はげちゃんの世界

人々の役に立とうと夢をいだき、夢を追いかけてきた日々

第27章 不整脈を学ぼう

2018(平成30)年4月7日午後2時、札幌市民ホールで開催された札幌ハートセンター主催の医療公開講座で、循環器内科の北井敬之医師の講演「不整脈 戦う? 付き合う? 私はどっち?」の要約です。

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1 心房細動

 1-1 心臓

心臓は循環系の中心的な臓器です。胸部中央(縦隔)に位置する大体握りこぶしくらいの大きさで、重量は男性で330g、女性で250gくらいの臓器です。心臓から送り出された血液は50秒ほどで体を一周します

心臓は全体が筋肉でできています。通常1分間に60回~100回程度拍動して、規則正しく血液を送り出しています。この1分間の拍動数を心拍数といいます。心拍数は運動をしたときや食事のあと、熱があるときなどに増えます。心拍数は子どもの方が多く、大人になるにつれて少なくなります。心臓の内部

心臓の中は右心房、右心室、左心房、左心室の4つの部屋に分けられています。心房は血液を受け取り、心室は血液を送り出す役割をしています。心房と心室の間には弁膜があり、血液は一方通行で流れています。

血液は体のすみずみまで酸素や栄養を送り、二酸化炭素やいらない物質を回収するはたらきをしています。赤血球と血漿が酸素と二酸化炭素を運び、血漿が栄養やホルモンといらないものを運びます。白血球がからだのなかに入ってきた細菌などと戦い(免疫)、血小板(一次止血)と血漿(二次止血)がケガをして出血した時などに血を止める役割を果たしています

心臓に戻った血液に含まれている二酸化炭素は肺へ、老廃物は腎臓や肝臓へと送られて処理されます。血液が有効に循環できないと体は生きていくことができないため、心臓は血液を送り出すポンプとして極めて大事な働きを担っています。

赤血球の表面についているたんぱく質の種類によって、人の血液を4つに分けたのがABO式血液型です。手術やけがなどで大量に出血すると命に関わるため、輸血が行われます。輸血とは健康な人の血液をとって、必要とする人の静脈へ注射することです。血液型が合わないと血管の中で血液が固まってしまうため、同じ血液型の人のものが使われています。

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 1-2 心臓の刺激伝導系

心臓は一定のリズムとペースで収縮し、体中に血液を送り出しています。心臓が規則正しく収縮するのは、心臓を構成する4つの部屋の一つ「右心房」にある「洞結節」という場所から規則正しく電気信号が発信され、それに心臓の筋肉が反応するからです。

心臓には、心房・心室の壁を構成して機械的収縮を司る固有心筋と、自律的収縮を行うための刺激を発生し伝導する刺激伝導系が存在します。刺激伝導系における電気的興奮は右房上部に存在する洞結節から始まり、右房内を伝わり房室結節に入ります。この刺激により心房筋は興奮し、心房収縮が起こります

房室結節は伝わってきた刺激を一定の間を取ってヒス束に伝えます。心房の収縮によって心室に送り込まれた血液が心室内に十分充満するための時間です。ここで時間を置くことにより、次に起こる心室の収縮で十分な血液を肺静脈・大動脈に駆出させることができます。

ヒス束に伝えられた刺激は左脚と右脚に分岐し、左脚はさらに左脚前肢、左脚後肢に分かれて心室内のプルキンエ繊維に伝わります。心筋全体に効率よく刺激が伝わり、協調的な心室の収縮が生じます。すべての心筋が興奮して収縮したあと、心室筋の興奮はゆっくりさめていき次の刺激に備えます。

刺激伝導系

固有心筋と刺激伝導系はともに、外部からの刺激を受けなくても特有のペースで興奮を繰り返します。この性質を自動能と呼びます。そのなかでも、とくに高い自動能を持っている組織が洞結節です。自動的興奮のリズムは60~100回/分と最も速いため、洞結節が心臓全体の興奮のペースメーカーの役割をします

