1 修繕設計とは
1-1 大規模修繕の周期
30代でマンションを購入すると、第1回の大規模修繕は12年後の42歳の時です。その後12年を経て57歳の時に第2回の大規模修繕があり、第三回の大規模修繕の前に排水管と給水管の更新工事が必要になります。
第3回の大規模修繕は12年後の72歳の時ですからほとんどの区分所有者はリタイサしています。そして、第4回目の大規模修繕は更に12年後の87歳の時になります。あなたが元気であれば、白寿を迎えるころに第5回目の大規模修繕が訪れます。
このようにマンションでは何度も工事が必要になりますが、実際にはどこを修繕するのでしょう。築年数が同じでも痛み方が違うので、様々な箇所の修繕が必要になります。一度に全部やればいいと言うわけにはいかないのです。
大規模修繕業務はパートナーと共に行うことがベターです。信頼できる管理会社でも管理担当者によっては愕然とする結果を招きます。少々費用が掛かっても、信頼できる設計事務所をパートナーにすることをお勧めします。
設計事務所をパートナーにした大規模修繕業務は、建物調査・診断、修繕設計、施工会社選定支援、工事監理、アフターフォローとなります。管理会社は管理組合の都合で変更することが考えられるため、長期のアフターフォローは適しません。
1-2 詳細な調査・診断
現在マンションに住まわれている区分所有者の皆さんは、マンションをどのようにしたいでしょう。多少のことは気にしない、単に住めれば十分と言うマンションで良いでしょうか。住み心地が良く、資産価値は上がって言うマンションをお望みでしょうか。
この意識の違いが、修繕実施設計や長期修繕計画に反映されるのです。修繕実施設計では、修繕内容・方法の整理・検討・決定から、コスト削減案の立案、図面の作成、見積要領書(仕様書・内訳書)などを作成します。
修繕内容と方法の整理・検討では、予算(金額)を考慮して修繕広報の検討・修繕材料の検討・修繕範囲の検討を行い、この先の大規模修繕を念頭に入念な検討を重ねて決定します。
また、同じ劣化を繰り返さないことを念頭に、原因の究明と共に改修材料は新築時同等以上のものにします。リカバリー改修では、今後の劣化・破損・汚れを生じない改善策を導入し、新築時の未施工部分も対象とします。
詳細な調査と診断により、部分調査から建物全体を推定します。対象となるのは、屋上ルーフバルコニー、外壁(塗装・タイル)・鉄部、ベランダ、開放廊下、外階段、エントランス、外構、その他施設(駐輪場・駐車場など)です。
屋上で発生している水たまり箇所や範囲を必ず調査します。住戸に漏水していないか、水勾配が取れているかの確認は欠かせません。
詳細な調査と診を断行う範囲は、建物の共用部分、ベランダ調査(10~20%)、外壁調査(15~20%)、目視調査(防水材・建具などの劣化)、触診調査(チョーキング)、打診調査(タイルやモルタルの浮き)などです。
外壁タイル・塗装のひび割れ・浮き・爆裂などの劣化状況を発生範囲、原因を確認します。
また、必要に応じて、物性試験(タイツ付着力試験・塗膜付着力試験、コンクリート物性試験、シーリングの物性試験)を行うこともあります。
劣化範囲と度合いを目視と付着力試験で確認します。特にひび割れが集中的に発生している箇所は原因を把握し、再発防止と修繕方法を検討します。
ベランダの天井・壁・床などの劣化数量を計測して把握し、床の水溜り、金物関係の目視・触診、壁のひび割れ状況を中心に確認します
共用部廊下と外壁は、現状を認識するとともに徹底的に原因を究明します。共用部手すり壁上端にひび割れが発生している場合や、ひび割れ箇所から雨水 や炭酸ガスなどが侵入している場合もあります。
外壁のタイルは劣化数量の調査もれが概算費用算出に大きく影響するので最新の注意が必要になります。特に浮きが集中的に発生している箇所は原因を把握して、再発防止と修繕方法を検討します。
シーリング材の脆弱や劣化、目地との取り合いに注意します。建物の外壁にタイルが貼ってあり、その部分と窓枠との取り合いにあるシーリング材が劣化し、隙間から雨水が侵入してタイルが浮いている状態です。躯体との剥離が大きく一面剥落の可能性があります。
鉄部のチョーキングや膨れ、剥がれの状況確認と同時に修繕履歴も確認します。鉄製の消火ボックスなどは腐食の進行によって塗り替えではなく交換、または部分取替が必要です。
1-3 区分所有者の要望
住んでいる人の「生の声」を聞くことは重要です。アンケート調査の目的と役割は、
① 長い時間をかけてマンションの現状を把握することができる
② 組合員が建物の痛みなどで気になっていることを把握
③ 組合員が生活するうえで改善してほしいことを把握
