1 廊下に無数の傷
2010(平成22)年6月25日の10時にマンション前でタクシーを降りました。1年ほど前からすべてがぼやけるようになり、年が明けてから急激に進行し始めた両眼の白内障で6月16日に左目、23日に右目を手術して退院しました。
6階のエレベーターを降りると、床に張られたPタイルの表面が傷だらけです。まるでカッターナーフで傷つけたような細い傷が無数に走っています。毎日の共用部巡視では気付かず、白内障の手術をしたおかげで視力が回復した証拠です。
一息ついてから東棟の階段を1階まで下りていくと、各階廊下の床は同じように傷だらけです。西棟も6階から階段を下りてみると、どの階の床も同じように傷だらけです。傷の痕跡は浅く、なぜこのような痕跡ができたのか理解に苦しみます。
27日の理事会で質問しました。「白内障の手術で二週間ほど入院していました。退院すると各階廊下のPタイルが傷だらけです。なにかあったんですか。」「えっ、傷なんかありましたか。なにも聞いていませんよ。」「どんな傷ですか、何本ぐらいありました。」「Pタイルの表面にそんなにたくさん傷が。気付かなかったなあ」。
理事会終了後、西棟を6階まで上りながら床の状態を確認しました。傷が見えるので白内障の方はいないとわかりますが、傷のついた原因を推測できる役員はいません。
2 原因不明の損傷
翌日、東棟六階の廊下の床を隅々まで調べました。傷は廊下の中央部に集中し、壁際の床にはほとんどありません。傷の幅をクラックスケールで測ると0.15mm程度で、傷の深さは浅く、重い荷物を引きずったときについたとは考えにくいものです。
冬期間使用する滑り止めのついた靴底をみても、傷をつけるようなスパイクはついていません。購入したものを床の上で引きずって運んだことはありません。2ヶ月に1~2度注文するピザの配達人が、床を傷つけるような靴を履いているはずはありませんし、宅配の方もめったに訪れることはありません。
傷をよくみると、床に尖ったようなものを置いて前方へ押し出し、すぐに引き戻したような痕跡が無数にあります。どの階の床にも同じような傷がついていました。
前へ押し出してすぐ引き戻す操作をするのは掃除機です。共用部の廊下は管理人が掃除機で清掃しています。管理組合が業務用掃除機を購入したのは2年前で使い方の講習もマンツーマンで行っています。
3 業務用掃除機
業務用掃除機の購入については、2008(平成20)年6月10日発行の理事会報第254号で「プロとしての誇りを持てる用具を」でお知らせしました。
事の発端は5月12日夕方に居住者からの連絡でした。「エレベータから降りると管理員さんが廊下を清掃していました。小型の家庭用掃除機でジャバラのホースとノズルしかなく、長ホースがないためひざをついて清掃しています。ひどすぎませんか」。管理員室にはかなりくたびれた小型掃除機があり、他の清掃用具は見当たりません。
5月17日の理事会で、管理担当者より「連絡いただいたので、中古ですが掃除機を長ホース付きに交換しました。清掃用具の代金は管理組合負担となりますが、掃除機を発注してもよろしいでしょうか。」とお話がありました。
「前の管理会社は委託費の中に清掃用具代が含まれていました。前管理会社が用具類を持ち去ったのを確認していますが、臨時の管理員さんが使っていたものは管理会社が用意したものと考えていました。」「臨時の管理員は所属清掃会社の用具を持ち込んで使っていました。当社が契約しているマンションでは、清掃用具購入費用などを消耗備品費から支出させていただく方法をとっております。定期総会前なので差し控えておりましたが、清掃に支障がありますので必要な用具類を卸問屋へ発注してもよろしいでしょうか」。
「問屋さんからの購入は1割引とのことですが、清掃用具販売店は販売実績に応じて4~5割引で購入します。したがって、最低でも2割引となるため用具の名称と数量をお知らせいただければ理事長が発注します。トイレットペーパー類は量販店のバーゲンで小口現金を利用して購入します。このほうが管理組合の負担は軽くなります。」と回答しました。
