はげちゃんの世界

人々の役に立とうと夢をいだき、夢を追いかけてきた日々

第28章 心臓外科のはなし

2018(平成30)年4月7日午後3時、札幌市民ホールで開催された札幌ハートセンター主催の医療公開講座で、心臓血管外科の道井洋吏医師の講演「心臓外科のはなし」の要約です。

1 心不全の定義

一般社団法人の日本循環器学会と日本心不全学会は、2017年10月31日に「心不全の定義」について発表しました。心不全とは、「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気」としています。

我が国の循環器疾患の死亡数は癌に次いで第2位となり、心不全による5年生存率は50%と決して良くありません。その事実と心不全の怖さ(例えば完治しない等)については、あまり知られていないのが現状と述べています。

心臓が悪いとは、いろいろな原因で正常な機能(血液を全身に送り出すポンプ機能)を発揮できなくなることを表現したもので、心臓が悪いことを総合的に表現する言葉として心不全を「病気」と表現しています。

心臓が悪くなる原因として次の5点が挙げられていました。

① 血圧が高くなる病気(高血圧)
 ② 心臓の筋肉自体の病気 (心筋症)
 ③ 心臓を養っている血管の病気 (心筋梗塞)
 ④ 血液の流れを正常に保つ弁が狭くなったり、きっちり閉まらなくなったりする病気
  (弁膜症)
 ⑤ 脈が乱れる病気 (不整脈)

心不全の初期に運動時の息切れや、両方の足にむくみが出現します。心不全そのものが完全に治ることはなく、症状がぶり返すことがあります。また、悪化と改善を繰り返しながら進行して行くことを、だんだん悪くなると表現しています。

心不全で入院したことのある人は平均で5年間に約半数の方が亡くなっています。これは肺がんよりは良好ですが、大腸がんとほぼ同等、前立腺がんや乳がんよりは不良です。

予防には心臓の働きを悪くさせる要因を除くことが必要で、高血圧、糖尿病、脂質異常症(コレステロール等が高い病気)、肥満を未然に防ぐことです。そのためには、禁煙、減塩、節酒、適度な運動が重要です。そして、心臓が悪くなりかけていることに早く気付き、上記の生活習慣の改善に加え、医療機関を受診して適切な薬物治療をすることにより心不全の発症や悪化を防ぐことができます

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 1-2 心不全と心臓弁膜症

  1-2-1 心不全とは

心臓に器質的あるいは機能的異常が生じて急速に心ポンプ機能の代償機転が破綻し、心室拡張末期圧の上昇や主要臓器への還流不全をきたし、それに基づく症状や兆候が急速に出現し、あるいは悪化した病態を言います。

・ 心臓ポンプ機能の異常に伴う心室充満圧の上昇で心拍出量低下の存在
道井洋吏医師

・ それによって引き起こされる体の異常症状・初見

これら2つがそろうことが必要です。

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  1-2-2 心不全の分類

急性心不全・慢性心不全、右心不全・左心不全、収縮不全・拡張不全、虚血性心不全・非虚血性心不全。

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  1-2-3 心不全の原因(後天的疾患)

     分類           原因
心筋不全
 一次性心筋不全心筋症・心筋炎
 二次性心筋不全虚血性心筋障害・二次性心筋症
機械的障害によるポンプ不全
 流入障害房室弁狭窄・収縮性心膜炎・頻脈
 駆出障害高血圧・動脈弁狭窄・房室弁閉塞不全・心室瘤肥大型
心筋症
循環の不全
 循環血液量減少出血・脱水
 末梢循環不全貧血
不整脈
 心室頻拍頻拍性心房細動
 房室ブロッ洞不全症候群

治療法のある原因を見逃してはならないことが重要になります。

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  1-2-4 心不全が起こるメカニズム

心臓、特に左室の力が低下すると、血液の排出量が減少します。→各臓器への血液供給が減少するので→下肢の疲労、だるさ、血圧低下が起きます。

左室から血液が出て行かないため、その手前で血液の停滞留が起きます。すなわち、肺のうっ血状態が起きます。→肺での酸素取り込みが障害される。→酸素不足→息切れ、呼吸困難が起きます。

