はげちゃんの世界

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第16章 太陽系外縁天体

太陽系外縁天体は、地球や火星のような惑星と同じ太陽の周りを公転する天体です。太陽系には、惑星、準惑星、太陽系小天体、太陽以外の天体の周りにある衛星という分類がされ、太陽系外縁天体は彗星などと同じ太陽系小天体に分類されています。

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1 準惑星となった冥王星

 1) 最果てにある星

冥王星は太陽系に属し、海王星よりも外側(ときに内側になるときもある)で太陽を周回する天体です。長らく太陽系第九惑星とされてきましたが、現在は太陽系外縁天体のなかの準惑星に分類されています。

1781年に発見された天王星は、その軌道運動が計算された位置からわずかにずれることが問題になりました。未知惑星の重力が天王星をふらつかせていると考え、天王星のふらつきから未知惑星の軌道を推測し、1846年に発見されたのが海王星です。

ところが、海王星からの重力の影響を考慮しても天王星のふらつきの一部が未解明として残りました。そこで、さらなる未知惑星を海王星の外側に探す試みが始まりました。その結果、1930年2月18日に冥王星が発見されました。

2006年1月、太陽系の最果ての天体冥王星へ向けて初の探査機が打ち上げられました。これまでの探査機よりもっともはやい速度でニューホライズンは太陽系を横断し、9年後に冥王星へ到達しました。

探査機ニューホライズンの出発から7か月後の地球で、これまであいまいだった惑星の定義が天文学者によって見直され、冥王星は惑星から外されました。太陽系の惑星を水星から海王星までの8個とすることが決定されたのです。

1992年以降、海王星の軌道以降に冥王星以外の天体が次々と発見され、これらが8つの惑星を取り囲むように分布していることが明らかになりました。観測技術の進歩によりすでに1000個以上の天体が発見され、現在では太陽系外縁天体と呼ばれています。

2003年に冥王星の近くに冥王星よりも大きな天体「エリス」が発見され、惑星の定義「その軌道周辺で圧倒的に大きく、他の同じような大きさの天体が存在しないもの」に冥王星は該当していないと判断されました。

冥王星は海王星の隣の軌道をまわる孤独な天体ではなく、無数の天体群れのひとつだったのです。科学者は冥王星を惑星に成長しきれなかった天体のひとつだと考えています。太陽系が形造られる歴史を教えてくれる貴重なサンプルなのです。

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 2) 分ってきた事実

ローウェル天文台に雇われたトンボーが1930年に新惑星を発見しました。新惑星の名前は「プルートー」(ローマ神話の冥界の神)で、名付親はイギリスの11歳の少女ベネシア・バーニーと発表されましたが、同じ名前の提案は約150件もありました。

星の民俗学者で随筆家で英文学者の野尻抱影は和名として冥王星を提案し、これが急速に広まり中国でも採用されました。1950年に当時世界最大の口径5メートルのパロマ天文台望遠鏡で観測され、直径は地球の半分以下で質量も1割と見積もられました。

1978年にアメリカ海軍天文台のクリスティが写真乾板の冥王星像に突起があり、その位置が変化していることから衛星を発見しました。彼はその衛星にカロンCharo(ギリシア神話に登場する冥界の川の渡し守)の名を提案して正式に命名されました。

カロンの公転周期は冥王星の自転周期と一致していました。互いの潮汐力の影響で、冥王星とカロンは同じ面を向けて公転しています。また、衛星の軌道運動から、冥王星の質量が地球の約0.2%しかないこともわかりました。

1985~1990年にかけて、冥王星とカロンが互いを隠しあう相互食が観測できました。それぞれの正確な大きさや冥王星表面に明暗模様があること、カロンの表面に水の氷があることなどもわかりました。2023冥王星年2月6日にジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が捉えた天王星には環がくっきり写っていました。

1990年ハッブル宇宙望遠鏡によって冥王星表面の明暗模様がより鮮明にわかり、新たなカメラがそれに取りつけられると2005年には新衛星も2つ発見され、2012年にはさらに2つの衛星が発見されました。現在までに確認されている衛星は5個です。

スペースシャトルで軌道に上げられた望遠鏡に取りつけられたCCDカメラの性能向上や、データ処理にコンピュータが使われるようになり、1992年からは海王星以遠の領域に直径数百キロメートルの新たな天体が次々に発見されるようになりました。

1989年のボイジャー2号の海王星接近時に測定された海王星の正確な質量を採用して天王星の軌道運動を計算した結果、冥王星発見へのきっかけとなった天王星のふらつきもなくなり、理論どおりの動きをしていることが1993年に判明しました。

