1 修繕周期15年プロジュクト
1-1 米澤賢治代表理事の願い
一般社団法人マンション大規模修繕協議会の米澤賢治代表理事はセミナーの冒頭、大規模修繕15年周期を実現するために修繕周期15年プロジュクトを編成しした経緯を述べました。
かつて私のもとに、ある管理組合の理事長さんがご相談にみえました。「大規模修繕からわずか4年で、多くの窓水切り周辺で外壁塗装がはがれ出している。すべては業者を決定した理事長の責任だと、組合員から責めたてられている」とおっしゃるのです。
実際にマンションを拝見した私は強い衝撃を受けました。窓水切りの仕様が建物外壁より10mm内側に凹んでいる状況で(本来は建物外壁より20mm以上外側へ出ている状況がベスト)、雨水の侵入を防ぐシーリングも厚さ深さ共に3mm程度しか施されておらず、役目を果たすものではありませんでした(こちらも本来は20mm以上必要)。
聞けば、施工会社は「水切りの取替えをしなくても高品質の外壁塗料で仕上げるので、塗料が剥がれる心配はない」と言ってきたそうです。しかし、理事長さんの不安は的中しわずか数年で塗料は剥がれ落ちていきました。しかも、施工会社はその時すでに倒産していて、保証修理の相談もできません。
理事長さんは、組合員全員からの原因究明や責任追及をされ、発覚当初、引越しも覚悟していたとのことです。窮地の中、組合員全員と計り知れないほどの時間を掛け丁寧に話し合いを重ね、理解を経て、修繕費用借り入れのために何度も金融機関に足を運び、次の大規模修繕を若千前倒して何とか改修に漕ぎつけました。
なぜ、このような不幸が起こるのでしょうか。責任は新築工事をした施工会社、大規模修繕工事をした施工会社にあります。正しい知識と常識の欠如が、結果として間違った工事を行い、組合員全員の大切な財産を捨ててしまったのです。あの日の苦渋に満ちた理事長さんの顔を忘れられません。
そして、このような不幸を繰り返さないためには、大規模修繕を根本から見直し、不良工事や手抜き工事を根絶する、新しい基準とルールが必要だと考えました。それが「修繕周期15年システム」という新しい仕組みです。
このシステムは、大規模修繕を取り巻くトラブルを阻止し、管理組合様が抱えるさまざまな問題を解決します。そして、このプロジェクトが社会に広く深く浸透すれば、建設業界全体の意識と常識も変わり、マンションライフの将来をより安心に満ちたものにしていくことができます。
そのために今必要なのは、自分たちのためにどんな修繕工事を行うのか、大規模修繕のあり方を選択する管理組合の決意です。その熱い思いを認定技術者たちのベクトルと一致できれば、大規模修繕は必ず成功します。「修繕周期15年」を実現する最大のカギ、それは大規模修繕に関わる者すべての『マインド』にほかならないのです。
マンションの大規模修繕は12年周期といわれています。しかし、これはあくまでも一般論であり、現実には4年目頃から傷みが目立ち始め、10年経たずして大規模修繕が必要となるケースも少なくありません。
想定よりも早く建物が劣化すれば、修繕費用の積立計画も破綻します。そのため現在、管理組合の3割以上が修繕資金不足に陥り、修繕したくてもできない状況に置かれているのです。
なぜこのようなトラブルが生じてしまうのでしょうか。もっとも大きな原因は、設計事務所や施工会社に於ける技術担当者各々の知識・技術・意識にバラつきがあり、かつ経験不足が追い討ちをかけているからです。
さらに工事品質を約束する基準やルールがなく、ミスやチェック漏れを是正する仕組みもない、建設業界の悪しき慣例にほかありません。建設業界を意識レベルから改革し、工事品質を目に見えるかたちで高めていかなければ、管理組合そのものが破綻しかねないのが実情なのです。
当協議会は、このような問題を解決するために修繕周期15年プロジェクトを推進し、その最善策として「修繕周期15年システム」を確立しました。設計事務所・施工会社さらにはメーカーを含めて知識・技術・意識の向上と標準化を行い、設計・施工の品質を可視化することで、修繕周期を15年にまで延ばし得る高精度の大規模修繕を実現するのです。
修繕周期の延伸、それを約束するだけの工事品質の向上は、マンションで暮らす全ての人により大きな安心・安全を提供します。そして、将来の修繕に向けた資金調達、予算管理の面で管理組合の負担を大きく軽減します。この新しい仕組みを新たな常識とするべく当協議会は修繕周期15年システムを広く深く社会に浸透させてまいります。