1 動脈硬化の原因
1-1 動脈硬化の成り立ち
厚労省から発表された「平成28(2016)年の人口動態統計(確定数)」を基に、日本人総数の死亡原因と比率は「第一位:悪性新生物=癌(28.5%)、第二位:心疾患(15.1%)、第三位:肺炎(9.1%)、第四位:脳血管疾患(8.4%)、第五位:老衰(7.1%)」の順です。
性別で見ると、男性は「悪性新生物、心疾患、肺炎、脳血管疾患、老衰、不慮の事故、自殺、慢性閉塞性疾患、腎不全、肝疾患順になります。喫煙が原因とされている慢性閉塞性肺疾患(COPD)が第八位に入っています。
女性は「悪性新生物、心疾患、老衰、脳血管疾患、肺炎、不慮の事故、腎不全、大動脈瘤及び解離、血管性の認知症、アルツハイマー病」の順になります。第九位に血管性の認知症、第十位にアルツハイマー病が入り、第八位に大動脈瘤及び解離が入っています。
動脈硬化が原因で死亡する人は、心疾患(15.1%)と脳血管疾患(8.4%)を合わせると23.5%になり、第一位の癌(28.5%)に迫る勢いです。
動脈は「糖尿病・脂質異常症・高血圧・高齢化・喫煙・肥満」などが原因で硬くもろくなり、その結果血管内腔が狭くなりふさがってしまう状態へと進んでいきます。
正常な血管は三層構造になっています。血管を覆っているのは外膜、平滑筋細胞でできている内膜、血管に柔軟性を与える内弾性板、血液と触れているのは内皮細胞膜です。内皮細胞は血液から酸素や栄養を受け取り細胞へ供給する働きがあります。
血液に触れている内皮細胞は、高血糖・高血圧・喫煙・参加したコレステロールに触れることで老化していきます。
1-2 動脈硬化の進み方
痛みなどの自覚症状がないまま、あなたが気づかないうちに動脈硬化が進行していきます。
1-2-1 血管が硬くなり、内腔が狭くなる
血管壁は血液の圧力を受けて、加齢と共に熱く硬くなります。さらに、血管の内側にコレステロールなどの脂肪が沈着すると、その部分が隆起し、血管内腔が狭くなります。このままではさほど問題はありません。
1-2-2 粥腫ができて大きくなる
悪玉コレステロールが隆起した部分に取り込まれ、粥腫を計数します。それが大きくなり、更に内腔を狭くします。このような粥腫動脈硬化になると、深刻な問題になります。
1-2-3 ある日突然に粥腫が破れる
ほっておくと、突然粥腫を覆っている膜が破れ、瞬時に血栓ができ血管内が塞がれてしまいます。その結果、血流が遮断され、組織の一部が死んでしまいます。
1-3 動脈硬化の進行
下の写真は、中程度の狭窄から突然完全閉塞になった症例の写真です。左端は2000年5月12日の写真です。矢印が示す部分の血管が少々細くなり狭窄が起きていますが、この程度の細さなら血液の通過に問題はありません。
中央の写真は2000年9月1日に撮影した写真です。わずか4ヶ月で血管の狭窄が進んで、血液の通り道は半分になっています。この程度の狭窄でも血流に大きな支障はありません。
入院していたこの患者さんは2000年9月2日の未明に心筋梗塞を起こしました。写真を見ると血管が切り取られたように、下へ向かってのびていた部分が見えなくなっています。矢印の部分で血管が詰まりましたが、緊急処置で患者さんは助かりました。
動脈硬化で血管が詰まる虚血性疾患は「狭心症」と「心筋梗塞」です。心臓の筋肉は3本の冠動脈で養われています。右側の写真は冠動脈を説明するときに使用する模型です。
心筋は運動などにより動きが盛んになると、正常なはたらきを保つための十分な酸素や栄養を必要とし、冠動脈の末梢が広がることによって血流が増します。しかし、動脈硬化により冠動脈に狭窄があると、心筋に十分な血流を送り出すことができなくなります。
狭窄の程度が強いと少し動いただけで、狭窄の程度が軽いと激しい運動をした時に、心筋への酸素の供給が足りなくなります。つまり、心筋の仕事量に見合っただけの酸素供給が足りなくなった時に症状が現れます。
冠動脈の動脈硬化を進行させる因子を冠危険因子といい、高コレステロール血症、高血圧、喫煙、糖尿病、肥満、痛風、中性脂肪、運動不足、精神的ストレスなどがあげられます。
1-3-1 狭心症
狭心症は冠動脈が完全にふさがる前の状態です。冠動脈の中は狭くなっていますが、血流が完全に途絶えていないため、心筋の障害は血流が回復すれば元に戻ります。
狭心症の代表的な発作症状は、胸の奥が痛い・胸がしめつけられる・胸が押さえつけられる・胸が焼けつくような感じなどがあります。大多数は胸部の症状として現れますが、上腹部(胃のあたり)や背中の痛み、喉の痛み、歯が浮くような感じ、左肩から腕にかけてのしびれや痛みとして感じることもあります。
歩行中や階段昇降などの身体的な運動、精神的な興奮やストレスが誘因となって起こるのが労作(性)狭心症です。夜間や明け方に発作が多いことが特徴なのは安静狭心症で、冠動脈のけいれんによって起こるのは異型狭心症といいます。
歩行中や階段昇降などの、身体的な運動中に起こり方が一定しているのは安定(型)狭心症です。狭心症の発作を抑えるニトログリセリンが、効きにくくなった場合には不安定(型)狭心症と呼ばれます。
1-3-2 心筋梗塞
心筋梗塞は、冠動脈が完全にふさがり心筋に血液が流れなくなった状態です。心筋が壊死し、重症の場合は死に至ることもあります。
急性心筋梗塞は多くの場合、胸部の激痛、絞扼感(締めつけられるような感じ)、圧迫感が伴います。胸痛は30分以上持続し冷や汗を伴うことが多く、重症ではショック症状を示します。胸痛の部位は前胸部、胸骨下が多く、下顎、頸部、左上腕、心窩部に放散して現れることもあります。これに伴う症状として、呼吸困難、意識障害、吐き気、冷や汗を伴う時は重症のことが多いとされています。
重症な病気なので、強い胸痛があればすみやかに救急車で専門医の診察を受けることが大切です。心筋梗塞症は過度の疲労や緊張、暴飲暴食、天候の急変などをきっかけに生じることが多いので、それらを避けることが大切です。胸痛があったときにはすぐに医療機関に相談して下さい。