1 高まる永住志向
1) 永住の意識
国土交通省が2018年に行ったマンション総合調査によると、分譲マンションの世帯主は60代が27%と最も多く、次いで50歳代が24%、70歳代が19%です。永住意識は昭和55年度の21.7%から、平成30年度には62.8%と3倍になっています。
マンションに長く住むには、「マンションは管理を買え」と言われるように維持管理が重要になります。これらに対応するには情報の入手が不可欠です。コロナ禍で変わったマンションの価値感などを知る必要があります。
永住志向による居住者の老いと、マンションの高経年化による「二つの老い」は社会問題とも言われています。所有者と管理者に役立つマンション新常識のヒントを探りましょう。
2022年度末に、分譲マンション数は約694.3万戸になりました。令和2年国勢調査による1世帯平均2.2人をかけると、約1,500万となり、国民の1割超が居住している推計となります。
2022年度末で築40年以上のマンションは約125万7千戸存在しています。10年後には2.1倍、20年後には約3.5倍に増加する見込みと言われます。
70歳代以上の割合は22.2%(前回踏査より+3%)と居住者(世帯主)の高齢化が進展します。完成年次が古いマンションほど70歳代以上の割合は高くなります。
1979(昭和54)年以前のマンションにおける70歳以上の割合は42.2%ですから、築40年以上の分譲マンション所有者の約半数が70歳以上ということになります。
平成25年度と平成30年度を比較すると、マンション居住者の永住意識は高まっており、平成30年度は62.8%の区分所有者が「永寿するつもりである」としています。
2) マンションは管理を買え
永住意識は1980(昭和55)年の12.7%から、2018(平成30)には62.8%と約3倍に増えています。年齢が高くなるほど、永住意識も高くなる傾向にあります。マンションを「終の棲家」に選ぶ傾向が年々強まっています。一方で、いずれは住み替えるつもりが17.1%いました。
マンションは管理を買えと言われるように、安全・安心・快適に住むためには維持管理が重要です。しかし、住んでいると「騒音」「ペット」「駐車場」など、様々なトラブルに巻き込まれることがあります。
トラブルがないマンションは23.2%で、75%以上が何らかのトラブルを抱えています。居住者間のマナーをめぐるトラブルが55.9%と最も多く、次いで建物の不具合に係るトラブルが31.1%、費用負担に係るトラブルが25.5%となっています。
居住者間のマナートラブルは、平成30年度は生活音が38%と最も多く、次いで違法駐車と違法駐輪が28.1%、ペット飼育が18.1%となっています。ベランダの使用方法、専有部のリホーム、共用部分の私物放置もトラブルの原因になっています。
しっかりしている管理会社は、感染症対策で共用施設やエレベータなどでのマスク着用や私語禁止を呼びかける掲示、窓やドアなどをこまめに開放して換気、日常清掃時に定期的な消毒作業を行っています。管理員さんや清掃員さんに感謝しましょう。
しかし、多くの管理会社や管理員さんはこのような気遣いをしません。管理会社の管理業務主任さんも気付かないことが多いのも現実です、管理会社や管理業務主任さん、管理員さんや清掃員さんが気付かなければ、理事会が気遣うべきです。
その他、騒音トラブルが増加しています。また、通販や出前の「置き配」宅配ボックスのトラブル、バルコニーやベランでの喫煙、バルコニーやベランでの家庭菜園での害虫や排水口の詰まり、断捨離などの粗大ごみの出し方など、様々なトラブルがあります。
マンショントラブルは、その原因が管理組合の運営によるケースと住人側にあるケースがあります。いずれも、少しほころびがあると悪い要素がじわりじわりと重なっていきます。早期発見・早期対応がカギになります。
3) 管理組合の懸案事項
コロナ禍で東京都企業のテレワーク実施状況を見ると、週3日以上が41.4%でした。マンションは住まいであり、働く場所へと変貌しています。テレワーク需要を受けて書斎やWEB会議で使える、DENやサービスルームという小部屋が大人気となっています。
