はげちゃんの世界

人々の役に立とうと夢をいだき、夢を追いかけてきた日々

第56章 築27年目の大規模修繕

2017(平成29)年に札幌市コンベンションセンンターで開催された一般社団法人マンション大規模修繕協議会主催のマンション大規模修繕セミナーで木村純札幌支部長の講演「築27年目2回目の大規模修繕」の要約です。

1 先入観を打破した事例

 1-1 無料の建物自主点検

埼玉県下の8階建て55戸の分譲マンションは、第1回目の大規模修繕を築13年目に直接施工会社に発注する責任施工方式で実施していました。築27年を迎え、理事長が副修繕委員長として修繕委員会に参画されていました

一般社団法人マンション大規模修繕協議会のマンション大規模修繕セミナーに参加された修繕委員長が、マンションの無料建物自主点検を希望されました。私はその場におりましたので、大規模修繕完了時まで相談にのることになりました。

マンションの無料建物自主点検日に、理事と修繕委員に案内されて大規模修繕協議会の一級建築士と共に建物内を見て回り、劣化箇所と不具合箇所を調査しました。

壁のひび割れ箇所には雨水の侵入による汚れが目立ちます。放置するとコンクリートに含まれるカルシュウムが溶け出して鉄筋に影響を及ぼし、その後鉄筋のサビが膨張してコンクリートが爆裂する恐れがあります。

シーリングにはひび割れが発生し、変色して防水能力が低下していました。止水の役割を果たすシーリングもひび割れを起こし、愛称を考慮されていたであろう塗装は変色しています

玄関スロープ上部のガラス屋根の鉄骨が腐食しています。サビが進行して鉄骨がささくれ、強度低下で危険なため取り換えの検討が必要です。

屋上防水は、新築時仕様のままで修繕されていました。勾配屋根の端部の防水塗膜が厚さ不足により部分的に破断し(下段右写真)、雨水侵入の危険性がありました。屋根直下の居室への漏水はなかったのですが、アクリル系の防水塗膜が静電気を引き起こし垢を付着させて汚れています。


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 1-2 放置された修繕工事

築13年目に行われた大規模修繕は、管理会社を通した責任施工方式で発注することで工事費は4千万円に抑えられました。しかし、工事対象漏れが発見されて1千万円の追加工事が行われたため、組合員から不満の声が上がりました

組合員は1回目の大規模修繕結果に満足していなかったので、2回目以降は設計事務所のアドバイスを受けて進めることを望んでいました。時が流れてマンションに劣化箇所が目立つようになると、管理会社は大規模修繕を提案しましたが、管理会社不振の先入観により再三の提案も無視されました。

管理組合の役員が変わると理事会は修繕委員会を設置し、理事長も加わって大規模修繕の検討を行いました。修繕委員の中には、このマンションに住む建築関係の仕事をされている方々も参加しました。

理事長と複数の建築関係の方々で構成した修繕委員会の話し合いは一向に進みません。修繕箇所の提案に様々な異議が噴出して紛糾し、時間だけが経過していきます。何度話し合っても平行線をたどるようになり、修繕委員会は解散せざるを得なくなりました。

理事長が変わり、異議を唱えていた組合員を中心に新たな修繕員会が発足しました。管理会社の再三にわたる大規模修繕の提案にも異議が噴出し、話し合いにならなくなった修繕委員会は再び解散しました。

大規模修繕の必要性を提案する管理会社の努力にも関わらず、時間だけがむなしく経過していきました。このままでは資産価値が低下して、スラム化するのは避けられない状態となったとき、これまで理事長経験のない組合員が理事長に就任しました


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 1-3 新任理事長の決断

組合員は1回目の大規模修繕結果に満足していず、2回目以降は設計事務所のアドバイスを受けて進めることを望んでいたため、理事長は組合員の意思を確かめるアンケートを実施しました

アンケートで寄せられた組合員の改善要望は、
・ 車いす用スロープの設置
・ 郵便ポストをA4判対応に取り換え
・ 集会室のようなスペースの確保

このほかにも様々な要望がありましたが、組合員からの要望を踏まえて調査・診断や概算工事金額に反映させると、概算工事費用は1回目の約2倍を超える約9千万円になりました

修繕積立金は8千万円弱のため修繕工事費にも満たず、組合員のすべての要望を断念せざるを得ません。理事会と修繕委員会は協議の末に要望を選別して工事費を8千万円に抑えることとし、不足分は工事時期を半年遅らせることで了承しました


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  1-3-1 指摘ヵ所の修繕案

建物自主点検時に屋上庇の防水は塗装のケレンが指摘されました。ケレンというのは現状の塗膜や汚れをはがすことで、この作業を適当に行うと新たに塗布する塗膜の効果が薄れてしまいます。

