はげちゃんの世界

人々の役に立とうと夢をいだき、夢を追いかけてきた日々

第23章 循環器疾患と症状

2017(平成29)年12月18日午後、札幌禎心会病院で開催された市民医療講演会で、循環器内科部長の笠原洋一郎博士の講演「命が危ない循環器疾患とその症状」の要約です。

1 はじめに

 1-1 自覚症状と診察

命が危ない(=緊急性のある)心臓の病気って聞くと、どんな病気を思い浮かべます自覚症状のある女性か。どんな症状があると、心臓がやばいんじゃないかと意識すると思いますか。

例えば、胸と背中が痛いという患者さんが受診した場合に、お医者さんが考える病気は・・・。

・ 循環器・・・急性冠症候群(心臓炎、心筋炎、心タンポナーゼ、肥大型心筋症、弁
        膜症、不整脈、心不全、高血圧など)。

・ 大血管・・・急性大動脈解離、大動脈瘤切迫破裂など。考える医師

・ 呼吸器・・・肺塞栓症気胸、肺炎、胸膜炎、縦隔炎など。

・ 消化器・・・食道破裂、胆嚢症、十二指腸潰瘍穿孔、胆嚢炎、急
        性膵炎など。

・ 泌尿器・・・尿路結石症、腎梗塞など。

・ 筋骨格・皮膚・・・肋間神経痛、帯状疱疹、乳腺疾患、骨折、筋肉痛、炎症など。

・ 心因性・・・不安神経症、過換気症候群など。

・ 原因不明・・・

下線のある病気は特に緊急性があります。

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 1-2 心臓について

心臓は全身に血液を送るポンプの働きをしています。そのポンプを動心臓の図かしているのは筋肉であり、心臓の筋肉で心筋といいます。心筋が動くための燃料となっているのは酸素で、酸素は血液によって運ばれています。心筋に血液を送るためには血管と言うパイプが必要ですから、心筋の表面に冠動脈という血管があります。

冠動脈は3本あり、右冠動脈は心臓の下部に栄養と酸素を届けます。左大冠動脈は根元が1本で、前下行枝と回旋枝の二手に分かれます。前下行枝は心臓の前側に栄養と酸素を届け、回旋枝は心臓の後ろ側に栄養と酸素を届けます。

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 1-3 緊急性が高い疾患

命が危うい循環器(呼吸器)疾患で、特に緊急性が高い疾患は次の通りです。

急性冠症候群・急性大動脈解離・急性肺血栓塞栓症・緊張性気胸・心タンポナーゼ。

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2 急性冠症候群

 2-1 急性冠症候群とは

講師不安定狭心症、修正心筋梗塞、虚血に基づく心臓突然死をひっくるめたものです。冠動脈プラークの破綻(はたん)とそれに伴う血栓形成により、冠動脈の高度狭窄や閉塞をきたす共通の病態です。日本の心筋梗塞発症率は年間10万人当たり10~100人と言われます。

 2-2 急性冠症候群の症状

前胸部の強い不快感を自覚することが多い。

① 痛みと言うよりも、重苦しい、しめつけられる、圧迫される、しぼられる、焼けつ
  くような感じがします。

② 位置がはっきりせず、ある程度の範囲で示されます。

③ 少なくとも20分以上持続します。

④ 冷や汗、息苦しさ、吐き気や嘔吐などを伴うことがあります。

⑤ 放散痛 ⇒ 頭(歯が浮くような感じ、首、肩や腕(基本的に左側)、みぞおち、
  背中などに現れます。

※ ときに、これらの部位にだけ症状がでることもあります。

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 2-3 急性冠症候群の危険性

① 病院につく前に心停止に至る率が高い=14%以上。

② 急性期死亡率(30日以内の院内死亡率)=約6~8%。

③ 心室細動(致死性不整脈)、心破裂、心不全が主な死因。

④ 壊死した心配は再生しない ⇒ 心不全を起こしやすい。

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 2-4 症状が自覚しにくい人

糖尿病の方々、高齢の方々、女性の方々は症状が自覚しにくいようです。しかも、症状が自覚しにくい方々は、典型的でない症状を訴えることもあります。

・ ズキズキ、ヒリヒリ、刺されたような感じがする。

・ さらに高齢者は、息切れ、だるさ、食欲低下、反応の低下(意識レベルの低下)。

・ また、意外な症状で発症することもあります。

講師の先生が経験された、頭痛・胃の痛み・下痢・嘔吐などの意外な症例があったそうです。

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 2-5 ニトロの使用

本日の参加者の中にも、ニトロベン舌下錠やミオコールスプレーなどのニトログリセリン舌下錠を持ち歩いている方がいらっしゃいます。

① ニトロを飲んで、2~3分で症状が消えた場合は狭心症が疑われます。

② ニトロを飲んでも、病状が持続 ⇒ 急性心筋梗塞 or 別の痛みです。

日本の説明で多いのは、「5分ごとに3回使用しても症状が消えない場合は救急要請」してください。

アメリカのガイドラインでは、「1回使用して5分後に症状が消えない場合は救急要請」してください。

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 2-6 急性冠症候群の危険因子

① 高血圧

② 糖尿病

③ 脂質異常(悪玉コレステロール(LDL)や中性脂肪(TG)が高い、善玉コレス
  テロール(HDL)が低い。)