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 1-3 心臓の弁の病気

心臓には4つの弁があります。三尖弁と肺動脈弁は右側の弁で、僧帽弁と大動脈弁は左側の弁です。心臓の弁の病気は、狭窄症か閉塞不全症かその組み合わせ、またはリュウマチ症・動脈硬化症・変性症などです。

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 1-4 心臓弁膜症の治療

・ 薬剤治療:心臓の負担を取る治療

・ 外科治療:病気の根本治療
  〇 弁形成術(自己弁温存)
  〇 人口置換術:機械弁(樹脂製)、生体弁(動物材料)

 種類    耐久性 抗凝固
 機械弁    基本的に一生もの   一生継続  
 生体弁    12~20年  不要

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 1-5 弁形成術(自己遍温存)

主に閉塞不全症(血液の逆流)に対して、僧帽弁ではほぼ100%治せます。大動脈では非常に難しく経験豊富な施設でのみ可能です。自分自身の弁がきちんと動くように作り変えてやる方法が最善です

高齢者の大動脈弁狭窄症が急増しています。僧帽弁閉鎖不全症と大動脈弁閉鎖不全症に対する弁形成術も増えています。これらはそもそもが多い病気で、啓もう活動により早期発見されえるようになり、治療体系がしっかりしてきました。

大動脈狭窄症生

日本の高齢者人口は世界最高で、65歳以上の人口は2017年9月17日現在で57万人です。総人口に占める割合は27.7%で、90歳以上の人口が初めて200万人を超えました

65歳以上の大動脈狭窄罹患率は2~3%と推定され、もっともよくみられる弁膜疾患です。米国では65歳以上の大動脈狭窄の罹患率は最大7%と推定されています。

・ 加齢に伴う石灰化による大動脈弁狭窄:65歳以上の患者の大動脈狭窄は、加齢に
  伴う石灰(カルシュウム)と堆積によって発症します。

・ 感染:大動脈弁狭窄は、各種感染によって発症する可能性があります。

・ リュウマチ熱:リュウマチ熱の既往がある場合、大動脈弁狭窄を引き起こすおそれ
  があります。

・ 先天性異常:先天性異常によって、大動脈弁狭窄を発症する場合もあります。

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 1-6 主な危険因子

変性大動脈疾患の主な原因としてあげられる危険因子は、加齢・男性・高血圧・喫煙・リポタンパク質Aの上昇・LDLコレステロルの上昇です。

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 1-7 大動脈弁狭窄の症状

・ 狭心症:胸部のうずき、焼けつき、不快感、膨満感、疼痛、または締め付けるよう
  な感覚を覚えます

・ 失神:突然かつ短時間の意識喪失。

・ 息切れ:歩行または登坂時に息切れや疲れを感じます。 

・ めまい。

・ 頻拍または不整脈。

・ 動悸:早い、または不規則な心拍を自覚し、不安を感じている状態。

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 1-8 重度大動脈弁狭窄の診断

2008年ACC/AHAガイドラインによる重度大動脈弁狭窄の定義は、大動脈弁口面積<1.0cm2、平均圧較差>40mmHg、または最高血流速度>4.0m/sとされています。

重度大動脈弁狭窄の診断

ドブラ心エコーによる測定値で診るACC/AHAガイドラインに基づく大動脈弁狭窄の重症度分類は次の通りです。

    指標 軽度 中程度   重症 
 最高血流速度(m/s)  <3.0  3.0~4.0    >4.0  
 平均圧較差(mmHg)  <25  <25~40  >40
 弁口面積(cm2)  >1.5  1.0~1.5  <1.0
 弁口面積指数(cm2/m2)    非該当    非該当  <0.6

血圧は、血液が血管内を流れるときに血管の壁に当たる圧力です。

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2 大動脈弁狭窄症

大動脈弁狭窄は症状発見後急速に進行します。症状発見後の2年生存率は50%です。軽度な症状を発見した時点で、速やかに重度大動脈弁狭窄に「対する外科的処置を施行することが望ましいのです。

