はげちゃんの世界

人々の役に立とうと夢をいだき、夢を追いかけてきた日々

第22章 脱・電柱社会

札幌市内や市街地の道路から電信柱と電線が消え始めている。市電の走る道筋には蜘蛛の巣のように電線が走っていたが、今は電柱も電線も見当たらない。子どもの頃から見慣れた風景が変わってしまうのは寂しいが、災害時の対策を考えると必要なことである。

1.無電柱化の整備状況

 1-1 今は昔、電線のあった風景

政府は昭和61年度に第一期計画を策定してから無電柱化を計画的に推進し、平成29年度までに約9,900kmの無電柱化を実施してきた。それまでは 歩道の車道側に立ち並ぶ太いコンクリート製の電柱や、延々と数十本も続く電線は当たり前の風景だった。


 電線と電柱は、いまでは何気なく撮影した写真の中に残る過去の思い出となった。これまでは電柱や電線を避けて撮影していただけに、電柱や電線が映っている写真を探し出すのはかなりの労力を伴う。こんなことになるならもっと撮影しておけばよかった。


 これまで電柱や電線のある風景は当たり前で、すっかり生活になじんでいた。電線がなくなったら、鳥たちはどうするのだろう。カラスは夜になると特定の電線に集まり、数十羽が眠りについていた。電線の下からカラスの糞が消えるのは喜ばしい。


 国道36号線市街地部の無電柱化が進み、見慣れた風景はすっかり変わってしまった。電線の無いことに違和感を覚えるが、電線の無い方が建物や空がすっきりと見える。これからは、電線の無い風景になじんでいくのだろう。

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 1-2 国内外の整備状状況

ロンドン・パリなどのヨーロッパの主要都市や香港・シンガポールなどのアジアの主要都市では無電柱化が概成しているのに対して、日本の無電柱化率は東京23区で8%、大阪市で6%というのが現状である。


 ただし、ロンドンは2018年、パリと香港は2004年、シンガポールは2001年、台北は2015年の資料である。日本の無電柱化率は2018年の調査で、東京23区で8%、大阪市でも6%という低調さである。

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日本でこれまでに1期計画~7期計画(昭和61~令和2)で12,300kmの無電柱化を整備又は事業中となっているが、概ね半数が緊急輸送道路をはじめとする防災対策が重点化している。


 推進計画までの無電柱化延長12,300kmのうち、約8割の9,65kmが歩道幅員2.5mm以上の道路における整備であり、歩道幅員が狭いあるいは歩道が無い道路での整備は少ないようである。

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地域別では、関東、近畿、中部の三大都市圏での無電柱化延長が多く、地方部での整備は相対的に少ない。北海道の整備状況は全国で9番目となっている。滋賀県、徳島県、高知県、佐賀県の整備状況は少なすぎるようである。

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 1-3 進捗状況見込み

2019年度末見込みの無電柱化推進計画の進捗状況は次の表のとおりである。


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2.災害に強い街づくり

 2-1 無電柱化が必要

電気を供給している電線やそれを支える電柱は、災害時に電線の接触による感電死、変圧器の落下、電柱の接触による感電死、変圧器の落下、電柱自体の倒壊など、危険な状況を発生させる。

消防車や救急車を含めた緊急車両が通れない場合もあり、阪神淡路大震災のデータを見ると、無電柱化(地中線)は架空線よりも被災状況がかなり低いことが読み取れる。国交省資料のしりょう資料によると、

2016年4月の熊本地震で、電柱の倒壊が244本、傾斜は4,091本もあった。阪神淡路大震災の時は、架空線の被災率は2.4%、被災延長100kmだったが、地中線の被災率0.03%、被災総延長0.7kmだった。地中線の損傷はわずかだった。

平成26年の電柱衝突事故は1,498件中死亡事故は7%、重傷事故は27%、軽傷事故は66%だった。電柱を避けながら朝夕通学する子どもたちに、電柱は交通事故の危険を増加させる。電柱の無ない歩きやすい歩道づくりが必要である。

