はげちゃんの世界

人々の役に立とうと夢をいだき、夢を追いかけてきた日々

第37章 大きく変わる船舶

国土交通省は、コンテナ船など国際海運に携わる船舶が排出する温室効果ガスを、2050年までに実質ゼロにする新たな目標を国際海事機関(IMO)に提案しました。いかに世界に先駆けて技術開発を進めるかが、今後の日本の海事産業の命運を握っています。

トップへ戻る

1 驚くような進化

 1 電気推進タンカー「あさひ」

旭タンカー株式会社が、興亜産業株式会社(本社:香川県丸亀市)で建造中だった世界初となるピュアバッテリー電気推進タンカーが2022年3月30日に竣工しました。全長62m、全幅19.3m、型深さ:4,7m、総トン数:492トンの船です。

積載しているバッテリー容量は3480KWH、アジマススラスター:330KWH×2基、サイドスラスター:68KWH×2基、積載貨物:重油、タンク容量:1277立方m、速力:約10ノットです。

大容量リチウムイオンバッテリー、推進制御装置、電力管理装置などで構成され、動力および電力を主推進機や他機器へ効率よく供給します。バッテリーを使用するため、航行時に温室効果ガスを排出しません。

内航海運は、国内貨物の44%、石油など産業基礎物資の約8割を運ぶ重要なインフラです。石油製品の輸送量は減少傾向が続いているものの、近年ではトラックのドライバー不足などを補う輸送手段として注目され、雑貨貨物の輸送量が伸びています。

システム全体の異常監視機能・保護機能を有しているためメンテナンス性が高く、高齢化が課題となっている内航海運業界において船員の労務負荷軽減に貢献します。発電機事業で培った電力系統に関する知見により、大規模自然災害時には緊急用電源としても利用できるため、地域社会の事業継続計画や生活継続計画にも活用が期待されています。

地球温暖化の抑制に向けて国際海事機関(IMO)による二酸化炭素(CO2)や窒素化合物(NOx)などの排ガス規制強化が進む中、海運業界ではこれまで利用されてきた重油を燃料としたエンジンに代わるクリーンな動力源として、バッテリーを活用した電気推進システムに大きな期待と注目が集まっています。

あさひ


 川崎重工が開発した大容量バッテリー推進システムは、運航時におけるCO2、NOxなどの排出量を大幅に削減し、環境負荷を低減します。船舶のシステムインテグレーターとして舶用機械販売だけでなく、オペレーションに最適化したパッケージでのシステム供給など新しい価値の創造に取り組み、海事産業の労務負荷軽減および脱炭素社会の実現に貢献します。

トップへ戻る

船員の高齢化が進行し、内航海運では50歳以上の船員が50%以上を占めます。船そのものも同様で、法定耐用年数(14年)を超えた船舶の割合も7割と高齢化が深刻な状況です。若手船員が働ける魅力的な職場環境を整えつつ、環境に配慮した新しい船舶を導入していく必要があります。あさひのブリッジ

従来のディーゼル船にあった騒音、振動、オイル臭が低減され、船内の快適性や居住性が格段に向上しました。乗組員が船の操作を行うブリッジは、操船性の向上と運航時の負担を軽減する着座式になっています。船のオペレーションに必要な作業をコックピットから行えるようになっています。

「あさひ」の導入によって、最も大きく変わったのは機関士の仕事です。ディーゼル船では行っていた、事前にエンジンの準備を行う朝のスタンバイ作業がなくなり、メンテナンスの仕事も大きく削減することが出来ました。

さらに電動化によって機関室のスペースが小さくなり、居住区のレイアウトを柔軟に配置できるようになりました。『あさひ』では吹き抜けを設けることで、居住エリアを中心に人の気配がわかり、光が入るという地上の建物に近い環境を作り上げました。

船員の居住室にはベッドや机が配置され、机の上にはTV、下には個人用の小型冷蔵庫も設置されています。船員が休憩時間船員の居住室に自分のスマートフォンを使うこともでき、洗濯室も備え洗濯機や乾燥機もあるなど、電気製品の搭載の自由度も高まっています。

積み荷となる舶用燃料の荷役で使うバルブ・ポンプの操作もタブレットを用いて実施でき、将来的には荷役制御室から遠隔で操作する全自動荷役も視野に入れています。高い性能を持つ「あさひ」ですが、EVタンカーの船価は従来船型と比べて1.2倍から1.5倍ほど高くなっています。

