1 不思議な惑星
1) 天王星の誕生
現在の理論では、木星から海王星までの巨大ガス惑星は、まず小天体がたくさん集まってその核を作り、それがさらに原始太陽系のちりやガスを集めることで形成されたと考えられています。
天王星、海王星が存在する太陽から遠くはなれた場所は、ちりやガスが希薄すぎて、どんなモデルを考えても、45億年の太陽系年令以内に天王星、海王星をうまく作り上げることができません。
カナダ、クイーンズ大学のトムズ博士らが、新しい考え方を提案しています。トムズ博士らによると、天王星、海王星はずっと太陽に近い場所で形成され、後から現在の遠く離れた場所に投げ出されたというのです。
この状況を再現するため、トムズらは太陽から5~10天文単位のところに4個の核を置き、さらに地球質量の100~200倍に達する物質を原始太陽系円盤として適当な配置で分布させ、それらの運動を500万年にわたって数値積分で追跡するシミュレーションを何回もおこなったのです。 その結果、つぎのような成長の大筋が得られました。
惑星の核は円盤の物質に衝突し、それらを捕獲してしだいに大きくなります。たまたま多少成長が早く大きくなった核は、その重力でますます多くの物質を集めより早くより大きく成長します。まず木星が、続いて土星がこうして大きくなったため、重力的に優勢なこの2惑星が、成長が遅れた天王星、海王星をその重力で遠くへ投げ出します。
投げ出された天王星と海王星の当初の軌道は、長く伸び傾いたものですが、その後、円盤物質との力学的摩擦で、しだいに円く傾斜の小さい現在の軌道に落ち着くきます。こうして現在の惑星配置になったというのがトムズ博士らの説明です。
さまざまな初期条件で計算したシミュレーションの半分程度は、現在の惑星配置に似た形になったそうです。ほとんどのシミュレーションで40天文単位以上の領域に、最終的に現在のカイパーベルト天体によく似た物質分布が生じたことは特筆する価値があるでしょう。
この計算はまだかなり粗っぽいもので、これだけの結果から太陽系の形成過程を結論付けることはできません。しかし、ひとつの方向を示したものといえます。
モデルを精密にすればより正確な結果が得られますが、それだけアルゴリズムは複雑になり、計算に時間がかかるようになります。したがって、この種の計算はコンピュータの能力に大きく依存するのです。
2022年11月8日に皆既月食が起こりました。月食中に天王星食も起こる非常に珍しい皆既月食となりました。国立天文台天文情報センターは、東京都にある三鷹キャンパスで月食と天王星食の撮影とライブ配信を行いました。
2) 青い天王星
地球の4倍ほどの直径を持つ天王星は、深いガスに包まれた巨大な氷惑星です。天王星はその周囲にか細く細いリングを持つちます。リングを構成する1メートルほどの氷の粒の表面は、放射線によって黒く変色し太陽光をほとんど反射しません。
均一でまるで変化のない青い球体、天王星を覆う水素とヘリュウムの厚い大気はメタンを含んでいます。大気の下にはアンモニアとメタンが混ざった氷の層があります。更に中心部には氷と岩石からなる小さな核があるはずと言われています。
天王星は97.77°で傾いています。これは、惑星の自転軸が太陽系の平面とほぼ平行であることを意味します。天王星型惑星は、太陽系の惑星の中で最も重要な赤道傾斜角を持っています。
この結果、至点(夏至と冬至)では天王星の1つの極が継続的に太陽に面し、惑星全体で非常に珍しい昼と夜のサイクルにつながります。極では42年の地球の日とそれに続く42年の夜を経験します。
一方、分点(赤道と黄道とが交わる点)の周りでは太陽は惑星の赤道に面し、他の惑星と同様に平均的な昼夜の周期を与えています。
3) 不思議な惑星
天王星の自転軸がこのように横倒しになってしまったのは、天王星に他の天体が衝突したためと考えられています。衝突によって、おそらく公転方向とほぼ同じだったそれまでの自転の向きが、現在の向きに変えられてしまったのです。
この衝突は、太陽系がまだ若い、天王星やその衛星たちができはじめの頃におこったと考えられています。天王星の衛星の軌道も、天王星と同じようにそっくり横倒しになっているからです。
天王星が青緑色に見えるのは、上層大気に含まれるメタンによって赤色光が吸収されるためです。ただし、色は公転に伴って変化します。そのため、天王星には季節変化があると推測されています。
天王星の大気は、他のガス惑星と比べると雲がほとんど見られず、特徴の少ないのっぺりとした外観をもっています。これは、横倒しになった自転軸の影響で、昼夜での気温変化がほとんどないためと考えられます。
