2 血管の病気
2-1 血管に重要な2つの役割
生命活動には十分な酸素や栄養が必要ですし、生命活動で生じる老廃物の処理もです。酸素と栄養を供給して老廃物を処理するという二つの役割を担っているのが「血液」で、血液が体の中をめぐっていることを「循環」と言います。また、心臓を出発して再び心臓へ戻ることから「還流」とも呼んでいます。
血液が流れる「通路、パイプ」が血管で、全身に血液が行き渡るよう見事なネットワークが作られています。血管には、主に栄養分を運ぶ「動脈」と、老廃物を運びだす 「静脈」の二種類があることをご存知でしょう。
この血管が病気になって血液が流れにくくなれば、幹線道路で交通渋滞が起きたと同じです。栄養分も老廃物も運べず、物資の輸送が止まるという深刻な事態が生じます。血管が破れた場合は、水道管が破裂したと同じように全身に与える影響は深刻です。
脳の血管の病気には脳出血、脳梗塞などが、心臓の血管の病気には心筋梗塞や狭心症などがあります。このように脳や心臓など特定の「臓器」の中を循環する血管の病気はよく知られています。しかし、これら以外にも「血管自体」の病気は少なくありません。
血管の病気を大きく分けると、「こぶ」ができる場合と「詰まる」場合の二種類になります。「こぶ」には大動脈瘤や静脈瘤など、「詰まる」場合には動脈閉塞症、静脈血栓症などがあります。「こぶ」も「詰まる」場合も、動脈と静脈では事情が違います。
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2-2 動脈の「こぶ」
動脈の壁には常に強い圧力(血圧)がかかっています。壁に弱い部分があるとそこが膨らみ、拡張して「こぶ」、つまり「瘤(りゅう)」ができた状態になります。これが「動脈瘤」です。
動脈瘤は、どこにできているかによって「胸部大動脈瘤」、「腹部大動脈瘤」、「大腿動脈瘤」、「脳動脈瘤」などに、瘤のできた動脈壁の状態によって「真性」、「仮性」、「解離性」に、瘤の形によって「紡錘状」「嚢状」などに分類されています。
こぶのうち最も多いのは、おなかにできる「真性腹部大動脈瘤」です。「真性」は「本当、本物の」という意味で、真性のこぶは徐々に膨らんでくるので自覚症状がないことが多く、ほとんどは検診などで偶然見つかります。
胸部はレントゲン撮影で、腹部は「おなかの診察」や腹部の超音波検査で発見される場合がほとんどです。しかし、解離性のこぶ(最近は「大動脈解離」と呼ばれます)は、胸や背中に突然、痛みを伴って急に起こるのが特徴です。
大動脈瘤は解離性の場合を除いて、普通は何も症状が出ないので本人に苦痛はありません。しかし、急にこぶが破れてその部分(胸、腹など)が痛み、出血による貧血やショックなどが起こり、すぐに治療を受けなければ深刻な事態になります。
こぶが大きくなって周囲が圧迫され、胸部では声がかすれたり食物が喉を通らなくなったり、血の混じったたんが出たりします。こぶができた場所から、さらに先にある脳や心臓、腎臓や手足などに循環障害が起こることもあります。これらの障害が生じない間に、こぶを処置するのが治療の原則です。
外科手術でこぶのできた部分を人工血管に置き換える方法が最も信頼できる治療法と言われます。最近は、細い管(カテーテル)を血管の中に入れて、こぶの部分を治療する方法がしだいに普及してきました。
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2-3 動脈が「詰まる」
動脈が詰まってしまったために、手足の血流障害が起きた状態を「末梢動脈閉塞症」と言います。急に生じる「急性」と、徐々に進む「慢性」があります。
急性の動脈閉塞
動脈硬化などで狭くなった動脈に、血が固まりやすくなる条件(例えば脱水状態など)が重なると血の塊ができて詰まった状態を「血栓症」と言います。また心臓の弁膜症や不整脈が下地となって心臓の中にできた血の塊や、大動脈内にできた血栓がはがれて流れ出し、手足の末梢動脈をふさいでしまった状態を「塞栓症」と言います。
血栓症も塞栓症も、急に手足の激痛や冷感・しびれ感などが生じ、皮膚の色も白くなって皮膚も冷たくなります。血栓を取り出し、血流を再開すれば症状はまさに劇的に改善されます。そのためにはとにかく、一時間でも早く専門医にかかることです。
日ごろから、腕や足の脈をみる習慣をつけていれば発見しやすいので、家族の間で互いに脈をとる練習をお勧めします。急性動脈閉塞は、不整脈のある方や動脈硬化の進んだ方には、とくに注意してほしい血管の病気です。
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慢性の動脈閉塞
最近、とくに増えてきた「閉塞性動脈硬化症」と「バージャー病」があります。閉塞性動脈硬化症は、動脈硬化によって手足の末梢動脈が詰まったり、狭くなったりした状態でしびれ、冷感、歩行障害などいろいろな症状が出てきます。
動脈硬化は全身に起こります。脳や首の動脈、心臓に栄養を与える冠状動脈、大動脈、腎動脈、腹部や足の動脈などに程度の差はあれ、だれしも60~70歳台になると循環障害が起こり得ます。