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 3) 冥王星の姿

冥王星は太陽から平均距離約39.5天文単位(約59億キロメートル)で、公転周期は約248年ですが軌道の離心率が約0.25と大きいのです。このため地球から見た平均の明るさは15.1等級で、近日点付近での極大光度は13.65等級にもなります。

遠日点と近日点では太陽からの距離が約73億8000万キロメートルから約44億4000万キロメートルまで大きく変化し、冥王星の軌道はかなりの楕円(だえん)であるため、ときには海王星軌道の内側に入ってきます。

冥王星と海王星は16.7天文単位を超えて決して接近しません。海王星が3周公転する間に冥王星はちょうど2周公転するという特殊な関係のため、互いの接近が妨げられています。冥王星は現在もじょじょに太陽から遠ざかり、遠い未来遠くへと消え去るかもしれません。

探査機が出発したのは、冥王星が惑星ではなくなる決議がなされた国際天文学連合総会の7か月前でした。大型のグランドピアノほどの大きさの探査機は、アポロ宇宙船が3日以上かかった月までの距離をたった9時間で横断し13か月後には木星に接近しました。

木製の重力を利用して加速し、そしてついに2015年7月14日、探査機は冥王星に約1万2500キロメートルまで、カロンには約2万7000キロメートルまで接近して通過しました。冥王星

分光観測で冥王星の表面は凍った窒素、メタン、一酸化炭素、水の氷に覆われ、カロンは水の氷に覆われていました。冥王星の直径は2,376キロメートル、密度は1立方センチメートル当り1,854グラムであり、岩石と氷を主成分とする天体と思われます。

冥王星にみつかったハート型地形の左半分に位置するスプートニク平原は凍った窒素に覆われ、この冥王星平原には衝突クレーターがみられません。内部の熱エネルギーで対流が生まれ、表面にできた衝突クレーターが消し去られているようです。

周囲の「陸」部分は、窒素より密度の低い水やメタンの氷であると思われます。また、地下には液状の海があるようです。冥王星には窒素主体のきわめて希薄な大気も確認されました。

衛星のカロンの直径は1212キロメートル。密度は1立方センチメートル当り約1.7グラム。衛星というよりも、カロンは冥王星との二重天体とみたほうがよいのかもしれません。

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2 外縁天体

 1) 準惑星

太陽系外縁天体は、数多くの彗星や小惑星、準惑星を含んでいると言われていますが、その全貌は未だに明らかになっていません。太陽系の縁とも言える遥か遠い距離を公転している天体の数は、およそ1000個以上もあると考えられています。

2018年時点で、太陽系小天体にリストアップされている太陽系外縁天体のうち、名前がつけられているものは528個、名前のないものについては2000個以上はあるとの報告もあるようです。エリス

太陽系外縁天体の周囲には80個以上もの衛星があると言われています。中でも冥王星やエリス、マケマケ、ハウメア、クオメアーなどの直径1000km以上の天体については、すべて衛星があることがわかりそれぞれに名前もつけられています。

基本的に太陽系惑星の衛星の質量は、月以外は主星惑星の1万分の1未満と小さいものがほとんどです。ところが太陽系外縁天体の周囲の衛星は、どれも中心となる天体の10~100分の1と比較的大きいのが特徴です。円形を描く軌道に乗っていることも判明しています。マケマケ

太陽系外縁天体のほとんどは、氷でできた赤い天体だと考えられています。太陽系外縁天体は、木星よりも外側にあった軽い物質が惑星に取り込まれずに氷として残ったものとされ、この氷には水以外にもたくさんの有機物質が含まれています。

長い時間かけてあたった宇宙線が有機物質を変化させることで、氷の天体は赤く見えるそうです。「宇宙風化」あるいは「宇宙赤化」と呼ばれる現象です。そのため距離が遠い太陽系外縁天体は、全体的に暗い赤色であることを確認できるようです。

惑星になりそうな大きさのものを準惑星と呼びます。太陽系外縁天体のうち準惑星に分類できるものを特に区別して「冥王星型天体」と呼んでいます。これは太陽系外縁天体の準惑星の中でも、一番最初に見つかったのが冥王星であることからきているようです。

準惑星は冥王星が太陽系外縁天体にあると再分類されたときについた名称で、公式に定義されたのは2008年です。2019年時点で冥王星、エリス、マケマケ、ハウメアが冥王星型天体とされ、40以上が冥王星型天体に分類できる可能性があるそうです。

