はげちゃんの世界

人々の役に立とうと夢をいだき、夢を追いかけてきた日々

第4章 知って得するエレベータ

2002(平成14)年1月16日に札幌市生涯学習総合センターで、北海道マンション問題支援ネットワークが主催した「みんなで学ぶマンション講座 知って得するエレベーター」の要約。講師は、細川國男一級建築士と寺地一級建築士のお二人でした。

1 補修単価一覧

エレベーターの保守契約には「FM」と「POG」の二種類あります

FM=フルメンテナンス契約は、エレベーターの運転機能を安全良好に維持する責任をメンテナンス業者が負う契約を指します。点検はもとより一部の費用を除き、故障が起きても一切の修理費用が定額保守費の中でまかなわれる契約です。

一方、POG=ピーオージー(「p=パーツ」「O=オイル」「G=グリス」の頭文字を取った合成語)契約は、基本的な点検だけを委託する契約を指します。点検の結果、補修が必要となった場合は別途費用が発生します。

下の表は北海道マンション問題支援ネットワークが2002(平成14)年1月に調査した、札幌市内のマンションに設置されたエレベーターの保守料金のデータです

マンション名台数階数契約保守単価月額契約担当
 1 MS新札幌  1 11  FM   45,000    45,000 管理会社 
 2 MS野幌  4 13  FM   45,000   180,000 管理会社 
 3 MS曙  7 15  FM   45,000   315,000 管理会社 
 4 MS発寒  5 14  FM   45,000   225,000 管理会社 
 5 MS新琴似  9 14  FM   45,000   405,000 管理会社 
 6 MS野幌Ⅱ  5 11  FM   45,000   225,000 管理会社 
 7 MS北五条  3 11  FM   45,000   135,000 管理会社 
 8 MS福住西  3 11  FM   45,000   135,000 管理会社 
 9 MS麻生  8 11  FM   54,700   437,600 管理会社 
10 MS福住西Ⅱ  2 11  FM   45,000    90,000 管理会社
11 MSハウス  1  4  FM   45,000    45,000 管理会社 
12 MS南郷  1  8  FM   39,800    39,800 管理会社 
13 MS南小樽  1 14  FM   45,000    45,000 管理会社 
14 MS山鼻南  2  5  FM   45,000    90,000 管理会社 
15 MS柏が丘  6  4  FM   45,000   270,000 管理会社 
16 MS南郷通  4 10  FM   45,000   180,000 管理会社 
17 MS大谷地  3 11  FM   45,000   135,000 管理会社 
18 MS豊平公園  3 15  FM   45,000   135,000 管理会社 
19 MS平岸  3 11  FM   40,000   120,000 管理会社 
20 MS東札幌  2  6  FM   46,200    92,400 管理会社 
21 MS北38条  4  9  FM   37,000   148,000 管理会社 
22 MS桑園Ⅰ  2 14  FM   55,965   111,930 管理会社 
23vMS桑園Ⅱ  4  8  FM   45,000   180,000 管理会社 
24 発寒MS  3 ?  FM   30,100    90,300 管理会社 
25 MAS薄野  2 11  FM   42,000    84,000 管理会社 
26 MS桑園Ⅲ  2 14  FM   55,965   111,930 管理会社 
27 東月寒MS  4 11  FM   47,500   190,000 管理会社 
28 MS北九条  2 ?  FM   52,500   105,000 管理会社 
29 北24条MS  2 13  FM   68,250   136,500 管理会社 
30 MS富岡  5 11  FM   45,600   228,000 管理会社 
31 福住MS  3  9  FM   42,000   126,000 管理会社 
32 MS大谷地  2 14  FM   47,500    95,000 管理会社 
33 南郷MS  1 10  FM   56,000    56,000 管理会社 
34 天狗山MS  1  5  FM   49,000    49,000 管理会社 
35 白石MS  2 10  FM   52,500    10,500 管理会社 
36 大通MS  4 10  FM   56,800   227,200 管理会社 
37 豊平公園MS  2 14  FM   73,500   147,000 管理会社 
38 帯広MS  2  8  FM   59,800   119,600 管理会社 
39 伏見MS  6 15 POG    40,000   240,000 管理会社 
40 豊平公園ⅡMS  1 11 POG    50,000    50,000 管理会社 
41 平岸ⅡMS  3 10 POG    33,000    99,000 管理会社 
42 宮の森MS  2  5 POG    35,000    70,000 管理会社 