ウオーキングクローゼットのスペースを活用したワーキングクローゼットという造語まで出現しました。図面表記は3LDK+2WDC+SICと表現します。DENは窓などがなく、換気や最高が得られない点に注意が必要です。
テレワークは「場所にとらわれない仕事のスタイル」を実現できることで、働き方改革の手段として重視される一方、「人と人との接触」を減らすことができることから、近年は新型コロナウイルス等の感染症の拡大を防止する有力な手段としても注目されています。
テレワークを「働く場所」という観点から分類すると、自宅で働く「在宅勤務」、本拠地以外の施設で働く「サテライトオフィス勤務」、移動中や出先で働く「モバイル勤務」があります。
在宅勤務は、所属する勤務先から離れて、自宅を就業場所とする働き方です。就業形態によって、雇用型テレワークと自営型テレワークがあります。在宅勤務におけるテレワークの頻度については、毎日テレワークとする場合や週数日の頻度で実施する場合など、企業などの状況に応じ多様化しています。
DENはもともと英語で「鳥の巣」や「洞穴」を意味する言葉です。最近は注文設計住宅だけでなく、建売住宅やマンションの間取りにも採用されるようになってきました。実は、サービスルーム、納戸、DENに明確な定義はなく、違いもないのです。
居室として使用するに十分な広さがあっても、窓がなかったり、あるいは窓があっても採光や通風が前述の要件を満たしていなかったりする場合は、「居室」と表記することができません。しかし、居室要件を満たしていない場合でも、一つの部屋として使用することはできます。
マンションは住まいであり働く場所へ変貌しています。共用施設でも「働く」がポイントになります。働き方が変わり、マンション内から出ずに、共用施設で自由なスタイルで働く時代が来ています。
共用施設には、ワーキングスペース、カンファレンスルーム、スタディスペース、会議室スペース、防音個室などが必要になるでしょう。このような要望が増えると、エントランスホールやラウンジスペースなどを活用して、レイアウト変更や家具を設置する必要が出てきます。
空き駐車場に個別ブースを設置し、共用トイレやペットの足洗い場を改良して手洗いのできるスペースを設置することや、機械式駐車場や受水槽室を撤去してコインランドリーやエアーシャワー室を設置する必要も出てきます。
いずれの懸案も、消防法や建築基準法などの高齢巡視と合意形成が重要となりますし、使用細則など当面は運営も課題になると考えられます。
4) マンション価格高騰
マンション価格の上昇トレンドは、2013年ころからと言われます。実際、不動産経済研究所によると、新築マンションの全国平均価格は2012年が3,824万円だったのに対して、2022年には5,121万円にまで上がっています。
この間の全国価格の上昇率は33.92%にも及び、まさにバブル期並みです。高騰している理由は、需給バランス・土地・人件費・建築資材などの要素が絡み合い、建築費の上昇が影響しています。
首都圏では2021年に6,260万円と、バブル期であった1990年の6,123万円をも上回っています。一方で平均年収をみると、2012年は408万円で2021年は445万円と、この間の年収の上昇率は9.1%なのです。
すでにマンションを購入し、返済済みや目途が経っているならそれだけで有利ですが、マンションを買えない若者が増えています。そこで、サイズや規模を小さくすることで、コストや不都合を削減したり性能や機能を保ったりするダウンサイジングが必要になりました。
シニア層でダウンサイジング思考が増加し家族構成の変化などに合わせて、縮小住み替えをする人々が出てきました。駅近やバリアフリー化などが人気となり、中には地方都市を選択する人も増えています。
ダウンサイジングを希望するシニア世代と、在宅勤務が増えて家族でゆったり過ごせるファミリーマンションを探している若い世代とで、需給と供給が一致するケースも出てきました。
マンションの一時取得者はすべての住宅形態で30歳代が多く、二次取得者はほぼすべての住宅形態で60歳以上が多くなっています。一次取得者とは、初めて住宅を取得した世帯。二次取得者とは、2回目以上の取得者となる世帯です。