洞結節から刺激が伝わらなくなった場合には、洞結節以下の自動能を有する組織から刺激が発生することとなり、これを異所性ペースメーカーと呼びます。

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 1-3 心臓細動とは

正常な心臓のリズムは、安静時に規則的に1分間で60回~100回拍動しています。心房細動になると心房の拍動数は1分間で300回以上になり、速く、不規則に拍動します。心房細動自体は命に関わるような重症な不整脈ではありませんが、動悸・息切れ・疲れやすいなどの症状が現れ、また脳梗塞の発生率が高くなるため適切な治療が必要になります。北井敬之医師

心房細動は年齢が上がるにつれて発生率が高くなり、また女性よりも男性に多く発生します。日本では70万人以上が心房細動を持っていると推定されています。

心房細動は健康な方でも発生しますが、高血圧、糖尿病、心筋梗塞・弁膜症などの心臓病や慢性の肺疾患のある方は発生しやすく、またアルコールやカフェインの過剰摂取、睡眠不足、精神的ストレス時に発生しやすくなる方もいます。

心房細動起きると、どきどきする・胸が苦しい・階段や坂を上るのが苦しい・息が切れやすい・疲れやすいなどの症状が現れ、手首や首(頸部)の脈を計ると普段よりも早かったり、早い遅いを不規則に繰り返していることが分かります。ところが、全く症状が感じられずに長い間気づかないこともあります。

心房細動は、心房内に流れる電気信号の乱れによって起きる不整脈の一種で、心房が痙攣したように細かく震えて血液をうまく全身に送り出せなくなる病気です。問題となるのが、心房の中で血液の固まり(血栓)ができ、それが血流に乗って全身に運ばれ、血管を詰まらせてしまうことです

心房細動の状態が長時間続くと、動悸や息切れが激しくなり、疲れやすくなるなど日常生活に支障が出るようになります。それより怖いのは、脳梗塞や全身性塞栓症などの、さらに重い病気を引き起こしてしまう恐れがあることです。

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心房細動が原因で心房内でできてしまった血栓が血流に乗り、脳や他の臓器や組織の血管を詰まらせることによって起こります。心房細動があり、さらに脳梗塞を引き起こしやすい要因を持っている人は、脳梗塞を予防するために血液を固まりにくくする治療を受けることが大切です

心房細動には、短時間だけ起こってすぐ元に戻るタイプ(発作性心房細動)と数時間あ心房細動の症状るいは長時間続くタイプ(持続性心房細動)があります。発作性心房細動の人の中には自覚症状がなかったり、健康診断などで行われる心電図などの短時間の検査では見つからない場合がありますが、体に悪い影響を及ぼすのは同じと言われています。

心房細動では、「洞結節」以外の場所から発生する異常な電気信号により、心房内をめぐる電気信号が乱れ、心房が細かく激しく震えるように動く状態になってしまいます

日本人の1~2%(100~200万人)が心房細動と推定されています。心房細動の患者んは「加齢」に伴って増え、80歳以上の男性では10%以上と言われています。また、心房細動を起こす人の割合も年々増加し、1968~70年に比べて1987~89年では男性で約3倍に増加したというデータがあります。さらに心房細動の40%は症状がないとも言われ、自分に心房細動があるとは気づかないでいる方も多いので注意が必要です

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心房細動患者

心房細動は「加齢」に伴ってなりやすい傾向があり、高齢者で多くみられます。心臓弁膜症・心筋症・虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)などの心臓病、高血圧、甲状腺機能亢進症などの病気を既に持っていると心房細動を引き起こしやすくなります。

糖尿病・肥満・脂質異常症や、これらを合わせたメタボリックシンドローム、慢性腎臓病も心房細動を引き起こしやすくなる要因とされています。さらに飲酒や喫煙も関係すると言われています。こうした病気や生活習慣のある方は、一度検査を受けることをおすすめします。

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 1-4 血栓の恐怖

心房細動が起こると、心臓が規則正しく収縮できなくなるため、血液を全身に送り出す力が弱くなります。すると、心房内の血液がよどんで「血液の固まり(血栓)」ができやすくなります

血栓は心房内で心臓の壁にくっついた状態で大きくなっていきますが、何かの拍子にその一部がちぎれ、血流に乗って脳や全身の臓器や組織に運ばれていき(「血栓が飛ぶ」とも言います)、その先の血管を詰まらせます。これを「塞栓症」と呼びます。