あさひが搭載しているバッテリーは、船内の電力だけでなく陸上に電力を供給する機能も備えています。これにより自然災害などで陸上送電設備がダウンし、道路や送電インフラが寸断されても、海上から被災地付近の港へ急行することで、消防・病院・避難所といった拠点となる施設に向けて大容量電力の供給が可能となります。

そのため船自体が災害時の非常用電源として、BCP(事業継続計画)対策や地域LCP(生活継続計画)につながる新たな役割を担うことが期待されています。

トップへ戻る

2 球状船首の船

 1 ハイテクセメントコンテナ船「のがみ」

2022年4月に建造された球状船首の船「のがみ」は総トン数7658トン、最大積載670トン、冷凍コンテナ積載能力、120ユニット、全長136.5m、全幅21m、喫水6.3mです。

「のがみ」は、球状船首内航コンテナ船シリーズの「なとり」(2015年)、「ながら」(2018年)に続く画期的な第3番船として建造されました。ゲートラダーや流線形煙突、次世代船舶支援システムといった新たな機器類に加え、乗船研修設備・女性専用区画等、これまでにない試みが多数採用されました。

のがみ


 同船はデザインや先端技術の搭載で燃費性能を向上させたことも特長です。船室も増やして船員訓練にも活用する目的も持っています。京浜/阪神/北九州航路に投入され、国際コンテナ戦略港湾政策で集貨の役割を果たして貢献していくことが期待されています。

のがみは、旭洋造船が開発した球状船首ブリッジを採用したことが外観の特長で、丸みを帯びた独特のフォルムで、風圧抵抗を少なくする効果があります。さらに波の抵抗を少なくする垂直バウを組み合わせることで省エネ効果を高めました。

ファンネルの形状にもこだわりました。流線形とすることで風圧抵抗を低下します。特に、斜め前からの風に対しては、煙突に揚力が作用して効果が向上するそうです。船首部とファンネルの形状で、船全体で風圧抵抗の低減化を図りました。ゲートラダー

推進部も特長的で舵(ラダー)は、特殊な形状の2枚舵をプロペラの両側に配置するゲートラダーを採用しました。ゲートラダーは、翼形状を舵板に利用することで大きな推進力を発揮することができ、プロペラ後方に障害物がないので振動や騒音も低減させています。

港での荷役のため離着岸回数が多くなります。離着岸時に、ゲートラダーによる横移動と、船首と船尾のスラスターを組み合わせることで操船性と安全性を高め、船長の負担軽減を図っています。

主機関は、内航船ではまだ多く見られない電子制御機関を搭載しています。なとりでは従来の機械式、ながらはセミ電子制御。のがみはフル電子制御です。フル電子制御とすることで、燃料消費量は前2隻よりも抑えることができ、燃費性能は14%の省エネ化を実現しました。

トップへ戻る

航海支援システム「eE-NaviPlan」は、予想される気象・海象状況の情報をもとに、航海で要求される到着時間、燃料削減目標を実現するためのエンジン回転数などの最適航海計画を提供します。

船舶支援システム「MaSSA-One」は、主機、補機などの運転状態を船上でシステム統合管理します。トラブル発生時、船上で適切でよりスピーディーに復旧対応でき、同様のデータを陸上でも監視・分析し、機器のトラブルを未然に防止します。

これにより船員の管理業務を軽減する狙いがあります。ブリッジにはGM(復原力)表示付きデジタル傾斜計を設置し、リアルタイムでGMを確認しています。

このほか荷役支援として、外航船と同等のローディングシステム(積付計算システム)を搭載しました。船体の復原性や、冷凍コンテナや危険物などのコンテナの積載状態、ラッシングの要否を確認できるようにしています。

船陸間のデータ通信により、本船業務の軽減やターミナル作業、オペレーション業務の簡素化、最適化を目指しています。冷凍コンテナ積載個数は120本(艙内36本、甲板上84本)と、前2隻よりさらに増やしました。危険物コンテナも積載可能です。女性用船員室

のがみの船内は、通常の内航船と異なって船室が多いのも特長です。定員は11人ですが、さらに10人分の部屋が用意されています。これは新卒採用や若年船員の教育の場として、乗船できるようにしたためだそうです。

そうした実際の内航船での働きを見るために船員室を増やしました。船員室には、シャワー、トイレを完備。女性船員のため専用区画を設けました。大型モニター付き実習室も備え、全室にLANを配線しました。WI-FI環境を整備して、船内各所でインターネット接続ができるようにされています。

船体は省エネ効果を発揮して燃費効率を高め、船内は住環境の快適性を向上させました。国際コンテナ戦略港湾政策でフィーダー輸送に取り組み、トラックドライバー不足も背景としたモーダルシフト需要にも応えることなど活躍が期待されています。

