1 区分所有者の永住意識
1-1 世帯主の年齢
国土交通省が平成20年度に実施した「マンション総合調査」結果を平成11年度・平成15年度の調査結果と比較すると、マンションの居住と管理の現状は次のような傾向がみられました。
世帯主年齢の平成11年度から平成20年度の変化をみると、60歳代以上の割合が増加して40歳代以下の割合が減少し、居住者の高齢化の進展がうかがわれます。平成20年度は60歳代以上が39.4%、40歳代以下が35.6%となっています。
平成15年度から平成20年度を比較すると、賃貸戸数割合は20%超のマンションの割合が減少して、平成20年度は18.6%となっています。また、空室と数の割合で平成15年度から平成20年度を比較すると、空き室のないマンションの割合が減少して、平成20年度は43.8%となっています。
1999年度の調査では、世帯主の年齢が60歳代以上の割合は25.7%でしたが、2013年度の調査では50.1%に達しています。逆に40歳代以下は1999年度の48.7%から2013年度の26.8%へと、ほぼ半減していました。また、民間の調査によれば、老朽化したマンションほど居住者の高齢化が進行しているというデータも示されています。
世帯主が高齢化しても、同居する家族が多ければそれほど支障はないかもしれません。マンションに限った話ではありませんが、高齢夫婦の2人世帯、あるいは独居高齢者世帯の急増が大きな社会問題となりつつあるのが現状です。大都市圏のマンションほど、深刻な問題として受け止めなければなりません。
一戸建て住宅地であれば町内会レベルでの取り組みが必要なのと同様に、マンションは管理組合が高齢者問題を考えなければなりません。孤独死を防ぐための見守りなどのほかに、古いマンションでは共用部分のバリアフリー化など検討すべき課題は多いのです。
1-2 永住意識
昭和55年度から平成20年度の変化をみると、マンション居住者の永住意識は高まる傾向にあり、平成20年度は約半数の区分所有者がマンションを終の棲家として考えていました。
永住意識の高まりは居住者の高齢化を伴っています。「いずれは住み替えるつもり」でマンションを購入したものの、うまく売却できずにそのまま住み続けている事例も少なからずあるようです。
表をみますと、20年前から顕著な上昇を示しています。人々の住宅購入や住み替えに対する意識が大きく変わったということが大きいと考えます。30数年前までマンションは、一戸建てに移るまでの仮の住まいとしていた「住み替え派」が半数以上でした。
不動産価格の低迷により、値上がりで得た売却資金を次のより良い物件の購入資金に充当するという方法も難しくなり、20年ほど前から一旦購入したマンションにそのまま最後まで住み続けるという意識を持った人が増加するという傾向が生じたようです。
近年は、定年退職したリタイア層が郊外の一戸建て住宅を売って、駅近のマンションへ住み替える事例も増えています。もはやマンションは「仮の住まい」ではなく、そのぶん建物の性能や居住性、快適性、コミュニティなど、消費者がマンションに求める水準も高くなっています。
今住んでいるマンションに「永住するつもりである」と答えた人の割合は、43.7%から49.9%に増加。年齢別で見ると、年齢が高くなるほど永住意識が高くなる傾向にあり、マンションを「終の棲家」として考える傾向が高まっていると言えそうです。
国土交通省が平成28年度末現在で発表した分譲マンションストック戸数は次のようになっています。
1-3 長期修繕計画
昭和62年度から平成20年度の変化をみると、長期修繕計画を作成している管理組合の割合は増加傾向にあり、平成20年度は89.0%のマンションで長期修繕計画を作成していました。
長期修繕計画の計画期間は、「26~30年」が32.5%と最も多く、次いで「21~25年」が16.3%。計画期間の平均は23.8年で、完成年次が新しくなるほど計画期間が長くなる傾向にあります。
1-4 修繕積立金
修繕積立金は、駐車場使用料等からの充当額を含む戸当たり修繕積立金(月額)の平均額は1万1,877円(駐車場使用料等からの充当額を除く戸当たり修繕積立金月額の平均額は1万898円)で、前回調査時の1万967円から増加していました。
平成11年度から平成20年度の変化をみると、月/戸当たり修繕積立金の額と駐車場使用料等からの充当額を含む修繕積立金の総額は共に増加しています。平成20年度の月/戸当たり修繕積立金の額は10,898円、駐車場使用料等からの充当額を含む修繕積立金の総額平均は11,877円となっています。