心房細動の症状がない、またはほとんど感じない人であっても血栓ができ、それが全身に飛ぶ可能性はありますから、症状の有無や程度にかかわらず塞栓症になるリスクは常にあると考えましょう。心房細動でできる血栓は比較的大きいため、その血栓が飛んだ時に詰まる血管は「太く、広い範囲」で梗塞を起こします。

特に脳の太い血管が詰まる(脳梗塞)と脳の広い範囲に影響が及ぶため、突然重い症状があらわれ死亡する危険性も高く、運良く生き延びることができたとしても重い後遺症に悩まされることが少なくありません。

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 1-5 循環器内科の仕事

心臓の筋肉に「心筋症・肥大・薄くなる・痛む」などの症状が現れ、心臓の弁に「弁膜症・弁が狭くなる・痛む」などの症状が現れます。心臓の刺激伝導系に「不整脈・脈が遅い・脈が速い」などの症状が現れ、血管に「詰まる・細くなる」などの症状が現れ、狭心症や心筋梗塞の発症に関連があります。

循環器内科の仕事はこれらの4つの要素を万遍なく調べて治療することです。不整脈を発見して正常な脈(整脈)またはそれに近い状態に戻すことで、万一これらの症状が発見された患者はその症状と向き合うことと不整脈を知ることです。

心房細動患者

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 1-6 脈を知る

心臓はどのようなリズムで動いているのでしょう、動脈が伝える心臓の鼓動は脈でわかります。脈の取り方は正確に言うと「動脈」の触り方です。簡単に触れる事ができる動脈は5ヶ所あり、手の動脈での計測が一般的です。脈の取り方

① 手の動脈…橈骨(とうこつ)動脈:親指測
 ② 肘の動脈…上腕(じょうわん)動脈
 ③ 首筋の動脈…頸動脈
 ④ 足の付け根の動脈…大腿動脈
 ⑤ 5.足の甲の動脈…足背(そくはい)動脈

ちょっと脈がおかしい、動悸があると感じたら、手の脈(橈骨動脈:とうこつどうみゃく)に触れてみましょう。橈骨動脈は手首の親指側が一番触れやすい箇所です。普段から気をつけて脈を触れてみる習慣を持つと、簡単に計測できるようになります

頸動脈は触りすぎると脈がゆっくりになる、「アシュナー反射」が起きるので触れないほうがよいでしょう。それ以外の動脈はいくら触っても大丈夫です。もし本当に脈が触れないなら、医師に相談しましょう。色々な病気が隠れているかもしれません。

時計を見ながら脈を数えます。20秒で脈が20回だったら一分間の心拍数は60/分になります。その際、脈が一定リズムでないなら注意が必要です。脈拍数が一分間に40拍以下、あるいは安静にしていても100以上が続くなら、要注意です

脈拍を測定するときに示指、中指、薬指の3指で測定するのは、母指の動脈は示指・中指・薬指に比べ太いため拍動も大きく、母指を用いると測定者の母指血管自体の拍動が測定される人の脈拍と混同して測定値に誤差を生じるためです

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パルスオキシメーターは、皮膚を通して動脈血酸素飽和度と脈拍数を測定するための装心房細動患者置です。洗濯ばさみのような形をした、赤い光の出る装置(プローブ)を指にはさむことで測定します。

肺から取り込まれた酸素は、赤血球に含まれるヘモグロビンと結合して全身に運ばれます。酸素飽和度とは、心臓から全身に運ばれる血液(動脈血)の中を流れている赤血球に含まれるヘモグロビンの何%に酸素が結合しているか、皮膚を通して調べた値です。指尖容積脈波

酸素飽和度は、肺や心臓の病気で酸素を体内に取り込む力が落ちてくると下がります。主に病院や在宅治療の患者が必要に応じて測定し、睡眠時無呼吸症候群の簡易診断にも利用します。加齢によってもある程度低下します。

測定結果に誤差を与える要因がいくつかあります。体動によって発光部と受光部がずれる場合や、指先の冷えなどで測定部に血流が十分にない場合、マニキュアなどで光の透過が邪魔される場合などに、正しく測定されないことがあります。装着直後ではなく、脈拍が安定する20~30秒後に数値を読んでください。