トップへ戻る

2 エレベーター修繕事例

札幌Pハイムは、1986年に竣工した六階建てマンションでエレベーターは4基あります。POG契約で14年間保守点検をしてきたエレベーターに不具合が出てきました。

トップへ戻る

2-1 保守会社の提案

築13年目の理事会で、管理会社の職員が見積書を提示して検討を促しました。エレベーターの保守会社より、そろそろ修繕しないと危険なので次のような工事を提案しています。こちらに毎月の点検報告書がありますのでご覧ください。各階の停止位置が微妙に狂って、いつ段差が生じてもおかしくない状態です。床とエレベーターに段差ができると乗降が危険になります。

トップへ戻る

2-2 見積書の内容

建物内エレベーター2基に対する下記機能維持工事一式
  ① モーター帰還制御用ユニット取替・調整
  ② 制御盤内主要リレー取替
  ③ マシンギヤオイル取替
  ④ マシンブレーキ分解・手入れ・調整
  ⑤ かご、各階ドアガイドシュー取替

品名数量単位単価月額備考
モーター帰還制御用ユニット   4 台 75,000   300,000制御盤中枢部
制御盤リレー NIS   4 台  9,000    36,000制御盤内部品
制御盤リレー ZRS,LR   8 台  8,500    68,000 
制御盤リレー DO,DC,DRR,SDP  16 台  2,000     8,000DOはドア
制御盤リレー AZX   4 台  2,000     8,000 
制御盤リレー DZ   4 台  2,200     8,800 
制御盤リレー UD   4 台 21,000    84,000アップダウン制御
制御盤リレー U,D,IP   4 組 45,000   180,000 
純正マシン用ギヤーオイル   4 缶  8,100    32,400 
ブレーキ清掃用ウエス   2 個  1,100     2,200ウエスはぼろきれ
かご・各階ドアガイドシュー 144 個  9,850   136,800 
調整用ウェート貸与料 450 kg     10     4,500重りを載せ確認
取替工事費・調整費   1 式     1,400,000 
運送費  11 式        65,000 
諸経費   1 式       766,500 
合計 5,877,000 

トップへ戻る

2-3 理事会での検討

札幌Pハイムは管理組合が管理会社と管理委託契約を一括で契約し、メーカーの保守会社とは間接契約でした。理事会はこれまでにエレベーター保守契約と修繕にかかった費用を一覧表にまとめてみました。年間保守金額は6人乗り8階停止×4基の合計金額(消費税別)です。

西暦保守契約内容月額@年間保守金額消費税小修繕費備考
1986POG・9ヶ月分 34,500  1,242,000       0       0注1
1987POG・年7回 22,208  1,066,000       0       0注2
1988POG・隔月点検 19,750    948,000  14,220       0消費税3%
1989  同上 19,750    948,000  28,440       0
1990  同上 19,750    948,000  28,440       0
1991POG・年9回点検 26,625  1,422,000  42,660 300,000注3
1992  同上 29,625  1,422,000  42,660       0
1993  同上 29,625  1,422,000  42,000 226,600注4
1994  同上 29,625  1,422,000  42,000 329,600注5
101995POG・毎月点検 39,500  1,896,000  56,880       0注6
111996  同上 39,500  1,896,000  75,840       0消費税5%
121997  同上 39,500  1,896,000  94,800       0上欄~注7
131998  同上 39,500  1,896,000  94,800       0
合計 18,424,000 564,060 856,20019,844,260

注1.竣工から三か月間の保守点検はメーカーが責任をもって無料で行う。
注2.二か月経過後に隔月点検となる。
注3.定期総会で保守点検を年間9回に変更。ブレーキ手入れとギヤオイル取替。
注4.ブレーキ手入れ・ギヤオイル取替。
注5.押しボタン取替。
注7.保守会社の申し入れで年12回に変更。

参考1:2期の年間保守金額1,066,000円の根拠は、
       4基×(34,500円×2か月)+(39,500円×5回)
・ 隔月点検(年6回点検)は、当時の理事長が「管理費の赤字」を食い止めるために管理会社へ強く申し入れをして実現しました。

参考2:5期目に保守会社から「築5年を経過したので、年6回保守では機能を維持できない。フルメンテナンスの年間12回3,188,880円を勧めるが、少なくともPOG年12回点検にしてほしい」と申し出がありました。定期総会で現行年6回点検を、今後は年9回点検とする修正案が可決されました(総会議事録より)。

過去13年間で支出されたエレベーター関係費用は19,844,260円でした。契約の内容によって、年間の保守金額が大きく変わることに注意してください。但し、札幌Pマンションは管理会社を間に入れた間接契約のため、管理会社の必要経費と利益が加算されています。

