はげちゃんの世界

人々の役に立とうと夢をいだき、夢を追いかけてきた日々

第8章 第二惑星金星

地球と金星は誕生したときは双子の星のようで、同じ岩石惑星なので成り立ちはほぼ同じです。太陽系の誕生からおよそ6億年後、天体衝突が頻繁に起こる時期がありました。地球や金星には多くの彗星や小天体が降り注いでいたと考えられます。

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1 明星と呼ばれる惑星

夕方、南の空にひときわ輝く金星、月以外に一番輝くこの金星は夕方に宵の明星として現れ、明け方は明けの明星として現れます。空が幻想的な時間帯に現れるため西洋ではビーナスを呼ばれました。金星が夜中に現れることは絶対にありません。

16世紀ニコラウス・コペルニクスは、金星が地球のすぐ内側を公転していることを明らかにしました。その後、地球と大きさも重さもほぼ同じことが判明し、大きさが同じような金星は地球の双子星と考えられるようになりました。

1961年には金星が地球に近い環境にあるとされ、ミハイル・ロモノーソフは太陽面を通過する金星に大気があることを発見しました。金星が明るく輝くのは雲に覆われているからです。

当時、金星の雲は地球と同じようにできたと思われ、金星には大量の水があり恐竜が生息できるような熱低雨林があると人々は想像したのです。その後も、金星にはうっそうとした熱帯雨林があると想像されていました。

金星

宇宙開発が急速に進んだのは米ソの冷戦が原因です。米ソの冷戦は社会主義と資本主義の戦いでしたが、科学の分野にも及びました。世界が注目する宇宙開発の分野で勝利を収めることが自らの優位性を示すことになります。

1957年にソ連は人工衛星スプートニック号を打ち上げ世界に衝撃を与えました。翌年アメリカもエクスプローラ1号を打ち上げ宇宙開発競争が幕を開けました。宇宙開発技術が飛躍的に進んだのは、アメリカとソ連の冷戦が大きな原因です。

世界が注目する宇宙科学の分野で勝利を収めることが、自らの優位性を示すことになると考えられました。宇宙飛行が進展したのは戦争のおかげだったというのは否定できません。ロケットの開発は都市を破壊するミサイル技術を応用したものだったからです。

科学者たちは太陽系の隅々までロケットを送り出したいと考えるようになりました。しかし、ソ連はロケット開発はミサイル開発の一部でした。そのため国民には知らせず秘密裏に進め、国民を奮い立たせるために金星探査を利用しました。

 

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2 金星探査の挑戦く

金星探査は熱帯雨林の謎を解明するだけではありませんでした。金星が火星より近く、到達しやすかったからです。1960年代に地球に金星と最も近づく際に探査機を打ち上げることになりました。そのチャンスは19か月ごとにやってきます。

最初に挑戦したソ連は1971年スプートニク7号を打ち上げ失敗、その直後にベネラ1号を打ち上げ金星に近づきましたが観測データは地球へ届きません。アメリカの電波望遠鏡が興味深い発見をします。金星の自転は地球と逆の方向で243日かかるのです。

一方金星の公転周期は225日です。つまり1年よりも1日のほうが長いことが分かったのです。なぜ金星の自転方向は地球と逆なのでしょうか。しかし、そもそも他の惑星の自転方向がなぜ同じなのかもわかっていません。

金星が不思議な自転をしていることが判明してからそれか18か月後の1962年、米ソは国の総力を挙げて金星を目指すロケットと探査機を完成しました。そして7~9月の3か月の間に5つの探査機を打ち上げたのです。

アメリカのマリナー1号と2号は月探査用の探査機を金星用に改良したのです。1962年7月22日のマリナー1号は失敗、その一か月後にソ連は金星探査機を打ち上げました。しかし、地球の重力から離れることができずに失敗でした。

その2日後、アメリカはマリナー2号を打ち上げ金星に向かいました。9月に入るとソ連はベネラ1号と2号を打ち上げましたが両方とも失敗。金星に到達したのはアメリカのマリナー2号のみで、他の天体のデータを送ってきた最初の探査機になりました。

