1 業務用掃除機の改良依頼
1-1 管理会社を変更すると
「エレベータから降りると管理員さんが廊下を清掃していました。小型の家庭用掃除機でジャバラホースとノズルしかなく、長ホースがないためひざをついて清掃しています。ひどすぎませんか」。
管理会社を変更した当時の平成20年5月12日の夕方、マンション管理組合の理事長をしていた私へ居住者からの連絡だった。一階へ下りて管理員室へ行くと、かなりくたびれた小型掃除機があり、他の清掃用具は見当たらない。
5月17日の理事会で、管理担当者より「掃除機を中古ですが長ホース付きに交換しました。清掃用具の代金は管理組合負担となりますので発注してもよろしいでしょうか」とお話があった。
「委託管理契約の際にそのようなお話は伺っておりません。前管理会社は委託費の中に清掃用具代が含まれていました。前管理会社が用具類を持ち去ったのを確認していますが、前任の古屋管理員さんが使っていたものは管理会社が用意したものと考えていました」。
「当社が契約しているマンションでは、清掃用具購入費用などを消耗備品費から支出させていただく方法をとっております。定期総会前なので差し控えておりましたが、清掃に支障がありますので必要な用具類を卸問屋へ発注してもよろしいでしょうか」
「問屋さんからの購入は1割引ですが、清掃用具販売店は販売実績に応じて3~4割引で購入します。したがって、最低でも2割引となるため用具の名称と数量をお知らせいただければ理事長が発注します。
トイレットペーパー類は量販店のバーゲンで小口現金を利用して購入します。このほうが管理組合の負担は軽くなります」と回答した。管理担当者から届いた清掃用具類の名称は、清掃をしたことのない素人が選択した品名ということが一目瞭然であった。
平成13年の夏に共用部の床油剥離清掃のご指導をいただいた株式会社大粧の大内社長にご足労いただき、管理員さんと話し合いを持つと、ゴム手袋やごみ袋もない状態なので至急そろえるように要望していたという。
建物の様々な箇所の清掃方法と利用用具について説明いただくと、共用部美化に対する情熱が強く感じられた。大内社長より、自在ほうきや従来の糸モップとモップ絞り機、ダスキン類を使わない方法とワンタッチモップ糸の洗濯方法について説明をいただいた。
労力を軽減して最適な清掃方法を図れるよう業務用の掃除機をはじめ、業務量を軽減できるワンタッチモップ、風除室のガラス幅に合わせたウインドスクイジーなどを発注し、清掃用具の納品時に大内社長より用具類の使い方などについて実技指導をいただいた。
清掃用消耗品類は、管理員さんよりメモで直接理事長へ連絡いただくようお願いした。この時購入したのがジョンソンの業務用掃除機で、納品時に清掃資材販売会社の大内社長が、掃除機の取り扱い方法を管理員に実技指導され、理事長もその場に立ち会った。
ジョンソンの業務用掃除機は管理員さんに「こんなすばらしい掃除機は初めてです」と絶賛された。プロにはプロとして誇りの持てる用具をお使いいただくのが礼儀で、気持ち良く仕事をしていただけるように配慮するのが裏方の務めと私は考えている。
2年後の6月入ると管理員が交代した。私は昨年暮れから急性の白内障で視力が落ち、信号機の色も判別がつかない状態となり入院した。手術後にマンションへ戻ってエレベーターを降りるとPタイルの床に違和感を覚えた。東棟と西棟のすべての階の床が傷だらけである。
廊下全体に金ブラシをかけたようなキズが広がっている。昨年共用部点検時に撮影した西棟六階廊下写真を見ると、このようなキズは写っていない。キズの着いた原因を考え、業務用掃除機でないかと推定し、管理員室で掃除機を調べた。
掃除機のノズルの裏を見ると、金属の部分が広範囲にわたって磨耗していた。新任の管理員は床を保護するブラシを引っ込めた状態で使っていたことを物語っている。試しにノズルを床に着けて前方に押し出すと、時々Pタイルに引っかかるような音がする。
共用部を損傷させたことについて、理事会で過去の写真と比較して管理会社の見解を求めた。大規模修繕工事で共用部の廊下はPタイルを止めてタイルカーペットにするため、管理会社より示談金1,176千円を現金で受領して大規模修繕へ繰り入れた。
床が傷ついたのは、管理員が取扱説明書を熟読していないことと思い込みによる操作が原因だったが、管理員の清掃指導を徹底していない管理会社とはお別れした。業務用掃除機を眺めながら、取り扱いを間違えても傷がつかないようにできないものかと考えた。
1-2 製造メーカーへの連絡
管理組合名で、マンション共用部廊下と管理会社に災難をもたらした業務用掃除機の改良について、製造元のジョンソンディバーシー株式会社へ提案を行った。勿論知っている人はいないし、手紙を出すのも初めてである。
「突然の依頼で恐縮ですが、貴社の掃除機『ジェイスマートnコ-ドタイプ』の改良をお願い申し上げます。両眼白内障の手術後に、マンション廊下の床タイルについているカナブラシで擦ったようなキズに気付きました。
慣れない管理員が説明書を読まずに掃除機を使用し、樹脂タイルの床をブラシを出さずに清掃していたのが原因でした。説明書を読んでいれば床にキズがつくことはなかったと推定できますが、ノズルのブラシを出さない場合でも、床にキズがつかないような改良をしていただければと考えました。
ベテランの管理員が、「こんなすばらしい掃除機は初めてです。理事長はどこで見つけたのですか」と絶賛していた製品です。万一の場合でも、床のキズを抑えることができれば、より多くの方々に安心してお使いいただけると思います。突然の依頼で恐縮ですがご検討をいただけると幸いです」。
1-3 製造メーカーの対応
床にキズが付かないようになればとの願いだけだったが、ある日のこと、予想もしていなかった手紙が届いた。何という真摯な会社だろうと感心した。
「秋冷の候、ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。平素より弊社製品をご愛顧いただきまして厚く御礼申し上げます。この度は『ジェイスマートnコ-ドタイプ』に対して、画像をまじえて適切かつご丁寧なお手紙をいただきまして、まことにありがとうございます。
早速、当製品の開発担当者とご指摘いただいた点について協議いたしました。担当者も『このような形でご意見をいただくことは製品担当者として大変ありがたい』こととして『次期の開発・改良に生かすべく検討させていただく』とのことでした。
弊社では基本的に代理店経由での販売を行っていますので、ともすれば直接にユーザーの方からご意見をお聞きすることが少なくなりがちですので、貴重なご提案でありました。
どうか、今後とも弊社製品をご愛顧いただき、また、お気付きの点があえればお知らせいただきますようによろしくお願いいたします。最後になりましたが、季節の変わり目ですのでご自愛されますよう、管理員の方にもよろしくお伝えください」