はげちゃんの世界

人々の役に立とうと夢をいだき、夢を追いかけてきた日々

第45章 脅威の技術

かって太陽光パネルで日本は世界トップのシェアを誇っていましたが、中国との価格競争に敗れました。日本が開発した新しいペロブスカイト太陽電池も中国に市場を奪われそうです。世界が期待しているのは人工光合成という技術開発です。

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1 太陽電池の革命

 1 電気の流れ

人類が雷以外で最初に見つけた電気は静電気でした。紀元前600年のことです。ギリシャのタレスという人が琥珀(コハク)を布でこすると、物を引き寄せる力が起きることを見つけました。物を引き寄せる力を静電気と言います。

タレスは琥珀をこすると静電気が発生し、物が引き寄せられるという原理を発見したのです。1600年になると、イギリスのウイリアム・ギルバートが、樹脂や硫黄、ガラスなどにも摩擦による静電気が起きることを確認しました。

静電気に対し1800年頃に、イタリアの物理学者であるボルタによって発明されたものがボルタの電池です。ボルタの電池の電流は、一定の電気が持続して流れ続けるということが最大の特徴でした。

ボルタの電池の構造は、電極に銅板と亜鉛板を使い電解液に塩水や希硫酸を使っていました。ボルタの電池は電気が発生すると電極に変化が起こります。銅板は色が黒くなり、亜鉛板の方は電解液に溶けていってだんだんと小さくなっていきます。

溶け出さない銅板の方をプラス(正極)とし、溶け出して小さくなって行く方をマイナス(負極)と考えました。電気の流れる方向「電流」がプラス(正極)からマイナス(負極)に流れると考えたのは自然のことのように思えます。

ボルタの電池が発明された1800年頃、電気にはプラスの電気とマイナスの電気があるということが知られていました。この時は電流が実際にどういうものなのか、ということが分かっていなかったのです。

乾電池を例に取ると、電流の流れる方向は「プラス」から「マイナス」に流れます。 1800年代の終わり頃に自由電子が発見され、電子の流れは電流の流れと逆で「マイナス」から「プラス」の方向に流れるとわかりました。

電子はマイナスの電気を持っているので、電圧のプラスに引かれマイナスには反発することになります。そのために電子の流れは電流の流れと逆になります。マイナスの電気を持った電子が発見されたので、電流と電子の流れが逆になってしまったのです。

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 2 太陽光発電の仕組み

太陽光発電は、光電効果を利用した発電方法になります。1839年にアレクサンドル・エドモン・ベクレルによって発見されました。光電効果とは、薄板に太陽光が当たると電流が生じる現象です。

1905年にアルベルト・アインシュタインが発表した光粒子仮説によって、物質により光電効果が異なるメカニズムが解明されました。太陽光の中で最も強い波長は500nmで、500nmの光で内部光電効果を起こす材料がシリコンでした。

太陽の光エネルギーが太陽電池に当たると光電効果が起き、電子に光エネルギーが吸収されます。このエネルギーを持った電子を外部に取り出すことで、電気を発生させることができるのです。電子を取り出す仕掛けとして必要になるのが半導体です。

一般的な太陽電池は、シリコンなどの素材でできている2つ以上の異なる半導体を貼り合わせた構造をしています。異なる半導体同士が接する接合面に光(光子)が当たると、衝突した光子のエネルギーによって電子と正孔が発生し、これらの電荷を帯びた粒子(荷電粒子)が移動することで電気が流れます。

正孔はホールとも呼ばれ、電子が抜けた「抜け殻」のような部分ですが、電子は電気的にマイナスなので正孔はプラスになり、これを運ぶ層がホール輸送層と呼ばれ半導体が使われます。また、太陽電池の仕組みを考える時に忘れてはいけないのが温度特性です。

単結晶シリコン太陽電池・多結晶シリコン太陽電池などの結晶系太陽電池では、一定の温度以上になると出力が低下してしまいます。これを温度特性といい、注意しなければいけないポイントの一つです。

