1 15年周期の研究理由
1-1 修繕積立金の不足解消
多くの管理組合では修繕積立金が不足し、修繕積立金の不足を解消したいと願っても増額は簡単にできません。で費用を少しでも節約して、安心なマンション生活が送れないでしょうか。
・ 修繕周期を伸ばすことで資金計画を楽にできない
でしょうか。
・ 不良工事をなくして余計な出費を抑えられないで
しょうか。
・ 大規模修繕工事の煩わしさを軽減できないでしょ
うか。
1-2 管理組合が抱える問題点
・ 三割を超えるマンションで修繕積立金が不足しています。
・ 建物の老朽化で、築30年を超えるマンションが2030年には369万戸とな
り、3倍以上に増加します。
・ 組合員の高齢化で、60歳以上が5割を突破し、年金暮らしの世帯が増加します。
このような時期を迎えると、修繕積立金不足が切実な問題となります。
1-3 同じ誤りを繰り返さない
外壁の塗装は剥がれています。塗装が剥がれた原因を突き止め、改修することが大事です。よく見ると、約半数の窓で水切りの出幅がない状態です。
なぜ、この状態を改善せずに一回目の大規模修繕工事を行ったのでしょうか。
水切りは、外壁面から20mm以上出さなければ効果が見込めません。
1-4 建物寿命は施工精度で変わる
大規模修繕を実施してからまだ5年なのに
・ 塗装が剥がれてきた。
・ つい先日、タイルが車の屋根に落下した。
・ 外部廊下に雨漏れが見られた。
このような状態を見ると、どれだけいい加減な工事がされているのかと悩みます。
1-5 ある現場での出来事
シーリングの打ち替え工事で、工事仕様書には全面撤去を指示していました。ところが、除去せずに既設の上から打ち増し(表面にシールを薄く塗る)をしていました。
外壁には縦横にシーリングが打たれています。経年劣化でシーリングは部分欠損が起こります。剥がしてみるとシーリングはかなりの太さになります。
既設の上から打ち増しをしているかどうか外見上ではわかりません。触手確認が必要です。このような工事をなくすためには、業界全体のモラル・技術・施工精度の底上げが必要です。
1-6 理事長として経験したこと
マンションの管理組合は、建物の価値及び機能の維持増進を図るため、常に適正な管理を行うよう努めなければなりません。ただし、マンション管理業務の全部又は一部を、マンション管理業者等の第三者に委託し、又は請け負わせることができます。
マンション管理業務の全部を委託している場合でも、管理組合の管理業務が無いわけではありません。委託している業務がきちんと行われているかの確認が必要です。確認もせずに委託費用を支払っていれば管理業務の怠慢になります。
理事会で管理業務主任から建物の点検報告がありません。管理会社の建物点検でも劣化や損傷の報告はありません。不思議に思い建物を点検すると、建物管理は任せておけないと言う状態です。理事長の点検で発見した事例をご紹介します。
雨があたる鉄部は劣化します。腐食が進むと扉に穴が開いて修繕は面倒になります。右上写真の戸枠は腐食で穴が空いていました。4~5年に1度などの定期的な防錆と塗装をお勧めします。
扉の下に赤サビが落ちていたので、手鏡に写してみると防水層を押さえる金具が腐食して錆だらけです。通り一遍の点検では見落とされる部分です。
防水層が劣化して表層が剥がれ始めていました。また、防水層を押さえるカバーが浮き上がり、雨水が防水層の下へ流れ込む状態でした。変性シリコンを塗布して補修しました。
屋上のコンクリートの隙間やルーフドレンに雑草やコケ類が繁茂します。雑草は抜き取らないと根が防水層を破りますし、コケを取り除かないと排水が悪くなり漏水の原因をつくります。
ベランダの隔壁が強風で揺れると、板を固定しているシールがたるんで垂れ下がり強度が不足します。フェンスの付け根に雨水などが染み込むとグラグラするようになります。
窓下の水切り不良でタイル内へ染み込んだ雨水が乾燥すると空洞が残ります。この空洞内へ二酸化炭素が侵入するとコンクリートは中性化して、外壁表面に炭酸カルシュウムが現れます。これを白華現象(エフェロレッセンス)と言います。また、劣化したシーリングには隙間ができて、雨水が入りやすくなります。
玄関扉を開閉させる軸受のフロアーヒンジから油が漏れ出てくると粉塵が付着して汚れが目立ちます。インターロッキングのタイルを支える砂が流されると、沈んで捻挫などの原因をつくります。
いい加減な清掃をしていると戸室の扉下にモップの汚れが付着します。掃除機の使い方を誤ると廊下の表面は削られていきます。
外壁に染み込んだ雨水はモルタルを剥離させたり、タイルを浮き上がらせたり、軒天の塗装を剥がしたりします。
壁のモルタルが部分剥離したり、ベランダの帯部が崩れてしまうこともあります。
