はげちゃんの世界

人々の役に立とうと夢をいだき、夢を追いかけてきた日々

第3章 虫歯から入歯へ

高校生の時に初めてできた虫歯の治療を放置していたので抜かざるを得なくなり、その後も次々と虫歯を生み出して大半の歯を失いました。上顎歯をすべて失い取り外し可能な入歯となりました。愚かな行為から、予防に勝る治療はないことを知っていただきたい。

1 虫歯の発生原因

高校に入学して下宿生活をすることになり、母親が包んでくれた風呂敷包みを開くと洗面道具の中に「歯ブラシと歯磨き粉」が入っていました。説明書を読むと、毎朝そんなことをしなければならないのかと憂鬱になります。

中学を卒業するまで、歯ブラシを見たことも使ったこともなかったのです。歯の汚れを落とす方法は、水を口に含んで人差し指で歯の上下をこするだけです。汚れた水を吐き出した後は、何回か水で口の中をすすぎます。

高校1年生になって歯ブラシと歯磨き粉を与えられても、習慣として身についていないので毎朝洗面所へ行くときに用具をもって行くのを忘れがちになります。母親がそばにいないので、人差し指での歯磨きも手抜きをするようになりました。

この結果は火を見るより明らかです。高校2年生の初冬に奥歯が痛みだしました。虫歯になり始めのため、呼吸を早くしたり口に水を含んで我慢したり、歯が痛みだすとじっと堪えていました。

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2 歯の治療

虫歯は、歯の表面に付着した軟らかい食べかすなどをエサにして細菌が増殖し、増殖した細菌が糖を利用して「酸」を作り、その酸によって歯が溶かされる病気です。

大学へ入ってから頬が腫れ上がり、歯科医院へ行かざるを得なくなりました。混雑している待合室で30分以上待たされ、診察台で仰向けになると歯を削る音が響いて3分間で終了です。こんなことなら早く来ればよかったと思ったのはその時だけ、次の診察日を決められていつ終わるともしれない通院が続きます。

虫歯で歯が溶けた箇所を削り取らないと虫歯が再発します。虫歯で腐食した歯髄もきれいに除去しないと細菌が残り再発します。歯科医は歯根の先端まで穴をあけ、手作業できれいに切り取る作業を続けます。

歯科医院へ行くたびに、聞こえてくる歯を削る音と痛みが恐怖感を呼びます。どこまで削るのだろう、歯茎が裂けないだろうか、どのぐらいかかるのだろう、いつ終わるのだろう。待っている患者が多いので質問することもできません。

健康保険で行う治療の場合、歯科医師は患者に歯の状態や治療方法などを説明している時間がなかったのです。保険の診療報酬は単価が安すぎるので、数をこなさないと経営が成り立ちません。1人に3分以上の治療時間をかけていたら、収入源で歯科医師は生活ができなくなってしまうという時代でした。

健康保険で行われる治療(保険診療)は、だれもが同じ費用で悪くなった歯を噛めるようにする治療で、患者の費用負担は0~3割になります。保険が適用されない治療(自由診療)は、患者の要望で「見た目や噛む機能を向上させる」ことを目的とした治療で、費用全額が患者の負担になる治療です。

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3 鎮痛剤を知る

昭和30~40年ごろは「虫歯の洪水状態」といわれ、就職すると近所にも通勤途中にも歯科医院はありません。いつ痛み出すかわからないのでセデスという鎮痛剤を教えてもらい、かさ張らないので持ち歩くようになりました。

冷えた水がしみたり、ときどき痛みだしたりを繰り返した虫歯は、ある日突然痛みが続くことがありました。これを何度も繰り返していると、歯の内部にある神経を直接刺激されたような痛みになることがあり、鎮痛剤を飲んでも効果はありません。

人肌に冷ました湯で何度も口をすすいだり、正露丸を虫歯の上においても痛みは治まりません。やりきれなくなり、麻痺させようとウイスキーを口に含みました。痛みが静まるどころかアルコールが染みて痛みが激しくなります。絶対真似をしないでください。

札幌へ転勤してから訪れた歯科医院で見てもらうと、放置していた虫歯は抜かなければならなくなっていました。麻酔の注射針が歯茎に刺さるのは歯を削られるより楽でした。軍医だったという歯科医は一度に2本、一週間で5本抜いたこともありました。

あるとき抜いた歯を見て歯科医が驚きました。「見てごらん。」という声に目を開けると、歯の根に小指大ほどもある袋のようなものがぶら下がっています。「膿の袋ですよ。ずいぶん放置していましたね。こんな状態にならない前に治療しなければ危険ですよ」。