福島第一原発の事故により、原子力発電を疑問視するようになった声も少なくありません。とはいえ火力発電では、二酸化炭素の排出量などから環境問題を悪化させる可能性も指摘されています。そこで、注目されているのが太陽光発電なのです。

単純な仕組みの中でさまざまな素材を組み合わせることで、変換効率を少しでも上昇させることが太陽光発電開発の重点となります。現在の市販品では、エネルギー変換効率20%台がほぼ最高値ですが、将来的には50%以上の商品が誕生しないとも限りません。

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 3 シリコンの問題点

現在の主流となっている「シリコン」を用いた太陽電池は、寿命が長くて、発電効率が高いという利点がある一方、天候によって発電効率が大幅に落ちるという弱点を抱えていました。その弱点を克服しようと開発が進められているのが「次世代型太陽電池」です。

太陽電池は、材料に半導体が使われています。半導体は光を吸収すると、電子(マイナスの電荷を帯びている)と正孔(プラスの電荷を帯びている)がセットで生まれ、それらが別々の電極に移動していくことで電流が流れて発電します。

電子や正孔の移動距離が長いと、それらが電極まで到達できずに損失となります。従来型のシリコンの場合、太陽電池パネルを薄くすることに限界があるため、光を吸収して生じた電子や正孔が電極まで非常に長い距離を移動するため損失が多くなりました。

しかも、強い太陽光が当たっていると問題なく発電できますが、曇りなどで光が弱くなると、生じる電子や正孔が少なくなるため影響が大きくなります。半導体としてLEDに使われるペロブスカイトという鉱物は、もともと自然界にある鉱石です。

その結晶構造に特徴があり利用価値が高いため、人工的に作ったものが超電導やLEDの材料などに使われていました。人工的に作ったペロブスカイトの結晶を太陽電池の素材に使うと、曇りや雨の日、さらに室内の照明でも発電できることが発見されました。

1995年頃、桐蔭横浜大学院生だった小島陽広さんは、もともとペロブスカイトの特性を調べる研究をしていました。その光を吸収する性質に注目し、もしかしたら光を電気に変える性質を持っているのではないかと考え、宮坂教授に相談しました。

宮坂教授は「基本的には学生がやりたいと言ったことは『まずは試してみるべき』という考えでしたので、『じゃあ、やってみたら』と言いました。しばらく実験をした後、小島さんから『光を当ててみたら微弱な電流が生じた』という報告を受けたのです。

それまで太陽電池の素材としては注目されていなかったペロブスカイトが、発電すると分かった瞬間でした。しかし、いざ本格的に太陽電池の研究開発に着手したところ、すぐに大きな壁にぶつかりました。

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 4 ペロブスカイトの有用性

本腰を入れて太陽電池を作ると、安定性が悪く、しばらく光を当てると発電しなくなり効率も低くかったのです。2009年に発表した論文は、光を電気に変える効率(光電変換効率)が低いために、世界の研究者からの反応はほとんどありませんでした。

転機が訪れたのは2012年のことでした。ペロブスカイト太陽電池に関心を持った海外の研究者が、「発生した電気を電極に運ぶ部分を液体から固体に変える」という研究を始めたのです。

これにより光電変換効率を3%から10%を超えるレベルにまで上げることに成功しました。その成果を『サイエンス』誌に発表したところ、世界中の研究者の目に留まり、ペロブスカイト太陽電池は一気に注目される存在となったのです。

世界中で研究が重ねられた結果、変換効率は飛躍的に向上して従来の太陽電池に匹敵する25%を超えるまでになりました。今や世界中で推定3万人ほどの研究者がペロブスカイト太陽電池の研究開発に参入し、実用化に向けた開発競争が激化しています。

日本のある化学メーカーで2025年までに実用化することを見据え、大型化を実現しようと研究開発を急ピッチで進めています。大型化は、安定して高い効率で発電するために、太陽電池の面に均一にペロブスカイトの結晶を並べる必要があるからです。