2007年に天王星は春分を迎え、赤道方向に太陽光が当たるようになると気温変化が起りました。実際、2011年に北半球でかなとこ雲に相当する白い雲が観測され、これはメタンの氷で出来た雲と考えられています。
天王星の大気には水素が約83%、ヘリウムが15%、メタンが2%含まれています。内部は重い元素に富み、岩石と氷からなる核のほか、水やメタン・アンモニアが含まれる氷からなるマントルで構成されていると推測されています。
酸素・炭素・窒素が多く含まれ、ほとんどが水素とヘリウムで出来ている木星や土星とは対照的です。天王星と海王星は従来木星型惑星に分類されていましたが、木星や土星の核から液体の金属水素の層を除いたものによく似ており、内部は比較的均一に分布しているようです。
4) 天王星の環
天王星がてんびん座の9等星の前を通過すると星食という現象が見られるという予報を受けて、1977年3月10日世界各地の天文台が天王星に注目していました。インド洋上空には望遠鏡を搭載したNASAの飛行機、カイパー空中天文台も待機していました。
驚いたことに、現象予定時刻までまだ35分もあるのに、恒星が不思議なまたたきを示しました。このまたたきは5回観測され、星食が終わった後も逆の順番で繰り返されました。天王星の環の発見です。天王星の環は、その後の観測によって現在13本が確認されています。
環と環の間隔がだいたい1000km以上あるのに対して、環の幅は非常に細く、最大の環でも20~100kmしかないのが特徴です。また、炭素質隕石のような黒っぽい物質でできていることもわかっています。
天王星の環は比較的若く、6億歳を超えないと考えられています。天王星の環は恐らくかつて天王星の周りにあった天王星の衛星が、衝突によって砕けた破片からできていると考えられます。衝突後、衛星は無数の破片に分かれ、最も安定な軌道に密集して公転しているようです。
天王星の環の大部分は、不透明であり幅はわずか数kmです。環全体に塵の量は少なく、ほとんどは直径0.2~20mの大きな粒子です。塵の量が少ないのは天王星の外気圏に引っ張られるためです。
狭い環を形成する詳細な機構はまだよく分かっていません。当初は、全ての狭い環は1対の羊飼い衛星を伴ってその形を保っていると考えられました。しかし、1986年にボイジャー2号が発見したそのような羊飼い衛星は、最も明るい環(ε)の周囲のわずか1対(コーディリアとオフィーリア)のみでした。
羊飼い衛星とは、その衛星の重力作用により惑星の環に影響を与え、その崩壊を防いでいる衛星のことです。 羊飼い衛星は、その性質上、環の外縁や隙間に位置して発見されます。太陽系内では土星と天王星及び海王星に羊飼い衛星が確認されています。
5) 天王星の磁場
天王星と海王星は「氷惑星」と呼ばれることもある、ほとんどが水や氷でできている惑星です。磁石には地球のように、鉱石がとてつもない圧力を受けることでできる「永久磁石」と、電気が流れることで作り出される「電磁石」の2種類があります。
ボイジャー2号によって、天王星に磁場の存在が確認されました。その強さは地球とほぼ同じです。しかし地球や木星とは大きく異なる特徴として、磁場の中心は惑星の中心から大幅にずれており、また磁場の軸が自転軸から60°も傾いています。
そのため、地球のそれよりずっと大きく変動するとされています。ヴァン・アレン帯も土星並みに強く、内側の衛星や環に存在するメタンは、強い化学変化を受けて黒っぽく変色してしまいます。
天王星に鉱石はないので永久磁石はできません。ところが、水は電気を通しにくい性質があります。確かに、水に電気コードがつかっていると感電の危険がありますが、水は銅や鉄などと比べるとはるかに電気を通しにくく、電磁石にはなりません。
それなのに、なぜ磁場が発生しているのでしょう。この謎に挑んだのが、大阪大学大学院工学研究科の尾崎典雅准教授や、岡山大学惑星科学研究所の奥地拓生准教授らの研究グループです。実験には、大阪大学にある世界有数の大規模なレーザー施設を使いました。
12本のレーザービームを1か所に集めて対象物に当てることで、大きな圧力をかけることができます。まず用意したのは、天王星や海王星と同じ成分の液体です。天王星と海王星がどのような成分でできているのかは、これまでの研究から明らかになっています。
この液体を、レーザー研究所の実験装置に取り付け、2つの惑星の深さ5000キロほどと同じおよそ300万気圧の圧力をかけて、2つの惑星で何が起きているのか探りました。液体が高い圧力で圧縮されることで液体の原子どうしが近づき、さらに、原子の周りを飛び交う電子も近づくことで電子が動けるようになり、電気が流れる状態になった様子を観測することができました。