マリナー2号が金星に到達した後もソ連は金星探査を続けました。その後も米ソは次々と探査機を送り込みます。人類が金星の表面を初めて見たのは1975年、そこは地球とはまるで違って地獄のような世界でした。

気温はおよそ460度、空気は恐ろしく乾燥しています。地表に届く太陽光はわずか2%、空はオレンジ色で薄暗く、地表の気圧は90気圧。これは水深900メートルの海底に匹敵します。

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3 金星に磁場はほとんどない

マリナー2号のデータで金星の大気の上層部は500度以上での高温と判明しました。この時、金星に水があり植物の豊かな世界と言う期待は夢と消えたのです。金星は期待したような命溢れる楽園ではなかったのです。

しかし、観測で分かったことは大気の高層部が高温だったということだけです。電波望遠鏡の観測データで金星には磁場がほとんどないことが分りました。地球内部には高温で溶けた金属がありその対流によって磁場が生まれています。

地球の磁場がふりそそぐ有害な宇宙線から地球を守っています。金星は地球とほぼ同じ大きさと質量をもつことから、内部には液体金属の核があると考えられていました。しかし、不思議なことに対流が起きていないです。

金星は暑い雲で覆われているため、雲を通り抜けるレーダー波を利用して調べました。金星探査機マゼランは1984年5月4日にスペースシャトル・アトランテス号に搭載されて宇宙へ運ばれました。

1984年から1991年までマゼランは金星全体を観察して地球でデータを送ってきました。そしてついに金星表面の様子が明らかになりました。三次元データ解析で金星には沢山の火山があり、長い間火山活動があったことがわかりました。

噴火の痕跡


 金星には海ができ多くの生命が育まれていたかもしれません。地球には海があり金星には海がないのでしょうか。金星は太陽に近いからです。金星は地球の2倍以上の太陽光を受けています。太陽系の誕生当初太陽は暗かったので金星に海ができたと考えられます。

ところが太陽が明るくなるにつれ、暴走温室効果が起こります。温度が上がるにつれ海水は次第に蒸発し、大気中の水蒸気が増えていきます。水蒸気には強い温室効果があります。二酸化炭素と同様に赤外線を吸収するのです。

大気が赤外線を吸収すると水蒸気は温められ、その水蒸気が今度は金星の表面を温めます。表面が暖められると水の蒸発速度は早くなり、ますます温室効果が進みます。そしてさらに表面が暖められると言うサイクルが繰り返されるようになります。

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4 灼熱の金星

金星の大量の二酸化炭素は、数十億年にわたる火山活動によってもたらされていたのです。暴走温室効果と大規模な火山活動が原因で、金星は灼熱の環境になってしまったのです。更に金星の火山活動から、磁場が失われた原因がわかってきました。

なぜ金星では火山活動が止まってしまったのでしょうか。惑星表面から水が失われれと惑星内部の水も失われます。プレートテクトニクスという地殻変動が起こり火山活動が引き起こされます。惑星の内部で対流が起こらなければ磁場は造られません。

金星では水が失われたため内部運動は止まってしまったのです。金星に地場がないのは核の内部に熱が閉じ込めれられているからです。地球では多量の水が常に大量に内部に入り込んでいます。

1974年2月5日、水星・金星探査機マリナー10号が金星の大気の模様を撮影しました。その画像の分析から金星の上空で超高速の風が吹き荒れていることが確かめられました。この風はスーパーローテーションと名付けられました。

大気の96%は二酸化炭素で占められているため、強い温室効果が起きています。金星には数十億年前、地球と同じ海があったそうです。しかし、地球よりも太陽に近かったため、海水はすべて蒸発しそのほとんどが宇宙へ逃げてしまったのです。

大気中の二酸化炭素を吸収する海が消えたことが、金星の運命をわけて灼熱の世界に変えてしまいました。厚い雲に阻まれ宇宙から見ることのできない金星の地表、科学者は金星を周回する衛星からレーダによる地表の観察を試みました。

金星の地表には直径3キロメートル以下のクレターは存在しないのです。小さな隕石は大気との接触で粉々に砕け、地表への衝突は起こりません。さらに地表に残るクレーターの数が大変少ないこともわかりました。