面積が大きくなるにつれ結晶にばらつきが発生し、効率が落ちてしまうのです。このメーカーでは均一に作る技術を磨き、30センチ角であれば結晶のばらつきを抑えて十分に高い効率で発電できる太陽電池を作る方法を確立しました。

ペロブスカイト太陽電池は、物質としての安定性が低く、劣化が早いため耐久性に課題がありました。この課題を解決する方法として、このメーカーでは耐久性が高いシリコンの太陽電池に、ペロブスカイト太陽電池を重ねるという「タンデム型」の太陽電池の開発も行っています。

このタンデム型にはもう一つ大きなメリットがあります。ペロブスカイトとシリコンとでは、それぞれ吸収する光の波長帯が異なるため、二つを組み合わせることで、より広い範囲の波長の光を無駄なく使え、変換効率を高めることができたのです。

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環境省は2024年度内に政府施設へのペロブスカイト太陽電池の導入目標を決めました。設置に適した建物や場所を調査し、実現可能な目標を設定します。同太陽電池は現状のシリコン系太陽電池の重さに耐えられない屋根や壁面、窓にも取り付けられるため、導入量を増やせるのです。

東京・霞が関の各府省庁の建物や地方事務所、自衛隊基地など政府の全施設導入対象です。屋上や屋根以外に壁面や窓にも設置します。壁面については、太陽電池を固定するアンカーボルトを打ち込めるコンクリートを基本とし、劣化も考慮して築40年以内を目安とします。

ペロブスカイト太陽電池は材料費や製造コストが安価なため、普及に期待がかかります。積水化学工業や東芝、パナソニックホールディングス(HD)、カネカなどが事業化に向けた開発を進めています。

すでに一部の民間では採用の動きが顕在化しています。東京電力HDは都内に建設する本社ビルについて、積水化学製ペロブスカイト太陽電池を壁面に採用することを決めました。出力は1000キロワット超を計画しています。

現在、政府はシリコン系太陽発電の設置を進めており、22年度末までに各府省庁の900以上の施設に1万5000キロワットを導入済みです。施設更新を予定している防衛省を除くと、政府全体で30年度までに5万7000キロワットを追加設置することになります。

ペロブスカイト太陽電池 は、柔らかく曲がりやすい特徴と塗布や印刷などで製造できるため、さまざまな形状の太陽光パネルにすることができます。「フィルムのような材質の太陽電池」を思い浮かべて頂くとイメージが湧きやすいかもしれません。

さまざまな形状に対応できるため、これまで設置できなかった場所にも太陽光電池を取り付けることが可能になります。また、ペロブスカイト太陽電池 は、従来の シリコン太陽電池 よりも「軽く」「薄い」ことも大きなメリットのひとつです。

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 5 極薄の太陽電池

このメーカーではタンデム型はバルコニーや壁面に設置し、ペロブスカイト太陽電池は透明タイプで窓ガラスに貼り付けるなどして、太陽電池を建物のさまざまな場所に張り巡らせたいと考えて開発を続けています。

両方が共存していくことで、総エネルギー量を高めていくというのが今後の方向性になります。数年先には商品化が始まるでしょう。一人の大学院生のアイデアと、それを尊重する宮坂さんのチャレンジ精神によって誕生した次世代型太陽電池です。

桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授が発見した日本発の技術は、極薄のフィルムに「ペロブスカイト」と呼ばれる結晶の構造をした物質を塗ることで、太陽光を電気に変えることができるというものです。

従来型のシリコンの場合、太陽電池パネルを薄くすることに限界がありました。太陽光パネルに比べて厚さは100分の1、重さは10分の1と薄くて軽いのが特徴です。さらにフィルム状で柔軟性に優れているため、折り曲げて設置することができます。

島国で平地が少ない日本では、太陽光発電に適した土地が少ないと言われていました。これまでは重さがネックとなって設置できなかったビルの壁面や建物の屋上、さらに曲面の部分にも貼り付けることができることになります。