この状態を再現できたのは、10億分の1秒という極めて短い時間でしたが、研究グループは、この様子を撮影することに成功しました。今回の研究成果は、宇宙の謎を1つ解明するだけでなく、惑星の地下の奥深い場所でどのような反応が起きているのか分析することで、地球に存在しない物質や素材を作る研究や新たな物質を合成したり、新たな化学反応を起こしたりする研究に役立つと期待されています。
6) 今後の調査計画
天王星の大気には、木星や土星には多かったアンモニアがほとんどありません。これは低温で凍り付いてしまっているためと考えられています。これに対して、メタンは木星や土星と同じくらい多く大気中に含まれています。このメタンが青い色の正体なのです。メタンは赤い光を吸収してしまう性質を持っています。
人類が天王星を間近で観察したのは1986年に惑星探査機ボイジャー2号が接近したときの1回だけで、科学者たちはこのミルキーブルーの惑星について、少数の興味深い事実以外ほとんど何も知りません。
2011年に発表された前回の10年戦略では、火星のサンプルリターンを優先するよう提言していました。NASAの火星探査車「パーシビアランス」は、現在、このミッションの第一段階を完了しつつあり、赤い惑星の表面を走り回りながら岩石や土砂を収集、いつの日か地球に送り返すために貯蔵しています。
惑星科学者達は2022年4月19日、「惑星科学と宇宙生物学の10年戦略」と題する報告書を発表し、NASAに対して天王星へのミッションを今後10年間の最優先事項とすること、できれば2031年にも天王星探査機を打ち上げることを提案しました。
天王星の大きな魅力は、太陽系のもう1つの氷の巨大惑星である海王星とともに、銀河系で最も一般的なタイプの惑星であるかもしれないという点です。科学者たちは、天王星の奇妙な磁場、内部構造、驚くほどの低温などの謎を解くことは、銀河系のあちこちで見つかっている氷の巨大惑星を理解するためだけでなく、太陽系の歴史に関する手がかりを得るためにも重要だと考えているのです。
今回提案された「天王星周回機・探査機」ミッションでは、周回機が数年がかりで天王星とその衛星たちを観測しながら、小型の探査機を放出して天王星の大気も調べます。2004年~2017年まで土星系を探査して大きな成功を収めたNASAのカッシーニ・ミッションと同様の計画です。
惑星科学コミュニティーでは、「10年ごとの調査」と呼ばれる大規模な調査を行い、次の10年間に優先的に行うべき探査・研究について勧告する報告書をまとめています。この報告書は、NASAと全米科学財団がどのプロジェクトに投資するかを決定する際の指針として用いられます。
7) 天王星の衛星
21世紀初頭現在、天王星には27個の衛星が発見され、27個の衛星はすべて命名されています。ただし環の挙動から、未知の衛星が存在しているかもしれないとの報告もあります。天王星はリングのほかに多くの衛星を持っています。
探査機はミランダ、アリエル、ウンブリエル、チタニア、ベロンなどへ接近しました。いずれも氷を主成分とした衛星で、最大のチタニアの直径は1600キロ、地球の月の半分ほどの大きさでした。
5つの衛星の中でミランダの姿は最も科学者を驚かせました。直径わずか480キロの衛星の表面は、えぐり取られたような深い溝、地表を平湖に走る深いうねり、そして切り立った深い崖に覆われていました。ミランダは太古の衝突により一度バラバラになり、再び合体した過去を持つのかもしれません。
天王星の衛星の名前の由来には、シェイクスピアの戯曲の中心人物やヒロイン、詩人のアレキサンダー・ポープ作品に出演している人物の名前にちなんでつけられています。その中から抜粋して一部の衛星の名前の由来を紹介します。
ロザリンドは、シェイクスピア「お気に召すまま」の登場人物でヒロインに追放される公爵の娘に由来します。
ミランダは、シェイクスピア「テンペスト(大嵐)」で追放されたミラノ大公プロスペローの娘にちなんでつけられました。
パックは、シェイクスピアの「夏の夜の夢」に、いたずら好きな妖精として登場した妖精の名前にちなんでつけられました。
チタニアは、シェイクスピア「夏の夜の夢」に登場人物で妖精の女王が由来でつけられました。
ステファーノは、シェイクスピア「テンペスト」に登場する難破船の酒好きのシェフが由来でつけられました。
チタニアは、シェイクスピア「夏の夜の夢」の登場人物で、妖精の女王が由来でつけられました。
ポーシャは、シェイクスピア「ヴェニスの商人」のベルモントの女相続人が由来でつけられました。