1 海王星は巨大氷惑星
1) 海王星の概要
地球からおよそ45億キロ離れた宇宙空間、もはや太陽は明るく輝く一つの点に過ぎずかすかに届くその光は地球上の千分の1に弱まっています。探査機ボイジャー2号は12年にも及ぶ航海の末に、ようやくその領域にたどり着きました。
地球からは青くぼやけた光の円盤にしか見えなかった海王星、まるで地球の海を思わせる深い青色ですが、海ではなく惑星を包む大気の層です。海王星に海はなく、陸地すら存在しません。惑星の上空には白く輝く筋雲が見えます。おそらくメタンが結晶化した氷の雲でしょう。
一見ゆったりたなびくように見えて氷の雲は赤道方向へ激しく流れています。海王星の上空には秒速600メートルと言う暴風が吹き荒れています。海王星のダイナミックな大気の動きは巨大な渦を生み出します。その大きさは地球をすっぽり飲み込むほどの大きさです。
これらの現象はわずかに届く太陽エネルギーでは到底説明ができません。海王星はどうやら内部から熱エネルギーを放出しているようです。探査機は海王星の4本のリングをとらえました。太陽系では木星と土星、天王星と海王星はリングを持ちます。
海王星の組成は、何種類かの氷と15%の水素と少々のヘリウムを含んだ岩石により成っているに違いありません。木星や土星と違って海王星ははっきりした核を持たないようですが、何らかの固体成分はあるかも知れません。
外層大気は水素とヘリウムを主成分とし、海王星の総質量に占める水素とヘリウムの割合は少ないようです。天王星と海王星の組成および内部構造は似ているので、木星や土星とは区別して巨大氷惑星と呼ぶことも多いのです。
海王星の自転軸には地球と同様に傾き (約28度) があり、四季が訪れます。太陽の周りを165 年以上かけて公転し、ひとつの季節は40年以上かけてゆっくりと移り変わります。
研究者たちを驚かせたのは海王星の気温が低下していたことでした。例えば成層圏の平均気温が、2003年から2018年の間におよそ8度も下がっています。研究者は「この変化は予想外で、2003年は海王星の南半球の初夏にあたり、地球から見える平均気温は徐々に高くなると考えていました」と述べています。
2) 宇宙望遠鏡に期待
その後、さらに劇的な変化が起きます。2019年のジェミニ北望遠鏡と2020年のすばる望遠鏡の観測により、海王星南極域での成層圏の気温が2018年から2020年にかけて11 度も急上昇し、これまでの冷却傾向を逆転させたことが分かりました。このような極域の温暖化が海王星で見つかったのは初めてです。
これらの予想外な気温変化の原因は今のところ不明です。海王星の気温変化は、大気の化学的性質の季節による変化と関係している可能性があります。しかし、気象パターンのランダムな変動や、11年の太陽活動周期も影響しているかもしれません。
太陽の活動が海王星の可視光域での明るさに影響を与えることは以前から指摘されていましたが、今回、成層圏の温度や雲の分布にも相関のある可能性が示唆されました。
暫定的ながら新たに見つかった、太陽活動と海王星成層圏の状態の相関の検証には、長期的な追観測が必要です。海王星は天王星とともに、彗星のような氷天体が集積してできたガス成分が比較的少ない「巨大氷惑星」の仲間です。
この2惑星は未だに周回探査機による調査がなされておらず、次世代の惑星探査の目標として国際的な注目を集めています。この点からも海王星の追観測は重要ですが、その一番手となるのが、2021年末に天王星と海王星の観測を予定しているジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の中間赤外線観測装置MIRIです。
しかし、2021年12月の打ち上げ後に予想以上に大きな小隕石がのミラーセグメントの1つを直撃しました。望遠鏡の18枚の金メッキ鏡の1枚に小さな石が衝突し、大きな損傷を与えたとのことです。
ハッブル宇宙望遠鏡は円筒形の筐体の中に観測装置が収まっているので、ある程度衝突に対して耐性がありました。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、宇宙空間に開かれた巨大な反射鏡のため保護筐体はないのです。
上の画像にある「ステファンの五つ子」は、約2億9000万光年の距離で近接している4つの銀河と、かなり手前の4000万光年の距離にある1つの銀河で構成されています。4つの近接した銀河を観察することで、相互作用する銀河が互いに星形成を促す状況や銀河内のガスがどのように撹乱されているかがわかります。
科学者たちはあまりにも美しい光景に息をもみました。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、海王星大気の化学的性質と温度について前例のない新しいデータを提供することが期待されます。