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 1-7 脈の日は3月9日

日本嚢脳卒中協会と日本不整脈学会は「3月8日を脈(みゃく)の日」と定めて、日本記念日協会に登録しました。3月8日から一週間を「心臓細動週間」として、平成27年から市民啓発活動を実施しています。

不整脈がずっと出ているのに無症状の人。普段は正常でも、たまに動悸が起きる人の不整脈を見つけ出すことに重点がおかれています。胸がドキドキする・胸が苦しい・脈がとぎれる・息切れがする・めまいがするなどの症状があれば、不整脈が原因ではないかと疑ってみましょう

常に不整脈が出ているわけではなくても、発作がたまに起きるという人もいます。このような症状がある人は心電図の検査を受けましょう。

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2 心電図検査

 2-1 病院での検査

心臓は、私たちの意志とは関係なく規則的に電気的興奮がおこり、これを心臓各部に伝えて心筋の収縮を起こし、血液を全身に送っています。心電図は両手足と胸にいくつかの電極をつけ、そこから心臓で発生する微小な電気を取り出して記録する検査です。痛みを伴うことはありませんし、記録するのにそれほど長い時間はかかりません

心電図検査

心臓の電気的変化をグラフ化したのが心電図で、右上の図は心臓の拍動と、拍動と拍動の間隔が一定し心電図ている整脈時の波形です。

しかし、心房細動には短時間だけ起こってすぐ元に戻るタイプ(発作性心房細動)と数時間あるいは長時間続くタイプ(持続性心房細動)があります。発作性心房細動の人の中には自覚症状がなかったり、健康診断などで行われる心電図などの短時間の検査では見つからない場合があります。

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 2-2 ホルター心電図計

不整脈の中には終日続いているものもあれば、一日のうち数分だけ出るようなものもあります。心電図をとっているときに、たまたま不整脈が出れば診断がつくのですが、なかなかそういう機会には恵まれません。

このような一過性の不整脈を診断するには24時間、心電図を記録するホルター心電図検査が必要です。この検査では胸にいくつかの電極を張りホルター心電図計付け、そこから得られる心電図をウオークマンより少し大きいくらいの小型の機械に記憶させます。

小さな記録装置の中でカセットテープがゆっくり回り、24時間の心電図を記録することができます。最近はSDカードを用いる機種も出てきました。ホルター心電図は体に張り付ける電極の数が少ないので、普通の心電図ほどの精度はありませんが、不整脈の診断には十分です。狭心症発作時の特有の心電図変化も記録できます。

記録装置はベルトで腰回りにつけたり、肩からつるしたりして使いますので少し面倒です。しかし、一日の心電図を全部見ることができますから、不整脈の診療には欠かせない検査です。

入院の必要はなく、体に装着して翌日病院で外します。最大40日間の長期モニタリングと振動細動もキャッチできます。ただし、ホルター心電図計を装着している間は入浴ができません。

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 2-3 携帯用心電図計

携帯用の心電図計もあります。家庭や外出先で動悸などの症状が起きた、その時の心電図波形を約30秒で測定します。自覚症状がある時に自分で取った心電図を医師に見せることで、心疾患の早期治療に役立てることが携帯用心電図計できます。

オムロンの標準型心電図計(HCG-801)を例にとると、本体を右手の人差し指を指電極全体に当てて持ち、素肌の左乳頭の約5cm下に胸電極を密着させます。そのまま測定スイッチを押して約30秒で測定が完了します。想定方法

W121×H67×D24mmの大きさで約130g、単アルカリ電池2本使用で約400回測定可能です。希望小売価格は税別で3万5千円、量販店では2万3千円程度で購入できます。

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 2-4 埋込型心電図計

埋込型心電図計の機器本体は非常に小型に作られているので、植込みは局所麻酔により約10分の日帰り手術が可能です。自宅で使用する遠隔モニターが付属されているので、自覚症状の記録や不整脈を病院へ送信することができます。このためより早い診断が可能になり、また通院回数がへることで患者の負担も軽減できます。

