1 地下に潜む次の脅威
1) 警戒すべきは直下地震
新日本出版社からMEGAQUAKE(巨大地震)Ⅲ「地下に潜む次の脅威」が出版されました。著者はNHK取材班です。この本の冒頭で、いま警戒すべきは直下地震との表題で、頻発すべき内陸直下地震ー活断層の脅威ーで次のように述べています。
3013年4月13日、兵庫県淡路島を襲った地震を覚えているだろうか。午前5時33分、淡路島の深さ15キロ付近を震源とするマグニチュード6.3の地震が発生し、淡路島では震度6弱の激しい揺れを観測、2000棟以上の住宅が一部損壊し、液状化現象や水道管破裂による断水などの被害に見舞われた。活断層で起きた内陸直下地震だ。
実は、この6日前、私たち取材班は、NHKスペシャルMEGAQUAKEⅢの第一回「次の直下型地震はどこかー知らざる活断層の真実ー」(2013年4月7日放送)で、こうした内陸直下地震の危険性を伝えたばかりだった。
NHKは、内陸直下地震の危険性を伝えたのに対策をしていないとお怒りのようだ。
番組の冒頭は、阪神・淡路大震災で地表に現れた野島断層の生々しい傷跡の映像をバックに、次のようなコメントから始まる。
18年前の大地震で兵庫県淡路市に突然現れた活断層です。地表から確認できたのはおよそ10キロ。地下では、それをはるかに上回る40キロ以上の断層がずれ動き、都市に壊滅的被害を与えました。
活断層による激しい揺れが、足元から襲う直下地震です。日本列島を囲む4枚のプレート。そのせめぎ合いによって、大地に刻まれた傷。それが地震を引き起こす「活断層」です。いま、科学者の間で警戒されているのが、活断層による直下地震です。
「巨大な地震が起こった後にですね、内陸で活断層が大きな地震を引き起こしたという例はたくさんあるわけですね」(広島大学の中田高名誉教授インタビュー)
なぜ、私たちは活断層による直下地震をテーマに取材を続けていたのか。VTRで語っている広島大学の中田高名誉教授だけでなく、多くの科学者たちの話を聞くと、「東日本大震災をきっかけに、日本でいま最も注意すべきは活断層による内陸直下地震だ」と口をそろえて指摘していたからだった。
2) 震源断層を探れ
つまり、3月11日の巨大地震によって日本列島全体の地下バランスが変化し、活断層が動きやすくなっているというのだ。
実際、東北を襲った巨大地震のあと、2年間で震度5弱の揺れの地震が30回近く観測されるなど、内陸の地震は震災前に比べて2倍近く増え、その活動は活発化していた。
日本で活断層も存在が知られるようになったのは、阪神淡路大震災がきっかけだった。1995年1月17日、淡路島北岸から神戸の六鉱山南縁の断層が動いてマグニチュード7.3の大地震を引き起こした。
地表でも大きなずれが現れ、高層ビルや高速道路などの都市のインフラは引きちぎられるように倒壊。平穏な暮らしはとてつもない威力で破壊され、6434人の尊い命が奪われた。
こうした悲劇を繰り返してはならない。被害を目の当たりにした科学者たちは、いつ・どこで・どうやって活断層が動くのか、研究を急ピッチで進めてきた。
2013年2月中旬、私達取材班は、福島県いわき市へ車を走らせていた。科学者たちが注目する大地震の調査に同行するのが目的だった。東日本大震災の発生からちょうど1か月後の2011年4月11日、福島県浜通りで起きたマグニチュード7.0の大地震だ。
その地震とは、東日本大震災の発生からちょうど1か月後の2013年4月11日、福島県浜通りで起きたマグニチュード7.0の大地震だ。福島県浜通りと中通り、茨城県南部で震度6弱の揺れを観測して山が大きく崩壊、高校生を含む4人が亡くなった。
東北沖の海底で起きたあの巨大地震とは異なる内陸の直下地震だった。のちに、地下に潜んでいた活断層が動いていたことが判明する。私たちはまず、地元の方たちに当時の状況を聞こうと、いわき市内にある寺を訪ねた。
住職が示す先には、寺の敷地を貫いた活断層が露頭していた。片側の地面がずれ落ち、1メートル近くの段差ができていた。活断層が真下を通っていたため、本堂は全壊、山門やお堂などの施設も倒壊した。