日本を訪れる外国人観光客は年々増加しているが、彼らが日本にきて驚くのは空を覆う電線と言われる。ベビーカーや車いす、お年寄りが歩きやすい環境にすることが望まれ、2015年10月に無電柱化を推進する市区町村長の会が発足した。

市区町村長の会はNPO法人電線のない街づくり支援ネット支援ネットワークと連携することで、無電柱化の機運が高まってきた。そして、2016年12月に「無電柱化の推進に関する法律」が成立した。

11月10日を無電柱化の日とし、NPO法人電線のない街づくり支援ネットワークも参加して現在各地で無電柱化の啓発イベントを行っている。

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 2-2 無電柱化を推進 

戦前は電線管理者が一部電線を地下に埋設していた。戦後は、電柱電線が義務占用物件とされ、架空配線・通信網の整備が進展した。

昭和27年 電線・電柱を占用許可の対象とした。

昭和61年 電線類地中化計画(第1期)開始(キャブシステム、、直接埋設方式等から選定)

平成7年 電線共同溝の整備を推進(電線・電柱の占用を制限)

平成13年 内閣にIT総合戦略本部が設置(光ファイバ網の整備推進)

平成25年 防災上重要な道路を37条制限に追加。

平成28年 電柱・電線の抑制・撤去、技術開発等の推進。

平成30年 無電中電化推進法に基づく「無電柱化推進計画」策定。

令和3年 新たな「無電柱化推進計画」策定。

無電柱化工事の電線地中化工事は、従来電線共同溝方式という工法が使われていたがコストが高くついた。現在は、浅層で埋設することで小型ボックスを使うなどの低コストでできる工法を研究して採用している。

地中化には電線共同水方式(従来方式)、自治体管理方式(自治体単費で実施)、単独地中方式(電線管理者の費用で実施)、要請者負担方式(要請者が全額費用負担)、低コスト手法(浅層埋設・小型BOX・直接埋設)。地中以外では裏配線、軒下配線もある。

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 2-3 市街地の無電柱化

令和元年の房総半島台風(台風15号)では、局地的な強風等により約2千本の電柱が倒壊し、道路閉鎖に伴う通行止め等により復旧活動に支障が生じた。電柱倒壊による道路閉鎖がある市街地等の緊急輸送道路は、被害を防止するため無電柱化を実施するとした。

  本対策の達成目標

 中・長期の目標

電柱倒壊による社会的影響が大きい市街地等の緊急輸送道路での電柱倒壊による道路閉鎖を未然に防ぎ、大規模災害の被害の軽減を図るとともに、救急救命・復旧活動に必要な交通機能を確保する。

電柱倒壊のリスクがある市街地等の緊急輸送路(約2万km)における無電柱化着手率

・ 現状は約38%(平成元年度)

・ 中長期の目標は100%

・ 本対策による達成年次の前倒しは令和44年度 ⇒ 令和41年度

 5年後(令和7年度)の目標

・ 達成目標は約52%

・ 電柱倒壊による道路閉塞のリスクがある市街地等の緊急輸送路において、新たに延
  長2,400kmについて無電柱化に着手する。

 実施主体

・ 国、地方自治体、電線管理者

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3 無電柱化の推進

 3-1 無電柱化の新たな取り組み

緊急輸送道路を対象に電柱の新設を禁止する措置の全国展開を図るとともに、固定資産税の特例措置の創設や防災・安全交付金による重点的な支援を実施する。

道路法第37条(道路の占用の禁止又は制限区域等) 道路管理者は、交通が著しくふくそうする道路若しくは幅員が著しく狭い道路について車両の能率的な運行を図るため、又は災害が発生した場合における被害の拡大を防止するために特に必要があると認める場合においては、第三十三条、第三十五条及び前条第二項の規定にかかわらず、区域を指定して道路の占用を禁止し、又は制限することができる。