埋込型心電図計は前胸部の皮膚の下に植込みます。最長3年間の持続的な心電図モニタリングができるので、失神がいつ起きてもその際の心電図を調べることで、心臓の病気に由来するものなどうかを判定することができます。長期間心電図を記録することで、失神の原因の特定や、脳梗塞を発症の原因が心房細動によるものか診断するのに非常に有効です。

脳梗塞の多くは脳血管の病変や、心臓などでできた血栓による塞栓症が原因と考えられていますが、十分な精査を行っても原因が特定できないものを潜因性脳梗塞と呼びます。心房細動により心臓の中に血液の塊(血栓)が出来やすくなり、これが潜因性脳梗塞の主な原因の一つと言われています。

心房細動は一般的に行われているホルター心電図検査による検査では、検査時間が短いため検出し難いと言われています。埋込型心電図計は長時間心電図を記録することができるため、ホルター心電図の5倍以上の検出率があると報告されています。埋込型心電図計で心房細動をいちはやく検出し、適切に治療することで脳梗塞再発予防に非常に役立つことが期待されます。

右の写真は日本メトドトロニック株式会社製の埋込型心電図計で、2017年度グッドデザイン省を受賞しました。W44.8× H7.2×4.0埋込型心電図計mm、2.5gという小さなもので、主な材質はリチウム一フッ化炭素です。価格は44万3千円ですが保険適用です。

埋込型心電図計は電池を使用しているため、3年を経過すると電池を交換する日帰り手術が必要になります。

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3 心房細動と不整脈

心臓が規則正しく収縮するのは、心臓を構成する4つの部屋の一つ右心房にある洞結節という場所から規則正しく電気信号が発信され、それに心臓の筋肉が反応するからです。洞結節に問題があると洞不全症候群、右心房に問題があると房室ブロックと言います。

洞不全症候群や房室ブロックが発症すると心房細動の種類めまい・意識を失う・息切れやだるさなどの心不全症状が現れます。一般的に脈拍が50回/分以下で症状が出やすくなります。治療になる方は脈拍が30回/分まで落ちている方が多いのが現状です。

症状が出にくい人もいますが、症状がある人は戦いましょう。症状がない人は様子をみましょう。

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 3-1 洞不全症候群

洞不全症候群は、主に洞結節(右心房の壁と上大静脈の境にある三日月状のもの)のはたらきが低下することによって脈が遅くなり、そのために脳、心臓、腎臓などの臓器の機能不全が現れる病気です

洞不全症候群は、洞結節の刺激を生み出す能力の低下、あるいは洞結節→心房間伝導の障害が原因です。虚血性心疾患、心筋症、心筋炎、リウマチ性心疾患、膠原病などに合併しやすいと考えられていますが、90%以上は原因が特定できません。

機能的なものでは、洞結節の刺激の発生数を低下させる迷走神経の緊張亢進、高カリウ刺激伝導系ム血症、薬剤投与(β遮断薬、ジギタリス)、抗不整脈薬などによるものがあります。

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 3-2 房室ブロック

心臓の刺激伝導システムのどこかに異常が生じると、心臓の内部で伝導時間の延長や伝導の途絶が起こります。これをブロックといいます。この病気では心房からの刺激が心室に伝わる過程に異常があるために、心室の興奮が通常より遅れたり、欠落したりしてしまい(これを心房‐心室間の伝導ブロック、房室ブロックという)脈が遅くなります

急に起こる房室ブロックの原因として、心筋梗塞、異型狭心症、心筋炎などの心臓病、薬剤性(β遮断薬など)、高カリウム血症、過度の迷走神経亢進状態などがあります。慢性あるいは再発性の房室ブロックの原因としては、冠動脈疾患、心筋症、心サルコイドーシス、膠原病、先天性ブロックなどが知られています。

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 3-3 心房頻拍

心房頻拍は、心房の中で不規則に電気興奮が発生し心房が痙攣したようになります。心房の拍動数は1分間に300回以上となり、心臓が不規則に拍動することで動悸を感じることがあります。心房頻拍