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5 金星へ着陸した探査機

古いクレーターは過去の火山活動で消えてしまったようで、金星の地表はほとんど冷え固まった溶岩で覆われているようです。上空から金星の火山地形を見ると写真中央部は直径25キロ高さ750メートルのドーム状火山です。

ドーム状火山


 地底から上昇したマグマが地面を次々と持ち上たのでしょう。地下から多量の溶岩が吹き出し地表を流れた痕跡は、太古の金星を揺るがした火山活動の激しさを物語っています。液体の水が存在しない金星に、下の写真のような地形が見つかりました。

溶岩流の跡


 水ではなく煮えたぎる溶岩の流れが大地を削り、このような地形を作り出したのでしょう。地球のように風や水の浸食を受けない金星は、火山活動によって星の風景が作り出されてきました。

このころソ連のベネラ4号も打ち上げられ、金星の上空に到達し耐圧化カプセルを送り込みました。その結果、大気のほとんどが二酸化炭素であり雲は硫酸でできていることが分りました。しかし、確かな証拠を得るには金星に降り立つことが必要でした。

ソ連は国の威信をかけて金星探査機を製作し、金星に初めて着陸したのはベネラ9号です。宇宙船は減速して金星の重力圏に入り楕円の周回軌道を経て、金星の大気圏に突入します。着陸機からのデータは宇宙船が中継することになっていました。

金星着陸の探査機


 着陸機は丸い形で特殊な断熱材で覆われ、断熱材が燃えることで落下速度を減速するしくみでした。落下速度が低下すると2つのパラシュートが開きます。同時にアンテナがあらわれて上空の宇宙船にデータを送信します。

大気の状態は地球の常識をはるかに超えていました。驚くことに金星に着陸した探査機は上空50キロのところでパラシュートを切り離しました。あとは探査機自体の空気抵抗で軟着陸できたのです。この濃密な大気は灼熱の金星環境にも深くかかわっています。

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6 あかつきに期待

なぜ地球では金星のような暴走温室効果が起こらなかったのでしょうか。それは地球は太陽からの距離でハビタブルゾーンに位置しているからです。ここでは水が液体の状態で存在し続けられます。

水はハビタブルゾーンの内側では蒸発し、外側では凍結してしまいます。温室効果で海の水が蒸発してしまった金星、そこにもう一つ後戻りできない変化が起こります。大気中の水蒸気がなくなってしまったのです。

実はこれもまた太陽が原因でした。太陽風と呼ばれる現象です。太陽風は太陽から噴き出す電磁気を帯びた粒子です。金星は太陽との距離が近いため、強い太陽風にさらされています。そのためある異変が起こりました。

金星では水が水蒸気として大気中に漂っています。宇宙空間に逃げ出しやすくなっているのです。太陽風が吹き付け、水蒸気にその粒子がぶつかると光解離と言う現象が起こります。酸素と水素に分離するのです。そして水素は軽いので宇宙空間へ流れ出ていってしまいます。

つまり金星の大気では光解離が頻繁に起きたために水素が宇宙空間に大量に放出されたと考えられるのです。金星は太陽風によって少しずつ乾燥していきました。金星には太陽風から守ってくれる磁場がありませんでした。

そして水が失われた金星の大気は二酸化炭素で占められました。しかし、金星を覆う二酸化炭素はどこからやってきたのでしょうか。その謎は金星の表面を調べる必要がありました。

ヨーロッパの気象衛星ビーナス・エクスプレスが金星に向かい、南極付近では大きな渦が見つかりました。2010年に打つ上げられた日本の金星探査機あかつきが、金星の周回軌道に入るときにメインエンジンが吹っ飛んでしまいました。

あかつき


 金星周回軌道に乗れなかったあかつきは、5年後に戻ってきた時に補助エンジンを噴射して周回軌に投入できました。5台のカメラを駆使してスーパーローテーションの詳細に観測し、大気に働く熱潮汐波が影響していることを突き止めました。あかつきはいまもなを観測を続けています。

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参考文献:金星(国立天文台)、解明宇宙の仕組み「金星」(BS11)など。