大動脈弁狭窄症の進行

大動脈弁置換術は生存率を大きく改善します。症候性患者と無症候性患者の早期及び遠隔期予後は同様に良好でした。無症候患者と重度大動脈弁狭窄患者については、外科的処置が施行されないことが遠隔期死亡の最も重要な危険因子であったことが注目されます。

大動脈弁狭窄症の進行

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 2-1 大動脈弁狭窄症の手術

大動脈弁置換術(AVR)はいったいどのように行われているのか、低侵襲治療についてのお話です。

大動脈弁置換

大動脈弁置換

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 2-2 TAVIとは

大動脈弁置換術(AVR)に対するリスクが高い、または症状が重すぎる患者に対する治療となり得ます。侵襲性が低く、人工心肺を使わずに大動脈弁を整体弁で置換することができます。

TAVI(タビ)は心臓弁膜症や大動脈弁狭窄症の新しい治療法で、経カテーテル大動脈弁留置術といいます。内科と外科が共同で行う、きわめて低侵襲な大動脈弁の新たな治療手段です。

重度の大動脈弁狭窄症の治療は手術によって大動脈弁を人工弁に置き換える方法(大動人工の弁脈弁置換術)で行われますが、手術のために大きな傷をつくること、心臓を止めて人工心肺装置を使うことなどが体への大きな負担となるので、高齢の方や他の病気の方では手術が無理だと判断される場合が多くありました。TAVIはそのような状態にある方々に向けた新しい治療法です。

TAVIは機能が低下している心臓の弁(大動脈弁)を、カテーテルと呼ばれる医療用の管を用いて人工の弁と置き換える治療法です。これまで手術に耐えられないと判断された高齢の方などにも可能な大動脈弁狭窄症の新しい治療方法となります

人工の弁TAVIはカテーテルをどこから通すかにより2つの方法があります。太ももの付け根の太い血管からカテーテルを挿入する「経大腿アプローチ」は、TAVIの基本的な挿入方法でもっとも体に負担が少ない方法です。足の血管の状態によって経大腿アプローチが適さない場合は、肋骨の間を切り心臓の下端(心尖部)からカテーテルを通す「経心尖アプローチ」や上行大動脈、鎖骨下動脈からのアプローチを行います。

僧帽弁閉鎖不全に対する形成術は最早できて当たり前の手術ですが、確実性・安全性・長期安定性を求められる手術で、弁形成以外の手技も確実なことをしておかなければならない手術です。

手軽な操作で人工弁移植を行っている反面、外科手術以上に危険なことを行っている要素も含んでいます。すべての新しい治療は昔からの伝統治療の上に成り立っています。内科・外科ともに豊富な経験を持った施設で受けられることをお勧めします。

ハートチーム

ハートチームは、循環器内科医師と心臓血管外科医師のみならずたくさんの専門家が垣根を越えて集まった集団です。お互いの専門知識や技術を共有し、多角的アプローチすることにより的確な治療を行うことが初めて可能になります。

TAVIに限らず、あらゆる疾患について毎朝検討会を行い治療方針を決定し、TAVIに特化したカンファレンスも定期的に開催し、治療の充実を図っています。

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 2-3 小切開僧帽弁手術

最近ようやく成績が安定してきた手術です。

小切開僧帽弁手術

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 2-4 冠動脈バイパス術

冠動脈バイパス術

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 2-5 低侵襲治療

永遠なる治療手段の大きなテーマ、それは

・ 低侵襲 ≠ 安全

・ 低侵襲 ≠ 最善

・ 低侵襲 ≠ 小切開

低侵襲治療を確実に行えるのは豊富な経験と熟練のスタッフが整った施設のみです。

低侵襲治療

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3 閉塞性動脈硬化症

動脈硬化が原因で、四肢(主に下肢)の血流障害を起こすものを閉塞性動脈硬化症といいます。主に50~60歳以降の男性に発症します。閉塞性動脈硬化症のある人は下肢の動脈だけでなく、全身の血管にも動脈硬化を来している場合が少なくありません。

糖尿病、高血圧、脂質異常症、喫煙などの動脈硬化の危険因子をもっている人がかかりやすくなります。食生活やライフスタイルの欧米化により、動脈硬化を基盤とする閉塞性動脈硬化症が急速に増えています