平成5年度から平成20年度の変化をみると、長期修繕計画に共づいて修繕積立金を算出しているマンションの割合は増加しています。計画期間25年以上の長期修繕計画に基づいて修繕積立金の額を設定しているマンションは36.6%で、平成15年度の19.7%に比べ高くなっています。
直近の計画修繕工事実施時における、新築時又は前回の実施時からの平均経過年数は、平成11年度以降ほぼ一定しています。
1-5 耐震診断について
平成20年度の調査において耐震診断の実施状況は、耐震診断を行ったマンションが16.9%、実施していないマンションが75.3%となっています。耐震診断を実施したマンションのうち、75.4%が耐震性を確保しており、耐震改修工事の必要がなかったとしています。
耐震が不足していると分かり、すでに耐震改修工事を行ったマンションは6.0%、実施の予定がある管理組合が1.6%でした。耐震が不足していると分っても工事を行う予定がないマンションが1.6%、決めていないマンションが3.6%となっています。
居住者の高齢化は、費用負担を伴う改修工事などに対する合意形成も難しくします。毎月の修繕積立金で足りないとき、老後の生活資金にゆとりがない高齢者は消極的にならざるを得ません。とくに問題なのが、耐震性の不足するマンションの改修工事です。
旧耐震基準に基づいて建設されたマンションのうち、耐震診断を実施した管理組合は33.2%で、過半数の58.0%は実施していません。さらに、診断によって「耐震性がない」とされたのは32.6%ですが、このうちすでに耐震改修工事が行われたのは33.3%にとどまります。
「今後実施する予定」は47.6%であるものの、およそ5分の1の19.0%は「実施する予定がない」と回答しています。東日本大震災を経験し、さらに首都直下地震、南海トラフ地震など巨大地震の発生が懸念されている中で行われたマンション総合調査ですが、「耐震性がない」と判断されながら耐震改修の計画を立てることのできないマンションがかなりの数にのぼる現実はしっかりと受け止めなければならないしょう。
未実施の理由として「不安はあるが耐震改修工事を行う予算がないため耐震診断を行っていない」が44.4%にのぼっている。「管理組合として耐震診断を行うことをこれまで考えたことがなかった」という回答も24.0%あり、耐震性の向上はなかなか進まない。
平成25年度の調査で多かった対応(重複回答)を順に挙げると、定期的に防災訓練を実施している37.7%、防災用品を準備している26.9%、災害時の避難場所を周知している25.1%、「自主防災組織を組織している19.0%、災害時の対応マニュアルを作成している18.6%などとなっています。大地震の発生やその後の混乱などを想定すれば、対応状況としてはまだ不十分かもしれません。管理組合ごとの温度差もかなり大きいことが予想されます。
1-6 建て替えの検討状況
建て替えについて具体的に検討しているマンションが0.5%、検討しているが問題あり検討が進んでいないマンションが1.4%となっています。一方、全く検討していないマンションが65.6%、建替えについて当面は改修工事で対応していく予定のマンションが13.8%となっています
建替えの検討状況をみると、建替えの方向での具体的な議論の状況は、建替えに向けて一定の方向性は決定したが、建替えは決定していない(検討継続中)が36.4%、建替えを目指して検討しているが、管理組合の方向性を決定するには至っていない(検討継続中)が13.6%と、半数が検討継続中となっています。
建替えを円滑に実施して行く上での問題としては、建替え資金の調達が困難な区分所有者がいるが40.9%と最も多く、次いで現在のマンションに愛着があり建替えに反対する区分所有者がいるが36.4%、仮住居の確保が困難な区分所有者がいるが31.8%となっています。
区分所有者の建替えの必要性に対する考えについては、建物が相当老朽化又は陳腐化しているので建替えが必要である」が4.9%となっています。一方、建物が相当老朽化又は陳腐化しているが、修繕工事又は改修工事さえしっかり実施すれば建替えは必要ないが30.0%、建物は老朽化も陳腐化もしていないため、今のところ建替えは必要ない」が64.0%となっていました。