管理担当者から届いた清掃用具類の名称を見ると、小規模マンションの清掃用としては疑問を感じる内容です。平成13年の夏、共用部の床油剥離清掃のご指導をいただいた清掃資材販売会社のO社長にご足労いただき、管理員さんと話し合いを持ちました。「5月2日に管理員として着任すると清掃用具がなにもなく、掃除機を請求すると中古の古い家庭用小型掃除機が届きました。ゴム手袋やごみ袋もないので至急そろえるように要望していた。」そうです。
廊下、階段、壁、窓、照明器具、エレベータ乗降口、マンションや風除室出入口、側溝等の清掃方法と利用用具について説明いただくと、共用部美化に対する情熱が強く感じられました。プロにはプロとして誇りの持てる用具をお使いいただくのが礼儀で、気持ち良く仕事をしていただけるように配慮するのが裏方の務めです。
労力を軽減して最適な清掃方法を採れるように業務用の掃除機をはじめ、業務量を軽減できるワンタッチモップ、風除室のガラス幅に合わせたウインドスクイジーなどを税込み56,456円で発注しました。また、自在ほうきや従来の糸モップとモップ絞り機、ダスキン類を使わない理由と、ワンタッチモップ糸の洗濯方法について説明をいただきました。清掃用具類が何一つない状態のため、理事会の承認を得て新年度の消耗備品費より支出しましたのでご了解ください。
5月23日午後1時、清掃用具の納品時にO社長より用具類の使い方などについて実技指導をいただきました。なお、すべり止め付軍手、ごみ袋、スコッチブライト、粉石けん、ブリーチ、タオル、ワンタッチモップ糸などは消耗しだい補充が必要になります。費用は管理組合負担ですから、管理員さんよりメモで直接理事長へ連絡いただくようお願いしました。
また、文房具は前管理会社がすべて引き上げたため、管理員さんが持ち込まれた私物をお引取りいただきました。プロ用としては不適当なため、小口現金を利用してマンション管理に最低限必要な文房具類を常備しました。
4 天は自ら助くる者を助く
マンション共用部である、すべての階の廊下に同じような傷がついています。傷のない廊下が傷だらけになると、マンションの資産価値が落ちたことになります。原因がわからずに放置していれば、傷に気づいた区分所有者から管理責任を問われることになりかねません。管理不行き届きで損害賠償を求められるかもしれません。
管理責任を問われるのは理事長一人で、理事会も他の理事たちも関係ないと云うでしょう。管理規約に「理事会の承認を受けて、他の理事にその職務の一部を委任することができる。」という規定があっても、仕事が忙しいからすべてお任せしますといわれます。理事会へ出席いただけることを感謝するのみで業務の一部をお願いすることなど不可能というのが現実です。
副理事長は5時半に出勤して20時を過ぎないと帰宅できず、土曜も日曜も出勤しで冬期間にわずかしか休みをもらえない企業に勤務されています。私が地方公務員であることを知っていながら、面と向かって「公務員は仕事をしませんね。」という理事は推して知るべしです。監事はその立場上、業務を分担するはできません。
資産価値の低下は理事長責任とされかねない状態のため、なんとしても原因を究明が必要です。管理員室で掃除機を詳細に調べると床に当たったと思える金属面が部分的に摩耗していることに気づきました。机上のファイルから取扱説明書をだして説明をみると、床を掃除するときはレバーを倒してブラシを出すとあります。
掃除機のブラシは引っ込んだままでした。清掃作業が終わって掃除機を片付けるときは使い始めるときにすぐ使える状態にしておくのが一般的でしょう。レバーを切り替えて使用した場合はレバーを戻すはずです。
管理員室のPタイルの上でノズルを動かすと、軽く引っ掛かるような音が聞こえます。ノズルが床面に接する部分の音で、この状態では床と接する部分が摩耗していきます。ブラシを出すと音は消えてスムーズに前後します。
実験結果から、管理員はブラシを引っ込めじゅうたん用で床を清掃していたと推定できます。
5 区分所有者への公表
2010(平成22)年7月4日発行の理事会報第315号で「廊下のPタイルは線状のキズだらけ」をお知らせしました。
目の手術後に建物を巡視すると、東棟と西棟の壁際以外のすべての廊下全体に金ブラシをかけたようなキズが広がっているのが見えました。階段のPタイル表面にキズはなく、平成19年7月1日の共用部点検時に撮影した西棟六階廊下写真にもこのようなキズは写っていません。