下半身に起こる慢性の動脈閉塞の症状で、最も多くみられるのは歩行障害です。「ある距離を歩いたときに、ふくらはぎや太ももに凝りや痛みを感じ、休息すると痛みが改善して再び歩ける」という障害で「間歇性跛行(かんけつせいはこう)」と呼ばれています。
運動中の筋肉は、じっと安静にしている場合に比べて何十倍もの血液が必要ですから、歩行中に十分な血液を供給できない循環障害では、このタイプの歩行障害が起こるわけです。さらに循環障害が進むと、壊疽(壊死に陥った部分が腐敗・融解する状態)になる恐れもあり、細心の注意が必要です。
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末梢血管循環障害の診断
末梢血管の循環障害を調べるには皮膚の色や温度をみます。次いで、全身の脈拍を調べれば、大まかな循環状態をチェックすることができます。簡単に、しかも客観的に血流の状態をみる方法は、足関節での血圧測定です。
時々、腕と足関節での血圧をお医者さんに頼んで測ってもらってください。健康な人では足関節の血圧は、腕で測った血圧と同じか、少し上回っていますが、足に血流障害がある人では、逆に腕の血圧の8割以下に下がっています。
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2-4 静脈の「こぶ」
女性を悩ます下肢静脈瘤
静脈のこぶで多いのは、太ももや下腿部の表面の静脈がはれて「こぶ」になった下肢静脈瘤です。「瘤」と名がついても「動脈瘤」とは異なり、たとえ破裂しても大事にいたることはまずありません。紫色になる内出血も数分間、押さえていれば出血は止まります。
症状は足の鈍痛や、時々皮膚炎が起き皮膚が黒くなることなどですが、なによりも美容上で女性を悩ませる病気です。妊娠をきっかけに症状が出るようになったり、立ち仕事の人によくみられますが、静脈瘤ができやすい家系もあるようです。
静脈瘤かどうかは立ってもらい足を見ればわかりますが、どの静脈に起きているのか、原因は何かを調べて治療する必要がありますから、まず専門医の診察を受けてください。
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2-5 静脈が「詰まる」
足の表面でなく、より深い部分を流れている静脈が血栓(血の塊)によって閉塞し、血液が下肢に滞留してしまう状態が「深部静脈血栓症」です。静脈が「詰まる」場合に最も問題になるのがこの血栓症で、症状は滞留した具合によって、自覚症状がまったくない場合から、足のむくみ、痛み、激痛などいろいろな程度があります。
病気や手術後のため長期間、ベッドから離れられない場合や妊娠中などによる「血液のうっ帯(滞留)」が原因になります。このほか、血液を固める凝固因子の異常、けがやカテーテルで静脈の壁に傷がついた場合も原因になります。
静脈血栓症の診断には、検査で「血栓」があることを確かめることが必要です。下肢に「むくみ、痛み、発赤」などの症状が現れて血栓症が疑われる場合は、他の病気(全身疾患、表在静脈炎、蜂巣炎、リンパ浮腫など)と鑑別しなくてはなりません。
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2-6 動脈の硬化
動脈が固くなるとしなやかさが失われ、心臓は血液をうまく送り出せなくなるので負担がかかるようになります。血管内にコレステロールが溜まり始めると血液の流れが悪くなり、血管の内壁にコレステロールの塊り(プラーク)ができて血栓が形成されると血管が完全にふさがってしまいます。
マンションの給水給湯管大規模改修工事の際に外した給水管の内部は、酸化沈殿物が内壁に付着していました。給水管を血管に例えるなら、コレステロールの塊り(プラーク)はこのような状態になっているのでしょう。ゾットします。
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2-7 動脈硬化の検査
病院では、動脈硬化の危険因子である「高血圧」「脂質異常症」「糖尿病」「高尿酸血症」の有無を調べるために、血圧測定や採血をして血液中のコレステロール値、中性脂肪値、血糖値、尿酸値を検査します。
この検査で動脈硬化の危険因子が見つかった場合は、「直接異常を確認する心電図」、「眼底検査」のほかに、大きく分けて「血管の状態(厚さ・硬さ)を知る画像診断検査」と「血管の機能(硬さ)を知る精密検査」を行います。
下の2枚の写真はエコー検査結果の写真です。足の付け根に当たる鼠径部の浅大腿動脈をエコー検査すると、左側の写真は正常な状態で血管壁に付着物はありません。右側の写真は動脈内壁にプラークが付着して8割が詰まった状態であることが分かります。
エコー検査で調べた結果で動脈硬化の状態を比較すると、右下の写真が正常な状態、中央下の写真が血管内に狭窄がある状態、右下の写真は血管がプラークなどにより完全に閉塞して(詰まって)いる状態です。
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