アンケート結果が、後の設計や施工、工事監理に影響を与えます。建物の調査・診断に基づいて作成された建物調査診断書で、改修設計・工事範囲・工法を決めます。組合員からの修繕・改善要望を反映させて、大規模修繕工事の概算工事金額書を作成します。
タイルや塗装の浮き、壁・天井・床のひび割れなどはもちろん、調査・診断に基づいた数量による設計予算を提示し、修繕箇所の優先順位を考えます。工事範囲、工事項目を絞り込み、組合員アンケートも含めて検討し、工事範囲・内容の明確化を図ります。
1-4 現状の改善
笠木を付けることにより、汚れを防ぎコンクリートの劣化を防ぎます。
笠木までウレタン防水で施工し、手すり内部の結露や雨水の侵入から根元の爆裂破損を防ぎます。
ベランダ支柱根元部分の爆裂が起こるります。支柱内の結露や雨水などの逃げ道がないため支柱が膨張し、コンクリートにも水が浸透してやがて爆裂を起こします。
ベランダ支柱根元部分の額列の対策は、上端部分をとそうではなくウレタン防水にします。
支柱内の結露や雨水などの逃げ道を確保するために、支柱根元部分に穴を開けて、クラウド(樹脂モルタル)を穴付近まで注入します。
屋上パラペットの先に樹脂テープを取り付けて水返しにし、ウレタン塗装防水を塗布、また防水層がずれないように押さえ金具を設置。屋上部分のパラペットはこのような形状でなければなりません。
防水工事竣工後何もしないで放っておいて、12年後に新たに費用をかけて防水するよりも、トップコートによって定期的にメンテナンスをすれば、見た目もさることながら防水機能も維持されて長持ちします。
防水層を紫外線から守るのはトップコートです。防水層の機能を果たしていない状態になると、雨水がコンクリート内部へ浸透して鉄筋のサビや直下階への雨漏りにつながります。防水層の上にトップコート仕上げをすることで防水機能を長持ちさせます。
トップコート不要で15年保証の防水材もあります。
・ 旧防水層の撤去不要
・ 下地調整に必要もほぼなし
・ 躯体挙動の影響を受けにくく、
地震に強い
・ 様々な躯体耕造に適応
・ 脱気筒不要で美しい外観
・ 無臭無煙で施工可能
・ 15年メンテナンスフリー
1-5 修繕設計のアイデア
屋上と壁面の防水治まりですが、施工前は防水層の端部と壁面の境界はシーリング材で余裕のない無理な形で納められていた。施工後は、防水層の端部と壁面の間にアルミ水切りを設け、防水端部に余裕のある納まりとしている。
屋上と壁面の防水治まりですが、屋上防水と壁面の納まりに無理がある場合は漏水の危険性があります。壁面と防水面の境界をシーリングで無理に納めている状況が少なくないので、漏水防止のために余裕のある納まりに改修します。
出窓の屋根コンクリートの保護ですが、施工前は出窓の屋根が同じ塗装で仕上げられているので、塗装が剥がれコンクリートが露出している。施工後は、出窓の屋根をウレタン防水で仕上げたので、防水性が向上しコンクリートが保護されるようになった。
タイルの目地に高耐久性のあるシーリング材を使用する。
シーリング材は、建物の水密性や気密性を保つ大きな役割を担っています。
また、用途やグレードなど多くのシーリング材があることから選択には経験も求められます。
修繕設計のアイデアは、一般的に保証期間3~5年のところを保証期間10年のシーリング材と使用すると、耐候性が抜群で、表面非汚染性良好で、耐熱・耐寒・耐候性良好となります。
外壁塗装のグレードは次の表のようになります。
外壁塗装 15年保証
高性能低汚染型綏靖フッ素樹脂塗料
・ 高温・多湿・高紫外線などの環境変化に
対応
・ 長年に渡る素材の保護と美観を保持
・ ランニングコストの低減
・ 汚れを雨水によって洗い流す低汚染機能
1-6 大規模修繕協議会の取組み
より長持ちするマンションに向けた大規模修繕協議会の取り組みは、協議会メンバーの設計事務所・施工会社・資材メーカーから英知を結集し、15年の耐用年数に適合した材料、工法による仕様書を作成しました。
これにより、より長持ちするマンションへ修繕設計の役割が明確になりました。
① 多くの住民からの聞き取り
マンションの現状を把握することでより良い提案ができる。
② 同じ修繕を繰り返さない設計にする
お化粧塗りの表面だけで判断できない下地補修も大事。
③ 過剰な設計ではなくバランス良い設計に
修繕部位によって突出した補償年数が無駄に費用が掛かる
④ 優先順位を決め、費用対効果の高い設計に
足場設置が必要な工事は一緒の機会に行う
修繕設計の役割を踏まえて長期修繕計画に反映します。
謝辞:文中に掲載しました写真類は、講演のレジメから転載させていただきました。ありがとうございます。