はげちゃんの世界

人々の役に立とうと夢をいだき、夢を追いかけてきた日々

第22章 認知症について

2017(平成29)年12月8日午後、札幌市白石区民センターで開催された札幌市徳洲会病院主催の医療公開講座で、徳洲苑しろいしの岡本尚士施設長より経験に基づいた講演「認知症について」の要約です。

1 認知症を予防するために

 1-1 もの忘れの違い

加齢に伴う物忘れと認知症の物忘れは、明確に違いがみられます。

加齢に伴う物忘れ認知症の物忘れ
体験の一部分を忘れる体験全体を忘れる
記憶障害のみがみられる記憶障害に加えて、判断の障害や実行機能
障害がある
もの忘れを自覚しているもの忘れの自覚に乏しい
探し物も努力して見つけようとする探し物も誰かが盗ったということがある
見当識障害はみられない見当識障害がみられる
取り繕いはみられないしばしば取り繕いがみられる
日常生活に支障はない日常生活に支障をきたす
きわめて徐々にしか進行しない進行性である

事項機能障害=系統的・総合的に物事が考えられなくなります。(例:味噌汁がつくれない、リモコンが使えないなど)

見当識障害=時間・空間・人物が分からなくなります。

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 1-2 劣化の状態

脳の一部の細胞が壊れ、その働きを失うと新しく経験したことを覚えられない、すぐ忘れるといった記憶障害が起こります。

記憶の壺

人間には五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)で感じた情報を「一時的にとらえておく器官(触覚)」と、重要な情報を保存する「記憶の壺」が脳の中にあります。いったん「記憶の壺」に入れば必要な時に情報を取り出すことができます。

しかし、歳を取ると力が衰えて一度にたくさんの情報を捕まえておくことができなくなり、捕まえても壺の出し入れに手間取るようになります。歳を取って覚えが悪くなった、ど忘れが増えるのはこのためです。

認知症になると、病的に衰えてしまうため「記憶の壺」に治めることができなくなります。新しいことを記憶できずに、さきほど聞いたことさえ思い出せないのです。さらに病気が進行すれば「記憶の壺」が溶け始め、覚えていたはずの記憶も失われていきます。

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 1-3 認知症の予防

認知症の予防は、認知症の発症リスクを少なくすることです。

生活習慣の見直し

1) 食事習慣の見直し

肥満・高血圧・高脂血症に気を付ける ⇒ 2つに該当すれば脳血管認知症のリスクが2倍、3つに該当すれば6.2倍になります。

・ 野菜と果物類、ビタミンC・E、β―カロチンの摂取を忘れないように。

・ 魚類からDHA・EPAを摂取します。

・ 赤ワイン・コーヒー等からポリフェノールを摂取します。

1) 運動習慣の見直し

週に2~3回ウオーキング等の有酸素運動を実施 ⇒ 脳の活性化(記憶力がアップ)

・ 速く走れば糖質の消費が、歩いたりゆっくり走ると脂肪の燃焼が優先されます。

・ 筋肉を動かして脂肪を分解ホルモンを出しておけば、より脂肪は燃焼されます。

・ また、体を動かすことで脳に刺激が伝わり、脳が活性化します。

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 1-4 認知症の判断

認知症かどうかを判断するには、簡単な質問が適しています。

質問  最近のニュースはどんなことがありました?