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 3-2 緊急輸送道路に電柱新設禁止

緊急輸送道路において電柱の新設を禁止する。(平成28年4月1日から直轄国道(約2万km)において開始する)。

規制の概要
    1)区域指定する道路
      緊急輸送道路について区域指定を告示した上、新設電柱の占用を禁止。
    2)既存電柱の取扱い
      占用禁止日前に占用許可された既存電柱については、当面の間占用を許可。
    3)仮設電柱の例外
      地中化や民地への設置等が直ちに実施できず、やむなく道路区域内に電柱の
     設置をせざるを得ない場合は、仮設電柱の設置を許可。(原則2年間)

     

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 3-3 固定資産税の特例措置

防災上重要な道路や交通安全上課題がある道路等における無電柱化を促進するため、一般電気事業者、電気通信事業者、有線放送事業者等が、緊急輸送道路において無電柱化を行う際に新たに取得した電線等に係る固定資産税の特例措置を実施。

     

     

直接埋設や小型BOX活用方式等低コスト手法の導入、及び普及促進の仕組みの構築に着手する。

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 3-4 低コスト手法の導入

平成30年度より、低コスト手法については防災・安全交付金による重点配分を行う。

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 3-5 埋設基準の改定

平成28年4月1日より、電線類を従前の基準より浅く埋設するため「電線等の埋設に関する設置基準」を緩和。する

交通量の少ない生活道路で道路※1の舗装厚さが50cm の場合、電線の頂部と路面との距離は、これまでの80cmから最大35cm2まで浅くすることが可能とする。

    

地上機器の民地への設置等地域の協力が得られる仕組みや、計画策定の際に地域の声が反映される仕組みを構築し、地域との連携を強化し事業を推進する。

「電柱が無いことが常識」となるように国民の理解を深める情報発信を推進する。


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4 無電柱化の手法

 4-1 無電柱化の手法

無電柱化の整備手法は、「電線類地中化」と「電線類地中化以外の無電柱化」に大別される。


?電線共同溝方式は、道路の地下空間を活用して電力線、通信線等をまとめて収容する無電柱化の手法である。沿道の各戸へは地下から電力線や通信線等を引き込む仕組みになってる。?

 4-2 地中化による無電柱化

歩道幅員が広く、電力や通信の需要が大きい地域を想定した手法から徐々にコンパクト化を図っているが、現場対応として限界にきている。


 4-3 電線共同溝方式(イメージ)

電線共同溝方式は、道路の地下空間を活用して電力線、通信線等をまとめて収容する無電柱化の手法ですある。沿道の各戸へは地下から電力線や通信線等を引き込む仕組みになっている。


 4-4 地中化以外の無電柱化

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・ 軒下配線方式

無電柱化したい通りの脇道に電柱を配置し、そこから引き込む電線を沿道家屋の軒下または軒先に配置する手法である。

・ 裏配線方式

無電柱化したい主要な通りの裏通り等に電線類を配置し、主要な通りの沿道の需要家への引込みを裏通りから行い、主要な通りを無電柱化する手法である。

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 4-5 地上機器の設置の工夫

地域住民と連携して、地上機器(トランス)を民地等に設置することにより、良好な景観が形成されるとともに、快適な道路空間が創出されている。

・ 看板で目隠しを行い、景観に配慮した事例

  

・ トランスの周りを囲い、家屋と一体化した事例


・ 沿道家屋の庭に設置して、植栽で隠した事例

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5.最新の無電柱化配線工事

 5-1 多様な整備手法の活用

① 低コスト手法の普及

② 多様な整備手法の活用(小型ボックス・直接埋設)

③ 新技術・新材料の活用(技術公募)

④ 新技術、新材料の活用(管路材等の公募)

⑤ 発注方式の見直し(PFI・包括発注)