心房細動が起こると心房は血液を心室へ送り出す役割を果たせなくなります。心房の中で滞留した血液が凝固して血のかたまり(血栓)になると、この血栓が他の臓器の動脈を塞いで血栓症(脳梗塞などの全身性塞栓)を引き起こすことがあります。

加齢とともに発生率は高くなり、特に60歳を境に急激に頻度が高まります。男性は女性に比べて約1.5倍心房細動を発症しやすいと言われています。

心房細動のある人では、脳梗塞の発生リスクが正常な心拍の人に比べて2~7倍高いことが知られています。近年、肺静脈から発生する異常な電気信号が、心房細動の主な引き金になっていることが明らかになりました。

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 3-4 房室結節

房室結節は、心房の筋肉が毎分250~350回も規則的に収縮する状態の不整脈で、多くの場合は右心房を円形に電気信号が回り続ける異常な電気回路が原因で発生します房室結節

心房の収縮を起こす電気信号のうち、心室に伝えられるのは一部だけですので、実際の脈拍数が毎分250回になったりするようなことはほとんどありません。

正常な刺激伝導系以外に、先天的に余分な伝導路(副伝導路)が存在するため、一度心室に伝わった興奮がこの副伝導路を介して再び心房に戻ってしまう頻拍です。心房内に異常な興奮部位が存在し、この興奮が洞結節を上回り頻拍となります。治療はこのもととなる異常興奮部位を焼灼します

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 3-5 カテーテル治療

心筋梗塞は、心臓に血液を送る冠動脈に血栓(血のかたまり)が詰まって血液(酸素)が流れない状態になり、心臓の筋肉の一部が壊死する病気です。原因になる動脈硬化は、高血圧や高コレステロール血症、糖尿病、肥満などの生活習慣病のほか、運動不足や脂肪の多い食事、喫煙等の生活習慣、ストレスなども関係しています。

発作がおこったときはすぐに救急病院へ搬送します。3時間以内にできるだけ早く冠動脈の血流を再開させ、治療を行えば救命率は高くなり早期に普通の生活に戻れます。現在は、カテーテル治療やバイパス手術など治療法が進み、死亡率は1~2%と少なくなりました。心房焼灼

冠動脈が梗塞した場合、足の付け根の動脈からカテーテルを挿入してまず狭くなった冠動脈へ、先端に風船(バルーン)をつけた極細のカテーテル(バルーンカテーテル)を入れます。

この風船をふくらませることで、狭くなっている冠動脈も大きく広がります。血管とは異なり、心房頻拍や房室結節は心臓の内部で問題が発生しています。心房内に異常な興奮部位が存在し、この興奮が洞結節を上回り頻拍となります。このもととなる異常興奮部位を焼灼します心房焼灼

この治療を、カテーテル・アブレーション(経皮的カテーテル心筋焼灼術)と言います。電気生理学的検査と同様、心臓内部にカテーテルを入れて行ないますので、電気生理学的検査に引き続き行なわれることが普通です。

発作性上室頻拍、通常型心房粗動、心房頻拍、特発性心室頻拍などの不整脈では、カテーテル・アブレーションの成功率が90%程度と高く、薬物治療より効果的で安全性にも優れていることが示されています。

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 3-6 ペースメーカー

ペースメーカーは、発振器とこれに接続した細い電線(リード線)で構成されたものです。電線の先を心臓に取り付けて発振器と電線を接続すると、発振器から一定のリズムで心臓に電気刺激が伝わり心臓が拍動する仕組みになっています

ペースメーカー

本体には電池と電気回路が内蔵され、その上部にはリードをつなぐ部分があり、重さは20g程度です。リードの先端部分に電極があり、電極が心臓の筋肉に接して電気刺激を伝えます。ペースメーカ本体とリードは、手術により体内に完全に植込まれます。

ペースメーカの植込み手術には二つの基本的な方法があります。最もよく用いられるのは、鎖骨の下を通る静脈にリードを挿入して、心臓の中に到達させる方法です。ペースメーカ本体は胸部(鎖骨より下の皮下)に植込まれます。手術にかかる時間は局所麻酔で1~2時間くらいです。

