はげちゃんの世界

人々の役に立とうと夢をいだき、夢を追いかけてきた日々

第42章 レアアース

2010年に尖閣諸島で漁船衝突事件があった後、中国が日本にレアアースの輸出を禁止したため、日本の産業界は大変なダメージを受けました。現在も意図的な書類審査で輸入許可が遅延しています。でも、レアアースが日本の排他的経済水域内にあったのです。

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1 日本にあったレアアース

 1 海外の反応

2011年11月23日、米国の一部メディアが「日本で人類の730年分と言われる巨大埋蔵レアアースが見つかったのに、なぜ遅々として採掘しないのか」とする記事を掲載しました。

「日本メディアが2日前の21日に、日本が海底のレアアース資源の大規模な探査行動を計画しているとし、その目玉が南鳥島海底に眠るレアアースの探査で、ひとたび準備が整えばすぐに採掘作業が始まるだろう」と報じたことを紹介しました。

「南鳥島付近のレアアース鉱に関する報道は2011年時点で既に出ていたとし、その埋蔵量はおよそ1600万トンと見積もられ、現在の世界のレアアース消費量で計算すると世界の730年分の需要を満たすことができるという膨大な量である」と伝えました。

今回日本メディアがこのような報道を行った意図について「重要な情報を意図的に隠した上でセンセーショナルに伝えることで、中国のレアアース政策に圧力をかけようとしたのでは」と考察しています。南鳥島

報道では「南鳥島は、日本本土から1900kmも離れていること、日本には深海資源採掘技術が不足しており、短期間のうちに採掘開始は不可能であることを敢えて伝えていないのだ」としていました。

深海の採掘は非常に高い環境条件が求められ、うかつに採掘すれば泥漿のような形状のレアアースが撹拌(かくはん)され、重金属や有害元素が海水に混ざって広い海域に拡散し、世界各地の漁業や海洋環境に壊滅的な打撃を与える可能性が極めて高いのです。

世界のどの国も南鳥島のレアアース資源が眠るとされる水深6000mレベルの採掘技術を開発できていません。現時点で最も深い海底資源を採掘できるのは中国が作った水深2500m級の採掘船「鸚鵡螺新紀元号」だけです。

中国は米国メディアの報道に敏感に反応し、南鳥島EEZに隣接した海域でマンガンノジュールとコバルトリッチクラストの鉱区を相次いで取得しました。中国は日本の目と鼻の先で、レアアース泥についてもその調査を精力的に実施しています。

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 2 発見者は加藤泰浩東大教授

2010年に尖閣諸島で漁船衝突事件があった後、中国が日本にレアアースの輸出を禁止したため、日本の産業界は大変なダメージを受けました。加藤教授たちはタヒチ沖とハワイ沖でレアアース泥を見つけ、日本のEEZ内にも埋蔵している可能性を考えました。

日本のEEZ内のレアアース探査に向け、世論を突き動かし日本政府を動かさなければ前に進むことができません。加藤研究室の学生と研究員もみんな同じ思いで、一丸となって2か月で論文を書き上げ2011年7月の発表に漕ぎつけたのです。

日本のEEZ内にも埋蔵しているレアアース泥を探査し、国産資源を開発すべきです。まず、タヒチ沖とハワイ沖のレアアース泥の存在をネイチャー・ジオサイエンスに発表して世界に知らせ、独占状態の中国に警告を発する必要がありました。

2012年に採取された海底掘削試料を加藤教授が分析した結果、日本の排他的経済水域内で唯一太平洋プレート上に存在し、プレート運動の復元結果から南鳥島周辺海域にもレアアース泥が存在することを確認しました。

日本周辺でレアアース泥があるのは、日本列島の南東に位置する南鳥島周辺です。南鳥島はもともと1億2千年前にタヒチの近くで生まれた火山島で誕生し、プレートの移動によりゆっくり現在の位置へやってきました。

南鳥島の位置


 その移動中に、レアアース密集域であるタヒチやハワイ近くを通り、レアアースが大量にできた白亜紀を経験しています。南鳥島がレアアース密集域を通ってから3000万年以上経過していますが、海底に積もっている泥は10m以下という少なさでした。

海底を10mも掘らなくてもレアアース泥が出てきます。レアアース泥の層の上方2m以内に高濃度の層がありました。どの深さにどのように広がっているか、他の場所でとった泥も分析し、レアアースができるメカニズムなどについても調べる必要があります。

