1 政府の取り組み
1-1 世界の取り組み
認知症への対策が課題になっている主要7カ国(G7)の政府や、世界保健機関(WHO)関係者が集まる国際会議「認知症サミット日本後継イベント」が平成26年11月5~6日に東京の六本木ヒルズで開かれました。
この会議で安倍総理大臣は挨拶の中で次のように述べました。
私は本日ここで、我が国の認知症施策を加速するための新たな戦略を策定するよう、厚生労働大臣に指示をいたします。我が国では、2012年に認知症施策推進5か年計画を策定し、医療・介護等の基盤整備を進めてきましたが、新たな戦略は、厚生労働省だけでなく、政府一丸となって生活全体を支えるよう取り組むものとします。
総理の挨拶に続いて、塩崎厚生労働大臣は新たな戦略の策定に当たっての基本的な考え方を述べました。
① 早期診断・早期対応とともに医療・介護サービスが有機的に連携し、
認知症の容態に応じて切れ目なく提供できる循環型のシステムを構築す
ること
② 認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて、省庁横断的な総合的
な戦略とすること
③ 認知症の方御本人やその御家族の視点に立った施策を推進すること
各国が最新の研究成果や取り組みなどを報告し高齢化が最も進む日本も対策強化の方針を表明しました。2014年11月28日付の日本経済新聞は次のように伝えています。
英国では認知症の人は現在約80万人で、2021年には100万人を超えるとみられている。生活習慣との関係に着目し、40歳以上の全国民を対象に、喫煙や飲酒、運動不足などの習慣を改善するための、健康カリキュラムを実施しているという。
深刻な課題になっているのは米国も同じだ。報告によると、認知症患者は約500万人に上り、関連経費は年間千億ドル(約11.7兆円)以上かかっているとされる。25年までに効果的な予防法と治療法を確立し、患者や家族のサポートの拡大を目指しているという。
認知症の女性が急速に増加し、男性の2倍になったというカナダも国を挙げて研究を進めており、担当者は「女性の脳の健康が大事だ」と強調した。フランスは、若年性認知症や複雑な症状を診断できる専門的な医療機関が、全国に配置されていることを説明した。ドイツとイタリアからは、治療薬開発などを求める声があがった。
高齢化がハイペースで進む日本の対策に対する関心は高い。日本は、厚生労働省が昨年度から始めた「認知症施策推進5カ年計画(オレンジプラン)」の内容を報告した。認知症の人々が地域の中で暮らせるための仕組みづくりなどが注目を集めた。
具体的には、医療・介護の専門職が患者の自宅を訪問する「初期集中支援チーム」や、認知症の高齢者や家族が集まる「認知症カフェ」、住民や商店が徘徊(はいかい)する高齢者を保護する取り組みを説明。国立長寿医療研究センター(愛知県大府市)による、日常生活で簡単にできる認知症予防トレーニング(認知症予防に向けた運動コグニサイズ)が紹介されると、参加者から「効果がありそうだ」などの反応が上がった。
1-2 日本の取り組み
厚生労働省の2015年1月の発表によると、日本の認知症患者数は2012年時点で約4652万人、65歳以上の高齢者の約7人に1人と推計されています。認知症の前段階とされる「軽度認知障害(MCI)」と推計される約400万人を合わせると、高齢者の約4人に1人が認知症あるいはその予備群ということになります。
医療機関を受診して認知症と診断された人の数字ですから、症状があってもまだ受診していない人も含めると患者数はもっと増えると考えられます。厚労省が今回発表した推計によれば、団塊の世代が75歳以上となる2025年には、認知症患者数は700万人前後に達し、65歳以上の高齢者の約5人に1人を占める見込みです。
65歳未満で認知症を発症する場合もあり「若年性認知症」と呼ばれています。若年性認知症はアルツハイマー病が多く、とくに40代や50代の働き盛りで起こると老年性の認知症よりも早く進行し、症状も重くなる傾向があります。仕事や子ども、マイホーム、お金の問題など、高齢者の認知症とは違う現役世代ならではの悩みを抱えるため、手厚いサポートが必要になります。
徘徊による死亡や行方不明の高齢者は1年間に約900人とも1400人ともいわれます。認知症による不明者のうち55.8%が男性で、不明者の原因や動機は高齢層ほど認知症の割合が高まり、60代は人口10万人当たり7.3人ですが70代は48.1人、80代以上は74.3人となっています。
認知症サミット日本後継イベントで注目を集めた、認知症の人々が地域の中で暮らせるための仕組みづくりである「認知症施策推進5カ年計画(オレンジプラン)」を紹介します。
認知症施策推進5ヶ年計画(オレンジプラン)
~平成25年度から29年度までの計画~
1.標準的な認知症ケアパスの作成・普及
○ 「認知症ケアパス」(状態に応じた適切なサービス提供の流れ)の作成・普及
・ 平成24~25年度 調査・研究を実施
・ 平成25~26年度 各市町村において、「認知症ケアパス」の作成を推進
・ 平成27年度以降 介護保険事業計画(市町村)に反映
2.早期診断・早期対応
○ かかりつけ医認知症対応力向上研修の受講者数(累計)
平成24年度末見込 35,000人 → 平成29年度末 50,000人
