1 定期報告制度
1-1 報告制度の目的
建築基準法に定められた「定期報告制度」は、不特定多数の人々が利用する建築物で一定の規模以上の特殊建築物等は、構造の老朽化、避難設備の不備、建築設備の操作不完全によって大きな災害が発生する恐れがないよう、定期的に専門の技術者に点検してもらいその結果を特定行政庁へ報告する制度です。
マンションは特殊建築物に分類され、3階以上で床面積の合計が1,000平方メートルを超える建物が該当します。事故や災害時の被害拡大を防ぎ、建築物と利用者の安全性を確保することが目的です。三階以下で床面積が狭い建物では報告義務がないだけで、自主点検や専門家による点検が不要ではありません。
1-2 改正された理由
平成18年6月に東京都内公共賃貸住宅のエレベーターで死亡事故、平成19年4月に東京都内複合ビルのエレベーター内発煙事故、同年5月の大阪府内遊園地コースターで死亡事故、同年6月の東京都内雑居ビルにおける広告板落下事故など、建築物や昇降機などに関する事故が相次ぎ発生しました。
事故の中には、建築物や昇降機などの安全性の確保にとって重要な日常の維持保全や定期報告が、適切に行われていなかったことが事故の一因とされるものもありました。そこで、2008(平成20)年4月1日から建築基準法第12条に基づく「定期報告制度」が改正されました。
1-3 改正された内容
1-3-1 外壁タイルの劣化と損傷
・ 改正前 手の届く範囲を打診、その他を目視で調査し、異常があれば「精密調査
を要する」として建築物の所有者等に注意を喚起。
・ 改正後 手の届く範囲を打診、その他を目視で調査し、異常があれば全面打診等
により調査し、加えて竣工、外壁改修等から10年を経てから最初の調査
の際に全面打診等により調査。
1-3-2 吹き付けアスベスト等
・ 改正前 施工の有無、飛散防止対策の湯無・劣化損傷状況を調査。
・ 改正後 施工の有無、飛散防止対策の湯無・劣化損傷状況を調査し、吹き付けア
スベストが施工され、かつ飛散防止対策等がされていない場合は、当該ア
スベストの劣化損傷状況を調査。
1-3-3 建築設備・防火設備
・ 改正前 設備の有無及び定期的な点検の実施の有無と調査。
・ 改正後 設備の有無及び定期的な点検の実施の有無と調査し、定期的な点検が実
施されていない場合は、作動状態を調査。
注意:調査結果の定期調査報告書には、配線図及び各階平面図を添付すること。
1-4 外壁の調査方法
開口隅部、水平打継部、斜壁部等のうち手の届く範囲をテストハンマーによる打診等により確認し、その他の部分は必要に応じて双眼鏡などを使用して目視により確認します。異常が認められた場合は、落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分を全面的にテストハンマーによる打診等により確認します。
ただし、竣工後、外壁改修後もしくは落下により歩行者等に危害を加える恐れのある部分の全面的なテストハンマー等による打診等を実施したのち10年を超え、かつ3年以内にその部分を全面的にテストハンマーによる打診等を実施していない場合は、全面的にテストハンマーによる打診等によりその部分を確認します。
判定基準で「要是正」となるのは、「外壁タイル等に剥離等があること。または、著しい白華、ひび割れ、浮き等があること。」となっています。一般的に、外壁タイル等の一部が剥落している・外壁タイルの一部に浮きがある・ひび割れ箇所からサビ汁の流出がある。」という状態です。
1-5 必要な点検業務
管理組合の理事長はマンションの管理者ですから、建築物の安全性を確保する責任があります。建築物の安全性を確保するには日常的に巡視や点検を行い、専門技術者の定期調査に立ち会って維持保全のアドバイスを受けることも重要とされています。
巡視と点検や維持管理を怠ると、外壁の一部やタイルなどの落下により思わぬ事故が発生して社会的な責任も問われる場合があります。火災や地震等で停電した場合は、思わぬケガやパニックを引き起こす場合もありますし、エレベーターの中に閉じこめられるなどの思わぬ事故が発生するおそれもあります。
2 建物の劣化
人が年と共に老化するように建物も劣化していきます。人に寿命があるように建物にも寿命があります。病気の早期発見と早期治療が有効であると同様に、建物も定期診断と計画修繕が必要です。
戸建住宅も共同住宅も同様に、建物の屋根や屋上、外壁やむき出しになっている鉄部や配管設備などは必ず劣化していきます。定期的なメンテナンスを行うか放置しているかでその後の修繕費用に大きな差が生じます。
2-1 屋上防水の劣化
