1 序章
町内五箇所のごみ置き場にネットを備え付け、ごみが散乱しないようにおおえる工夫がされていました。時の流れは持ち家を減少させて賃貸マンションの増加を招き、しだいに増え始めたごみの量に対処するため、2000年の2月に5m×5mのネットへ更新がおこなわれました。
ななかまどの赤い実が綿帽子をかぶるころ、ごみを覆うネットは降り積もる雪に埋もれることもありました。暖気と寒気の繰り返しはネットの端を凍りつかせ、容易に広げることが難しいときもあります。
ネットの上へ、食べかけや食べ残しがあると一目で分かるレジ袋が積み重なり、持ち手部分を結ばない袋が転げ落ちると残飯類が散乱しはじめました。
カラス達はこの様子を眺めています。パンやラーメン、フライドチキンに焼き魚、揚げかまぼこや菓子類が毎日のように運び込まれ、五箇所のごみ置き場は食糧の山と化していたのです。
カラスたちにとっては、額に汗することなく、偏食を咎めるものもなく、好きなときに好きなだけ食べることのできる食卓でした。先祖代々のカラス族も目にしたことがない美食や珍味がならび、かの藤原道長も驚嘆するであろう満ち足りる暮らしが目の前に用意されていたのです。