はげちゃんの世界

人々の役に立とうと夢をいだき、夢を追いかけてきた日々

第61章 大規模修繕の準備

2018年4月21日に札幌市コンベンションセンターで開催された一般社団法人マンション大規模修繕協議会主催のセミナーで、米沢賢治代表理事の講演「大規模修繕工事はいつどのように実施すべきか」の要約の要約です。

1 価値はメンテナンス次第

マンションの価値はメンテナンス次第と言えます。一般的にマンションの資産価値は、立地条件・物件の価値・管理のクオリティです。管理組合の組合員の努力で変えることのできるのは、物件の価値と管理のクオリティです

トップへ戻る

 1-1 管理のクオリティ

大規模修繕の築年数とタイミングを計るには、五点についてのチェックが必要です。

・ 管理体制
    破損がそのままになっていないか、清掃が行き届いているか

・ ランニングコスト
    適正な金額であるか

・ 修繕積立金
    積立金の不足がない、釈入や滞納金がない

・ 修繕計画
    計画の見直しは常に行われている

・ 大規模修繕
    経年劣化対策ができている

トップへ戻る

 1-2 定期的なメンテナンス

10年後も安心して住み続けるために、マンションは定期的なメンテナンスが欠かせません。メンテナンスが重要であることは分かっていても具体的に、どんな工事が必要になるのか、費用はいくらかかるのか、準備からの期間はどの程度かなど、知っておくべきことがたくさんあります。


築年数が同じでも痛み方は異なるのです。

トップへ戻る

 1-3 工事の特殊性

大規模修繕は居住者が住みながら行われる工事です。日常生活の場が工事現場となり、ベランダ・共用部廊下・階段などの使用が制限を受けます。例えば、ベランダでは洗濯物を干せないなど。

監理者が行う工程や品質管理などと同様に、居住者へ工事情報など十分な周知が必要になります。

トップへ戻る

 1-4 工事の時期

  1-4-1 大規模修繕1回目

大規模修繕1回目の目的は新築当時の姿に戻すことです。新築時からの不具合や劣化の原因を把握し、現況を考慮して修繕することで2回目の大規模修繕工事費用を低減します。

梁型天端の塗装劣化が激しくなっているのを放置すると、コンクリート躯体に雨水が侵入して内部の鉄筋に影響を及ぼす場合もあります。

  1-4-2 大規模修繕2回目

大規模修繕2回目の目的は社会環境に即した改修を行うことです。耐震やバリアフリーなどの社会環境に適合する規格に改めるととや、新築当時にはなかった発想や配慮を修繕工事に付加させます。

組合員へのアンケートにより、集合ポストのリニューアルも考えられます。A4サイズの郵送物がはみ出す、郵便物が抜き取られるなどを防ぐために、完全収納できるタイプに改善することも必要でしょう。

  1-4-3 大規模修繕3回目

大規模修繕3回目の目的は設備の経年劣化に即した改修を行うことです。

・ 給水管更新         25年~40年程度

・ 排水管更新         30年~40年程度

・ エレバーター        25年~30年程度

・ オートロック        15年~20年程度

・ サッシ・玄関ドア・手摺り  30年~35年程度

その他:機械式駐車場・スライド式駐車場・消防設備・各種電気盤・連結送水管・ポンプ類・ガス配管・外構や樹木等々。

立地条件や管理のクオリティで劣化の進行は様々です。常に注意して見逃してしまわないよう処置が必要です。マンションの築年数とタイミンウは入居時の年齢と照らし合わせてみましょう。