突然、建徳寺の境内に姿を現した活断層は全長13キロにわたってのびていた。この地震では、この断層を含めて地表に2本の活断層(井戸沢断層と湯ノ岳断層)が現れ、地盤は最大2メートルずれ落ちていた。
このうち、建徳寺を貫いた湯ノ岳断層は、実は、地震の前から一部の専門家によって存在が明らかにされていた。しかし、地震の前に推定されていた断層は、寺にまでは達していなかった。つまり、住職だけでなく、湯ノ岳断層の存在を知っていた活断層の専門家も、ここまで広範囲に被害が生じるとは全く考えていなかったのだ。
寺を訪れた翌日、東北大学の遠田普次教授の調査に同行した。遠田さんは、いわき市を襲った地震の発生直後から調査を続けてきた。活断層を中心に地震のメカニズムを研究している科学者で、主に、地震によるひずみの解消や、地下のひずみがどのように影響しあい、地震がどこで起きやすくなるのかを分析してきた。
この日、遠田さんがフィールドワークの現場として選んだのは井戸沢断層。この断層が過去にいつ動いたのか、断層付近の地層を抜き取り、地震の痕跡を探すボーリング調査を行っていた。その結果、一万数千年前にも同じ規模で大地震が起きていたことを突き止めていた。
地表に現れた断層のずれが、事前に知らされていたよりも大規模だったことをどう考えればいいのか。私たちの問いに、遠田さんは静かに語りだした。「犯人は、この地下。ずっと断層がつながっていて、深さ10キロくらいのところですね。地下の深い部分が悪さをしている」
遠田さんが「犯人」と表現した大地震の正体は、地下深くにあるという。そして、いわき市に出現した活断層と地下の地震の震源、その後に起きた余震の震源の3つを解析すると犯人の正体が見えてくると指摘した。
これら3つのデータから立体図を作成してみると、地下に2つの面が現れた。これが「震源断層」だ。
活断層には地表に見えている部分と地下深くで地震の際にずれ動き、強い揺れを引き起こす部分があり、地下深くの部分は「震源断層」と呼ばれている。
震源断層があるのは、地下の硬い岩盤の中と考えられる。周りからの力で岩盤にひずみが溜まり、限界に達すると震源断層が動き、地表にずれや揺れが伝わる。一方、地表に近い、地下数キロほどの堆積層などのやわらかい地層の部分では、強い揺れはさほど発生しないとされている。
いわき市の地震では、深さ10キロ、巾15キロに及ぶ2つの震源断層が同時に大きく動き、これまでの想定を超える範囲で地表にまで活断層が現れたと、遠田さんは考えている。
「地図上に示した活断層は"線"ですよね。地表では"線"ですが、地下にある断層は"面"です。地下の延長部分がどうなっているのか、探る努力が必要だと思います」
専門家たちが活断層の位置を示した地図を見ると、日本列島全体に数多くの傷のような線が刻み込まれている。しかし、遠田さんが強調したのは線は一つの手がかりにすぎず、線が見えているところだけで地震が起きているというわけではないということだ。
それより、地下の「震源断層」の姿を探ることが重要だという。これまで"線"が記されていなかった地表に、ずれが生じたいわき市の大地震は、そのことを私たちに警告していると感じた。
3) 調査を阻む堆積層
活断層の姿に迫ろうとする科学者にとって、関東平野はとりわけ「厄介な場所」だという。地下の断層の存在を見えなくする難敵が立ちはだかっているからだ。それは"堆積層"と呼ばれ、関東平野の成り立ちと大きくかかわっている。
今から1600万年ほど前、日本列島は日本海が拡大したことによって大陸から切り離された。東西方向に引き延ばすような力が働いたために、陸地は相対的に低くなり沈下していった。関東平野はおよそ300万年前にさらに沈下し、広い範囲が海に覆われた。
海底となった関東平野の岩盤には、川などから流れ込む土砂などが長い年月をかけて降り積もっ入った。こうして厚さ数キロにも及ぶ"堆積層"が形成されたと考えられている。
関東平野はやがて陸地となったが、地下深くで地震が発生し、岩盤がずれ動いたとしても比較的やわらかい“堆積層“に覆われた地表に大きな変化は現れない。
そして、平野を流れる川や、時折り降り注ぐ火山灰が過去の地形の変化をさらに覆い隠している。関東平野は活断層の姿が見えにくい構造になっているのだ。