はげちゃんの世界

人々の役に立とうと夢をいだき、夢を追いかけてきた日々

第24章 たかが胆石されど胆石

2018(平成30)年3月5日、札幌市白石区民センターで開催された札幌市徳洲会病院主催の医療公開講座で、札幌市徳洲会病院の室田千晶外科医より経験に基づいた講演「たかが胆石されど胆石」の要約に日本消化器病学会ガイドラインの資料を加えました。

1 胆石とは

 1-1 胆嚢と胆汁

胆嚢(たんのう)は、みぞおちと右のわき腹を結んだ線の真ん中あたりの奥のほうにあり、一部は肝臓にくっついて固定されています。大きさは握りこぶしぐらい(長さ約8cm)のナスのような形をした袋状で、肝臓で生成された胆汁を一時貯蔵します。

肝臓では、脂肪やたんぱく質などの消化を促す「胆汁たんじゅう」という消化液がつくられています。胆汁は肝臓から送り出されて、胆管という管を通り、胆のうにいったん蓄えられて濃縮されます。

肝臓でつくられる胆汁は、一日に600~1000mlでアルカリ性の液体です。食事を摂ると胆嚢が収縮して胆汁を胆管から十二指腸に送り出します。胆汁には胆汁酸と胆汁色素を含み、十二指腸から小腸で食事と混ざることで脂質やビタミンの吸収を助けます。

胆汁酸は界面活性剤として食物中の脂肪を乳化して細かい泡にし、リパーゼと反応しやすくして小腸の消化酵素の働きを助けます。小腸内に分泌された胆汁酸の殆どは小腸で吸収されて肝臓に戻されます(腸肝循環)。

胆汁色素は、小腸内で腸内細菌によりウロビリノーゲンに還元され、その一部が体内に再度吸収されます。ウロビリノーゲンは抗酸化作用があり、体内で酸化を受けると黄色のウロビリンに変化し、尿が黄色味を帯びているのはこのためです。また、腸内に残ったウロビリノーゲンが腸内細菌により還元されると茶色のステルコビリンに変化します。これが大便の茶色のもととなります。

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 1-2 胆石とは

胆汁の成分が、胆汁が通る道(胆のうと胆管)で何らかの原因で固まってしまったものが胆石です。近年は胆石症の患者が増え、日本人の成人の約8%が胆石をもっているといわれています。

胆石(たんせき)は、肝臓や胆嚢(たんのう)、胆管にできる結石(石)です。結石がある場所により、「肝内結石」、「胆嚢結石」、「胆管結石(総胆管結石)」という名称がつけられ、それぞれ症状も違います。

胆石をもっている人は中年以降に多く、女性は男性より2倍多いといわれています。胆石症は40歳代の肥満の女性に多くみられ、肥満や過食、不規則な食生活、ストレスなどの生活習慣が影響しているといわれています。室田千晶外科医

胆石ができる原因については、今のところはっきりとわかっていません。脂質の多い食生活は、胆汁中のコレステロールの割合が増加し、胆汁中で溶けきれないコレステロールは析出し、胆石の原因になると考えられています。

最も多い胆嚢結石(胆石)はコレステロール結石です。肝臓の働きのひとつにコレステロールの代謝(排出)があります。コレステロールは水に溶けないので一部は胆汁の中に溶け込ませて肝臓外に排出します。胆汁の中のコレステロールと胆汁酸のバランスが崩れると、コレステロールが結晶化して胆石のもとになります。

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 1-3 胆石の症状

胆嚢結石(胆石)があるからといって、必ずしも症状があるわけではありません。症状には自分でわかる「自覚症状」と、検査などで分かる「他覚症状」があります。胆嚢結石をもっている人の23%は無症状といわれていますが、もっと多いかもしれません。

胆嚢結石症(胆石)の自覚症状の最多は、「右季肋部痛(みぎきろくぶつう)」です。右の肋骨の下あたり(右肋弓下)に差し込むような痛みを感じ、人により背中に抜けるような痛み(放散痛)を伴うこともあります。

胆石の痛みは決まったところだけが痛むのではなく、みぞおち(心窩部痛)、おへその上のほう、右の肩甲骨(けんこうこつ)の下の方、腰のあたり・・・といろいろな場所に痛みの症状がでます。「右肩こり」と表現する人もいます。

痛みの種類も鋭く差し込むような痛み(疝痛、せんつう)や鈍い重苦しい痛み、肩こりのように張った感じなど様々です。痛みのほかに「発熱」もしばしば認められます。これは胆石により胆嚢内の胆汁がとどこおり細菌感染をおこすことによっておきる症状です。