トップへ戻る

 1-5 大規模修繕のはじめ

大規模修繕工事のパートナー契約までに管理組合がすべきことは、

・ 発意       大規模修繕実施検討の呼びかけ

・ 体制整備     修繕委員会設置と役割の検討

・ 現状把握     建物の現況と資金計画の把握

・ 広報周知     円滑に進めるためには組合員の関心度を高められるか

・ パートナー選定  設計事務所の必要性

・ 総会決議     パートナー選定の承認決議

・ パートナー契約  業務委託契約の締結

トップへ戻る

2 大規模修繕の発意

 2-1 実施検討

大規模修繕工事実施の検討を担当する、修繕委員会設置に向けて組合員から委員の募集を行う。

建築関連の実務者、理事長や理事の経験者が望ましいが、集まらない場合は理事会で候補者を選出して個別に依頼する。

修繕委員会の委員は、理事会の動きを知っている若干の理事を選任することで審議がスムーズになる。
 但し、理事長は委員を兼務しないほうが良いと言われる。

トップへ戻る

 2-2 修繕委員会の役割

理事会の理事の任期は決められていますが、大規模修繕は何年にもわたって続けるプロジェクトです

・ 大規模修繕の概要決定

・ 組合員への概要周知

・ 組合員の合意取り付け準備

・ 組合員の合意形成

・ 設計事務所などのパートナー選定、答申

・ 建物調査診断および報告会

・ 建物調査診断結果より修繕計画策定

・ 施工会社の選定・答申

・ 工事契約の準備および工事説明会の準備

・ 工事監理者・施工管理者との打ち合わせ

・ 組合員への方法・報告

・ 施工検査の立ち合い

修繕委員会での検討事項を要約すると最も重要な役割は

・ 大規模修繕は本当に必要なのか
    修繕計画ではなく、現況を確認しているのか?

・ 資金計画の確認
    修繕積立金不足に陥っていないか?

・ どのように進めるのか?
    組合員の理解を得ながら進めるには何が最善か?

準備から工事完成まで2~3年かかるため、任期が決められている理事会だけで対応するのは困難

トップへ戻る

 2-3 理事会と修繕委員会の役割

理事会修繕委員会
任期任期が決まっている(一般的には1~2年)不定期(委員会設置時~工事終了まで)
組織の特徴管理組合の運営に関する実務を行う組織⇒決定権がある管理組合の諮問機関として大規模修繕に関する実務を担う組織⇒ただし決定権はない
役割修繕委員会からの答申を受ける⇒実施の判断をする実務によって委員会内で集約した結論を理事会に答申数する
会合理事会は定期的に開催(月1回~2ヶ月に1回程度)必要に応じて修繕委員会を招集、好き1回~複数回(工事期)の開催
メンバー輪番制など任期ごとに交代、全員が参加すれ雨のが近年の傾向基本的には希望者の立候補、推薦で決まるケースが一般的。理事または理事経験者が含まれている組織として機能

トップへ戻る

 2-4 合意形成のために

理事会と修繕委員会のトラブルを避けるために、意思決定の方法を事前に決めておく。

  〇 多数決   × 全員一致

  〇 無記名投票 × 挙手

修繕委員会でどれだけ話をまとめても理事会承認後に、全組合員の合意による総会決議が必要となります。そのため、理事会との意思疎通を図り、組合員との合意形成が必要です。

修繕委員会のメンバー構成と権限、権限の範囲と責任を明確にしておく。

トップへ戻る

3 停滞した実例

理事会と修繕委員会と合同委員会、各々の権限により進捗度合いに時間を要している管理組合の実例から学びましょう。

 3-1 理事会と修繕委員会の対立

〇 神奈川県内の団地型50棟型のマンション

   約1,200戸 築49年 3回目の大規模修繕工事

     設計事務所選定時 ⇒ 修繕委員会設置前に理事会にて選定

5年前に建物調査・診断、修繕設計、施工会社内定も組合員の一部から反発があり、延期となって2度仕切り直し。

 3-2 理事会への報告を怠る

週末開催の理事会を含めた合同委員会で、修繕委員会からの答申が却下され続ける。

修繕委員会は協議内容の理事会への逐次報告を怠っていた
(途中から設計事務所が修繕委員会に代わり報告)

トップへ戻る

 3-3 世代間の相違

現役世代中心の理事会とシニア世代中心の修繕委員会、修繕への使命感を持つ修繕委員会と予算を気にする理事会の対立

       決定プロセスと協議内容報告プロセスの違い

  