国内では、政府の支援を受けて5つの企業グループが開発を進めています。大阪・島本町にある研究施設の製造装置は、横幅30センチのロール状になっているフィルムに結晶構造の元となる材料を塗り付けていました。

半透明のフィルムが最後の工程を通ると、材料が塗られて黒色になって出てきます。この会社は、精密機器にほこりや湿気が入り込まないよう密閉して保護する技術に長けています。ペロブスカイト太陽電池にも応用することで、実用化が一気に進みます。

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 6 原料を自給できるが

ペロブスカイトの主な原料はヨウ素で、日本はチリに次ぐ世界2位の生産国です。日本の国土の地下には、ヨウ素を豊富に含んだ地下水があり、ここからヨウ素を取り出すことができる。つまり原料を国内で調達できるということになります。

日本には悲しい歴史がありました。従来の太陽光パネルで2000年代前半まで世界トップのシェアを誇っていましたが、中国との価格競争に敗れて次々と撤退しました。今では世界シェアの大半を中国に奪われてしまっています。

積水化学工業では、2年前から研究所の屋上で世界初となる発電試験を行っています。課題となっている耐久性に問題がないか、フィルムにムラなく結晶構造を塗り効率的に発電できているかなどを確認しています。

屋外の環境で少なくとも10年程度は発電を続けられることが確認できました。今後はフィルムの大型化に取り組み、2025年の実用化を目指しています。NTTデータは来年4月から東京港区のデータセンター壁にフィルムを設置し実証実験を行います。

無数のサーバーが24時間稼働するデータセンターは電力の消費量が多く、ビルの壁に設置した太陽電池で発電できれば二酸化炭素の削減にもつながります。実用性が確認できれば、全国に16あるデータセンターでペロブスカイト太陽電池の導入します。

太陽光パネルの生産で世界トップの中国でも、ペロブスカイト太陽電池の開発が行われています。政府の支援を受けた複数の企業や大学が研究成果を発表しています。イギリスのオックスフォード大学のスタートアップ企業も商品化に向けて開発を行っています。

日本も政府の支援を受けたプロジェクトが動き出していますが、その規模は決して大きいとは言えないレベルです。世界的な開発競争を勝ち抜き、新たなスタンダードを作れるか。政府には他国の動きもにらんだ戦略的な道筋を描くことが求められています。

ただし、宮坂力特任教授は、人類のためになればよいと特許を取得しなかったのです。このため、中国が技術開発の殆どの特許を取得して、他の諸国は開発から手を引きつつあります。宮坂力特任教授の名誉は守れても、日本は再び悲しい歴史をたどりそうです。

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2 人工光合成

 1 日本が誇る触媒技術

日本は、気候変動問題に関する国際的な枠組み「パリ協定」を踏まえて、地球温暖化対策と経済成長を両立させながら、2050年までに80%の温室効果ガスの排出削減を目指すことという長期的目標を掲げています。

この高い目標を現実のものとするためには、CO2の排出削減に関する努力を継続することにとどまらず、石油や石炭など化石燃料への依存度を引き下げることなどによって、CO2を低減していく脱炭素化のための技術の開発が急がれます。

そこで、植物がおこなう「光合成」を人の手で実施することで、CO2を低減しようという驚きの研究が進められています。脱炭素化に向けた技術のひとつが「人工光合成」です。

さまざまな産業分野のうち、CO2を多く排出しているのはどの産業分野でしょう。第1位は、熱を多く使用する「鉄鋼業」。そして第2位は、プラスチックなど身近な製品の原料を製造する「化学産業」です。日本で1年間に排出されるCO2の約6%が化学産業に由来しています。


人工光合成は、化石燃料からの脱却など、脱炭素化を実現するためのキーテクノロジーです。理科の授業で習ったように、光合成とは植物が太陽エネルギーを使って、CO2と水から有機物(でんぷん)と酸素を生み出す働きのことです。