痛みがはっきりせずに熱だけがでるような場合は、胆嚢結石(胆石)による発熱を風邪と考えて症状が悪化することもあります。右の肋骨の下の方のおなかを触ると他の部分よりおなかが硬く感じたり、押すことによって痛く感じたり(圧痛)することで診断される事もありますが、自覚症状の腹痛がないとなかなか的確な診断は難しいようです。

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さらに、胆石が胆道にはまり込んだり、胆嚢が炎症を起こして腫れあがったりすると、胆汁の流れが悪くなり「黄疸(おうだん)」や「肝機能異常」などの症状を起こすことがあります。肝機能異常は採血して肝逸脱酵素を測定すればわかります。

黄疸は胆汁の色素であるビリルビンによってひき起こされる症状です。採血でビリルビンを測定すれば分かりますが、黄疸が進行すれば眼球結膜(白眼、しろめ)や皮膚が黄色くなるなどの症状がでるので、自分でも分かります。(みかんの食べすぎによる症状は黄疸ではありません)。

胆嚢に結石を持っている人が、発熱やお腹の痛みなどの症状を感じたら「胆石のせいかも?」と、担当の医師にお話したほうがよろしいでしょう。「おなかのかぜ」と胆嚢炎の区別は往々にして難しく、おなかに痛みの症状が出てきた場合は、早めの治療や手術をおすすめします。

  症状胆嚢結石総胆管結石
腹痛・背部痛 57.1% 63.9%
発熱  9.5% 24.3%
悪心・嘔吐  7.5% 10.4%
黄疸  3.3% 16.7%
症状なし 34.9% 24.3%

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2 胆石の発生個所

 2-1 総胆管結石

胆管にできる結石のうち、胆のうから続く胆のう管と、肝臓から続く肝管が合流した総胆管にできた結石です。これらの多くは胆のう内にできた胆石が、総胆管に流れ落ちたものが大部分です。

症状が出やすいのは総胆管結石です。総胆管から十二指腸への出口に結石が詰まると、上腹部に激痛を感じます。黄疸(皮膚や白眼が黄染すること)や発熱を伴うこと(これを「胆管炎」と呼びます)もしばしばあり、時には「膵炎」の原因になることもあります。

総胆管結石は、胆管の閉塞を来し、急性胆管炎の原因となったり、さらには、膵管を閉塞し急性膵炎を起こす可能性があり、総胆管結石と診断された場合は、治療の対象となります。

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 2-2 胆嚢結石

胆嚢の中にできる結石で、大部分はコレステロール結石です。胆嚢結石の場合、胆嚢が収縮するときに胆石が移動して、胆のうの出口に胆石が詰まると、激しい腹痛が起こることがあります。これを「胆石発作」と呼びま結石の位置す。

痛みの特徴は、右上腹部やみぞおちに非常に激しい痛みが1~2時間続いた後に消えていきます。特に、油っこいものを食べた後には、胆汁を分泌するために胆のうが収縮し、胆石発作が起こりやすくなります。

胆嚢の出口に胆石が詰まった状態が長く続くと、細菌感染が起こり「急性胆嚢炎」となって発熱・腹痛・黄疸を伴うことがあります。

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 2-3 肝内結石

胆管にできる結石のうち、肝臓内部の胆管にできた結石です。胆石のなかでは少数ですが、日本を含めアジアに多い疾患です。肝内結石の場合、胆石があっても必ずしも症状があるわけではありません。

肝内結石症は、長期的には胆道癌の発生リスクであることが報告されていますので、肝内結石と診断された場合は専門医に診ていただくことをお勧めします。

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3 胆石の種類

 3-1 コレステロール結石

胆汁にはコレステロールが溶け込んでいますが、コレステロールが増えすぎると溶けきれずに結晶となり、徐々に固まりとなっていきます。石を割ると放射状のコレステロール結晶が見られる胆石です。

食事時間が不規則になると、胆のうから胆汁が出されるタイミングも不規則となり、胆汁がたまりやすくなり、胆石を生成しやすい原因になるといわれています。食事は一定の時間に一定量を、1 日 3 食とるといった規則正しい食生活をする事によって、胆汁濃度を一定に保ち、胆石の生成を予防する事につながります。

コレステロールの多い食品は、鶏レバー、豚レバー、牛レバー、いくら、うなぎ、卵

脂質の多い食品は、チャーハン・ラーメン・カレーライス、ベーコン・バラ肉、青魚・うなぎ、油揚げ・がんも・生揚げ・卵・いくら

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 3-2 色素結石

色素結石のなかで最も多いビリルビンカルシュム石は、細菌の感染であることが分かっています。胆汁内に存在する最近いより溶けにくいカルシュウム塩ができ、これが徐々に大きくなってビリルビンカルシュム石になると考えられています。