修繕委員会が理事会への逐次報告をしないことに対して不満があった。理事会の本音は、予算オーバーが気になるために反対していた。

トップへ戻る

 3-4 役割分担ができない

賃貸・未入居の区分所有者への対応。

  3-4-1 お知らせの手紙

届かない、知らせていない・・・中には空き家で地方在住者も。

トップへ戻る

  3-4-2 説明会開催連絡

これまで設計説明会を2回実施、工事説明会を4回実施したが、追加工事箇所に対しての説明会が必要になった。

組合員への事前説明会がないため、心の準備ができていない

トップへ戻る

  3-4-3 ベランダの片づけ

ベランに放置されている室外機、給湯器、網戸、スチール家具、灯油タンクの片づけ要請の連絡ができない。

中には、鳥害によりベランダの半分近くが鳥のフンで埋め尽くされているところもあった。

トップへ戻る

  3-4-4 以前の設計を頑なに信じる

5年前に示された設計を頑なに信じ、現況の調査もしていない。しかし、調査見落とし箇所が多数発見された

5年前の調査から工事範囲や仕様、工事金額を算出しているため、現況との差異をそのまま放置するわけにはいかず、追加工事をする事態が生じた。

トップへ戻る

  3-4-5 修繕予備費の計上不足

調査もれ箇所の修繕予備費10%だけでは、賄えないほど問題が続出した。

つなぎ役である理事で修繕委員兼任者が、理事会合同委員会メンバーへ断片的に伝えていたことで、設計事務所は両者の間に挟まれ、工事スケジュールに遅れが生ずる事態が生じてきた。

不足した修繕予備費を新たに総会で決議したいが、組合員へどのように説明した良いか分からなくなった

トップへ戻る

  3-4-6 そして新たな問題発生

アルミサッシやフード等の取り付けは規約で認めていなかったが、シリコンシーリング材を使用して取り付けていた。

シリコンシーリング材はホームセンターで購入でき、扱いが容易なのでリホーム業者でも使用することがある。

シリコンシーリング材の剥離は非常に困難で、剥離しなければ大規模修繕に用いられるシーリング材は接着しない。また、シリコンシーリング材を剥離した上に塗装する場合は新たにした下地調整剤(プライマー)の塗布が必要になる

トップへ戻る

  3-4-7 これらからの教訓

〇 理事会と修繕委員会、合同委員会の「役割を明確にしておく(すべて公開する
  ルールが必要)。

〇 修繕委員会からの答申は現況報告書、見積書、必要性を含め裏付けされた書面を添
  付する

〇 理事と修繕委員の兼務者は3~4名必要

〇 理事会と修繕委員会と一緒になって苦労を分かち合えるコミュニケーションと行動
  が重要。

〇 設計事務所は、理事会と修繕委員会とのつなぎ役及びアドバイザー

トップへ戻る

  3-4-8 改めて知ったこと

改めて知ったのは、精度の高い建物調査と建物診断の重要性であり、概算工事金額書の精度である。

トップへ戻る

4 現況の確認

建物、関連書類と資金計画の確認

築年数や立地条件、施工精度に修繕履歴、それぞれのマンションで実態が異なる。

・ 自主点検で建物の痛み具合を確認する

・ 前回の大規模修繕記録や保証書などを確認
    保証期間内であれば無償で修繕することができる。

・ 関連書類の確認
    意匠図(仕上表、配置図、平面図、立面図、断面図など)
    構造図(仕様書、基礎ず、伏図など)
    設備図(給排水、ガス、電気、空調など、設備関係の仕様書と詳細図)
    外構図(建物に付随する門、塀、アプローチ、庭園、植栽など)

・ 竣工図

・ 関連図書(確認済書、住宅性能評価書、融資に関する書類、構造計算書、アフター
  サービス書類など)

・ 維持管理履歴(これまでに行った点検結果報告書、保証書、修繕記録・請負契約
  書・図面など)

・ アフターフォロー点検報告書類

トップへ戻る

5 長期修繕計画

 5-1 資金不足の原因

資金不足の原因は修繕計画の甘さです。

東京五輪、震災復興の工事費高騰、2019年10月の消費税10%値上げ、無駄な工事、駐車場の空き率(特に都心部)など環境変化も考慮。

トップへ戻る

 5-2 長期修繕計画の問題

1回目の大規模修繕工事時は修繕積立金で補えたものの、2回目以降は先述の要因や設備改修時に於ける工事金額に甘さがあった等の理由。また、計画通りの収入がなく予定外の出費が発生した。

  5-2-1 管理組合の問題

7割超のマンションで修繕積立金が不足している。

建物の老朽化で、築30年を超えるマンションが2030年には369万戸と三倍以上に増加する。

組合員の高齢化で60歳以上が5割を突破し、年金暮らしの世帯が急増している。

トップへ戻る

  5-2-2 修繕積立金の現状把握

現在どのくらいの金額が残っているか、修繕積立金の現状を把握していない。管理費会計から繰り入れしている管理組合もあった。

トップへ戻る

  5-2-3 現況の確認

長期修繕計画は、将来を見据えた計画になっているか。消費税率改定・経年劣化・オートロックの更新・バリアフリー化などの様々な要因に対応できるか 。長期修繕計画は一度作れば大丈夫ではなく、定期的な見直しが必要。