トップへ戻る

3 世界最大級コンテナ船

2006年10月に8000個積の世界最大級コンテナ船が、欧州~アジア航路に投入されました。引き続き7咳が建造中です。船幅が約3メートルの幅広線船型にすることで船の復元性が大幅に向上しました。

林立するラッシングブリッジ


 これまで、船の重心を下げるために出港時 (燃料満載時) でもバラスト水を積んでいましたが、幅広船型としたことにより出港時に復原性確保のためのバラスト水を積む必要がなくなりました 。

不要となったバラスト分だけ排水量を減らすことが可能となり、コンテナ積み個数を増やしても十分な推進性能を確保できる船型が実現しました。さらに、技術を集めた船型開発により荷入りコンテナ積み個数が多く、かつ推進性能が良い船となりました。

林立するラッシングブリッジコンテナ積載ホールド内にはセルガイド、甲板上にはラッシングブリッジを装備しています。ホールド内9段、上甲板上は6段までコンテナの積載可能で、20フィートコンテナ換算で最大8212個の積載能力を有しています。

主機は、B&W 22KK98ME 型エンジン (最大出力 67,270KW) を採用しています。この主機は電子制御にて燃料噴射タイミングを最適化し、燃焼効率の向上と排ガス中の窒素酸化物やばい煙の削減を図っています。

また、低硫黄燃料タンクを装備し、航行海域によって硫黄分の少ない燃料を使い分け、排ガス中に含まれる硫黄生成物を減らすことができます。燃料タンクは横置水密隔壁を二重構造にした部分と二重底内に設け、二重化又はハイドロバランスによ、衝突や座礁時に油が海洋に流出する危険性を大幅に低減させることができます。

近年、バラスト水に含まれる微生物がバラスト水を排出した海域の生態系を破壊する問題により、各国港湾内でのバラスト水排出が規制されています。本船は出港時に微生物を含んだバラスト水を積む必要がないため、この問題を根本から解決しています。

操舵室は、無線通信機器、航海計器および主機関制御卓等が機能的に配置され、安全に航海ができるように計画されました。さらに,AIS(船舶自動識別装置)を搭載し、レーダーおよびECDIS(電子操舵室海図表示装置)画面上に他船の船名等を表示できます。

トップへ戻る


 全長336メートル、垂線間長318.3メートル、型幅45.8メートル、型深24.4メートル、夏季満載喫水14メートル、層トン数約97.7トン、載貨重量約96.7メートル、乗組定員28人、主機最大連続出力67.270KW at 93.4rpm。

海上の運送・輸送(海運)は古来、物流や交易の要であり、現代でも運輸の重要な役割を担っている。国際海運により排出されるCO2は年間約8.7億トンで、ドイツ一国分の年間排出量にも相当します。

しかし、国際海運は国境を越えた活動のため国別のCO2排出規制を適用しづらいのです。そのため、国際海事機関(IMO)は2013年に国際海運におけるCO2排出規制を制定し、対象となる船舶はトンマイル当たりの燃費を規制値以下にすることが義務化されました。

トップへ戻る

4 ウインドチャレンジャー

ウインドチャレンジャーは、帆を利用し、再生可能エネルギーである風力を船の推進力に活用します。帆の設置により、風力を直接推進力としてプラスすることで、スピードを変えることなく、化石燃料の使用量を抑えることができます。

帆の設置、つまり、かつての帆船の技術を、現代の最新技術により最大進化させ有効活用することで、大型貨物船の燃料消費を抑え、GHG排出量を大幅に削減します。ウインドチャレンジャー帆搭載船はCGではなく実在します。

第1船は、2022年10月に命名引き渡しを受けて航海を開始し、無事処女航海を完了しました。商船に積載できる貨物量に影響を及ぼさないために、帆をいかに軽量化できるかが重要となるため、帆の素材にはガラス製繊維強化プラスチックを採用しています。

帆船は、風の状況(強さ・向き)によって帆の向きや張りを調整する必要があり、操船には高度知識と経験が求められます。ウィンドチャレンジャーでは、通常の乗組員が簡単に風力を最大限効率的に利用できるよう、帆を自動制御にしました。

帆は、風の強さ・向きをセンサーで感知し、風が弱いと帆を伸ばし(展帆)、風が強いと帆を縮める(縮帆)こと、帆の回転を自動で行います。

翼帆の根本部分にある機械部品(伸縮に使う油圧ポンプ、回転につかう旋回モーター)などは、他の一般機械と同じように運転時間に応じてメンテナンスが必要です。帆の鉄部材は、塗装により保護しますが経年で錆が出た場合はドックで再塗装を行う予定です。