建物自主点検時に指摘した屋上庇の防水は、防水メーカーにより工程の違いがありますが、メッシュを敷くことで防水性能が高まります。

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  1-3-2 郵便ポストの更新案

アンケートで組合員の要望が多かったA4判サイズの郵便物がはみ出して抜き取られる危険性がある郵便ポストは、完全に収納できるタイプに更新することにしました。

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  1-3-3 集会室の新設案

一階エントランス横の坪庭を集会室にしてはとの提案があり、6畳程度のスペースであるため建築確認申請は必要なく、小スペースながらも空間を確保できると考えられます。

マンションの無料建物自主点検に立ち会った修繕委員と理事たちは、専門家の指摘で判明した建物の現状を自らの目で確認し、組合員の要望を取り入れた長期修繕計画の見直しが急務であると認識しました

福岡県にあるこのマンションは11階建の117戸で、内1・2階の17戸は店舗及び事務所となっています。1回目の大規模修繕は築15年目にあたる平成元年に実施されました。

27年にもわたって建築に詳しい組合員の先入観が招いた手付かずのマンションは、築42年目で2回目の大規模修繕へ向けて動き出しました。管理組合が今後取り組むべき問題も、理事・修繕委員・組合員で検討していくことが確認されたのです。

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 1-4 設計事務所の選定

大規模修繕工事の検討が始まると一階の店舗で漏水事故が発生しました。給水管の漏水に留まらず、雑排水管の合流箇所で堆積物による対流が原因で一階店舗の天井裏に汚水が流れ出しました。飲食店には死活問題であり、組合員として早急対応を求めました。

これ以上住環境が著しく低下するのを危惧し、修繕委委員や理事の経験がなかった新理事長は大規模修繕協議会の知恵を借り、公募により設計事務所を選定することとし、まず建物を見てもらうことにしました。

建物診断を要請された設計事務所は驚きました。27年間も未修繕のままであった建物は、給水管だけではなく建物のあらゆる箇所に問題が生じていました。理事長と修繕委員長は、大規模修繕に加えて築年数の関係から耐震改修も要望しました。

修繕が放置されたマンションの事例が札幌にもあります。2017年3月にマスコミを賑わした西区琴似の賃貸マンションは築45年、雨水の侵入による鉄筋錆腐食が原因と思われる最上階庇の崩落が起きました。

新理事長は、1回目の大規模修繕から27年経過しているので「大規模終電工事」「給排水工事」「耐震改修工事」のできることはすべて行いたいと要望しました。では、管理組合に修繕積立金はいくらあるのでしょう。

修繕積立金は2億円弱で、ざっくりした想定工事費用でも、
・ 大規模修繕工事費用  約2億円
・ 給排水管工事     約2億円
・ 耐震改修工事     約1億5千万円

修繕積立金+借り入れでも、すべての工事を行うことは不可能です。このため、緊急性の優先実施を検討するため組合員にアンケートを行いました。漏水事故も発生しているので給排水管工事優先の提案をしましたが、アンケートでは傷んだ建物外観を先に改善してもらいたいとの声が多数を占めました。

この結果、最優先を大規模修繕工事、次に給排水管工事となり、耐震改修は資金面を含め、調査診断の結果で改めて検討することとなり理事会の了解を得ました。

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 1-5 説明会と臨時総会

設計事務所による建物調査と診断が行われると、劣化箇所が想像以上に多いことが分かりました。調査・診断に基づいて概算工事金額を算出すると、大規模修繕工事金額は3億5千万円です。

足場なしで工事可能な場所から始め、かつ緊急性の低い工事項目はやむなく除外して1億8千万円まで圧縮しました。漏水事故が発生した給排水管工事は緊急性がありますが、耐震改修工事は資金の目途がついてからでもよいでしょう。

圧縮した工事概算費用が修繕積立金以内で収まる、と推定されたので住民説明会が開催されました。最初の住民説明会では異議を唱えていた方が、回を重ねるごとに徐々に賛成する立場へ変わり、ついに臨時総会の開催を迎えました

臨時総会で大規模修繕工事は1億8千万円で行う。給排水管工事は借入金で対応する。耐震改修工事は今後5~10年の期間で検討することを明示すると提案されました。管理組合が現状を踏まえた説明をできたので、異議を唱える組合員がいなくなり組合員全員の賛成で提案は承認されました

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 1-6 着工前の本調査

マンションはありとあらゆるところが劣化していました。上の階の漏水が下の階にまで至り、鉄筋がさびて爆裂している箇所もありました。

予算の関係上、外構部分を修繕項目から外すと一階店舗の組合員から、「私たちもほかの組合員と同様に修繕費用を負担しています。住居部分の玄関周りと一階店舗前は同等に検討していただけませんか。」とクレームが出ました。

営業に直接影響する箇所なので、外構部分も工事項目に再計上することにしました

これらと並行して給排水管の調査と診断も行われました。漏水事故発生個所を中心に調査し、借入金の総会決議を経て工事が始まりました。しかし、給排水管だけに留まらず、想定外のガス管にまでサビや腐食箇所が見られ、次々に工事個所が増加し始めました。

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 1-7 修繕積立金の見直し

マンションの大規模修繕を放置していると出費が増えることを学んだ理事会は、これから先を見据えて「長期修繕計画の見直し」と、組合員へのアンケートを基に「修繕積立金値上げの検討」を開始しました。

マンションという建物への関心が高まっているなか、理事会は周辺の同年代同規模マンションの修繕積立金を調査した結果を添えて、1戸8千円だった修繕積立金見直し案を4通り組合員へ提示しました。