トップへ戻る

2-4 情報の収集

札幌Pハイムの理事会は、エレベータ保守会社と次のような流れで改善への道を歩み始めました。

① メーカー以外の保守業者から見積もりを徴収したい・・・電話帳で調べる
② 他のマンションの補修契約内容と金額を知りたい・・・・どのようにして?
③ POGからFMに切り替えることができるだろうか・・・確認する
④ FMにしたほうが本当に安くて安心な選択になるのか・・シュミレーションする
⑤ この問題で信頼できるアドバイザーがいるか・・・・・・誰に相談すべきか?
⑥ 管理会社経由の契約形態だが、どのように保守会社と直接交渉するか
⑦ 理事会でエレベータ保守直接契約へ切替えを固めてから交渉をスタートさせる

依頼した保守会社から2通の見積書が届きました。機能回復工事見積書はこれまでの内容に制御盤ボードとロープ取替、関連する調整工事が追加されて総額8,358,000円(税別)でした。FM(フルメンテナンス)契約の見積もりは月額220,000円(1基55,000円)×12ヶ月=年間2,640,000円(税別)となっていました。

トップへ戻る

2-5 改善への道筋

 理事会と修繕委員会の合同会議で行われた検討内容を、理事会議事録より抜粋要約すると次のような流れとなりました。

ア. 1999.5.14  理事会と専門委員会は、エレベーター修繕と保守契約試算表を検討
  し結論を出した。
  a. これまでの13年間、エレベーター保守費用は大変安価に済んだと言える。
  b. 相対的に補修費用を控えてきたため、FM契約の場合より老朽化が進んでいる。
  c. 15年目に730万円の機能回復工事は必須と考える(835万円をに値引)。
  d. エレベーターは今後急激に補修が増加しPOGでは夜間・休日対応に不安がある。
  e. その都度100万円単位の補修工事決断は理事長の大きな負担となる。
  f. FMは少し高くなるが将来的に安心でき、長期的には安価な選択となる。

イ. 1999.6.10  4基のうち1基のエレベーターが最上階で所定の位置から30cm
  高い位置で停止する事故が発生。機能に関する不安は緊急性を帯びてきた。

ウ. 1999.7.3  配付された臨時総会議案書に、エレベータ関係では次の要旨が提案
  されていた。
  a. 今年度小修繕としてギアーオイル交換とブレーキ点検などを実施(約35万円)。
  b. エレベーターの故障頻発で機能回復工事が必要。
  c. 次年度から緊急工事防止のためFMに切り替えたい。
  d. 来年度のFM保守契約費は年間2,772,000円(22万円×12ヶ月+消費
  税)となる。(現在はPOG保守契約で1,91,840円である。)

エ. 1999.7.17  臨時総会を開催。エレベーター保守工事に関し、小破修繕のギアー
  オイル交換とブレーキ点検等と機能回復工事を一括して修繕積立金を取り崩して施工
  する。(総会議事録)

オ. 1999.8.5  理事長名でエレベーター保守会社に機能回復工事契約及び保守契約
  について「見積依頼書」を発送。

カ. 1999.8.8  理事会と修繕委員会の合同会議でエレベーター保守会社と協議
  a. エレベーター機能回復工事はオイルとブレーキ等一切を含めて7百万円(税別)
  b. FM契約は、月額18万円(1基45千円×12ヶ月=年間216万万円)(税別)
  c. 但し、修繕費の都合で機能回復工事代金の支払いは2000年3月以降とし、F
  M契約もそれ以降とする。
  d. それまではPOG契約を継続し、実質的にFM契約同等の保守を行う。

キ. 1999.9  新年度(1999/10~2000/9迄)予算に次の費用を計上する。
  a. 1999年9月から6ヶ月間はPOG契約を継続。
     月額158,000円(1基39,500円)。
  b. 2000年4月から6ヶ月間はFM契約に移行。
     月額180,000円(1基45,000円)

ク. 1999.10  新年度に移行。機能回復工事を契約して順次施工。

ケ. 2003.3  機能回復工事のすべてを完了。

コ. 2000.4  築後14年目にして、POG保守契約よりFM保守契約へ移行。

サ. 2000.6  エレベーター機能回復工事代金700万円+消費税の支払完了。

エレベーターに不具合が発見されてから終結まで1年6ヶ月を要した難題でした。

トップへ戻る

3 エレベーターのリニューアル例

マンションンのエレベーターは、築後20~30年を経過すると時代遅れになってきます。各エレベーターメーカーによって内容は違いますが、そのようなエレベーターをどのように改修できるかの例を紹介します。