あまり古いニュースを答えたり、思い出せずに話題を変える場合には要注意です。

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2 認知症の知識

 2-1 認知症の定義

認知症(Dementia)は、後天的な脳の器質的障害により、いったん正常に発達した知能が持続的に低下し、複数の認知障害があったために社会的に支障をきたすようになった状態を言います。

脳の図解

医学的には「知能」の他に、「記憶」「見当識」の障害や人格障害を伴った症候群を指します。

認知症の種類と割合

認知症の患者数は2012年時点で460万人と推計され、2025年には700万人講師の写真を超える推計値が出ています。65歳以上の方のうち、5人に1人が認知症になると推測されています。

高齢者の認知度の種類と割合は、アルツハイマー型が50%、レボー正体型が20%、血管性が15%、その他が15%となっています。

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 2-2 認知症の原因となる病気

1) 脳血管性認知症  脳血管障害(脳出血・脳梗塞)

・ 脳終結や脳梗塞といった病気から脳組織が損傷し発症します。損傷部位により認知
  症の程度が異なります。
 ・ 医学的リスク管理をしないと段階的に侵攻します。
 ・ 反応が遅い、意欲の低下、突然怒ったり泣いたりと感情失禁、夜間せん妄が見られ
  ます。
 ・ 人格は末期まで保たれます。

2) 神経性認知症
  ① アルツハイマー型認知症

・ アルツハイマー型認知症は、認知症の中で一番多いとされ男性よりも女性に多く見
  られます。
 ・ アルツハイマー型認知症は、脳にアミロイドβやタウと呼ばれる特殊なたんぱく質
  が溜まり、神経細胞が壊れて死んでしまい減っていく為に、認知機能に障害が起こる
  と考えれています。
 ・ 脳の異変は発症の何年も前から起きています。
 ・ 若年性認知症の一部には家族に遺伝する認知症もあります。

 ② レビー小体型認知症

・ 大脳皮質を含む中枢神経系にレビー小体が出現する疾患です。
 ・ 生々しい幻視や幻聴が繰り返し起きます。
 ・ 1日の中で正常に見える時、ボーットしているときなどを繰り返します。
 ・ 歩きにくい、動きが遅い(無動)、筋肉が固くなる(固縮)、手足がふるえる(振
  戦)といったパーキンソン症状を伴います。
 ・ 

 ③ 前頭側頭型認知症(ピック病)

・ 前頭葉・側頭葉に委縮が見られ、症状によって分かれます。
 ・ 社会的行動や人格の異常が比較的早期から見られます(前頭側頭型認知症)
 ・ 言葉を流暢に発することが少なくなります。(進行性非流暢性失語) 
 ・ 言葉の意味を理解できなくなります。(意味性認知症)
 ・ 反社会的な行為は常同化し、時刻表的な生活が本人にとって安心となります。

3) その他の膝下でなるもの
  ① 甲状腺機能低下症
  ② ビタミンB12欠乏
  ③ 慢性硬膜下血腫
  ④ 正常性水頭症等

4) 認知症の中核症状と周辺症状

中核症状とは、認知症の人に必ず現れる症状です(新しいことを覚えられない、段取りができない⇒記憶障害、見当識障害、失語・言語障害、失行、失認、実行機能障害)。

周辺症状とは、中核症状によって及ぼされる生活障害です(幻聴・幻視、物盗られ妄想、不眠、落ち着かない、介護の拒否、俳諧、食べ物以外を口にする)。

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3 認知症の判定

 3-1 認知症の検査

病院で認知症の検査で使用されている「改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDSーR)」をご紹介します。私が検査者で、みなさんが検査を受ける患者さんになります。これから五つの品物をお見せします。検査の最後の方で答えていただきますので忘れないようにしてください。

 3-1-1 質問事項

検査者は物陰から品物を一つ取り出して参加者全員に提示し、品物の名称を問いかけました。答えが出ると品物を隠し、これを五回繰り返しました。名称を問いかけた品物は「千円札・時計・鍵・ライター・ボールペン」でした。

問1.お歳はいくつですか。

   2年までの誤差は正解とします。1点です。

問2.今日は何年の何月何日何曜日ですか?