マンションをよくしたいは、誰もが思うことです。埼玉県下の8階建て55戸の分譲マンションでは、2017年8月末の工事完了予定へ向けて現在工事が進められています。

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2 国土交通省補助金活用事例

 2-1 補助対象事業への挑戦

石川県下の10階建て120戸の分譲マンションは、築33年目で2回目の大規模修繕時期を迎えていました。大規模修繕計画を進める中、例年公募される国土交通省の「長期優良住宅化リホーム推進事業」補助金の内容を説明すると、2015年秋期の公募に申請することで準備を始めました。

長期優良住宅化リフォーム推進事業は、長寿命化に資するリフォームの先進的な取り組みに対して支援を行う事業で、消費者の不安を解消するインスペクションや維持保全計画作成の取り組みを行うことを前提としています。

国土交通省への申請受付は非常に短期間です。
・ 公示から申請受付期間が30日と短い。
・ 事前に理事・修繕委員・組合員間で合意しておく必要があります。
・ 竣工後30日以内の工事完了報告、維持管理計画書類提出を行ったうえで補助金が交
 付されます。


 長期優良住宅化リホーム工事に要する費用は、①の特定性能向上工事に要する費用が過半であること。補助率は特定性能向上工事に要する費用の3分の1で、補助限度額は1戸100万円でかつ5千万円までとなっています。

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 2-2 長期優良住宅化リフォーム事業

国土交通省の「平成28年度の長期優良住宅化リフォーム推進事業」の要綱を複製しました。

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 2-3 一定の基準を満たす

・ 特定性能向上工事は、各性能項目について、S基準またはA基準を満たすための性
  能向上工事とします。(S基準、A基準の内容について後述。)

・ 劣化対策、耐震性については、リフォーム後にA基準に達していることを要件とし
  ます。

・ 選択項目については、必ずしもA基準に達することは要しないが、採択に当たって
  は、S基準またはA基準への対応度を考慮します。

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 2-4 補助対象の例

性能向上事業であっても、A基準に達していない工事はその他性能工事とします。その他の場合、特定性能向上工事に要する費用を限度とします。

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 2-5 建築士の調査が必要

建築士による建物現況調査(インスペクション)が補助申請の必要条項です。

・ 現況調査チェックシートによりインスペクションを行います。

・ インスペクションにより劣化事象が指摘された箇所については以下のいずれかの措
  置を取ります。
  ① リフォーム工事の内容に含めること。
   (特定性能向上工事またはその他性能向上工事として補助対象)
  ② 維持保全計画において、今後の補修時期または次回の点検時期を明記。

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 2-6 維持保全計画書の作成

・ 工事完了後、維持保全計画書を作成します。

・ インスペクションで認められた劣化を大規模修繕工事で補修しない場合は、維持保全計画に補修時期等を明記します。

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 2-7 補助金支払いまでの流れ

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 2-8 管理組合提案からの流れ

2015年 9月  管理組合へ提案
 2015年11月  国土交通省から応募案内
           緊急理事会にて承認
           申請書類作成
           仮申請(申請額2億円)
 2016年 1月  採択通知(6,600万円 ※支給額仮決定)
           採択後住民説明会、総会開催で決議
 2016年 3月 本申請(申請額2億1千万円)
 2016年 5月  7千万円 ※の支給で最終決定
 2016年 6~12月  工事実施
 ※ 支給額はこの公募のみ申請額の3分の1、最大5千万円の上限が撤廃されていた。

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 2-9 マンションをどのように改修

補助対象にある劣化対策と省エネ・維持管理を兼ね備える外断熱化へ向けた改修が行われました

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 2-10 断熱材の貼り付け

外壁と断熱材の定着試験を行いながら、建物の外壁に厚さ50mmの断熱材を張り付け、その上からガルバリウム鋼板を取り付けました

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 2-11 現場見学会に学生の姿も

組合員、他管理組合の参加者だけでなく、大学の授業の一環で学生も見学会に参加しました

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 2-12 全戸の窓をペアガラスに

補助対象である居住環境向上・建物の長命化資産価値向上に付与しました

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 2-13 大規模修繕の完了

外断熱工事のほか、玄関ドア(耐震・断熱)の取替、屋上・共用廊下・バルコニーの大規模修繕工事を実施しました。工事完了後の組合員アンケートにて、起床・帰宅時の室温が上がった。結露がなくなった。浴室と居室の温度差がなくなったとの回答が寄せられました

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 2-14 工事費用の変遷

① 当初計画時
  ・ 2015年 9月  1億2千万円
     予算の関係上、屋上を除く通常の大規模修繕工事

② 補助金申請時
  ・ 2015年11月  2億2千万円
     外断熱工事等を伴う補助金対象工事(外壁4面+屋上)

③ 補助金          7千万円
   管理組合実質負担   1億4千万円

次回の大規模修繕工事の際に、外断熱によるタイル工事が減少するため工事費用が4割ほど減る見込みです。

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謝辞:文中に掲載しました写真類は、講演のレジメから転載させていただきました。ありがとうございます。