はげちゃんの世界

人々の役に立とうと夢をいだき、夢を追いかけてきた日々

第56章 修繕周期15年の取り組み

2017(平成29)年に札幌市コンベンションセンンターで開催された一般社団法人マンション大規模修繕協議会主催のマンション大規模修繕セミナー「修繕周期15年で得る安心と安全」で、講師の米澤賢治代表理事は大規模修繕15年周期を熱く語りました。

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1 修繕周期15年プロジュクト

 1-1 米澤賢治代表理事の願い

一般社団法人マンション大規模修繕協議会の米澤賢治代表理事はセミナーの冒頭、大規模修繕15年周期を実現するために修繕周期15年プロジュクトを編成しした経緯を述べました。

かつて私のもとに、ある管理組合の理事長さんがご相談にみえました。「大規模修繕からわずか4年で、多くの窓水切り周辺で外壁塗装がはがれ出している。すべては業者を決定した理事長の責任だと、組合員から責めたてられている」とおっしゃるのです。

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実際にマンションを拝見した私は強い衝撃を受けました。窓水切りの仕様が建物外壁より10mm内側に凹んでいる状況で(本来は建物外壁より20mm以上外側へ出ている状況がベスト)、雨水の侵入を防ぐシーリングも厚さ深さ共に3mm程度しか施されておらず、役目を果たすものではありませんでした(こちらも本来は20mm以上必要)。

聞けば、施工会社は「水切りの取替えをしなくても高品質の外壁塗料で仕上げるので、塗料が剥がれる心配はない」と言ってきたそうです。しかし、理事長さんの不安は的中しわずか数年で塗料は剥がれ落ちていきました。しかも、施工会社はその時すでに倒産していて、保証修理の相談もできません。

理事長さんは、組合員全員からの原因究明や責任追及をされ、発覚当初、引越しも覚悟していたとのことです。窮地の中、組合員全員と計り知れないほどの時間を掛け丁寧に話し合いを重ね、理解を経て、修繕費用借り入れのために何度も金融機関に足を運び、次の大規模修繕を若千前倒して何とか改修に漕ぎつけました。

なぜ、このような不幸が起こるのでしょうか。責任は新築工事をした施工会社、大規模修繕工事をした施工会社にあります。正しい知識と常識の欠如が、結果として間違った工事を行い、組合員全員の大切な財産を捨ててしまったのです。あの日の苦渋に満ちた理事長さんの顔を忘れられません。

そして、このような不幸を繰り返さないためには、大規模修繕を根本から見直し、不良工事や手抜き工事を根絶する、新しい基準とルールが必要だと考えました。それが「修繕周期15年システム」という新しい仕組みです。

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このシステムは、大規模修繕を取り巻くトラブルを阻止し、管理組合様が抱えるさまざまな問題を解決します。そして、このプロジェクトが社会に広く深く浸透すれば、建設業界全体の意識と常識も変わり、マンションライフの将来をより安心に満ちたものにしていくことができます。

そのために今必要なのは、自分たちのためにどんな修繕工事を行うのか、大規模修繕のあり方を選択する管理組合の決意です。その熱い思いを認定技術者たちのベクトルと一致できれば、大規模修繕は必ず成功します。「修繕周期15年」を実現する最大のカギ、それは大規模修繕に関わる者すべての『マインド』にほかならないのです。

マンションの大規模修繕は12年周期といわれています。しかし、これはあくまでも一般論であり、現実には4年目頃から傷みが目立ち始め、10年経たずして大規模修繕が必要となるケースも少なくありません。

想定よりも早く建物が劣化すれば、修繕費用の積立計画も破綻します。そのため現在、管理組合の3割以上が修繕資金不足に陥り、修繕したくてもできない状況に置かれているのです。

なぜこのようなトラブルが生じてしまうのでしょうか。もっとも大きな原因は、設計事務所や施工会社に於ける技術担当者各々の知識・技術・意識にバラつきがあり、かつ経験不足が追い討ちをかけているからです