南鳥島周辺のレアアース泥は高濃度のレアアース(600~2230ppm)を含み、特に世界シェアの大部分を占める中国の陸上鉱床を凌ぐ、高い重レアアースの濃度を持つ資源として有利な特長を備え、資源として非常に期待されています。

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 3 高濃度のレアアース

調査で南鳥島周辺の海底下10m以深に、1000ppmを超える高濃度のレアアース泥が存在していることが確認されました。堆積物コアの採取地点が2か所のみのため更なる科学的調査が望まれています。

海洋研究開発機構は2011年4月に海底資源研究プロジェクトを発足させ、高度分析機器などのインフラを用いた海底資源の成因等に関する調査・研究を開始し、レアアース泥についても加藤教授と共同で生成プロセスを解明すべく研究を推進してきました。

東大と海洋研究開発機構は2013年1月に共同で南鳥島の250km南で調査し、水深5600~5800の5ヵ所で海底の泥を採集して化学分析を行いました。かいこう7000ⅠⅠ海底2~4m付近に最大6600ppmを超える超高濃度のレアアース泥を発見しました。

深海調査研究船「かいれい」に搭載された無人探査機「かいこう7000ⅠⅠ」で南鳥島周辺の調査を行い、数地点で海底から20m長の海底堆積物の採取したコア試料の、鉛直方向のレアアース濃度分布を明らかにしました。

その結果、海底下3m付近に総レアアース濃度が6500ppmを超える超高濃度のレアアース泥が存在することが確認されました。これはタヒチ沖に分布するレアアース泥の濃度の4~6倍、ハワイ周辺海域の濃度の10倍にも達します。

5000ppmを超えるような超高濃度のレアアース泥は、レアアース泥層の上部1~2mの位置に出現します。この理由の1つとして、レアアースを取り込みやすい鉱物が、堆積物中で放出されたレアアースを捕らえて濃集した可能性が考えられます。

これは採取したコア試料のレアアース濃度のプロファイルや岩相変化とよく対応しており、船上からの地層探査装置観測によって、レアアース泥の出現深度や厚さについての情報を効率的に推定できることが分かりました。

コア試料の分析とその検証を進め、海洋研究開発機構や東京大学が保有する最先端の分析機器や解析技術を駆使して微小領域の分析や化学状態分析を通じ、レアアースを濃集している鉱物相の特定を行い、レアアース泥の生成プロセスを明らかにしていく予定です。

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2 レアアースとは

 1 元素周期表

元素周期表でレアメタルとレアアースを抽出しました。

元素表

 2 レアアースの分類

レアアース(希土類)とはレアメタルの仲間で、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロビウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)の17元素の総称です。

これらのレアアースのなかで、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)は、軽レアアースと呼ばれます。

ユウロビウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)にイットリウム(Y)を加えて、重レアアースと呼びます。

重レアアースは産業上の重要性が高い元素群です。最近はスカンジウムの重要性も広く認知されつつあります。電気自動車(EV)やエアコンなどの電動モーターに使用されるネオジム磁石の成分で、分離精製工程を海外に依存するため資源供給リスクが懸念されています。

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 3 世界のレアアース生産量

2022年の世界の国別レアアース生産量次の通りです。

 生産国 生産量  
中国 21万トン 
アメリカ  4,4万トン
オーストラリア  1,8万トン
ミャンマー  1,2万トン 
タイ    7,100トン
ベトナム    4,300トン 
インド    2,900トン 
ロシア    2,600トン 
マダガスカル      960トン 
ブラジル       80トン 
その他        80トン 

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 4 レアアースの用途

レアアースは周期表にあるランタノイド15元素にイットリウム、スカンジウム2元素を加えた17元素の総称です。「産業のビタミン」と言われるように、ハイブリッド車、電気自動車、スマートフォン、LED照明、センサーなど日本が誇るハイテク製品の性能向上には欠かせません。

また、軍事産業のような国家の安全保障に関わる分野でも、必須の材料です。特に重要なのは重レアアースであるジスプロシウム、テルビウム、ユウロピウム、イットリウム、軽レアアースのネオジムを加えた5元素です。南鳥島沖のレアアース泥はこれらを高濃度に含有しているのです。

ハイブリッドカーのモーターの強力磁石(ネオジム磁石)にはネオジムが30%使われますが、高温安定性を高めるためにジスプロシウムも3~8%ほど添加しています。これを加えないと、温度が高くなったときに磁力が一気に失われてしまいます。