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4 最新のマシーン

手遅れになってから知りましたが、歯の硬度(硬さ)はどの程度かご存知でしょうか。歯のエナメル質は非常に硬く、硬さを計る単位でダイヤモンドは10段階、エナメル質は7段階です。7段階というのは、鋼鉄や銅にも傷をつけることができるほどの硬さになります。

歯は治療薬を飲んで直すというわけにはいかず、虫歯になっている病的な部分、硬い象牙質が酸で溶かされた部分を削り取ります。虫歯は病的な部分が全てくぼんでいるとは限らず、入口が小さくても内側で拡大している場合もあります。

1980年代にエアタービンが登場し、1分間に30万から50万回も研磨器を回転させることができるようになりました。ダイヤモンドの粉末のついた研磨器で、効率よく正確にエナメル質が削れるようになり、歯科医療の精度が向上して患者の精神的な負担も軽くなりました。

初めて出会ったエアタービンの音も嫌でした。長期間の通院を嫌い鎮痛剤のセデスを飲み続けましたが、効かなくなったある日の夕方、だれもいない小学校のグランドを転げまわったこともあります。転げまわることで痛みを忘れようとしていた、というのが正しく表現でしょう。

現在は、高速で歯を削るさいに発生する熱を冷却するために水が出るようになり、正確に削れるよう照明装置が組み込まれたものもあります。歯科医師は歯の削り過ぎを防止するため慎重に治療されていますが、患者はいつまで通えばよいのか、見通しがないことで嫌気がさしてきます。

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5 歯ぎしり

寝ている間の歯ぎしりは、歯を擦り合わせる歯ぎしりと食いしばりが中心になります。結婚してから、寝ている間は「ギリギリギリ」というものすごい歯ぎしりをしていることを知らされました。

ビールを飲みながらピーナツをかんだ瞬間、奥歯に激痛が走りました。歯科医院で「歯ぎしりが原因で、上下の奥歯の表面が擦り切れています。」と知らされました。はぎしりをすることで、歯の表面を覆うエナメル質が削られて知覚過敏になっていたのです。

歯ぎしりは、中枢に原因があって起こる睡眠障害の一種で、浅い眠りの時(レム期)に起こります。睡眠中は大脳皮質が抑制されて、噛む力をコントロールできないので大変強い力で顎の筋肉を動かし歯を擦るといわれます。

欲求不満や心が落ち着かない時は、ストレスを発散させるために歯ぎしりを必要としているという説もあります。歯ぎしりを一晩に2~3分する人もいれば2時間以上している人もあり、歯を食いしばっている時の力は奥歯で70kg前後にもなります。

歯科医より「傍で寝ている奥さんは、歯ぎしりの音が気になって寝不足でしょう。ストレスがあれば解消したほうが良いですよ。」と注意されましたが、ストレス解消法までは教えてもらえません。

もっとも体に悪いのは「歯を食いしばる」ことと言われます。緊張したときや悔しいときなどにぎゅーっと歯を食いしばることがあり、歯と歯が直接かみ合ってロックした状態になります。その状態が常時続くと、過大な力が歯やあごにかかるので多くの症状を引き起こします。口を閉じているときは、歯と歯が触れ合っていないのが最善です。

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6 連続した抜歯

歯医者さんが嫌いなのではなく、エアタービンの音が嫌いでした。見えないところを削られているのが嫌でした。虫歯にならなければよいのですが、相も変わらず歯磨きはいい加減でした。しだいに抜歯の数が増えてブリッジが多くなり、「健康な歯ですが、ブリッジの邪魔になるので抜きますよ。」といわれたこともありました。

虫歯の治療中に通院がいやになって止めてしまい、痛みだすと他の歯科医へ行きます。また通院がいやになって治療を放り出し、痛みだすと他の歯科医へ行きます。何軒の歯医院をはしごしたのか数えることもできませんが、しだいに虫歯は抜歯しなければならない状態になります。
上顎の入歯

このような愚かな行為を繰り返しているうちな入歯になりました。下の歯でまともなのは5本、4本残っている根を利用してブリッジが渡されています。腕の良い歯科医師と歯科技工士のおかげで、ピーナッツやアーモンドを食べることができるようになりました。

正しい歯磨きの仕方は、子どものうちに歯医者さんで教えてもらいましょう。面倒といわずに、習慣として身につけてしまえば歯を失うことはありません。予防に勝る治療はないのです。もし、虫歯があったら徹底的に直してもらいましょう。いつやりますか? いまでしょ!

歯医者さんにお願いしたいのは、予測できる治療期間を教えていただきたいことです。いつまでかかるか分らなければ憂鬱です。天気予報並みの確立であっても、目標ができれば通院も楽しくなります。

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