3-1 改修の方法

 3-1-1 完全撤去新設

利用中のエレベーター機器を一括して取り換える。数週間エレベーターが休止するので2戸1台型のマンションでは採用できない。

 3-1-2 準撤去新設

現在利用中のエレベーター機器を一部流用する。完全撤去や新設に比べて建築付帯工事が少なくなるため、費用やエレベーター休止期間が少なくなる。

 3-1-3 分割改修

準撤去・改修と同様の工事を分割して実施する方法。工事費用は若干割高となるが工事休止期間が分割でき、利用者の都合をより優先することができる。

トップへ戻る

3-2 地震対策

 3-2-1 耐震対策

建物が建つ地盤と建物の構造と強度、エレベーターの設置方法などの綿密な解析を行ったうえで、エレベーターに適した耐震対策を実施する。

 3-2-2 地震時管制運転装置

地震が起こった場合、エレベーターを避難階へ直行させ、利用者の安全を図るための装置。

 3-2-3 P波センサ付地震時管制運転装置

地震の初期微動P波を完治することで、通常の地震時管制運転装置よりも少しでも早くエレベーターを完成運転させるための装置。

トップへ戻る

3-3 安全対策

 3-3-1 火災時完成運転装置

火災が発生した場合、エレベーターを避難階へ直行させ、利用者の安全を図るための装置。

 3-3-2 停電時自動中着床装置

停電などでエレベーターの中に利用者が閉じ込められた場合は、自動的に最寄りの階へエレベーターを停止させ戸を開く機能。電源が復旧すれば自動的に平常運転に戻る。

トップへ戻る

3-4 防犯・いたずら対策

 3-4-1 ガラス窓付き扉

かご室、乗り場の戸を窓ガラス付にすることで、乗り場からかご室内の様子を確認できる。エレベーター内の犯罪やいたずら防止に役立つ。

 3-4-2 かご内防犯カメラ

かご室内に設置した防犯カメラの画像を機械室に設置したビデオに録画する。また、カメラを取り付けておくことで犯罪やいたずらの抑制効果も生まれる。

 3-4-3 磁気カード照合方式乗降場

乗り場にカードリーダーを設置することで、エレベーターの利用者を磁気カード所有者に限定できる装置。これからのセキュリティシステムの一つ。

 3-4-4 ステンレス製操作盤・乗り場押しボタン

操作盤と押しボタンをステンレス化することにより、いたずらによる傷や損傷などを防止できる。

トップへ戻る

3-5 福祉・高齢化対策

 3-5-1 車いす対応仕様

車椅子に腰かけたまま操作できるよう低い位置に設置された「専用押しボタン」や戸の開いている時間を長くする、戸が閉まる速度を遅くするなど、車椅子を利用させる方のための仕様。

 3-5-2 かご内鏡

ベビーカーをひきながら後ろ向きに降りるときなど、後方確認用として利用。

 3-5-3 視覚障害医者対応仕様

音声合成案内による目的階への到着のお知らせや、指先でボタンの内容が確認できる「操作器具の展示名板」など、目の不自由な方のための仕様。

 3-5-4 かご内手すり

高齢者や体の不自由な方などが、身体を支える補助として利用。

 3-5-5 赤外線ドアセンサ

放射状に赤外線ビームを放ち、人やモノの動きを正確にキャッチし、乗り降りする人の安全を守る高性能なドアセンサ。

トップへ戻る

3-6 省エネ対策

 3-6-1 かご内証明自動消灯装置様

利用者が少なくエレベーターが長時間停止するときに、かご室内の照明を自動的に消灯して節電を図る装置。乗り場でボタンが押されたときはすぐ再点灯する。

トップへ戻る

3-7 イメージアップ

 3-7-1 かご天井

かご室天井をより明るく、すっきりとしたニューデザインへリフレッシュ。

 3-7-2 扉取り換え

扉を変えるとエレベーターの印象は大きく変わる。

 3-7-3 内装フィルム

かごの鋼板パネル表面にフイルムを張ると、比較的安価かつ短時間でイメージアップが可能。

 3-7-4 床タイル

汚れやすく傷つきやすいため、様々な素材のタイルがある。

トップへ戻る

4 謝辞

2002年1月の「みんなで学ぶマンション講座」のテキストに、「社団法人日本エレベーター協会」と「三菱電機ビルテクノサービス」のウエブページにある資料を参考にさせていただいた旨の謝辞が掲載されていました。最新の情報は、「一般社団法人日本エレベーター協会」並びに「三菱電機ビルテクノサービス」をご覧ください。

北海道マンション問題支援ネットワークの「知って得するエレベーター」で示されたエレベータに関するデータへの反響は大きなものでした。受講された方々のマンションでエレベーターについての話し合いがもたれ、メンテナンス料金の減額が図られたマンションもあったと聞いています。

私共のマンションでも理事会に資料を提示して同一規模のマンションと比較し、適正な保守契約料金にするよう管理会社に依頼しました。この結果、年額1,638,000円から1,108,800円となり、フルメンテナンス料金は年間529,200円も節約できるようになりました。

トップへ戻る