【考え方】高齢者人口約600人(認知症高齢者約60人)に対して、1人のかかり
つけ医が受講。
※ 後述の「認知症の薬物治療に関するガイドライン」も活用して研修を実施
○ 認知症サポート医養成研修の受講者数(累計)
平成24年度末見込 2,500人 → 平成29年度末 4,000人
【考え方】一般診療所(約10万)25か所に対して、1人のサポート医を配置。
○ 「認知症初期集中支援チーム」の設置
・ 平成24年度 モデル事業のスキームを検討
・ 平成25年度 全国10ヶ所程度でモデル事業を実施
・ 平成26年度 全国20ヶ所程度でモデル事業を実施
・ 平成27年度以降モデル事業の実施状況等を検証し、全国普及のための制度化
を検討
※ 「認知症初期集中支援チーム」は、地域包括支援センター等に配置し、家庭
訪問を行い、アセスメント、家族支援等を行うもの。
○ 早期診断等を担う医療機関の数
・ 平成24~29年度 認知症の早期診断等を行う医療機関を、約500ヶ所整
備する。
【考え方】認知症疾患医療センターを含めて、二次医療圏に1ヶ所以上。
※ いわゆる「身近型認知症疾患医療センター」の機能(早期診断・早期支援、
危機回避支援)については、平成25年度までに、認知症サポート医の活動状
況等も含めた調査を行い、それを踏まえて検証する。
○ 地域包括支援センターにおける包括的・継続的ケアマネジメント支援業務の一環
として多職種協働で実施される「地域ケア会議」の普及・定着
・ 平成24年度「地域ケア会議運営マニュアル」作成、「地域ケア多職種協働推
進等事業」による「地域ケア会議」の推進
・ 平成27年度以降 すべての市町村で実施
3.地域での生活を支える医療サービスの構築
○ 「認知症の薬物治療に関するガイドライン」の策定
・ 平成24年度 ガイドラインの策定
・ 平成25年度以降 医師向けの研修等で活用
○ 精神科病院に入院が必要な状態像の明確化
・ 平成24年度~ 調査・研究を実施
○ 「退院支援・地域連携クリティカルパス(退院に向けての診療計画)」の作成
・ 平成24年度 クリティカルパスの作成
・ 平成25~26年度 クリティカルパスについて、医療従事者向けの研修会等
を通じて普及。あわせて、退院見込者に必要となる介護サービスの整備を介護保
険事業計画に反映する方法を検討
・ 平成27年度以降 介護保険事業計画に反映
4.地域での生活を支える介護サービスの構築
○ 認知症の人が可能な限り住み慣れた地域で生活を続けていくために、必要な介
護サービスの整備を進める。(別紙参照)
5.地域での日常生活・家族の支援の強化
○ 認知症地域支援推進員の人数
平成24年度末見込 175人 → 平成29年度末 700人
【考え方】5つの中学校区当たり1人配置(合計約2,200人)、当面5年間
で700人配置。
※ 各市町村で地域の実情に応じて、認知症地域支援推進員を中心として、認知症
の人やその家族を支援するための各種事業を実施
○ 認知症サポーターの人数(累計)
平成24年度末見込 350万人 → 平成29年度末 600万人
市民後見人の育成・支援組織の体制を整備している市町村数
平成24年度見込 40市町村
将来的に、すべての市町村(約1,700)での体制整備
○ 認知症の人やその家族等に対する支援
・ 平成24年度 調査・研究を実施
・ 平成25年度以降「認知症カフェ」(認知症の人と家族、地域住民、専門職等
の誰もが参加でき、集う場)の普及などにより、認知症の人やその家族等に対す
る支援を推進
6.若年性認知症施策の強化
○ 若年性認知症支援のハンドブックの作成
・ 平成24年度~ ハンドブックの作成。医療機関、市町村窓口等で若年性認知
症と診断された人とその家族に配付
○ 若年性認知症の人の意見交換会開催などの事業実施都道府県数
平成24年度見込 17都道府県 → 平成29年度 47都道府県
7.医療・介護サービスを担う人材の育成
○ 「認知症ライフサポートモデル」(認知症ケアモデル)の策定
・ 平成24年度 前年度に引き続き調査・研究を実施
・ 平成25年度以降 認知症ケアに携わる従事者向けの多職種協働研修等で活用
○ 認知症介護実践リーダー研修の受講者数(累計)
平成24年度末見込 2.6万人 → 平成29年度末 4万人
【考え方】すべての介護保険施設(約15千)とグループホーム(約14千)の
職員1人ずつが受講。加えて小規模多機能型居宅介護事業所、訪問介護事業所、
通所介護事業所等の職員については、すべての中学校区(約11千)内で1人ず
つが受講
○ 認知症介護指導者養成研修の受講者数(累計)
平成24年度末見込 1,600人 → 平成29年度末 2,200人
【考え方】5つの中学校区当たり1人が受講。
○ 一般病院勤務の医療従事者に対する認知症対応力向上研修の受講者数(累計)
新規 → 平成29年度末 87千人
【考え方】病院(約8千7百)1か所当たり10人(医師2人、看護師8人)の医
療従事者が受講。
1-3 徘徊認知症高齢者への援助
高齢になると記憶力や判断力が低下し、道を間違えたり自分の家がわからなくなることがあります(認知症による徘徊)。徘徊により行方不明となった場合に、その情報を市の関係機関に提供し早期発見・早期保護を図ります。