人工光合成はこれを模したもので、CO2と水を原材料に、太陽エネルギーを活用する形で化学品を合成する技術です。

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 2 人工光合成のプロセス

人工光合成の鍵となるのは、日本が国際的に強みを持つ「触媒技術」です。プラスチックなどの原料になる「オレフィン」を合成する例で紹介します。人工光合成では、まず、「光触媒」と呼ばれる、光に反応して特定の化学反応をうながす物質を使います。

この光触媒は太陽光に反応して水を分解し、水素と酸素を作り出します。次に分離膜を通して水素だけを分離し取り出します。最後に取り出した水素と、工場などから排出されたCO2とを合わせ、化学合成をうながす「合成触媒」を使ってオレフィンを作ります。

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この人工光合成技術の実現に向けて、「光触媒」「分離膜」「合成触媒」に関する研究開発がおこなわれています。経済産業省が支援する研究プロジェクトが2012年度から始まりました。

2014年度以降は国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構へと引き継がれ、日本を代表する企業、大学、国立研究機関等、産学官の連携により現在も研究が進められています。

太陽エネルギーで水から水素と酸素を作り出す時、どのくらいの効率で作ることができるかという「太陽エネルギー変換効率」です。この人工光合成を工業プロセスの一部として成り立たせるためには、低コストで効率的で大量生産が可能な技術であることが求められます。

植物の光合成における太陽エネルギー変換効率を、大幅に上回る太陽エネルギー変換効率を実現する必要があります。太陽エネルギー変換効率の向上に向けて新しい光触媒を探したり、実際に触媒を使うための形態にする成型加工技術の研究を進めています。

水素と酸素を別々の光触媒で生成する「タンデムセル型光触媒」では、2016年度に植物の光合成の約10倍となる世界最高の太陽エネルギー変換効率3.0%の光触媒を開発。さらに2017年度には、その効率が3.7%に向上しました。今後もさらなる高精度化を進め、最終的には太陽エネルギー変換効率10%を目指しています。


 また、人工光合成の低コスト化に向け世界初の技術である「混合粉末型光触媒シート」の開発も同時に進行しています。混合粉末型光触媒シートとは、水に沈めて太陽光をあてると1枚のシートで水から水素と酸素を生成することができるというものです。

人工光合成の実用化に不可欠な大面積化、低コスト化に適しています。このシートの現在の太陽エネルギー変換効率は1.1%ですが、さらなる効率の向上が期待されています。

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そのほか、太陽光の一部である紫外線しか吸収できないこれまでの光触媒と異なり、可視光線まで吸収する新たな光触媒の材料開発も進んでいます。これまでより多くの太陽光エネルギーを吸収できるため、高い効率で水から水素と酸素を作り出すことができます。

再生可能エネルギーである太陽エネルギーを活用し、さらには工場から出るCO2を原料として使用するこの技術は、化石燃料を使う場合と比較して、基幹化学品の製造プロセスにおける大幅なCO2排出量の削減にとどまりません。

CO2を取り込んで炭素化合物としてとどめておくことで大気中のCO2を減らす「CO2の固定化」を通じて脱炭素化の実現に大きく貢献すると期待されています。


 今後も研究を着実に進め、日本発の脱炭素化に向けた技術として世界に先駆けて実用化を果たし、世界の脱炭素化にも役立つことが期待されます。

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 3 世界注目の人工光合成

日本は資源やエネルギーをほぼ100%外国に依存してきましたが、誰もが考えなかった方式の「人工光合成」という技術が上手く実用化できれば、自らの手で資源問題を解消することができます。

自然神秘とも言える光合成を人工的に再現して酸素だけでなく、膨大なエネルギーも生み出そうと研究している関西学院大学の橋本秀樹教授は、昨年世界トップ層2%の科学者に選ばれました。

