1 現状の把握
1-1 建物の概要
千葉市で耐震化工事と大規模修繕工事を行ったYハイツの建物概要は次の通りです。
・ 建物竣工 昭和49年6月
・ 構造・規模 鉄筋コンクリート造7階2棟
・ 拾戸数 123戸+集会室+管理員室
・ 施工会社 株式会社新井組
1-2 耐震補強設計までの流れ
・ 耐震診断 施工会社に勧められて実施。
・ 診断後 気になりながらもそのままに。
・ 本格検討 東日本大震災をきっかけに。
・ 補強設計 複数社で設計事務所を選考。
1-3 耐震性能について
建物の地震対策を行う場合、構造体の耐震性能を正しく把握することから始まります。1981年に改正された耐震基準では、大地震時に建物が地震による水平方向の力に対して、対応する強さを建物が保有しているかどうかを検討するように規定しています。
1981年以前の旧基準の建物は設計法が現在と異なるため、現在と同様な「保有水平耐力」に基づく方法で耐震性の検討を行うことができません。そこで、耐震診断は建物の強度や粘りに加え、その形状や経年状況を考慮した耐震指標「Is値」を計算します。
耐震改修促進法等では耐震指標の判定基準を0.6以上とし、基準以下の建物については耐震補強の必要性があると判断されます。つまり、「Is値≧0.6」の建物は「必要な耐震強度に対し100%の強度を持っている」ことを意味します。
1968年の十勝沖地震(M7.9、震度5)と1978年宮城県沖地震(M7.4、震度5)で、中破以上の被害を受けた鉄筋コンクリート造建築物の二次診断結果から、震度5程度ではIs値が0.6以上の建物に中破以上の被害が生じていないことがわかりました。また、Is値が0.6を下回るとIs値が低くなるに従って被害を受ける可能性が高くなることがわかりました。
施工会社に勧められて実施したYハイツの耐震診断結果は、「Is値が0.49で中破の恐れあり」という結果でした。すぐに対策を講じなかったのはどこのマンションでも同じように、「そのうち、誰かがやるだろう。」という考え方でした。しかし、東日本大震災を経験したのを期に、修繕委員会のメンバーは前向きな方向へ代わりました。
1-4 設計事務所の悩み
修繕委員会は、前回の大規模修繕工事を2002年に実施しています。今回は耐震補強をしながら大規模修繕工事の調査設計も進めたいという希望でした。設計事務所側は、耐震や大規模修繕について設計事務所を選考する段階だから、ある程度の準備はできていると考えました。
前回の大規模修繕は工事は2002年に実施しています。2015年に予定している大規模修繕では、耐震補強工事設計をしながら大規模修繕工事設計も進めていきたいとの要望です。
修繕委員会より渡された2011年作成の長期修繕計画書を見ると、2015年に耐震補強工事と大規模修繕工事を実施すると、修繕積立金の累計額は工事費の累計額を上回ります。一時的なものではなく、その後も延々と赤字状態が続くことになっています。
2011年作成の予算は
・ 修繕積立金残額 45,771,000円
・ 前回借入返済 2012年度まで毎年533万円返済
・ 修繕積立金年計 13,915,000円
・ 耐震・大規模修繕実施 172,060,000円(2015年実施予定)
耐震補強と大規模修繕を同時にやりたい気持ちはわかりますが、修繕積立金の累計より工事費の累計が毎年上回り、常に赤字の状態が続いています。年金生活の方が多く一時金の徴収に反対が多いと云うこともあり、この計画を進めてよいのだろうか、無理ではないだろうかと設計事務所は悩みました。