   年・月・日・曜日が正解で各1点です。

問3.私たちがいま居るところはどこですか。

   自発的に答えが出れば2点。5秒おいて家ですか?病院ですか?施設ですか?の
   中から正しい選択をすれば1点です。

問4.これから言う3つの言葉を言ってみてください。あとでまた聞きますのでよく覚
   えておいてください。

   以下の系列のいずれか1つで、採用した系列に〇印をつけておきます。
    ① a.桜 b.猫 c.電車   ② a.梅 b.犬 c.自動車
    1つ答えられれば1点、3つで3点です。

問5.1100から7を順番に引いてください。100から7を引くと?、それからま
   た7を引くと、と質問します。

   最初の答えが不正解の場合は打ち切ります。1つ答えられれば1点、2つで2点
   です。

問6.私がこれから言う数字を逆から言ってください。6-8-2、3-5-2-9。

   3桁の逆唱に失敗したら打ち切ります。1つ逆唱できたら1点、2つ逆唱で2点
   です。

問7.先ほど(問4で)覚えてもらったことをもう一度言ってください。

   自発的な回答で各2点、もし回答がない場合は、以下のヒントを与えて正解であ
   れば1点。
    ヒントは、a.植物 b.動物 c.乗り物

問8.検査が始まる前に見た5つ品物の名称を言ってください。

   千円札・時計・鍵・ライター・ボールペンのうち1つ答えられれば1点、5つで
   5点です。

問9.知っている野菜の名前をできるだけ多く言ってください。

   途中で詰まり、約10秒待っても出ない場合はそこで打ち切ります。
   0~5=0点、6=1点、7=2点、8=3点、9=4点、10=5点。

 3-1-2 判定方法

HDS-Rの最高得点は30点です。20点以下を認知症、21点以上を非認知症としています。HDS-Rによる重症度分類は行いませんが、各重症度群間に有意差が認められているので、平均得点を以下の通り参考とします。

非認知症:24±4  軽度:19±5  中程度:11±5  非常に高度:4±3

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4 認知症のケア

 4-1 認知症の人の異常行動

認知症の人の異常な行動は、分からないことによる不安から、本人が最善と考えた行動の現れです。

1) なんだっけ
   新しいことを覚えるのが難しいとともに、いったん覚えていた日常の当たり前が思
  い出せなくなります。⇒思い出せない辛さを自分に置き換えて考えてみてください。

2) あれっ
   思い出せないだけでなく、記憶そのものがすっぽり抜け落ちてしまい、記憶がつな
  がらなくなっています。⇒認知症の人が一瞬立ち止まったり、ぼうぜんとしている場
  面に出くわしたら、思い出して・・・。

3) そんなはずはない
   記憶が抜け落ちたことで、周りと本人の話に食い違いが起きています。間違いを指
  摘された本人は、隔たりや不信感を募らせます。⇒本人お話にあわせることが、よい
  関係を維持していくポイントです。

4) 今何時、ここはどこ?
   私たちの身体の中には、おおよその時間や場所の検討をつける働きがあります。そ
  れがなくなったとき、恐怖に近い体験になります。⇒「徘徊」は手掛かりを探してい
  るのかも・・・。

5) わたしはだいじょうぶ?
   認知症は進行性の病気です。周囲が分からなくなるとともに、自分自身も分からな
  くなっていきます。大声や人に突っかかることで、本人は訴えています。⇒新権な訴
  えに、真剣に受け止めてあげましょう。

6) これ、好き♪♪
   記憶としては残りませんが、一瞬一瞬の感情は記憶がはっきりしている人と比べ
  て研ぎ澄まされています。⇒今を生きているという、感情の記憶を大切にします。

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 4-2 適切なケアを提供

〇 家族の介護だけでは支えきれません。周囲の理解と協力が必要です。

   (介護サービスの活用、近所付き合い、地域での正しい理解)

〇 介護の悪循環を断つために介護者として、何をすべきか、介護者自身の健康管理に
  も留意してください。

   (レスパイトケア)

認知症と人の介護者との関係

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謝辞:文中に掲載した写真は、プロジェクターで投影されたものを撮影して転載しました。ありがとうございます。