橋本秀樹教授は、地球上に多量にある水を使い、CO2を資源として活用してエネルギーを生み出したいと考えています。橋本秀樹教授は、微生物が持つカルテノイド色素に注目しました。

光合成色素の形を変えたり、周囲のたんぱく質の形を変えることでエネルギー吸収率を変えることができるところまで来ています。化石燃料に代わる燃料として、国や企業も注目し実用化に向けた実証実験も行われています。

三菱ケミカルの瀬戸山エグゼクティブフェローは「水素や酸素を出す触媒も太陽エネルギー変換効率で4%を超えるところまで来ている。ところがこれを2つつなぐと水を分解しない。

この殻を破れば目標とする性能が出せる」とおっしゃいます。そして、地球で生命の進化のスイッチともなった光合成の神秘についても、「地球が最初二酸化炭素に覆われていなかったら、地球上の生物はまるで違う状態になっている可能性がある」としています。

人工光合成はできるのだろうかではなく、やらねばいけないという状態に地球がなっています。化石燃料をどんどん消費してどんどんCO2を排出しているので、自然の森林などが1年間で消費できる二酸化炭素の量に近づいてきています。

陸上植物が光合成で吸収できる二酸化炭素の量は1年間で約600億トン、一方、人類が排出する二酸化炭素は1年間で約370億トン、その差はどんどん縮じまってきています。まだ臨界点まで入っていないけれど、ぎりぎりというところになってきています。

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 4 二酸化炭素を利用した植物

その証拠に平均気温がどんどん上がってきています。平均気温が4度上がると日本はほとんど砂漠化してしまうでしょう。高齢者が子ども時は30℃を越えることはほとんどありませんでした。平均気温が4℃上がると日本は50℃くらいになります。

植物が行う光合成は太陽エネルギーと水を使い、二酸化炭素から酸素を生み出します。私たちが生きていくうえで欠かせない活動です。大昔の地球の大気はほとんど二酸化炭素でしたが、光合成はいつから始まったのでしょう。

二酸化炭素の大気の中で、火山のエネルギーを使って生きている生物が存在しました。火山活動が治まって大気中の塵が地上へ落ちて太陽光が降り注ぐようになったら、光合成をおこなう生物が現れました。

酸素が全くない状態で何らかの有機物を使って生きていた生物が、最初に光合成をおこなったのが光合成細菌と考えられています。光合成細菌は二酸化炭素絵を吸収せず、太陽エネルギーを使って水中や有機物を燃料にして生活していた原始的な生物です。

光のエネルギーだけで生きている初歩の初歩という光合成をする生物が現れました。そこから進化してより高等な細菌、シアノバクテリアが現れました。水を分解して酸素を出す光合成を行ったのは、30億年前のことと推定されます。

30億年ほど前に光合成をする細菌が登場し、光合成により水を分解して酸素を生み出す細菌が登場しました。その後植物が登場します。地球はそれまで二酸化炭素が多かったにもかかわらず、二酸化炭素を吸収して酸素を出す植物が増えていきました。

同時に、有機物も作り出していくのでそれを栄養にする動物が進化していきました。光合成が進化のスイッチを押したといえるのです。地球が二酸化炭素に覆われていなかったら、全く違う生物が誕生していたかもしれないのです。

奇跡の星と呼ばれる地球ですが、化石燃料を消費続けたことにより地球は危機を迎えています。化石燃料は楽観的に見てもあと150年くらい、厳しく考えると50~60年位で枯渇します。

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 5 最適な触媒がない

近代社会は化石燃料を燃やすだけでなく、加工して医薬品石足り服にしたり色々なものに使っています。原料のうち6割くらいが化石燃料を使っているので、それが枯渇するのは明らかで作り出さないといけない状態です。

そこで人工光合成が必要になってきます。人工光合成はエネルギーと酸素も生み出します。燃料として大量にある水を使い、CO2を資源として活用する。太陽光のエネルギーを違うエネルギーに変えていくことになります。