また、FRP部については基本的にメンテフリーですが、紫外線により退色するので、美観維持の観点から一定の期間毎に再塗装をする必要があると考えています。硬翼帆(こうよくほ)とは、形が変形しない翼型の帆のことです。MOL


 翼帆は水線下の既存省エネデバイスとも干渉せず、あらゆる船種(ばら積み船、タンカー、LNG船)に設置できます。複数設置も可能で、燃料転換とのコンビネーションで低エミッション化を促進します。

トップへ戻る

ウインドチャレンジャー搭載船2隻目のばら積み船は2024年竣工予定です。なお、自動車専用船は乾舷(海面に出ている高さ)が高いため、導入できません。

翼帆

船体構造には数学的・力学的に最適化された形状を採用し、素材には複合材などを使用することで軽量化を図りました。一方、軽量化により船体の安定が損なわれぬようコンピューター制御によるジャイロスタビライザーなどの動揺軽減装置を導入しました。

空気潤滑システムにより、空気を船底に送り込んで泡を発生させて海水の摩擦抵抗を低減します。停泊時には船体清掃ロボットによるクリーニングを施し、船速の低下を予防します。従来のプロペラではなく、複数のフラップ状のフィンをイルカの尾の動きのように動作させることで推進効率を高めます。

再生可能エネルギー由来の水素を燃料とし、排熱エネルギーも利用する高効率な燃料電池を使用します。太陽光エネルギーも利用することで長距離の航海にも対応が可能です。全長199.9m、巾49m、計画喫水9m、燃料電池(水素)、再生可能エネルギーは太陽光。

船体の状況をデジタル上に再現するデジタルツイン技術により、陸上専門家によるリアルタイムな分析、事故や不具合を未然に防ぐ最適な整備計画の立案が可能です。日本郵船は2018年3月に、トン・キロメートル当たりの温室効果ガス排出量を、2050年までに50%削減する目標を設定しました。

ばら積み船

目標達成のために、ハードウェアの技術開発やデジタルゼーション進展より見える化・効率化・最適化に努め、配船、運航や荷役効率の向上、ゼロダウンタイムの実現に取り組んでいます。

船体重量の軽量化や船型の最適化により船体の摩擦抵抗を低減するほか、燃料電池を利用した電気推進や高効率の推進装置の採用等により、現在運航されている一般的な船舶と比べ70%のエネルギー量削減が可能です。

トップへ戻る

5 自動着桟に世界初成功

 1 自動避航コンテナ船「すざく」

DFFASコンソーシアムは、国内の多種多様な30社を核に、国内外の協力企業・組織をあわせた約60社で構成されるコンソーシアムで、無人運航船に必要な包括的な無人運航システムをオープンイノベーション体制により開発を進めてきました。

具体的には、①自律機能を司る船舶側システム、②遠隔操船機能・機関異常予知機能を含めた陸上から船舶を監視・支援する陸上側システム、③船陸間における安定した情報通信維持を司る通信システムの3つです。

特に②については、実際に「陸上支援センター」をウェザーニューズ本社が所在するビル内に立ち上げ、通常は船上の船員が担う気象海象情報、交通流情報、船上機器状態などを陸上支援センターで収集・分析し、無人運航船にフィードバックすることで無人運航船の航行を支えました。

太平洋を航海する船は、常に南からくるうねりに悩まされています。どんな時でもこのうねりに立ち向かい、大海原を果敢に進む船となるよう、南方を守護する四神のひとつにあやかり「すざく」と名付けられたハイテク船が誕生しました。

すざく


 コンテナ船「すざく」(全長95.23m、総トン数749トン)を実験船とし、千葉県千葉市に構えた陸上支援センターから運航支援の下、東京港~津松阪港~東京港の往復約790kmの区間を航行しました。

ARナビゲーションシステム


 一日あたりの航行隻数が約500隻という世界屈指の海上交通過密海域である東京湾内の無人運航システムによる航行を成し遂げたことは、無人運航技術の高さを証明出来たのです。また非常時には、陸上支援センターから遠隔操船を行うことで、システムの安全性と安定性を担保しました。

実用化を強力に推進し、内航船業界が抱える労働力不足・海難事故といった社会的課題の解決、さらには無人運航船の実運用における陸上支援センターの有用性の証明は、船員の新たな働き方や労働力の創出が期待されます。

ウェザーニューズでは主に3つの支援を行いました。①船舶の最適航路をAIが導く航海計画策定システムの開発、②超高解像度予測モデルと確率予測技術の開発、③陸上支援センターでの運航支援です。