平成20年5月2日に管理会社の新管理員が着任し、管理組合はジョンソンの業務用掃除機を購入しました。5月23日に納品した清掃資材販売会社のO社長が、掃除機の取り扱い方法を管理員が一人でできるまで実技指導され、理事長もその場に立ち会いました。
掃除機のノズルの裏を見ると、金属の部分が広範囲にわたって磨耗していました。掃除機のノズルを床において前方に押し出すと、時々Pタイルに引っかかるような音がします。取扱の説明を受けた管理員は、床を保護するブラシを引っ込めたまま使っていたと推測できます。理事会で検討し、共用部を損傷させたことについて管理会社の見解を求めます。
6 管理会社から音沙汰なし
2010(平成22年)年7月14日発行の理事会報第316号で「共用部廊下表面のキズは掃除機ノズル」をお知らせしました。
業務用掃除機は、ノズルを床用とじゅうたん用に切替えることができます。床用はPタイルのような平面の床、じゅうたん用は風除室の靴拭きマットなど凹凸のある部分を清掃するさいに使用します。前任の管理員はじゅうたん用でPタイルの床、床用で靴拭きマットを清掃すると思い込んでいたようです。
新任の管理員は建物内の廊下がキズだらけであることに疑義をもたれ、7月2日の清掃時から掃除機のノズルを引継ぎとは逆に切替えて使用し始めたそうです。
これで6月30日の調査時にじゅうたん用であったノズルが、7月3日の調査時に床用に切替えられていた理由がわかりました。7月5日に新任管理員よりこれらの説明をいただいたのち、管理員室机上保管の取扱説明書で正規の使用方法を確認いただきました。
誤った思い込みでPタイルを傷つけたのは前任の管理員と断定できました。しかし、年一回の共用部分等外観点検報告書に「内階段に異状ありません」と記され、過去2年間とも各階廊下の表面についての異状報告はありません。
管理業務主任へ「建物を巡回することはあるのですか。」と質問すると「月に一度は巡視し、不具合がないか見ています。」との回答でした。私のように白内障のときはわかりませんが、エレベーター乗降口に立って床の損傷に気づかないのはなぜでしょう。共用部の管理と管理組合の財産である物品の扱いについて、管理会社はどのようにお考えか7月3日付けで文書を郵送しました。
管理委託契約の第18条1号に、「乙が善良なる管理者の注意をもって管理事務を行ったにもかかわらず生じた管理対象物の異常または故障による損害は賠償する責任は負わない」と免責事項があります。しかし、この事例は明らかに管理委託契約第5条(善管注意義務)違反及び第15条(乙の使用者責任)を問える事例でしょう。ちなみに、会社の広告をみると「スピーディな行動力」となっていました。
7月3日付文書連絡への反応が皆無のため、7月9日に改めて管理業務主任へ依頼しました。
共用部廊下のキズについて
先日郵送した手紙への無反応は無視と受け止めるべきでしょうか。5日に新任管理員へ引継ぎされた内容を伺うと、前任管理員が思い込みで操作をした結果と分かりました。
7 理事会の考えを通告
2010(平成22)7月25日発行の理事会報第317号で「共用部の廊下損傷に床全面張替えを要望」をお知らせしました。
7月13日と14日に第2回と第3回の臨時理事会を連続で開催しました。第2回臨時理事会で、共用部の廊下表面損傷に対する管理組合としての要望案をまとめました。第3回臨時理事会へ管理業務主任をお招きし、廊下表面損傷を発見した経緯を説明し、キズが発生した時期を確認できる資料の存在を示して管理組合の考えを伝えました。
7-1 廊下の損傷発見経緯
ア. 6月30日に廊下の床を再点検すると、東棟と西棟の壁際以外のすべ
ての廊下全体に金ブラシをかけたようなキズが広がっていた。
・ 管理員室の掃除機ノズルを調べるとじゅうたん用に切替えられたまま
で、ノズルの裏を返すと金属の部分が広範囲にわたって磨耗していた。
・ 7月3日、管理員室で掃除機の取扱い説明書を確認しながらノズルを
見ると、ノズルは床用に切替えられてブラシが出ている状態で保管され
ていた。
イ. 新任管理員は廊下にキズが多いのを不審に思い、7月2日の清掃時か
ら掃除機のノズルを引継ぎとは逆に切替えて使用し始めた。7月5日に