屋上は長年にわわたって太陽や風雪雨にさらされ、防水シートの劣化やコンクリート目地の劣化が進みます。ドレン廻りのつまりなどを放置していると漏水事故を引き起こす原因になります。
2-2 モルタルのひび割れ
モルタルは一般的にコンクリート躯体の上に外装仕上げとして施工されるもので、ひび割れや剥離は金物(手すり・建具)などの接合部に多く見受けられます。微細なクラックから雨水が浸透すると剥落の原因となり、落下した場合に人身事故のおそれがあります。
2-3 外壁タイルの亀裂と剥離
タイル張り外壁の亀裂や剥離は、躯体や下地コンクリートのひび割れに伴うもの、建物のジョイントに張られたもの、鉄筋のカブリ厚不足、下地と張り付けモルタルとの間の剥離によるものなど、様々な要因が重なり発生します。
2-4 外部鉄骨階段のサビ
非常階段や鋼製建具などの鉄部のサビや腐食は放置すると鉄そのものの欠損となり、美観を損ねるだけでなく強度も低下してしまいます。5年周期でサビを落として塗装をし直さなければなりません。
2-5 配管設備の劣化
配管内外のサビや保温材の劣化などは、赤水や漏水の原因となります。また、配管の弁類やポンプ、電気系統の抵抗試験や作動試験を定期的に行うことが重要となります。
2-6 経年は陳腐化を呼ぶ
竣工間もないころは最新の設備やデザインですが、10年20年が経過すると専有部や共用部は共に古いものとなり陳腐化してきます。手すりやスロープのバリアフリー、オートロックもついていないマンションが多く、防犯や利便上好ましくないものとなってきます。
2-7 定期的なメンテナンス
平成18年1月に、国土交通省から全国のマンション管理組合に対して「マンション管理標準指針」が発表されました。法定点検は当然ですが、標準的な対応として「法律で義務付けられた法定点検に限らず、建物や設備の経年による劣化や汚破損等について、定期的計測的に点検を行うことが不可欠」とあります。
定期的に専門の技術者に依頼する法定点検箇所以外で、管理会社との管理業務委託契約に含まれていない点検必要箇所があります。主に日常的点検を要するのは次の箇所です。
2-7-1 給水設備
・ 対象設備名 給水ポンプ、蓄圧ポンプ、増圧給水装置、加圧給水装置、貯水槽
配管と弁類、制御機器関係。
・ 点検の内容 漏水など不具合の早期発見で断水などの支障がなくなり、計画的な
修繕が可能となります。
2-7-2 排水設備
・ 対象設備 雨水排水ポンプ、釜揚ポンプ(ピット式駐車場等)、雑排水ポンプ、
ブロワーポンプ、汚水排水ポンプ、貯留槽配管と弁類、、排水升及び通
気管、制御機器関係。
・ 点検の内容 異常個所の発見により早期の修繕が可能となり、計画的な修繕も可
能となります。
2-7-3 電気設備
・ 対象設備 共用分電盤、活気設備、照明器具、遠隔監視設備、テレビ共調設備。
・ 点検の内容 異常個所の発見により早期の修繕が可能となり、計画的な修繕も可
能となります。
2-8 設備と建物は一体
建物の設備は使用頻度や環境により若干の差がありますが、早いもので6~7年程度で故障や不具合などが発生します。このため、最善の点検回数は毎月1回が望ましく、最低でも3ヶ月に1回は必要とされます。
点検していないポンプが故障して緊急工事となった場合、ポンプ機器の手配日数で復旧の目途が左右されたり、仮設給水や夜間・休日の場合には業者への割り増し料金発生などがあり、経済的に負担増となりかねません。
理事会の構成メンバーは名誉職でなく、名前を貸しているわけでもありません。理事会で管理業務主任の話を聞いているだけで、管理業務の勉強もしないようであれば何のために選任されたのでしょう。点検をしていないために発生したこのような事故は人災であるとして、区分所有者より割り増し料金の負担を理事会に求められることもあり得ます。
2-9 雨仕舞が重要
「雨仕舞(あめじまい)」を広辞苑で調べると、「雨水の浸入や雨漏りを防ぐこと。また、その施工方法」とあります。建築用語で、雨水が建物の内部に浸入したり漏ったりするのを防ぐこと。または防ぐための施工方法を指します。
鉄筋コンクリートは、酸素・二酸化炭素・雨水によって劣化します。鉄筋コンクリートの建物は、フレッシュコンクリートの打設で形成期に乾燥収縮によるクラックが発生し、クラックから雨水が浸入すると劣化の原因となります。マンションのバルコニーやベランダ、屋外階段などは雨ざらしになっています。
乾燥収縮によるクラックの発生は避けて通れないコンクリートの宿命ですが、劣化を防ぐためにはコンクリート内へ水を侵入させないようにすることです。日常の点検で水侵入の危険性のある個所を発見して変性シリコンでふさぐことも大切です。