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 5-2 財政的措置

① 個別補助制度(無電柱化推進計画事業補助制度)の創設

② 国際観光旅客税による観光地域振興無電柱化推進事業の創設(令和1年度~

③ 固定資産税減額措置の継続、占用料減免措置の実施、無利子貸付制度の対象拡

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 5-3 占用制度の的確な運用

① 緊急輸送道路等での新設電柱の占用制限の拡充

② 安全・円滑な交通確保の観点からの新設電柱の占用制限の運用開始

③ 既設電柱の占用制限の検討

④ 道路事業市街地開発事業と併せた無電柱化の推進

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 5-4 関係者間の連携強化

① 地方ブロック無電柱化協議会等の開催、地元協議会等の設置

② 自治体向けに、合意形成のフローや留意事項を示した「無電柱化の合意形成のため
  の技術ガイド(仮称)」の作成

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6.無電柱化配線工事

 6-1 低コスト手法の普及


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 6-2 新技術・新材料の活用

無電柱化における管路材および特殊部について、民間企業などが開発した低コスト化に資する技術を公募。

公募した技術について、性能検証内容(検証項目、検証方法、適用条件など)を統一的に評価することで、できるだけ同一条件の下での特徴や性能を技術比較表としてまとめ、技術情報を提供。

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 6-3 電線共同溝事業のPFI方式

予算の平準化、民間の技術・ノウハウの活用促進を目的として、電線共同溝事業においてPFI方式による事業を実施。

設計、工事に加え、維持管理を含め包括的に委託。

全国の直轄事業の5事業で試行中。

○事業の内容

① 事業対象区域において整備する電線共同溝等の設計、工事及び維持管理を。

② 電線共同溝等には電線共同溝(管路、特殊部)に加え、それに伴う歩道整備を含み、通信・電力管路に敷設される通信・電力ケーブル、トランス等の地上機器は含まない。

③ 事業方式はBTO方式(Build-TransferOperate)を採用。

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 6-4 無電柱化のスピードアップ

① 電線共同溝事業の事業期間は平均7年と事業期間が長いことが課題。

② 設計、支障移転、本体工事、引込管工事、事業調整を包括して発注すること等によ
  り、同時施工や調整の円滑化を図り、事業期間の短縮・発注者の負担を軽減。

③ 直轄国道において、本格実施に向けR1年度よりモデル事業にて試行中。

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7.無電柱化への支援

 7-1 個別補助制度の創設

「無電柱化の推進に関する法律」に基づき国により策定された「無電柱化推進計画」に定めた目標の確実な達成を図るため、地方公共団体のおいて定める推進計画に基づく事業を計画的かつ集中的に支援する(個別補助制度を創設)。

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 7-2 観光地域振興無電柱化推進事業

観光による地域振興に向けた無電柱化の推進を図るため、電線管理者が実施する無電柱化を支援。

具体的には、観光地において電線管理者が実施する単独地中化や軒下・裏配線を国と地方公共団体が補助。

〇 補助対象地区

・ 世界遺産、国立公園満喫プロジェクト選定公園地域等、観光庁が定める事業の対象
  となる観光地(市区町村)

〇 間接補助対象者

・ 電線管理者(地方公共団体による間接補助)

〇 補助対象経費

・ 無電柱化に要する経費

・ 無電柱化に併せて電線管理者が行う情報提供設備や道路の美装化等、観光まちづく
  りに資すると認められる費用

〇 補助割合

・ 国は補助対象経費の1/2を補助対象事業者に補助

・ 補助対象事業者は補助対象経費の2/3を間接補助対象事業者に補助

〇 その他

・ 起債および交付税措置の対象事業

・ 継続事業の展開を考慮し交付対象事業を決定

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 7-3 税制措置

一般送配電事業者、電気通信事業者、有線放送事業者等が、無電柱化を行う際に新たに取得した電線等に係る固定資産税を軽減。

2019年度税制改正で対象に交通安全上の課題がある道路等を追加。

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 7-4 占用料の減免措置

直轄国道については、無電柱化の推進の観点から道路の地下に設けた電線類に対し占用料の減額措置を実施してきたところであるが、さらに、令和2年度から単独地中化に係る占用料は徴収しない措置を実施。

地方道については、令和元年6月時点で、18都道府県、119市町村が国に準じた措置を実施しているが、未実施の自治体においても減免措置を導入するよう依頼。

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参考資料:脱・電柱社会~日本の空を取り戻そう~、青くて広い日本の空。見上げてみてください(電柱のない街づくり電線のない街づくりネットワーク)、解説付き写真資料類は国土交通省 無電柱化に関する各種データより転載しました。ありがとうございます。