1 日本にあったレアアース
1 海外の反応
2011年11月23日、米国の一部メディアが「日本で人類の730年分と言われる巨大埋蔵レアアースが見つかったのに、なぜ遅々として採掘しないのか」とする記事を掲載しました。
「日本メディアが2日前の21日に、日本が海底のレアアース資源の大規模な探査行動を計画しているとし、その目玉が南鳥島海底に眠るレアアースの探査で、ひとたび準備が整えばすぐに採掘作業が始まるだろう」と報じたことを紹介しました。
「南鳥島付近のレアアース鉱に関する報道は2011年時点で既に出ていたとし、その埋蔵量はおよそ1600万トンと見積もられ、現在の世界のレアアース消費量で計算すると世界の730年分の需要を満たすことができるという膨大な量である」と伝えました。
今回日本メディアがこのような報道を行った意図について「重要な情報を意図的に隠した上でセンセーショナルに伝えることで、中国のレアアース政策に圧力をかけようとしたのでは」と考察しています。
報道では「南鳥島は、日本本土から1900kmも離れていること、日本には深海資源採掘技術が不足しており、短期間のうちに採掘開始は不可能であることを敢えて伝えていないのだ」としていました。
深海の採掘は非常に高い環境条件が求められ、うかつに採掘すれば泥漿のような形状のレアアースが撹拌(かくはん)され、重金属や有害元素が海水に混ざって広い海域に拡散し、世界各地の漁業や海洋環境に壊滅的な打撃を与える可能性が極めて高いのです。
世界のどの国も南鳥島のレアアース資源が眠るとされる水深6000mレベルの採掘技術を開発できていません。現時点で最も深い海底資源を採掘できるのは中国が作った水深2500m級の採掘船「鸚鵡螺新紀元号」だけです。
中国は米国メディアの報道に敏感に反応し、南鳥島EEZに隣接した海域でマンガンノジュールとコバルトリッチクラストの鉱区を相次いで取得しました。中国は日本の目と鼻の先で、レアアース泥についてもその調査を精力的に実施しています。
2 発見者は加藤泰浩東大教授
2010年に尖閣諸島で漁船衝突事件があった後、中国が日本にレアアースの輸出を禁止したため、日本の産業界は大変なダメージを受けました。加藤教授たちはタヒチ沖とハワイ沖でレアアース泥を見つけ、日本のEEZ内にも埋蔵している可能性を考えました。
日本のEEZ内のレアアース探査に向け、世論を突き動かし日本政府を動かさなければ前に進むことができません。加藤研究室の学生と研究員もみんな同じ思いで、一丸となって2か月で論文を書き上げ2011年7月の発表に漕ぎつけたのです。
日本のEEZ内にも埋蔵しているレアアース泥を探査し、国産資源を開発すべきです。まず、タヒチ沖とハワイ沖のレアアース泥の存在をネイチャー・ジオサイエンスに発表して世界に知らせ、独占状態の中国に警告を発する必要がありました。
2012年に採取された海底掘削試料を加藤教授が分析した結果、日本の排他的経済水域内で唯一太平洋プレート上に存在し、プレート運動の復元結果から南鳥島周辺海域にもレアアース泥が存在することを確認しました。
日本周辺でレアアース泥があるのは、日本列島の南東に位置する南鳥島周辺です。南鳥島はもともと1億2千年前にタヒチの近くで生まれた火山島で誕生し、プレートの移動によりゆっくり現在の位置へやってきました。
その移動中に、レアアース密集域であるタヒチやハワイ近くを通り、レアアースが大量にできた白亜紀を経験しています。南鳥島がレアアース密集域を通ってから3000万年以上経過していますが、海底に積もっている泥は10m以下という少なさでした。
海底を10mも掘らなくてもレアアース泥が出てきます。レアアース泥の層の上方2m以内に高濃度の層がありました。どの深さにどのように広がっているか、他の場所でとった泥も分析し、レアアースができるメカニズムなどについても調べる必要があります。
南鳥島周辺のレアアース泥は高濃度のレアアース(600~2230ppm)を含み、特に世界シェアの大部分を占める中国の陸上鉱床を凌ぐ、高い重レアアースの濃度を持つ資源として有利な特長を備え、資源として非常に期待されています。
3 高濃度のレアアース
調査で南鳥島周辺の海底下10m以深に、1000ppmを超える高濃度のレアアース泥が存在していることが確認されました。堆積物コアの採取地点が2か所のみのため更なる科学的調査が望まれています。
海洋研究開発機構は2011年4月に海底資源研究プロジェクトを発足させ、高度分析機器などのインフラを用いた海底資源の成因等に関する調査・研究を開始し、レアアース泥についても加藤教授と共同で生成プロセスを解明すべく研究を推進してきました。
東大と海洋研究開発機構は2013年1月に共同で南鳥島の250km南で調査し、水深5600~5800の5ヵ所で海底の泥を採集して化学分析を行いました。海底2~4m付近に最大6600ppmを超える超高濃度のレアアース泥を発見しました。
深海調査研究船「かいれい」に搭載された無人探査機「かいこう7000ⅠⅠ」で南鳥島周辺の調査を行い、数地点で海底から20m長の海底堆積物の採取したコア試料の、鉛直方向のレアアース濃度分布を明らかにしました。
その結果、海底下3m付近に総レアアース濃度が6500ppmを超える超高濃度のレアアース泥が存在することが確認されました。これはタヒチ沖に分布するレアアース泥の濃度の4~6倍、ハワイ周辺海域の濃度の10倍にも達します。
5000ppmを超えるような超高濃度のレアアース泥は、レアアース泥層の上部1~2mの位置に出現します。この理由の1つとして、レアアースを取り込みやすい鉱物が、堆積物中で放出されたレアアースを捕らえて濃集した可能性が考えられます。
これは採取したコア試料のレアアース濃度のプロファイルや岩相変化とよく対応しており、船上からの地層探査装置観測によって、レアアース泥の出現深度や厚さについての情報を効率的に推定できることが分かりました。
コア試料の分析とその検証を進め、海洋研究開発機構や東京大学が保有する最先端の分析機器や解析技術を駆使して微小領域の分析や化学状態分析を通じ、レアアースを濃集している鉱物相の特定を行い、レアアース泥の生成プロセスを明らかにしていく予定です。