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 2) カイパーベルト

海王星よりも遠くの太陽系の外縁に円盤状に広がっている、複数の小さな天体の群れのことです。1943年にアイルランドのエッジワースが、1957年にアメリカのカイパーがそれぞれ提唱したことからその名前がつきました

散乱円盤天体は、エッジワース・カイパーベルトより外側にある太陽系外縁天体の群れです。ほとんどの天体は記号で管理されて、名前がつけられているのは冥王星型天体であることがわかっていエッジワース・カイパーベルトるエリスのみです。距離が遠すぎて未だに曖昧な部分を多く残っています。

太陽系外縁天体には、オールトの雲に含まれている天体もあります。オールトの雲とは太陽系の周りにある1万~10万auの大きさの、微惑星が球状に分布している部分を指します。彗星の巣ともいわれており、他の惑星の重力作用の影響を受けてできています。

「au」は天文単位です。地球と太陽の平均距離 = 1 auはおよそ1億5000万kmとされていますので、天文単位(au) × 150,000,000という計算式で、キロメートル(km)へ換算することができます。

太陽系外縁天体は、微惑星の生き残りと考えられています。微惑星とは46億年前に太陽系が誕生した時の始原的な天体のことです。太陽から遥か遠く離れたところにそんな存在があること自体、太陽系の大きさの計り知れなさを体感させてくれます。

太陽系外縁天体で新たな天体が発見されるたび、そこには第9惑星が発見される可能性が眠っているとされています。2018年にも新たな準惑星が発見され、ゴブリンという愛称がつけられました。

ゴブリンは氷で覆われた準惑星とされ、太陽から遥かに遠い距離を不規則な軌道を描いて公転しています。こうした準惑星があるということは、そこには太陽系の9番目の惑星、は地球と同じように生命を育んでいる惑星が存在する可能性をも示唆しています。

カイパーベルより外側には「散乱円盤天体」「オートルの雲」と言われる天体が存在します。惑星形成期に巨大惑星の領域にあった氷微惑星は巨大惑星から受ける重力作用によって跳ね飛ばされ、円から大きくずれた細長い楕円軌道をとっています。

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 3) オールトの雲

太陽系外縁天体の中では一番最初に見つかり、知名度も高い冥王星ですが、現状では2番目の大きさです。ちなみに、地球の直径は12742km。太陽系外縁には地球と同等のサイズやそれ以上のサイズもあるといわれているので、冥王星やエリスはそれに比べたらまだ小さい方です。

1AUは太陽と地球との距離が約1億5000万kmであることを意味していますが、2018年にその120倍もの距離の先Faroutという天体があることがわかりました。太陽の周りを1000年以上もの長い月日をかけてまわっていると言われています。オールトの雲

準惑星は冥王星型惑星以外にはメインベルト(火星と木星の間の小惑星が集中している領域)にあるケレスしかありません。ただし、セドナという小惑星が将来、冥王星型天体になる可能性があると言われています。

カイパーベルトより外側にあるのは「散乱円盤天体」です。ここにある天体は遠すぎてるため、まだ解明があまり進んでいません。散乱円盤天体は太陽からあまりにも遠く、暗くて見つかっていないものもまだたくさんあると考えられています。

オールトの雲とは「太陽系の最も外側の惑星である海王星の軌道の1000倍以上の距離を周回していると推測される、球状に分布して存在する膨大な数の氷でできた天体群」とされています。

簡単に言うとオールトの雲とは、小さな天体が無数に分布していると予想されている領域のことです。オールトの雲は理論上のものであり、本当に存在するかはまだわかっていません。そのため現在は仮説ではあるものの、否定する根拠もないと言われています。

オールトの雲に存在するのは水、一酸化炭素、二酸化炭素、メタンなどの氷が主成分の天体だと考えられています。天体の主成分が氷と思う人もいるかもしれません。例えば冥王星は内側は水の、表面は一酸化炭素や窒素、メタンの氷でできた惑星です。

地球・水星・金星・火星は、岩石や金属などの難揮発性物質で構成されている地球型惑星。天王星型惑星は、巨大氷惑星(アイスジャイアント)と呼ばれます。水素やヘリウムからできた天体は巨大ガス惑星(ガスジャイアント)と呼ばれ、木星や土星などは木星型惑星といいます。