④ タバコ(百害あって一利なし。)

⑤ 家族歴(親・兄弟に心筋梗塞や狭心症になった人はいないか、突然死をしている人
  はいないか)

⑥ その他(メタボ、腎臓病、年齢、男性>女性など。)

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3 急性大動脈解離

 3-1 大動脈解離の疫学

① 10万人当たりの年間発症人数は約3人と言われています。

② 男女とも70歳代が最も多くなります。自覚症状のある老人

③ 冬季に多く、夏季に少ない。

④ 日中に多く、特に午前6時から12時は多く、深夜から早朝は少
  ない。

⑤ 高血圧の人に多い。

⑥ 大動脈解離の脂肪症例では約9割が24時間以内に死亡しています。(そのうち、
  病院到着前に死亡している症例は約6割です。)

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 3-2 急性大動脈解離の症状

① 突然の激烈な胸背部痛、背中から胸、腰へと移動することが多い。

② 痛みの部位は、解離の位置によって違う。

③ 解離の位置によって、出現する症状も違う。

④ 症状が出ないこともあります。

※ 9~20%では失神を起こすことがあります。

大動脈の断面図

・ また、意外な症状で発症することもあります。

講師の先生が経験されたのはふらつき・ろれつが回らない・半身麻痺といった、脳梗塞を思わせる意外な症例があったそうです。

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 3-3 急性大動脈解離の危険性

・ 虚腔が破裂して出血を起こす(死亡原因のほとんど)。

大動脈解離の位置

・ 虚構が心臓まで及ぶと

 ① 心臓の周りに血液や浸出液が多量に
   溜まって、心臓の動きが制限される
   ⇒ 心タンポナーゼ。

 ② 心臓の出口の弁(大動脈弁)を圧迫
   すると、弁が閉じにくくなり逆流が生
   じる ⇒ 急性心不全。

 ③ 冠動脈を圧迫して、急性冠症候群を
   起こすことがある。

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 3-4 大動脈解離の予防

残念ながら予防方法はありません。大動脈解離出現箇所

高血圧の方は、血圧をしっかり下げましょう。

でも、高血圧でない人でも発症します。

突然の激烈な胸背部痛はもちろん、体調が変だというときは我慢せずに受診しましょう。

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4 急性肺血栓塞症

 4-1 急性肺血栓塞症とは

静脈、心臓内で形成された血栓が遊離して、急激に肺動脈を閉塞することによって生じます。

肺動脈を閉塞する血栓大きさ、患者の心配予備能などにより発見する程度も無症状から突然死をきたすものまでさまざまあります。

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 4-2 肺血栓塞症の疫学

100万人当たり約60人が発症します。自覚症状のある女性

男性より女性が多く、60歳~70歳が多いです。

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 4-3 肺血栓塞症の症状

突然の呼吸困難、胸痛、指針など。

体動をきっかけに発症することがあります。(例えば、長期間床に伏せていた人が立ち上がったとき、長時間の座位の後に立ち上がったときなど)

※ 亜急性、慢性的な場合では、足のむくみや体動時に息切れがみられることがあります。

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 4-4 肺血栓塞症の危険性

日本では心筋梗塞より死亡率が高い。(急性肺血栓塞症での死亡率は約12%、心筋梗塞での死亡率は約7%です。)

死亡は、発症後早期に多い ⇒ 早急な診断が大事

心停止になった際に、すぐに胸骨圧迫を行っても肺から先に血液が生きにくいため、心臓が動き出しても意識が戻らない場合が多い

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 4-5 肺血栓塞症の危険因子

・ 長距離移動 ⇒ エコノミー症候群(※ 飛行機だけではない)

・ 長期臥床

・ 肥満静脈系統図

・ 妊娠

・ 手術

・ 心肺疾患(心不全など)

・ 悪性腫瘍

・ 外傷・骨折

・ 薬剤(経口避妊薬、ステロイドなど)

・ 中心静脈カテーテル留置など

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 4-6 肺血栓塞症の予防

長距離旅行の際は水分をしっかり摂り、可能な場合は乗り物の中を時々歩くようにし、足をこまめに動かすようにしましょう。

車中泊など、窮屈な状態で長時間同じ姿勢をとり続けるようなことは避けましょう。

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 4-7 参加された皆さんへ

① 胸や背中が痛いとき、相木らかに体調がおかしいときは我慢せずにすぐ受診しま
  しょう。

② 健康診断は定期的に受けましょう。

③ 食事に気を付け、適度な運動を心掛けましょう。

④ タバコを吸う人は、一刻も早くやめましょう。

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謝辞:文中に掲載した写真は、プロジェクターで投影されたものを撮影して転載しました。ありがとうございます。