管理員室机上保管の取扱説明書で正規の使用方法を確認いただいた。
7-2 キズの有無を特定可能
ア. 前管理会社の共用部点検報告書
平成19年の2月・8月・11月の報告書に東西棟六階エレベータ前
廊下の「床の写真」が掲載されている。
イ. 現管理会社の共用部点検報告書
平成20年10月24日の調査報告書に、床Pタイルのひび割れとし
て「床の写真」が掲載されている。用紙の質で明瞭に印刷されていない
が、写真専用紙に印刷すればキズの有無は明瞭に判断できる。
ウ. 平成19年2月・8月・11月撮影の床の写真、及び平成20年10
月24日撮影の写真にキズがなければ、平成20年10月24日~平成
22年6月26日の期間に付けられたキズであることが証明できる。
7-3 管理会社への照会
ア. 7月3日に文書で「この程度の損傷は当然と考えられるか、とんでも
ないこととされるか、責任者による損傷箇所の検分を依頼します。」と
札幌支店長宛に文書で依頼したが、札幌支店から連絡はない。
※ 14日の臨時理事会で、担当の管理業務主任は地方出張だったとの
説明があった。担当者がいない場合は、放置したままで対応しない
ことが確認できた。
イ. 7月9日に管理業務主任宛に照会メールを送信した。
※ 地方出張中は会社へのメールを見ていないとの説明だった。メール
アドレスは個人専用で、携帯電話でも受信可能なため、地方出張中は
対応しないことが明確となった。
ウ. 7月12日16時17分、総務課長代理宛に「貴社へこのような依頼
をしています」と確認メールを送信した。17時33分に担当者と業
務管理課課長へ再度連絡しました。
7-4 管理業務主任の対応
ア. 共用部廊下の損傷はいつ発生したか確かめたい。
イ. 管理員が使用した掃除機の取り扱いが原因であれば、会社としては責
任を感じている。
ウ. すべてのキズは、管理員の掃除機使用方法が原因とは考えがたい。
7-5 管理組合の要望
ア. 管理会社の共用部点検報告書の写真と同一角度で撮影した写真をお
渡しした。平成20年10月24日の共用部点検で撮影された写真を
写真専用紙に印刷て比較をお願いしたい。
イ. 廊下のキズすべてが昨年度中につけられたものとは考えていないが、
管理員の引継ぎから掃除機の使い方に原因があることは明白である。
ウ. 管理員が使用した掃除機の取り扱いが原因であれば、理事会は全共用
部のPタイル張替えを要望する。
e. 会社で検討した対応策を、すみやかに理事会へ提案していただくよう
依頼する。
8 管理会社の謝罪と誠意
2008(平成20)年8月3日発行の理事会報第3188号で「共用部床全面張替え要望に対応案提示」をお知らせしました。
7月25日の第3回定例理事会で、理事会が要望した共用部廊下のPタイル全面張替えに対し、管理業務主任より「弊社としては、このようなことが発生したのは申し訳なく、共用部廊下のPタイルをすべて張り替えます。」との回答をいただきました。
理事会は管理会社の誠意を受け止めましたが、大規模修繕でPタイルをタイルカーペットに張り替える予定でいます。Pタイルのままにすると毎年メンテナンス費用がかかりますし、タイルカーペットの購入には約50万円程度の費用が必要です。大規模修繕項目の精査でどのような結論が得られるか分かりませんが、Pタイル張替え費用の8割程度をタイルカーペット張替え時にご負担いただけないか、再度検討をお願いしました。
※ すべての廊下のキズを前管理員がつけられたものとは考えていません。したがって、管理会社にPタイル張替え費用の8割程度をご負担いただけないかと考えたのです。保険が適用になると知ったのは相当後のことです。
2008年(平成20)年8月31日発行の理事会報第321号で「廊下のPタイル張替え費用は現金で」をお知らせしました。
平成22年8月29日開催の平成22年度第1回臨時総会終了後の第4回定例理事会で、管理業務主任より管理会社の対応について説明をいただきました。
「大規模修繕工事を目前に控えた管理組合の都合を考慮し、当社の管理員が損傷させたPタイルの張替え費用として積算した1,176千円を現金で支払います。」との回答をいただき、管理会社の誠意を受け止めご配慮に対し謝辞を述べました。