もうひとつの黒色石の原因はまだよくわかっていません。貧血の一種(溶血性貧血)、肝硬変、炎症性腸疾患の患者に多いことが知られています。

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3 胆石の治療法

 3-1 経過観察

胆石の位置

  3-1-1 無症状胆石の場合

・ 経過観察が可能です。

・ 将来的に症状が出る割合は2~4%/年です。

・ 症状が出る原因としては
  ① 小さな胆石がたくさんある
  ② 胆嚢管に結石が詰まっている
  ③ 若年者である

  3-1-2 有症状胆石の場合

・ 1年で50%、10年で70%に症状の再発がみられます。

・ 急性胆嚢炎等の重篤な合併症も1~3%の割合で出現します。

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 3-2 胆石溶解法

石灰化のない胆石

  3-2-1 適応

・ 石灰化がない。

・ 直径が15mm以下である。

・ コレスレロール結石である。

  3-2-2 治療成績

・ 六か月の溶解薬内服で24~38%の結石が溶けます。

・ 内服を注視すると12年で61%に再発があります。

・ 内服を継続すると16%に抑えられます。

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 3-3 結石破砕療法

  3-3-1 適応

・ 石灰化がない。

・ 直径が20mm以下である。

・ 純コレステロール結石である。

・ 胆嚢機能が正常である。

  3-3-2 治療成績

・ 治療までに、63~90%の胆石が取り除かれます。

・ ただし、10年間での再発率は54~60%です。

・ 治療経過中に単横摘出となった例は36%もあります。

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 3-4 外科手術

・ 胆石の手術は、基本的に胆嚢ごと取り出します。

・ 理由は、
  ① 単横が炎症を起こしている場合があります。
  ② 癌を合併している可能性があります。
  ③ 胆嚢が残っていると再び胆石ができます。

  石灰化のある胆石

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  3-4-1 手術の方法

胆石の手術は、開腹胆嚢摘出術と腹腔鏡下単横摘出術があります。

・ 手術は、全身麻酔で行われます。

・ 1990年以降は、おなかに穴をあけて行う腹腔鏡下胆嚢摘出術が導入され、現在
  ではほとんどこの方法で手術が行われています。

・ ただし、胆嚢の炎症が強い場合や、開腹手術歴のある患者には開腹手術を行うこと
  があります。

  開腹と腹腔鏡の違い

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  3-4-2 腹腔鏡下胆嚢摘出術

炭酸ガスで腹部を膨らませて、内視鏡(腹腔鏡)で腹腔内を観察しながら数ヶ所の小さな創(ポート、開けた穴)から器具(鉗子)を入れて手術を行います。

  開腹と腹腔鏡の違い

胆嚢摘出術は、胆嚢のある位置
 ① 胆嚢管と並走する胆嚢動脈を切断します。
 ② 肝臓から胆嚢を剥離します。
 ③ 胆嚢をおへその穴に開けた創(ポート、開けた穴)から取
  り出します。

腹腔鏡下胆嚢摘出術は、創(ポート、開けた穴)が小さいため、手術後の痛みが少なく回復が早いので、早期に退院できます。

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  腹腔鏡下胆嚢摘出術

  腹腔鏡下胆嚢摘出術

  軽症急性胆嚢炎

  中等性急性胆嚢炎

  重症急性胆嚢炎

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 3-5 胆嚢摘出後の合併症

  3-5-1 消化器への影響

栄養摂取には問題ないとされています。

術後1~2ヶ月は軟便や下痢がみられることがありますが、3ヶ月以降は改善することがほとんどです。

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  3-5-2 生じうる合併症

・ 出血  輸血、止血剤、再手術。

・ 感染(創・字腹腔内・肺炎・全身)  抗生物質、経皮的トレナージ。

・ 胆汁漏  内視鏡的または経皮的トレナージ。

・ 胆管損傷  内視鏡的排石。

・ 術後腸閉塞

・ 血栓症(脳・肺・心筋梗塞など)

・ 多臓器不全(心不全・呼吸不全・腎不全・肝不全など)

・ その他の合併症が生じる可能性もあり、出現した症状にその都度、家族、ご本人に
  説明のうえ対応します。

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  3-5-3 長期合併症

・ 腹腔内落下結石による腹腔内膿傷。

・ 術中胆管損傷による胆管狭窄。

・ 遺残胆管結石。

・ 遺残胆管腫傷。

  3-5-4 胆嚢摘出後症候群

術後に術前と同じような症状が持続、または新たな症状が出現することがあります。

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 3-6 まとめ

  3-6-1 症状のない胆石

経過を観察します。

  3-6-2 症状のある胆石

・ 治療をお勧めします。

・ 放置すると症状を「繰り返すことがあります。

・ 重篤な胆嚢炎などの合併症を引き起こすことがあります。

・ 治療の第一選択は胆嚢摘出術です。

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謝辞:文中に掲載した写真は、プロジェクターで投影されたものを撮影して転載しました。ありがとうございます。