 | 頻拍性心房細動 |
房室ブロッ | 洞不全症候群 |
治療法のある原因を見逃してはならないことが重要になります。
1-2-4 心不全が起こるメカニズム
心臓、特に左室の力が低下すると、血液の排出量が減少します。→各臓器への血液供給が減少するので→下肢の疲労、だるさ、血圧低下が起きます。
左室から血液が出て行かないため、その手前で血液の停滞留が起きます。すなわち、肺のうっ血状態が起きます。→肺での酸素取り込みが障害される。→酸素不足→息切れ、呼吸困難が起きます。
1-3 心臓の弁の病気
心臓には4つの弁があります。三尖弁と肺動脈弁は右側の弁で、僧帽弁と大動脈弁は左側の弁です。心臓の弁の病気は、狭窄症か閉塞不全症かその組み合わせ、またはリュウマチ症・動脈硬化症・変性症などです。
1-4 心臓弁膜症の治療
・ 薬剤治療:心臓の負担を取る治療
・ 外科治療:病気の根本治療
〇 弁形成術(自己弁温存)
〇 人口置換術:機械弁(樹脂製)、生体弁(動物材料)
種類 | 耐久性 | 抗凝固 |
機械弁 | 基本的に一生もの | 一生継続 |
生体弁 | 12~20年 | 不要 |
1-5 弁形成術(自己遍温存)
主に閉塞不全症(血液の逆流)に対して、僧帽弁ではほぼ100%治せます。大動脈では非常に難しく経験豊富な施設でのみ可能です。自分自身の弁がきちんと動くように作り変えてやる方法が最善です。
高齢者の大動脈弁狭窄症が急増しています。僧帽弁閉鎖不全症と大動脈弁閉鎖不全症に対する弁形成術も増えています。これらはそもそもが多い病気で、啓もう活動により早期発見されえるようになり、治療体系がしっかりしてきました。
日本の高齢者人口は世界最高で、65歳以上の人口は2017年9月17日現在で57万人です。総人口に占める割合は27.7%で、90歳以上の人口が初めて200万人を超えました。
65歳以上の大動脈狭窄罹患率は2~3%と推定され、もっともよくみられる弁膜疾患です。米国では65歳以上の大動脈狭窄の罹患率は最大7%と推定されています。
・ 加齢に伴う石灰化による大動脈弁狭窄:65歳以上の患者の大動脈狭窄は、加齢に
伴う石灰(カルシュウム)と堆積によって発症します。
・ 感染:大動脈弁狭窄は、各種感染によって発症する可能性があります。
・ リュウマチ熱:リュウマチ熱の既往がある場合、大動脈弁狭窄を引き起こすおそれ
があります。
・ 先天性異常:先天性異常によって、大動脈弁狭窄を発症する場合もあります。
1-6 主な危険因子
変性大動脈疾患の主な原因としてあげられる危険因子は、加齢・男性・高血圧・喫煙・リポタンパク質Aの上昇・LDLコレステロルの上昇です。
1-7 大動脈弁狭窄の症状
・ 狭心症:胸部のうずき、焼けつき、不快感、膨満感、疼痛、または締め付けるよう
な感覚を覚えます。
・ 失神:突然かつ短時間の意識喪失。
・ 息切れ:歩行または登坂時に息切れや疲れを感じます。
・ めまい。
・ 頻拍または不整脈。
・ 動悸:早い、または不規則な心拍を自覚し、不安を感じている状態。
1-8 重度大動脈弁狭窄の診断
2008年ACC/AHAガイドラインによる重度大動脈弁狭窄の定義は、大動脈弁口面積<1.0cm2、平均圧較差>40mmHg、または最高血流速度>4.0m/sとされています。
ドブラ心エコーによる測定値で診るACC/AHAガイドラインに基づく大動脈弁狭窄の重症度分類は次の通りです。
指標 | 軽度 | 中程度 | 重症 |
最高血流速度(m/s) | <3.0 | 3.0~4.0 | >4.0 |
平均圧較差(mmHg) | <25 | <25~40 | >40 |
弁口面積(cm2) | >1.5 | 1.0~1.5 | <1.0 |
弁口面積指数(cm2/m2) | 非該当 | 非該当 | <0.6 |
血圧は、血液が血管内を流れるときに血管の壁に当たる圧力です。