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 4) 太陽系外縁天体研究史

太陽系外縁天体は、遠すぎるがゆえに太陽の光がわずかにしか届かず、全体的に暗く見えるとされています。そんな太陽系外縁天体が認知され、今日のように研究がなされるようになった歴史を簡単に見ていきましょう。

太陽系外縁天体が世間に認知され、その名称が正式に定められるきっかけとなったのが冥王星の分類が変わったことです。1992年、うお座の中でQB1と名付けられた小惑星が発見され、それを皮切りに数々の太陽系外縁天体が発見されました。

発見された太陽系外縁天体の中には冥王星を超える大きさのものもあり、疑問視されるようになりました。国際天文学連合で惑星や準惑星の定義を決めたところ、冥王星は惑星の定義をすべて満たしていないため、準惑星に再分類されることとなりました。

1930年に冥王星が発見され、多くの人々が冥王星の周辺に他の星が存在することを想像しました。ケネス・エッジワースは1943年に海王星よりも遠方には物質同士の間隔が広いために惑星になることのできなかった天体が存在していると仮設を立てました。

1951年にジェラルド・カイパーは、太陽系の進化の過程でエッジワースと同様に小天体による円盤が形成されたことを推測し発表しました。これらの小天体は冥王星によって太陽系の外に散乱したと結論づけていました。

2019年1月にニュー・ホライズンズがフライバイ探査を行ったエッジワース・カイパーベルト天体「アロコス」はヒョウタンのような形をしています。長軸の長さは35kmで、セドナよりもずっと小さいことがわかりました。アロコス

太陽系外縁天体の存在が認められ、天体同士の細かな衝突が太陽系外縁天体をつくりだしていることがわかってきています。太陽系外縁領域には直径100kmより大きな天体が7万個以上あり、そこでは頻繁に天体同士の衝突が起こっているとされています。

太陽系外縁には、地球と同等サイズかもっと大きいサイズの惑星が2つ以上はある、と予測されています。一方で、2019年には京都大学の研究チームによって「微惑星」の生き残りとされる小さな天体が発見されました。

大きい太陽系外縁天体ベスト3は、1位:エリスの直径約2400km、2位:冥王星の直径約2302km、3位:2003 EL61の2000×1000×1200kmとなってます。

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 5) セドナ探査計画

太陽系外縁天体「セドナ」は、太陽から最も遠ざかる時は約1000天文単位で最も近付く時でさえ約76天文単位も離れています。ロシア宇宙科学研究所の研究グループは、セドナへ条件の良いタイミングで2029年に探査機を送り込むそうです。

2003年に発見されたセドナは直径約1000kmと推定され、近日点距離が約76天文単位、遠日点距離が約1000天文単位(軌道長半径は約510天文単位)という太陽から遠く離れた楕円形の軌道を、約1万15000年周期で公転しているとみられています。

アメリカ航空宇宙局・ジェット推進研究所(NASA/JPL)の小天体データベースによると、セドナは2075年8月に近日点を通過します。別の言い方をすれば、セドナが約1万1500年ぶりに太陽へ最も近づくタイミングが、あと半世紀ほどでやってくることになります。

2015年7月に、NASAの探査機「ニュー・ホライズンズ」がフライバイ(接近通過)探査を行った準惑星「冥王星」は、太陽から約29.5~49.3天文単位離れた軌道を公転しています。近日点距離でさえ冥王星に比べればざっと2倍前後も遠い位置になります。

セドナを周回する軌道へ探査機を投入するためには大量の推進剤を搭載しなければならなくなるため、今回の研究ではニュー・ホライズンズによる冥王星探査と同様に一度限りのフライバイ探査が想定されています。

発表によると、最良の条件下で打ち上げ可能なタイミングは2019年。同年10月に打ち上げられた探査機は金星・地球・木星の重力を利用したスイングバイ(天体の重力を利用した軌道変更)で軌道を修正し、2059年10月にセドナへ到達します。

海王星よりも外側を公転するセドナのような天体は、太陽系初期の様子を伝える始原的な天体だと考えられています。冥王星以外で接近探査されたのは、2019年1月にニュー・ホライズンズがフライバイ探査を行ったエッジワース・カイパーベルト天体の「アロコスのみです。

今回の研究はセドナに探査機を送り込むための現実的なタイミングを調査したもので、具体的な探査ミッションが立案されたわけではありませんが、もしもセドナの接近探査が実施されれば太陽系の形成や初期の姿に関する理解がより深まることになるはずです。

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参考文献:国立天文台、NASA(アメリカ航空宇宙局)、BS12ディスカバリー傑作選「解明宇宙の仕組み」など。