刺激伝導系

開胸して心臓の表面に心筋電極を直接固定する方法もあります。この場合、ペースメーカ本体は腹部に植込まれます。成長期にある小児や、何らかの理由により静脈からリードの植込みが出来ない場合はこの方法が用いられます。

電池の寿命がくれば交換が必要となります。ペースメーカーの電池の寿命は、病気の状態やペースメーカーの種類により異なりますが、大体5~10年ぐらいです

ペースメーカーの交換手術はペースメーカーを植込んでいる場所を部分麻酔(局所麻酔)するだけで交換できます。交換はペースメーカー本体(発振器)全部を交換します。手術時間は約30分~1時間ほどです。

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 3-7 体外式自動除細動器

わが国では年間約3万人の方が突然死していると言われています。その原因の多くは予測不可能な心室頻拍、心室細動によるものと考えられており、大きな社会的問題となっています

病院の外で突然死にかかわる事態が発生した場合、救急隊が現場に到着するまでにどんなに急いでも10分近くかかります。心室細動では除細動が1分遅れるごとに救命率が10%低下すると言われていますので、10分という時間経過はほぼ決定的です。病院の外で心室細動が生じますと、患者さんの救命率は数%に過ぎません。

そこで、除細動までの時間を短縮させる突破口として期待されているのがAEDです。刺激伝導系駅や空港ターミナル、大規模なスタジアム、フィットネスクラブなど多くの場所に配置し、通りかかった一般の市民による除細動を行えば救命率は画期的に上昇します。

AEDの診断能力は大変高く、間違って作動させて人を傷つけることはありません。厚生労働省は2004年7月に、非医療従事者(一般市民)によるAEDの使用を認めました。今後はその配備と市民による認知を広め、一人でも多くの人がAEDの恩恵に浴することができるよう活動することが求められています。

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4 不整脈と戦う

 4-1 不整脈とは

不整脈を簡単にいえば、心臓の鼓動がすごく速くなったり(1分間に100回以上)、遅くなったり(50回以下)というようにリズムが乱れるもので、それに伴った自覚症状が現れます

最も多い症状は、ドキドキするや脈が飛ぶ感じがするというものです。そのほかに、胸の痛みや圧迫感を感じることもあります。このような症状は脈が速くなったり、乱れたりした場合に多いようです。

逆に、脈が遅くなりすぎると脳や体の血液の循環が悪くなり、全身の倦怠感、めまい、ふらつきを感じたり、時には失神することもあります。まったく無症状の場合も多く、たまたま自分で脈に触れてみて乱れに気づいたり、健康診断で初めて見つかることも多いようです。

脈のリズムが乱れる不整脈には、期外収縮と心房細動があります。期外収縮は、自分で脈に触れてみた時に、何回かに1回脈が抜けることで気づく場合がよくあります。比較的軽症で治療の必要がない場合も多いのですが、心筋梗塞、心不全など心臓の病気がある人は注意が必要です。

心房細動は、脈がバラバラになる不整脈で、自分で脈に触れてみると脈が乱れている、もしくはうまく脈が測れないという場合が多いようで、加齢に伴い増加します。それ自体は命に関わることはありませんが、心臓のなかに血の塊ができて脳梗塞を起こしやすくなるため、血をサラサラにする薬をのんで脳梗塞の予防をします。

脈が速くなる不整脈には、発作性頻拍症があります。発作性で突然ドキドキし始めますが、また突然正常にもどります。命に関わることは少ないのですが、自覚症状が強いため不安になることが多いようです。不整脈の薬を内服することで予防できます。

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 4-2 恐ろしい不整脈

不整脈が要注意の恐ろしいタイプは、「何もしていないのにふうっとする」「急に意識がなくなる。つまり失神する」タイプが最も危険です。この場合は、一時的に心臓が止まっているか、または極端な頻脈が起こっている可能性があります。失神症状が出た場合は、できるだけ早く病院を受診してその原因を調べてもらい、治療を始める必要があります。

次に「脈拍数が1分間40以下で、体を動かす時に強い息切れを感じる」ケースで、この時は脈が遅くなりすぎて心不全を起こしている可能性があります。この場合、ペースメーカー治療が必要になることがあります。