トップへ戻る

①船舶の最適航路をAIが導く航海計画策定システムの開発は、船上で計測されるデータと陸上で活用できるデータの両者を活用し、安全かつ環境に配慮した総合的な航海計画を自動策定するシステムです。

このシステムでは、過去の運航データや海象・気象状況から導いた最適航路を様々な要素技術で補正し、精度を上げています。例えば、造船工学と機械学習を活用したAI本船性能解析でその船が気象・海象から受ける影響度を算出し、最新の海象・気象情報と合わせることで、船固有の特性を考慮した細かな補正を行うことが可能です。

さらに、通航が集中する場所やその周辺における船舶の動きなどの特徴を表現する船舶交通流で補正することで、より最適なルートの策定が実現します。

②超高解像度予測モデルと確率予測技術の開発は、すざくの自動着離桟を支援するため、10mメッシュの風、100mメッシュの潮流を予報する超高解像度予測モデルを開発しました。

③陸上支援センターでの運航支援は、実証実験期間前においては、予定航路付近の過去5年分のデータを解析し、風速や波高の強度別出現頻度を割り出し、本船の運航可否判断の閾値を設定する際に活用されました。

また、数日から1週間先の短期予報や数か月先の長期予報を継続的に更新することで、予定航路における気象・海象のリスクを定量的かつ客観的な形でDFFASメンバーへ共有し、適切な意思決定を支援しました。

実証実験期間中においては、リスクコミュニケーター(航海気象専門の気象予報士)を千葉市幕張のFOC(Fleet Operation Center)に配置し、最新の気象・海象予測、本船観測データ、本船周辺の陸上観測データなどを活用した精度の高い気象予測で運航支援を実施しました。

東京湾は1日当たりの航行隻数が約500隻という超過密海域です。年間12万隻以上が通航するマラッカ・シンガポール海峡でも1日約320隻で、東京湾のトラフィックは群を抜きます。DFFASに参画するNTTの堀茂弘氏は、「最も難度の高い海域を商用ベースのコンテナ船で無人運航したのはDFFASだけ」と、その意義を強調しました。

トップへ戻る

無人運航システムは、船舶側システムと、運航を監視・支援する陸上側システム、そして両者をつなぐ通信システムで構成されます。船舶側システムの中核は、オートパイロット機能を備える自動避航プログラム陸上支援システム(ARS)です。

海上には旅客船や貨物船、漁船、レジャー船など様々な船舶が存在しますが、規模・船種を問わず相互通信する仕組みは普及していません。船長は常に周辺に目を配り、衝突事故を防ぐために航路を変更しなければなりません。

ARSはこれを自動で行います。監視カメラLIDAR等のセンサー情報を基に、周辺の船・障害物を検知して衝突リスクを自動判定し、航行ルートを変更します。陸上側システムは船を常時監視し、万一の際には遠隔操作を行います。ARS(自動避航プログラム)を開発したのは日本海洋科学です。

これをつなぐ通信システムの開発を手掛けたのは、NTTコミュニケーションズとNTTドコモです。大型船には従来から衛星通信設備が搭載されていますが、無人運航にはこれまでよりも広帯域かつ信頼性の高い通信が必要なことから、衛星通信とLTEを併用するハイブリッド型の通信システムを開発しました。

今回の航行ルートでは、約8割のエリアでLTEが使用可能だそうです。その圏内では衛星通信とLTEを同時に使用した広帯域通信を行い、どちらかの回線が途切れた場合に一方で通信を継続します。衛星回線には、携帯型端末を用いる固定衛星通信サービスのVSATシステムを採用し、帯域・遅延性能が異なる2回線を併用しました。

無人運航システム


 人間は疲れや注意力の低下から操作の最適な解を出せないことがあります。コンピューターは周囲の状況を把握して、最適な操作の提案をしてくれます。船の操縦は船長の高い技術と経験、素早い判断と正確な操作が重要です。

特に、貨物船が貨物を下すために停泊する着桟の技術が重要です。船はすぐに止まれません。惰性で動きを予測しながらコントロールが難しいのです。ブレーキなしで駐車するようなものです。

これを自動化でやろうとする最高難度の技術「自動着桟」に東京海洋大学が挑み、コンピューターは1秒間に千回のシュミレーションをしながら大型フェリーの自動着桟に世界で初めて成功しました。

トップへ戻る

参考文献:旭タンカー株式会社、PeX、海事プレス、因島商工会議所、日本郵船株式会社、株式会社商船三井、YouTube「電池推進石油うタンカー」など。