レアアース製品群

貴重な重レアアースを中心に大変な高濃度であることです。現在、中国が採掘しているレアアース濃度は300ppm程度ですが、南鳥島沖の濃度は6600ppmのところもあり、中国産の20倍という圧倒的な高濃度です。

特にハイブリッド車などに使われるジスプロシウムに限れば、中国の10ppmに対し、南鳥島沖の最高濃度は320ppmで32倍もあります。船の上から高度分析機器という音波探査により、レアアース泥の分布状況が簡単に把握できます。

太平洋全域の深海の泥を詳細に分析して、総レアアース濃度を持つ泥があることを発見し発表しました。すると、タヒチ沖にEEZを持つフランスを始めとする世界各国から問い合わせが殺到する大変な反響でした。

タヒチ沖では水深4600mの海底面にそのまま露出しているので、南鳥島沖より採取は容易ですが、濃度は南鳥島沖の3分の1程度ですがフランスは大喜びです。フランスは海洋開発大国であり、レアアースの製錬や加工で高度な技術を持っているので開発に乗り出すでしょう。

中国のレアアースは、マグマ活動によって生成されたので放射性物質のトリウムを含みます。公害や人的影響を気にしない中国は野ざらしのまま採掘を続けてきましたが、尖閣での漁船衝突事件以降、環境問題を理由に日本への輸出禁止をとりました。

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3 開発へ向けて

 1 やっと腰を上げた政府

今後の調査航海で、海底表層地層探査による海底下数十メートルの地質構造を調べるとともに、海底表層地層探査によるコア試料の採取とその分析を通じ、南鳥島周辺のレアアース資源の分布等、今後の開発に必要な科学的知見の取得を予定しています。

濃度は中国鉱山の30倍、埋蔵量は少なくとも国内需要の300年分以上あり、陸上鉱床と違ってトリウムなど有害物質も含まず、揚泥は現在の技術を応用すれば十分に可能だとされています。

この国産レアアース資源を商業ベースで活用することこそが、日本の資源安全保障の確立につながると考えた加藤泰浩研究室は、その探査、環境影響調査、採泥・揚泥、選鉱・製錬、残泥処理、およびレアアースを用いた新素材に関する研究開発を進めました。

レアアース(希土類)はハイブリッド車、電気自動車、スマートフォン、LED照明、センサーなど日本が誇るハイテク製品に不可欠な鉱物資源です。尖閣諸島沖で中国漁船衝突事件が起きた際、世界の生産量の90%以上を握る中国が対日輸出を制限しました。

現在も意図的な書類審査で輸入許可が遅延しています。加藤泰浩教授はこのいやがらせから脱出しようと「南鳥島レアアース泥を開発して日本の未来を拓くプロジェクト」を立ち上げました。

日本は「レアアースの国産化により供給網の強靱化を図る」と強調し、内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム」では、水深6000mの海底から泥を引き上げてレアアースを抽出する技術の確立を目指すという計画を公表しました。

深海資源調査技術


 日本の最も東に位置する南鳥島とその周辺の海域で、レアアースの採掘に向けて調査や試掘を行うほか、これまで領海内などに限ってきた洋上風力発電をEEZ内でも行えるようにする法整備などを進めるとしています。

また、「海のドローン」とも言われる、自動で水中を動く無人機「AUV」の実用化に向けた実証試験や衛星データなどを元にした「MDA=海洋状況把握」と呼ばれるシステムで集めた情報を資源探査などに活用することも盛り込まれています。

6月からは民間企業の実証試験にかかる費用を、国が全額負担する取り組みが始まります。日本は高い技術を持ちながら、欧米と比べて産業化が遅れています。2030年までに日本の水中ドローン産業を育成し、海外展開を可能にする目標を掲げました。

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 2 安全性が高い採掘

海洋のレアアースには、開発の障害になる放射性物質のトリウムがほとんど含まれていないません。これが非常に重要な点です。陸上で採掘されるレアアースは陸上のマグマ活動によって生成され、必ずトリウムを伴ってしまう宿命を背負っています。

これに対し海底のレアアースは成り立ちが違います。地球表面のプレートの境界である海嶺の熱水活動によって、放出された鉄質懸濁物質とゼオライト、アパタイトが、海水中に溶けているレアアースを吸着して海底に堆積したものです。