また、突然始まる動悸です。この場合、頻脈が起こっていると可能性があり、脈拍数が1分間に120以上で突然始まり、突然止まる、または脈が不規則に打つものは病的な頻脈(頻拍)と考えられます。多くは脈拍数が150から200前後になり、血圧が下がり、脈が触れにくくなり、同時に息苦しくなって冷や汗が出ます。

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 4-3 恐ろしくない不整脈

脈がたまに飛ぶ程度の人や、症状のない徐脈は心配のないことがほとんどです。また、運動や精神的な興奮によって脈が速くなる場合も心配ありません。ただ、不整脈がある場合は何が原因で起こっているか、元に心臓病がないかなどを最低一度は心電図検査などで確認してもらった方がよいでしょう

安静にしている時に起こる頻脈のうち、数十秒から数分の間に脈が速くなるけれども、脈拍数はせいぜい1分間120までであり、その後徐々に遅くなる場合も大抵は病的な頻脈ではありません。数分以上かけて徐々に脈が速くなり、徐々に遅くなるタイプは問題ないと言えます

「自分は心臓が悪いのではないか」という不安感をきっかけに、精神的な興奮によって脈が速くなったり、息をしすぎる(過呼吸)になったために起こることが多いのです。脈拍が120以下で規則正しく打っておれば大丈夫だ、と自分自身に言い聞かせ、まず落ち着くことが大切です。

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 4-4 左心耳内血栓

心房細動で困ることは心不全と脳梗塞です。心臓内の左心耳は左心房から突き出した袋状の器官で、心房細動が起きると左左心耳心耳も細かく震え、中の血液がよどんで血栓ができやすくなります。左心耳でできた血栓は動脈から脳に運ばれ血管をつまらせ脳梗塞の原因となります。

カテーテルで心筋焼灼術血以外にも、血を固まりにくくする薬や脈拍を遅くする薬を飲む薬物療法もありますが、年約20万人の脳梗塞発症者のう左心耳内血栓ち3割が心房細動が原因とされ、特に左心耳でできた血栓は大きく重篤になりやすいとされています。

左心耳は、左心房の圧力を逃がすなどの役割がありますが、近年なくても問題ないことがわかってきています。このため、左心耳を切ったり塞いだりする治療法が取り入れられるようになりました。ただし、そのためだけに胸を切り開いて手術するのは体への負担が大き過ぎます。

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 4-5 血液をサラサラに

動脈や静脈の血管内に生じる血栓を予防するために、抗凝固薬を用いて血管内で血が固まることを阻止する薬物療法があります。形成された血栓の融解効果を期待する目的でも行われています。

しかし、抗凝固薬の中には出血を助長する副作用があるため投与量のコントロールがむずかしくビタミンKを含む食物の摂取やほかの薬剤との併用で効果にばらつきが出るなどの問題もあります。

近年、年齢が若い人の中にも血管の年齢が高くなる人が増加傾向にあります。以前までは40歳代になると加齢によって血管の年齢が上がるとされていましたが、近年では20歳代、30歳代の人でも、血管の年齢が上がる人が多く見られます

血管の年齢は病院で測定することができ、もしも自分の血管の年齢が高めに出た場合には、食べ物に気を付けたり、意識して運動を取り入れることで、血管の年齢を下げることができます

血液の流れをスムーズにするためには、血流をスムーズにする効果が高い玉ねぎやニンニク、納豆、青魚などを積極的に摂取するようにしましょう。食物繊維も大切です

水溶性の食物繊維にはコレステロール値を下げる働きがあります。そのため、食事は食物繊維から先に食べ始めることで、血糖値の急激な上昇を抑えることができます。塩分を取りすぎると血圧があがりやすくなります。高血圧になると血管の年齢は高くななります。

食べ過ぎや飲み過ぎた場合には、消費しきれなかったカロリーが内臓脂肪として蓄積されてしまいます。血管の年齢の若返りのためにも、過食に気を配り適度にとどめておくようにしましょう。

心不全・高血圧・75歳以上・糖尿病・脳梗塞の一つでも当てはまる人は血液をサラサラにする努力をしましょう

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謝辞:文中に掲載した写真は、プロジェクターで投影されたものを撮影して転載しました。ありがとうございます。