1 驚くような進化
1 電気推進タンカー「あさひ」
旭タンカー株式会社が、興亜産業株式会社(本社:香川県丸亀市)で建造中だった世界初となるピュアバッテリー電気推進タンカーが2022年3月30日に竣工しました。全長62m、全幅19.3m、型深さ:4,7m、総トン数:492トンの船です。
積載しているバッテリー容量は3480KWH、アジマススラスター:330KWH×2基、サイドスラスター:68KWH×2基、積載貨物:重油、タンク容量:1277立方m、速力:約10ノットです。
大容量リチウムイオンバッテリー、推進制御装置、電力管理装置などで構成され、動力および電力を主推進機や他機器へ効率よく供給します。バッテリーを使用するため、航行時に温室効果ガスを排出しません。
内航海運は、国内貨物の44%、石油など産業基礎物資の約8割を運ぶ重要なインフラです。石油製品の輸送量は減少傾向が続いているものの、近年ではトラックのドライバー不足などを補う輸送手段として注目され、雑貨貨物の輸送量が伸びています。
システム全体の異常監視機能・保護機能を有しているためメンテナンス性が高く、高齢化が課題となっている内航海運業界において船員の労務負荷軽減に貢献します。発電機事業で培った電力系統に関する知見により、大規模自然災害時には緊急用電源としても利用できるため、地域社会の事業継続計画や生活継続計画にも活用が期待されています。
地球温暖化の抑制に向けて国際海事機関(IMO)による二酸化炭素(CO2)や窒素化合物(NOx)などの排ガス規制強化が進む中、海運業界ではこれまで利用されてきた重油を燃料としたエンジンに代わるクリーンな動力源として、バッテリーを活用した電気推進システムに大きな期待と注目が集まっています。
川崎重工が開発した大容量バッテリー推進システムは、運航時におけるCO2、NOxなどの排出量を大幅に削減し、環境負荷を低減します。船舶のシステムインテグレーターとして舶用機械販売だけでなく、オペレーションに最適化したパッケージでのシステム供給など新しい価値の創造に取り組み、海事産業の労務負荷軽減および脱炭素社会の実現に貢献します。
船員の高齢化が進行し、内航海運では50歳以上の船員が50%以上を占めます。船そのものも同様で、法定耐用年数(14年)を超えた船舶の割合も7割と高齢化が深刻な状況です。若手船員が働ける魅力的な職場環境を整えつつ、環境に配慮した新しい船舶を導入していく必要があります。
従来のディーゼル船にあった騒音、振動、オイル臭が低減され、船内の快適性や居住性が格段に向上しました。乗組員が船の操作を行うブリッジは、操船性の向上と運航時の負担を軽減する着座式になっています。船のオペレーションに必要な作業をコックピットから行えるようになっています。
「あさひ」の導入によって、最も大きく変わったのは機関士の仕事です。ディーゼル船では行っていた、事前にエンジンの準備を行う朝のスタンバイ作業がなくなり、メンテナンスの仕事も大きく削減することが出来ました。
さらに電動化によって機関室のスペースが小さくなり、居住区のレイアウトを柔軟に配置できるようになりました。『あさひ』では吹き抜けを設けることで、居住エリアを中心に人の気配がわかり、光が入るという地上の建物に近い環境を作り上げました。
船員の居住室にはベッドや机が配置され、机の上にはTV、下には個人用の小型冷蔵庫も設置されています。船員が休憩時間に自分のスマートフォンを使うこともでき、洗濯室も備え洗濯機や乾燥機もあるなど、電気製品の搭載の自由度も高まっています。
積み荷となる舶用燃料の荷役で使うバルブ・ポンプの操作もタブレットを用いて実施でき、将来的には荷役制御室から遠隔で操作する全自動荷役も視野に入れています。高い性能を持つ「あさひ」ですが、EVタンカーの船価は従来船型と比べて1.2倍から1.5倍ほど高くなっています。
あさひが搭載しているバッテリーは、船内の電力だけでなく陸上に電力を供給する機能も備えています。これにより自然災害などで陸上送電設備がダウンし、道路や送電インフラが寸断されても、海上から被災地付近の港へ急行することで、消防・病院・避難所といった拠点となる施設に向けて大容量電力の供給が可能となります。
そのため船自体が災害時の非常用電源として、BCP(事業継続計画)対策や地域LCP(生活継続計画)につながる新たな役割を担うことが期待されています。