トップへ戻る

  5-2-4 資金計画の確認

大規模修繕工事は今回だけで終わるものではない。組合員からの修繕積立金を大事に活用しなければならない。ムダ使いせず、中長期的観点での提案が必要。

トップへ戻る

  5-2-5 修繕積立金の確保

管理状態が悪く適切な修繕ができないと資産価値が下がる。さらに、居住性が低下すると老朽化とスラム化が起きる。区分所有者が転居し、賃貸マンション化・空洞化で維持管理も意識がさらに低下する

修繕積立金の値上げの前に、必要か否かの選別をしっかり行う。建物を適正に維持管理士、快適な住環境を保つことが重要である。本当は施工ミスかもしれない、工事を行う必要がないかもしれない。これらを見極めることが重要です。

計画的な修繕計画で「マンションの未来像」を示すことが重要。建物を適正に維持管理士、快適な住環境を保っていくために、長期的な展望に立って修繕時期や内容、費用等を的確に施すために必要となる。

時間を作って長期修繕計画を確認しようを合言葉に。

トップへ戻る

6 広報周知

大規模修繕を円滑に進めるためには広報により関心度を高めることが重要です

管理組合の要望が、大規模修繕の対象と「なる」「ならない」を組合員にきちんと報告し周知徹底を図ることが重要。


現場見学会を活用して工事現場を見学することで、大規模修繕の改修ポイントと工事期間中の生活への影響など生の声が聴ける。

トップへ戻る

7 パートナー選定

信頼できるパートナーを選ぶために書類選考を行い、理事会・修繕委員会にてプレゼンテーションを受けてから選考する。

 7-1 設計事務所の必要性

〇 組合員の実情を把握してもらう

〇 全組合員の要望を把握してもらう

〇 組合員の立場に立った提案と分かりやすく説明できる資料作り

〇 理事・修繕委員と一緒になって苦労を分かち合う

〇 組合員と理事会・修繕委員会とのつなぎ役

トップへ戻る

 7-2 設計事務所への要望

〇 項目別の見積書
  建物調査診断、要綱書作成、設計業務、工事監理

〇 付加提案
  外観からの概況での提案など

〇 会社案内
  一級建築士の有資格者数など

〇 大規模修繕設計・管理の実績
  過去三年間の実績など

トップへ戻る

 7-3 設計事務所選定のポイント

〇 透明性

〇 公平性

〇 組合員の立場で監理

〇 竣工後15年間見守ってくれる

トップへ戻る

 7-4 設計事務所委託のメリット

〇 建物調査・診断

〇 修繕改修設計

〇 施工会社選定支援

〇 工事監理

〇 アフターフォロー

トップへ戻る

8 組合員の承認

 8-1 総会決議へ

大規模修繕情事の実施、実施方法とパートナー選定方法、パートナー業務委託など三段階で総会決議。

管理組合によっては各段階は理事会一人で、まとめて総会決議とするケースもある。総会承認後は、パートナーと業務委託契約へ。

トップへ戻る

 8-2 総会決議をスムーズに

組合員の疑問はあいまいにしないために広報活動を充実する。

〇 選任までのプロセスの周知

〇 選任するパートナー会の社概要、実績の周知

〇 業務委託契約の内容周知

〇 業務報酬の支払いタイミングの周知

〇 業務委託内容変更時の方法の周知

〇 建物調査診断書などの成果品の受領方法などの周知

トップへ戻る

 8-3 失敗を避けるために

〇 組合員位建物の劣化状況を的確に伝える
    工事内容をイメージできないということのないように注意する

〇 理事会、組合員とのコミュニケーションをとる
    居住者全員での意見交換により、よりよい修繕工事へ

〇 大規模修繕の必要性に納得してもらう
    周知のための勉強会や資料提供、近隣の施工現場見学なども考慮する。

※ 一般社団法人マンション大規模修繕協議会では、「新・大規模修繕の進め方~準備
  編~」を一冊にまとめました。大規模修繕セミナー会場で申し込んでください。

トップへ戻る

謝辞:文中に掲載しました写真類は、講演のレジメから転載させていただきました。ありがとうございます。