植物の光合成は、太陽エネルギーと二酸化炭素と水を使って酸素と糖を生み出します。それに対して人工光合成は、太陽エネルギーと二酸化炭素と水を分解する2種類の触媒を使って水素と酸素と化学品を生み出します。

一番簡単な化学品はメタノールという有機物で、メタノールと水素があれば後は有機化学の力でいろいろなものが作れます。様々な化成品、ポリマーでもプラスチックでも造ることができるようになります。

人工光合成で、太陽エネルギーと二酸化炭素と水を使って水素と酸素と化学品を生み出ために、必要となるのが触媒です。水を電気分解するとき名は触媒が必要です。触媒を定義したのは、1894年はドイツの物理化学者オストワルドです。

触媒とは「少量存在するだけで化学反応を著しく促進したり、特定の反応だけを起こしたりする物質で、反応前後ではほとんど変化しないもの」と定義されます。

触媒には白金を使います。白金の地球上の埋蔵量は限られていて、超レアメタルといわれます。大昔に爆発した中性子星名残骸が隕石で降り注いできたもので、限られた量しかないので大量に使うことはできません。

したがって、白銀=プラチナに代わる触媒が必要で、これがネックになっています。地球に多くあるものから光触媒を見つけ出せば、代替えできるものがあればとんでもないエネルギーが作れることになります

人工光合成の鍵となるのは、日本が国際的に強みを持つ「触媒技術」です。「光触媒」と呼ばれる、光に反応して特定の化学反応をうながす物質を使います。この光触媒は太陽光に反応して水を分解し、水素と酸素を作り出します。

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 6 微生物の力を借りる

経済産業省が支援する研究プロジェクトが2012年度から始まり、2014年度以降は国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構へと引き継がれ、日本を代表する企業、大学、国立研究機関等、産学官の連携により現在も研究が進められています。

太陽光をどれだけ無駄なくエネルギーに変えられるかという変換効率、太陽光発電の変換効率は20%と言われます。触媒を使った太陽エネルギーの変換効率は約4%を目指していますが簡単ではありません。

水素を出す触媒も酸素を出す触媒も太陽エネルギー変換効率が4%を越えますが現在の変換効率は約1,3%です。ちなみに、太陽エネルギー変換効率が10%になると、サハラ砂漠の3%の面積(約30万平方キロメートル)で、全世界のエネルギーが賄えるという試算もあります。

関西学院大学の橋本秀樹教授の人工光合成は、全く違う手法で人工光合成の実現に挑んでいます。研究の対象は光合成をおこなう微生物の研究で、微生物がもつ色素を使って多くの太陽エネルギーを集めようとしています。

紅色光合成細菌は2種類の光合成色素を持ち、まず葉緑素バクテリオクロロフィルとカルテノイドという色素が太陽光エネルギーを使って、生体エネルギーに変換するためのエネルギーを生み出しています。

太陽光線は七色ですが、光の強い青や緑は強いエネルギーを持つので反射してしまいますが、赤い色のカルテノイドという色素が効率よくエネルギーに変換できるメカニズムを探っています。

カルテノイド色素を持つ動物・微生物・植物は800種類ほどあり、光合成細菌では太陽エネルギーを吸収する役割を果たしています。この光合成細菌をそのまま使うのではなく、実験室で培養出来て光合成をおこなう部品を集めてを機能を調べています。

カルテノイドが光を吸収して次第に発電していくというプロセスが順番に時間を追って見えてきます。すると、それぞれの段階でどのくらいの効率で何が起こっている分かるので、光合成色素な形を変えたりタンパク質の形を変えるエネルギーを吸収する効率を変えられるのです。

研究室では紅色光合成細菌を培養して、この細菌の機能を詳細に調べてその機能をさらに良くしている研究に取り組んでいます。カルテノイドの分子や構造を調べて変換効率の高いカルテノイドを作り出そうとしているのです。