トリウムは海水中にほとんど溶けていず、レアアース泥を構成する鉄質懸濁物質などがトリウムを吸着して濃集することはありません。トリウムは環境への放射能汚染や作業員の被ばくの原因になるので、豪州や米国は陸上のレアアースの採掘を控えています。

レアアースは海底の柔らかい泥の中に含まれているので、希硫酸や希塩酸で簡単に抽出でき、製錬も容易です。泥にはバナジウムやコバルト、ニッケル、モリブデンなどのレアメタルも含まれており、それらも回収すれば資源価値はさらに高まります。

日本の排他的経済水域内南鳥島の6000メートル海底に、高濃度のレアアースが眠っていることが分かりました。独立行政法人海洋研究開発機構と東京大学が調査した東西方向10km南北10kmの範囲中に、下表のレアアースが眠っていたのです。

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レアアース名国内需要量用途
ネオジム48年分EVノモーターなど
ジスプロシウム70年分レアアース磁石の耐熱性向上
テルビウム835年分アアース磁石の耐熱性向上
イットリウム390年分レーザーや固体酸化物燃料電池
スカンジウム2400年分固体酸化物燃料電池やAI-Sc合金

ジスプロシウムを使わなくても代替磁石はできるといううわさがありますが、元素の電子配置が磁石の性能を発揮するのであって、政府予算で研究も行われていますが、基本的に他の元素では代替できません。

日本の自動車業界は、当面ジスプロシウムの使用量を減らす技術を開発して対応しています。また、レアアースを使わないモーター用磁石の研究開発を進めているところもあります。しかし、実現にはそうとう時間がかかると見られています。

ハイブリッドカーの他に、ネオジム磁石が重要になるのは風力発電機です。ハイブリッドカーがこの磁石を1台あたり1kg使うのに対し、風力発電機は1機あたり1~2トンも使います。

再生可能なクリーン・エネルギーの利用を促進しようとすれば、レアアースも大量に必要になり、それをどう確保するかが大きな問題になります。もっと広範囲に調査すれば、どのポイントにどれだけ埋蔵しているか、掘削ポイントがより正確に特定できると思われます。

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 3 企業はプロジェクトに参加を

独立行政法人海洋研究開発機構、海底資源研究プロジェクトと、東京大学大学院工学系研究科附属エネルギー・資源フロンティアセンターの加藤泰浩教授らは、2013年1月に研究航海を実施しました。

深海調査研究船「かいれい」は、南鳥島周辺の水深5600m~5800mの海底から採取された堆積物のコア試料の化学分析を行い、海底表層付近におけるレアアース濃度の鉛直分布を調べました。

南鳥島南方の調査地点において、海底下3m付近に最高6500ppmを超える超高濃度のレアアースを含む堆積物(以下「レアアース泥」という。)が存在し、複数の地点で海底下10m以内の浅い深度からレアアース泥が出現することを発見しました。

また、5000ppmを超える高濃度のレアアースを含む層は、レアアース泥の上端から下1~2m以内に存在することが明らかになり、今回調査で音響による海底表層地層探査で、レアアース泥の出現深度や厚さの情報を効率的に取得できることが分かりました。

レアアース開発工程


 政府は2024年4月26日に、海洋政策のなかで特に注力して取り組むべき政策を記した「海洋開発等重点戦略」を決定しました。南鳥島周辺でのレアアース採掘について2028年度以降に生産体制を整える目標を示したのです。

南鳥島海域で実際に採取したレアアース泥を用いて2024年に実証試験を行う計画です。一方内閣府は、①水中ドローン、②海洋状況把握、③洋上風力、④南鳥島開発、⑤国境離島、⑥北極政策を発表しました。

中国はレアアース市場における自国の優位性のさらなる強化を狙っています。南鳥島における調査航海には、船舶費、人件費、機材・艤装費等に1回につき約1億5000万円が必要です。公的資金を活用しても間に合いません。

2024年の調査航海(約1か月)に向けて各種の実験や機材の手配等々の準備を進めています。公的資金を活用しつつ、不足する部分を広く国民の皆様と、レアアースを活用する様々な産業界からのご寄付によって支えていただきたいのです。

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参考文献:南鳥島レアアース泥を開発して日本の未来を拓く(東京大学大学院工学系研究科)より写真類をお借りしました。また、独立行政法人海洋研究開発機構・東京大学大学院工学系研究科プレスリリース、IBMニュースなどのデーターをお借りしました。