1 戦後体制からの脱却
1) これでは良くならない
戦後体制からの脱却を掲げて誕生した第一次安倍内閣は戦後の日本が払拭できない諸々の呪縛を解こうと「大文字の政治」を掲げ保守層を中心に多くの支持があった。保守層の期待を担った安倍内閣は、政策では歴代内閣と比べてもはるかに大きな功績を残した。
教育基本法改正や教育三法の成立、防衛庁の省昇格、憲法改正の国民投票法の制定など業績を次々と上げてきた。しかし、閣僚の「政治とカネ」をめぐる不祥事や辞任が相次ぎ持ち主不明の年金記録が約5100万件あることが発覚し社会問題となった。
その後も、農業共済組合の補助金不正受給問題で当時の遠藤武彦農水相が辞任するなどの不祥事が続き、参議院選挙での自民党大敗もあり、安倍首相が突然の辞任を発表したのは2007年9月12日で、翌13日に東京・慶応大学病院に入院した。
24日夕方に院内で記者会見を開き、突然の辞任を謝罪して自身の体調について説明した。「この1か月間体調は悪化し続け、ついに自らの意思を貫いていくための基礎となる体力に限界を感じるに至りました」。
担当医師団は、強度のストレスと疲労による「機能性胃腸症(機能性ディスペプシア)」と診断した。機能性ディスペプシアは「慢性的な腹部症状があるにも関わらず、検査を行っても器質的な異常が見つからない状態」のことを指す。
この病は現代人に急増している疾患であり、症状を引き起こしている発症原因は明確には分かっていないが、精神的ストレスが関与している考えられ、完治することが難しい疾患とも言われる。左翼マスコミの異常なまでの閣僚任命責任追及が影響したのだろう。
敗戦利得者たちが、「消えた年金」「格差社会」「閣僚の不適切発言」「政治とカネ」といった問題を取り上げ、「小文字の政治」を争点にすることで「大文字の政治」の重要性から国民の目を遠ざけてしまい「大文字の政治」は国民に伝わらなかった。
マスコミや野党は「強行採決十七本」と執拗に非難を繰り返していたが、民主主義は審議をしたうえでの多数決を推奨している。審議拒否をしながら強行採決したと報じるのは本末転倒以外の何物でもないだろう。審議を拒否する議員と当選させてはならない。
2) 小泉首相の失政
「自民党をぶっ壊す」と言って登場した小泉政権は、その構造改革路線によって中小企業を疲弊させ、自民党の支持基盤だった地方組織を衰弱させた。郵政民政化を強行し、国民の貯金で米国国債を大量に購入して米国に戦争資金を提供した。
アメリカ主導のグローバル経済に小泉構造改革路線があまりにも無批判、迎合的だったために「シャッター商店街」が誕生した。なんでも競争原理や市場原理にゆだねると、守るべき日本という国、共同体がもたなくなる。
外国産の農産物が大量に入ってくれば、国内の農業は衰退するしかない。グローバル経済は地域の産業も文化も伝統も壊滅状態になる。国際競争力だけを目安にすれば、日本の農村は荒廃するしかないのである。
国内産業の保護・育成は必要なことで、「海外で安く調達できるものは国内で生産する必要はない」という考えは暴論である。経済の繁栄を求めて共同体を維持し、国の永続を図る必要がある。共同企業体の疲弊をもたらすような経済は「藪枯らし」に過ぎない。
小泉首相は「首相の靖国神社参拝に反対する」といった中国の理不尽な要求に屈しない強さを持っていた。しかし、日本の歴史や伝統に対する「知」が劣悪だった。しかし、靖国神社参拝という「勇」はあったが、「知」は足りなかった。
小泉首相の靖国神社参拝は称賛できる。靖国神社に祭られている英霊はすべて日本のために命を投げ出した人たちである。「祖国よ安かれ」と願って斃れた人たちを慰霊し、感謝し検証するための神社だから、参拝するのは平和を祈る気持ちがあって当然である。
2005年4月にジャカルタで腹かれたAA首脳会議で、日本は国連安全保障常任理事国入りに向けて、アジア・アフリカ諸国に戦後日本の存在感を示すシナリオでいたが、小泉首相の演説は常任理事国入りを不可能にしてしまった。
社会党の「村山談話」を踏襲する違和感と矛盾。「謝罪は事実を見貯めた証拠」というのが国際社会の常識だから、そんな不名誉な国に常任理事国の席を与えようとする空気が生まれるはずがない。これは、歴史を知らないが故の売国行為である。
先の大戦の目的を、「植民地拡張と侵略のための戦争だった」と短絡的に決めつけ、それを容認する姿勢は全く歴史の無知である。小泉氏は、まさに「勇」の前に「知」が足りなすぎたと言わざるを得ないだろう。
3) 戦後体制からの脱却
安倍氏には閣僚の不祥事や官邸の機能不全にみられるように、適切な助言をする優れた経営者の感覚を持つ指南役がいなかった。ジャーナリストの桜井よし子氏は「戦後体制からの脱却なくして日本の繁栄なし」正論平成19年11月号でつぎのように語っている。
「戦後体制がもたらしたいまの日本に横行する不条理と不合理。気概と品格の欠如。誤った歴史認識に絡め取られたままの国際社会に対して胸を張れないという悪しき檻を打ち払い、日本再生の戦いをやり抜くことが安倍晋三という政治家に課せられた歴史的使命だったのではないか」
平成18年では雪崩を打って安倍首相のもとに集まり、ほぼ総主流体制を形作った自民党は、安倍氏が参議院選挙で敗北した途端、政治信条や歴史認外交政策などで最も安倍氏と距離のある福田康夫を担ぐことを恬として恥じなかった。
平成19年12月に訪中し、胡錦涛閣下に拝謁を願うという印象を与えた。福田首相は「南京大虐殺記念館」再開にくぎを刺さず、迎合するかのように靖国神社参拝を公言し北京大学では「過去を反省する勇気と英知」を語って学生たちの拍手を浴びた。
東シナ海のガス田をめぐる問題も明らかに安倍内閣時代から後退している。日本のガス田上空を中国の爆撃機が飛び回った際にも、日中間交渉の場でも「日本が試掘に踏み切れば「軍艦を出す」と中国側が威嚇しても福田首相は抗議すらしなかった。
福田首相の訪中に先立って中国を訪れた小沢一郎民主党代表も、中国の計算され尽くした微笑外交に篭絡されたようで、胡錦涛国家主席との会談で「南京」も「慰安婦」も「靖国」も「東シナ海のガス田」も何も話題として出さなかった。
中国の温家宝首相が平成19年4月に来日し、国会演説で微笑を振り向きながら遠慮なしに歴史カードを日本人に認識させようとした。公式の場でそうふるまった温首相と比べて、小沢氏に日本国の名誉と国益を守る使命感があるのかと問いたい。
胡錦涛も当然のように、日本の巨額援助に対する謝意の表明をしなかった。日本の二大政党の党首がこんな有様では、政府全体、閣僚も、経済界も「朝貢」を「有効」と錯覚しても仕方がないだろう。