さらに工事品質を約束する基準やルールがなく、ミスやチェック漏れを是正する仕組みもない、建設業界の悪しき慣例にほかありません。建設業界を意識レベルから改革し、工事品質を目に見えるかたちで高めていかなければ、管理組合そのものが破綻しかねないのが実情なのです。

当協議会は、このような問題を解決するために修繕周期15年プロジェクトを推進し、その最善策として「修繕周期15年システム」を確立しました。設計事務所・施工会社さらにはメーカーを含めて知識・技術・意識の向上と標準化を行い、設計・施工の品質を可視化することで、修繕周期を15年にまで延ばし得る高精度の大規模修繕を実現するのです。

修繕周期の延伸、それを約束するだけの工事品質の向上は、マンションで暮らす全ての人により大きな安心・安全を提供します。そして、将来の修繕に向けた資金調達、予算管理の面で管理組合の負担を大きく軽減します。この新しい仕組みを新たな常識とするべく当協議会は修繕周期15年システムを広く深く社会に浸透させてまいります。

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1 建物の調査・診断

 1-1 建物の調査・診断

多くのマンションで、1回目の大規模修繕はほぼ12年目に実施しています。新築から12年も経過すると、修繕技術も使われる材料も進歩しています。技術も材料もよくなっていれば、2回目以降の修繕周期は伸ばせるはずです

しかし、優秀な技術と良い材料を使っても、チェック漏れ、施工漏れ、施工不良があれば意味がありません。高い施工精度がポイントになります。

建物の調査・診断で、建物の現状を確認するとともに、劣化に至った原因を判定・追及することが必須です。想定値で劣化数量を算出しますが、全体の調査割合は30~40%になります。調査・診断の精度が工事費に大きく影響します。

長期修繕計画通り工事を行うのではなく、建物の状況や組合員の要望を加味して概算工事金額書を作成し、工事の内容を決定します。

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概算工事金額書


 長期修繕計画書の工事金額と、調査・診断時作成の概算工事金額は異なります。

・ 分譲時の長期修繕計画書と設計事務所作成の概算工事金額は算出制度が違います。

・ 長期修繕計画書作成時の工事単価と大規模修繕実施時の工事単価が違います。

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実数清算方式

・ 実際の工事費は、仮設足場設置後に施工会社が全面調査を行い、管理組合・設計事
  務所がその産出量を承認した上で確定します。

・ 概算工事金額書の数量と実際の工事数量の差を清算することが実数生産方式と言い
  ます。

数量の誤差が大きいと予算オーバーとなり、再度総会決議が必要になります。

現場の劣化状況を把握

・ 屋上で発生している水たまり箇所と範囲を把握します。

・ アンケート調査で住戸に漏水していないか確認します。

・ 屋上防水の状況を把握します。
   (膨れ・雨季の範囲・雨水の侵入・表面劣化・破断)

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・ 天然石の変色については、同種の石材に取り換えても色合わせが困難です。見切り
  のよい部分でも取替を検討し、デザインを含めた少額の最善策を提案します。

・ 金物類(フード・換気口・手摺根元カバー・樋金物)等の状況を確認します。

・ 共用部の植栽移設費、復旧費(芝を含む)を算出します。


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2 建物の修繕設計

大規模修繕を15年に延伸するには、厳しい基準をクリアした高品質の設計と施工が不可欠です。そのための抜本的な対策として、協議会は「認定技術者制度」で技術者研修を行っています。

技術者研修と並行して設計と施工の品質基準を定め、認定技術者間で技術情報を共有化することで精度の高い大規模修繕の実現をサポートしています。技術者研修で使用されているマニュアルから抜粋してご紹介します。