閉塞性動脈硬化症のある人は、下肢の動脈同様、心臓や脳の動脈も狭くなったり詰まっている可能性が大きく、全身の健康管理が必要になります。

 3-1 閉塞性動脈硬化症

主に足(下肢)の動脈に動脈硬化が起こり、狭くなるか詰まるかして、足を流れる血液が不足し、それによって痛みを伴う歩行障害が起きる血管病です。重症の患者さんは、足を切断しなければならない場合もありますから、あなどれません。

歩行障害が最も典型的な症状で、間歇性跛行(かんけつせいはこう)と呼ばれています。「間歇性」とは、間隔をおいて起きたり、起きなかったりすることです。「跛行」とは、びっこを引くという意味で、「間歇性跛行」は歩くことで起きたりやんだりする歩行障害のことです。

この歩行障害は、閉塞性動脈硬化症患者さんの約30%に起こります。歩行をはじめ下肢の運動を行うことで、下肢(股関節から足首まで)特にふくらはぎに疲れ、だるさ、痛み、こむら返りなどの症状が起こり歩行が困難になります。

こうした症状は10分ほど休むと、軽くなるかなくなります。ふくらはぎに起こることが多いのですが、おしりや太ももに生じることもあります。

間歇性跛行を伴う足の血管病はほかにも数多くあり、この歩行障害だけで確実に診断できません。足に冷たい感じやしびれを伴うこともありますが、これらは背骨の異常などによる神経障害が原因のときもあり、整形外科もしくは神経内科での精密検査が必要な場合もあります。

閉塞性動脈硬化症の患者は人口の1割以下ですが、70歳以上になると約20%に達するといわれ、高齢者に多い血管病です

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 3-2 検査と診察

手足が冷たい・手足がしびれる・歩くとふくらはぎに痛みが出る、などの症状とその期間などを問診後に、あおむけの状態で足を上げたり、ベッドに腰掛けている状態で足をぶら下げたりして、足の色の変化で血液のめぐりを調べます。触診で足に触れ、脈拍を調べることで動脈硬化の有無を調べます。

上腕・足関節血圧比(ABPI)を測定することで、足の血液の流れを調べます。正常では、ABPI は1以上ですが、血液の流れが悪くなるとABPIは低下し、0.9以下の場合には足に動脈硬化が起こっていると考えられます。

レントゲン撮影結果

血管に造影剤を入れて、レントゲン撮影を行います。狭窄(血管が狭くなる)や閉塞(血管が詰まる)を起こしている部分を正確に調べることができます。閉塞性動脈硬化症では、動脈硬化に関連する他の病気を合併していることがあります。このため、糖尿病や高血圧、高脂血症などの検査をすることもあります。

下肢閉塞性動脈硬化症とは、動脈硬化の病気、すなわち血管病ですから、足の血管だけを治療すればよいわけではありません。特に気を付けないといけないのが心臓の血管です(心臓の血管は生死に直結することがあります)

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 3-3 下肢の手術結果

薬物療法は、 主に抗血小板薬(血をさらさらにする薬)と血管拡張薬が使用されます。カテーテル治療は、体外から動脈にカテーテルを入れて操作し、狭くなったり詰まったりした部位を、風船でひろげたりステント(金網を円筒にした人工血管)を留置して、血行をよくするのがカテーテル治療です。

左足の指閉塞性動脈硬化症で左足の指に壊死が始まっていた患者に、狭くなったり詰まったりした個所に体のほかの部分から切り取った血管または人工血管をバイパスとして取り付け、血流を確保した結果、右側の写真のように完治しました。

左足の甲同様に、左足の甲に閉塞性動脈硬化症が発症して、甲の表面全体に壊死が発症しました。人工血管をバイパスとして取り付けて血流を確保した結果、右側の写真のように完治しました。

カテーテル治療に比べ、バイパス手術は身体的負担は大きいのですが、動脈の場所によってこの方法が有利な場合もあると言われています

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謝辞:文中に掲載した写真は、プロジェクターで投影されたものを撮影して転載しました。ありがとうございます。