光の速度で動くものの捉えることが可能な超高速レーザー分光装置を使い、カルテノイドに光を当てその中で光エネルギーがどのように伝わっているのか調べています。カルテノイドの活発な状態はすごく寿命が短いので、短い寿命を正確に決めることで本当の正しい効率が決められます。このように、微生物の色素から効率よく太陽光をエネルギーに変える人工光合成実現に挑んでいます。

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 7 実用化に向けた研究史

実は日本が世界の最先端です!注目すべき期待のエネルギー「人工光合成」研究成果を振り返えります。

西暦 月               内容 
2011年
  4月
 大阪市立大学の研究チームが光合成の基となるタンパク質複合体の構造を解明。二酸化炭素と水を用いた人工光合成を行う構想が打ち出された。
2011年
  9月
 トヨタグループの豊田中央研究所が世界で初めて、水と二酸化炭素と太陽光のみを原料にして有機物を合成する人工光合成の実証に成功。
 太陽エネルギー変換効率は0.04%。一般的な植物の光合成効率の1/5程度だった。
2012年
  7月
 パナソニックが太陽光を照射する光電極に窒化物半導体を用い、有機物を生成する電極に金属触媒を使用した人工光合成システムを開発。
 太陽エネルギー変換効率0.2%(主生成物:ギ酸)を実現。
2014年
 11月
 東芝が太陽エネルギー変換効率1.5%という世界最高(当時)の変換効率を達成する材料を開発。
2015年
  7月
 大阪市立大などの研究チームとマツダの技術研究所との共同研究で太陽光エネルギーを利用して自動車用燃料としてのエタノールを生成できる、新たな人工光合成技術の開発に成功した。
 太陽光エネルギー変換効率は0.71%で、自然界の植物の光合成と同レベル。
2016年
 12月
 昭和シェル石油が太陽光と水と二酸化炭素だけでメタンやエチレンなどの炭化水素を効率良く精製する新たな人工光合成技術を世界で初めて開発。
 燃料電池に使われるガス拡散電極を応用。
2017年
  7月
 飯田グループホールディングスと大阪市立大学人工光合成センターが人工光合成技術による「IGパーフェクトエコハウス」の実証実験を開始。
 太陽光エネルギーから水素を作り出し、発電給湯を行う技術を確立。沖縄県宮古島市で、人工光合成ハウスを建設。
2018年
  8月
 産業技術総合開発機構(NEDO)と人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem)が、植物の光合成のエネルギー変換効率0.3%程度の10倍以上となる世界最高の変換効率3.7%の光触媒を開発。
 2021年度末を目標とする太陽光エネルギー変換効率10%を目指す。
2019年
  1月
 NEDOとARPChemが東京大学とともに窒化タンタル(Ta3N5)光触媒を用いて、太陽光によって水を高効率に分解できる赤色透明な酸素生成光電極の開発に成功。
 太陽光エネルギー変換効率5.5%を達成
2020年
  5月
 NEDOが世界初の100%に近い量子収率で水を分解する粉末状光触媒を開発。
 人工光合成化学プロセス技術研究組合・信州大学・山口大学・東京大学・産業技術総合研究所の共同研究により開発され、光の粒子である「光子」を利用する効率=量子収率を最大化することができた。
2021年
  4月
 トヨタグループの研究所、豊田中央研究所が36cm角のセルで、太陽光変換効率7.2%を達成。
 植物のエネルギー変換効率を大幅に上回った。
2021年
  8月
 NEDOなど、人工光合成により100m2規模でソーラー水素製造の実証実験に世界で初めて成功。
 東京大学、富士フイルム、TOTO、三菱ケミカル、信州大学、明治大学とともに、100m2規模の太陽光受光型光触媒水分解パネル反応器と水素・酸素ガス分離モジュールを連結した光触媒パネル反応システムを開発。

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参考文献:太陽とCO2で化学品をつくる「人工光合成」今どこまで進んでる?(経済産業省資源エネルギー庁)、居間からサイエンス(BSアサヒ)、国立研究開発法人産業技術総合研究所など。