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 2-1 修繕設計について

著しく劣化が進行して修繕が必要な部分だって、仮設足場が必要な箇所が優先されますが、設計・工事監理者の知識・技術によって工事費が大きく変わります。


 修繕から4年で外壁塗装がはがれだした事例です。このような場合は、塗装剥離の原因を究明して改修することが重要です。

全国ネットワークで随時最新情報を共有している大規模修繕協議会は、部分詳細図を作成して納まりをマニュアル化しました。

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 2-2 換気フード下の汚れ


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 2-3 窓、水切り皿板


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 2-4 出窓の屋根


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 2-5 廊下、バルコニー床、シート複合防水



 ・ 新築時の外部廊下、バルコニー床面と立ち上がり部は、最小限に施工されている
  ケースが多い。

・ ウレタン防水、ウレタン防水と床シートとの複合防水層をつくり躯体を守る。

・ 笠木部は新築時には塗装仕上げが多いがウレタン防水にする。

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 2-6 階段踊り場の水溜り



 ・ 屋外鉄骨階段の階面、踊り場の由香に雨水が留まる場合、既存床材をはがし、モル
  タル等で勾配調整を行い、踊り場に排水口を設け、竪樋を新設し排水を行う。

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 2-7 足場と屋上防水

修繕周期を15年にするため、改修特記仕様書で費用対効果の高い材料と工法を追及しています



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 バルコニー、共用廊下の防水(全面改修→部分改修)

工事費削減のため部分改修を検討します。


 メリットとデメリットをわかりやすく説明します。


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3 施工会社の選定

修繕周期15年を維持管理していくために、どのようなことを実施していくべきでしょうか。

 3-1 施工会社選定の問題点

マンション管理新聞によると、リベートが問題になっています。


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 3-2 選定補助の特徴

三段階の選考で談合を防止し、公平性・透明性のある業者選定をします。

  一次選考・・・・・書類選考
   二次選考・・・・・見積比較
   三次選考・・・・・ヒアリング

工事金額を抑え、施工品質を担保する補助業務は次の通りです。

  ・ 選定を見える化させる比較表の作成
   ・ 見積書・提案書の比較表作成と評価
   ・ プレゼンテーションの立ち合い、質疑
   ・ 疑問・質問への回答

施工会社の選定にあたり、選定を見えるかさせるルールは、選定比較表と表九シートです。これらを基に管理組合が施工会社の決定を行います。


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4 大規模修繕の工事監理

着工前研修・行程検査・二重チェック検査などについて、工事監理者・施工管理者・作業従業員(職長)の意思統一(マインド)と問題共有を図ります

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 4-1 工事監理について

豊洲市場の土壌汚染問題と六本木の鉄パイプ落下事故、二つの問題に共通するものは、

・ かかわった人のモラル・倫理の問題

・ 専門業者、元請施工、工事監理者のチェック体制の甘さ

豊洲市場の土壌汚染問題


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六本木の鉄パイプ落下事故


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一般的に大規模修繕工事は、国土交通省が作成した標準仕様書に基づいて工事を実施します。しかし、多くの現場では監督・職人の経験値で工事が進められています

建物の寿命は施工精度で大きく変わり、施工不良の原因は工事基準の理解不足が原因です。「すでに塗装がはがれ始めている」「つい先日タイルが車の屋根に落ちてきた」「外部廊下に雨漏れが」等々、どれだけいい加減な工事がされているのかと驚きます。