マンションの管理は管理組合が行うもので、管理会社に委託している業務がきちんと行われているかを確認しなければ、劣化や損傷が進行して予想外な修繕費用が必要になります。修繕費用は管理会社が払うわけではありません。
1-6 施工精度で変わる寿命
施工不良の原因は、工事基準の理解力不足からと考えられます。一般的に、大規模修繕工事は国土交通省が作成した標準仕様書に基いて工事を実施します。しかし、多くの現場では監督・職人の経験値で工事が進められています。
職業訓練所で技術を学んで職人になった人がいます。親方や先輩から教えられて叩き上げられた職人もいます。大きな工場やマンションなどの工事経験者や、一戸建ての木造住宅の経験しかない者もいます。さまざまな工事現場で腕を磨いた人もいれば、下働きしかさせてもらえなかった人もいます。
マンションの建築工事は同じ技術レベルの職人が工事を担当しているわけではありません。それぞれの経験に基づいて、最もやりやすい方法で仕事をしています。すべての職人が、国土交通省が作成した標準仕様書に基いて工事をしているとは言い難いのです。
技術力が低い職人の張ったタイルは剥がれ落ちる確立が高くなります。このような事故を防止するために現場監督がイますが、現場監督も技術力や経験値などで差があり、これらの要素が絡んで施工精度が変わると建物の寿命は低くなります。
1-7 ずさんな計画のツケは
新築分譲の長期修繕計画を見ると、30年後の修繕積立金は赤字になるケースが増大しています。その原因は、分譲会社がマンションを売りやすくするために、購入時の費用と維持費を安く押さえるためです。
マンションの購入者はできるだけ早めに管理組合の理事会を開き、同規模のマンションの修繕積立金の額を調査しましょう。マンション管理講座に出席して情報を集めることも大切です。マンション管理講座の参加は管理組合の役員や役員経験者ですから、休憩時間を利用して質問することも有益です。
新築分譲の長期修繕計画のままで放置していると、施設設備の劣化や物価の変動に伴い修繕積立金の値上げがやってきます。一時金の徴収が必要になる場合も出てきます。これが避けられたことは皆無です。
これまでの大規模修繕は10年に1回とされ、60年間で6回必要になります。大規模修繕にかかる費用は毎月修繕積立金で備蓄していますが、備蓄で間に合うどころか不足するというのが常識です。かと言って、毎月の積立額を簡単に上げるわけにも行きません。
自分のマンションの修繕積立金の適正額を早めに知り、即座に手を打つことがことが重要です。何もしなければ、修繕積立金の値上げや一時金の徴収が必要になり、賛成反対で人間関係にヒビが入ることは火を見るよりも明らかです。
1-8 修繕周期を15年に
一方、10年に1回という大規模修繕を15年に1回にすれば、60年間で4回になり1戸当たり100万円を節約できることになります。積立期間が3年伸びるので急激な積立金の値上げは回避できることになります。
ただし、夢のような話を現実にするには今までと同じやり方ではできません。「傷んだ箇所を修繕する」だけでなく、「より長持ちできる建物に改良する」という発想が必要になります。施工精度により建物の耐久性が左右されることを噛みしめるべきです。
完成後、全組合員の笑顔を得るためには、どんな大規模修繕をすればよいか。どうすれば設計事務所と施工会社が、精度の高い大規模修繕工事を実施できるかを考え出さなければなりません。
修繕周期15年を確実にするには、大規模修繕に関わる設計事務所と施工会社の「技術研修」「品質基準」「検査システム」の三位一体により、高品質な大規模修繕を実現させることが可能となります。このような見地から、その最善策として「修繕周期15年システム」を確立しました。
1-9 プロジェクトの取り組み
修繕周期を15年にするには、修繕周期15年用の統一書類、マニュアル・ルール・研修などが必要になります。管理組合目線で対応でき、品質かつ施工精度が確保できる設計事務所、施工会社でなければ15年周期に対応できません。
管理組合だけでなく、マンションに関わる全ての人から信頼される施工精度と内容でなければ「15年周期認定マンション」にはならないのです。
修繕周期15年を実現するために必要な知識と技術を習得し、実践に活かすための認定研修を実施して、設計事務所には「大規模修繕設計・工事監理技術者」の認定を、施工会社には「大規模修繕工事施工管理技術者」の認定を行います。認定者は年1回開催の研修を通してマインド力と技術力の強化を図っていきます。
修繕周期15年を確実なものとするため、大規模修繕協議会オリジナルの「修繕周期15年システム業務マニュアル(A4版88頁)」を編成しました。修繕周期15年を確実に実施していただく認定技術者が手にする一冊で、本日の講義はこの「業務マニュアル」から一部抜粋して説明しています。