調査すると「工事管理基準の曖昧さ」「メーカーの施工手順通りにできていない」ことが原因と分かりました。

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修繕周期15年システムによる工事管理と施工管理


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着工前研修の目的

高品質な工事を行い修繕周期を15年にする

① 大規模修繕に関わるるすべての人のベクトル(視点や方向性)を合わせる。

② なぜこの材料を使うのか、なぜこのおさまりにするのか。

③ 施工計画書、設計図、契約時の工事内訳書を確認し、工事範囲と内容を現地を見な
  がら検討。

④ 事故、トラブル防止のためのスケジュール、安全対策の確認。

⑤ 設計の見落とし、判断ミスをチェック。

⑥ 行程検査の方法、日程を決める。

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着工前研修の内容

A.マインド(意識)の形成  マインド・スローガンを関係者全員い浸透させます。

・ 修繕周期を15年にするために、関係者全員が120%の力を発揮できるように、同じマインドで工事を行うことが必要です。

・ スローガンの唱和などを行ない、朝礼や昼礼で作業員に浸透させます。


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B.実施計画の確認

参加者:工事監理者、施工管理者、職長の三者。


 施工計画書と工事監理チェックリストの確認を行い、工事に対する問題共有と意思統一を図りベクトル(視点や方向性)を合わせます。

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C.現地確認

竣工時3年目のアフター点検時に問題を発見。

管理組合→屋上に雨水がたまっている。

原因 ① 屋上のドレンが泥土でふさがり、水溜りが発
     生した。
    ② 新築時の既存ドレンが小さかった。
    ③ 雨量計算を行わずに改修ドレンで工事をしていた。
    ④ 管理会社が定期的な往生点検をおこなっていない。

工事前に雨量検査を行い、きちんとした対策を講じるべきであった。

・ 改修ドレンを利用すると既存のドレン口径より小さいくなり、排水量が不足する可能性が高いので雨量計算を行う(適切な排水量は防水メーカーと打ち合わせを行います。)


・ ゲリラ豪雨に対応できるような雨量設定が必要です

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D.実施内容及び決定、検討事項の整理

① 実施計画と現地を確認した後、決定事項・検討項目を整理し、一覧表にまとめる。
  (記録係)

② 着工前研修の参加者と決定事項・検討項目を共有する。

③ 施工計画書に追記、修正を行う。

4段階検査で工事監理体制を強化します。
   (現場検査・社内検査・工事監理者検査)+二重チェック検査

協議会は、工区ごとに着工前・職長・工事監理者・設計監理者の立ち合いを得て、二重チェック検査員が工事監理チェックリストで工事内容をチェックします

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工事監理チェックリスト(躯体・事前検査)

・ 施工前に手摺を作業員が傷つけないように、しっかりと養生を行う。

・ 工事後にアルミ手摺に傷がついているという組合員・居住者からの指摘が多いため注
 意。

・ エアコン室外機を粉塵から守るためカバーをかける。

・ 作業員がエアコンの室外機の天端に乗らないように注意喚起。


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工事監理チェックリスト(外壁塗装)

・ 塗布量試験を行い、仕様書に定められた量の塗料を塗ることができるか確認・調整(下塗り、中塗り、上塗り)。

・ 加水試験を行い、希釈する水の量で塗料の肌模様ができるか確認・調整(肌模様・凹凸)。

・ 触手により、凹凸パターンを確認。

工事監理チェックリスト(防水・ウレタン)

・ 外壁がタイル市会下の場合、笠木先端部のタイルとウレタン防水の納まりに注意。

・ ウレタン防水の厚み検査は工事前と後に行う。

・ ウレタン防水が指定された回数に分けて施工されてい
 ることを確認。

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二重チェック検査(現地検査)

認定技術者が検査員として第三者の立場で工事内容を、「現地確認・二重検査チェックシート」に沿って工事箇所全項目をチェックします

設計と施工品質を可視化します。施工漏れ・施工不良を見逃すことなく、是正工事をすることが可能になります。

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二重チェック検査(書類検査)


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二重チェック検査(是正工事)


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5 アフターフォロー

次の大規模修繕まで維持管理していくために、どのようなことをしていくべきでしょうか。

不良個所の早期発見と想定外の劣化に対応します。直ちに不具合箇所を補修することにより建物が長持ちします。また、塗料や材料の保証切れ前のチェックと補修を行います

アフターフォローの特徴は、保証期間を最大限に生かしたアフターメンテナンスです。一般的なアフターメンテナンスは1年・3年・5年ですが、修繕周期15年システムは1年・3年・5年・7年・10年・13年という、安心の6回点検を行います

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謝辞:文中に掲載しました写真類は、講演のレジメから転載させていただきました。ありがとうございます。