1 太陽のエネルギー源は水素
1-1 水素の誕生
宇宙の始まりは超高密度で超高温であったと考えられ、できたばかりの宇宙は中性子だらけであったと仮定されます。ものすごい圧力により電子と陽子が結合して中性子になっています。
宇宙が膨張を始めると圧力が弱まり、中性子がベータ崩壊という現象を起こして電子と陽子と、ニュートリノという素粒子の1つが生まれます。陽子1つのものが水素で、陽子2つと中性子2つが結びついたものがヘリウムとなり、陽子3個と中性子4個が結びついてリチウムというものができていったと考えられています。
宇宙の温度が高いと、熱エネルギーにより陽子や中性子は激しく運動することになります。すると1度結合した陽子と中性子が離れてしまいます。水素やヘリウムができ始めたのは宇宙誕生から3分後で、温度は百億度から一千万度くらいといわれています。
水素もヘリウムもどちらもとても軽い物質で、水素は分子という形で宇宙に留まりました。水素の原子は「H」で水素の分子は「H2」ですが、ヘリウムの原子である「He」は存在しても、「He2」という分子は存在しません。水素よりもヘリウムの方が複雑な構造のため、シンプルで単純な水素の方が宇宙でたくさん構成されました。
宇宙の初期に水素、ヘリウム、リチウムなどの軽元素ができ、その後は次々と重い元素である鉄までが星の核融合反応などに生まれ、さらに重い元素は重い星が最後に超新星爆発を起こした際などに作られたと考えられています。
水素は宇宙で最も豊富に存在する元素で、ダークマターとダークエネルギーを除いて総量数比では全原子の90%以上となります。これらのほとんどは星間ガスや銀河間ガス、恒星あるいは木星型惑星の構成物として存在しています。
銀河系の中心から約2万5千光年の距離に位置する太陽は、巨大な水素の塊で銀河系の恒星の一つです。推測年齢は約46億歳、中心部に存在する水素の50%程度を熱核融合で使用し、太陽として存在できる期間の半分を経過したと考えられています。
太陽が発する光のエネルギーは太陽の中心核でつくられます。太陽の中心核では熱核融合で物質からエネルギーを取り出す熱核融合反応により、水素がヘリウムに変換されています。
1-2 水素はエネルギー
水素分子は、無色・無臭・軽い・燃えやすいといった4つの特徴があります。燃えやすいという性質から「爆発する気体」というイメージを持つ人は多いようですが、これは誤解です。
多くの人が初めて「水素」を認識するのは小学校の理科の授業です。試験管内に水素を発生させて、マッチで火をつける実験を行った人は多いはずです。わざと小爆発が起きる環境を作り出しているだけで、水素自体は着火しやすい訳ではありません。
水素には静電気ほどのきわめて小さなエネルギーでも着火する特性がありますが、空気中の水素濃度が4%以上にならなければ着火しないのです。宇宙で一番多く存在する物質が発火しやすければ、宇宙のいたるところで爆発が頻発しているはずです。
人気商品である水素水や水素の入浴剤が爆発しやすいのであれば、危険で販売することはできません。「水素=爆発する」といったイメージをもたれがちですが、意外と条件が揃わなければ燃えないのが水素なのです。
地球には重力がありますが、軽い物質は地上には留まらず逃げていってしまいます。水素水を開封後すぐに飲まなければ、軽いので空気中に逃げてしまいます。これでは水素水を飲む意味がありません。
水素は陽子1個と電子1個が結合した最もシンプルな物質です。宇宙だけでなく、地球上になぜ一番多く存在する物質かといえば、水素は水という形に姿を変えて地球に留ったためです。
地球には最初から水が存在していた訳ではありません。岩に閉じ込められていた水素と酸素が、岩が地殻の熱で溶かされるなかで結合して水が誕生したと言われています。つまり水素の結合する性質がなければ、水はおろか生命も誕生できなかったのです。
そんな水素は今や産業や工業で幅広く活用され、21世紀の新しいクリーンエネルギーとしても注目されています。また、水素から金属を生成する新技術の開発も研究が進められているなど、意外に私たちの身近な場所に水素はあるのです。
水素はエネルギー変換効率が高く、燃焼すると水(水蒸気)となり、温室効果ガスとされる二酸化炭素や大気汚染物質を排出しません。水素は主に化石燃料を使って製造していますが、将来的には水の電気分解やバイオマス・ごみ等を利用して製造できる可能性があるそうです。
1-3 水素利用の歴史
水素と言う言葉で頭に浮かぶのは「水爆(水素爆弾)」と東日本大震災時に起きた福島原発建屋の「水素爆発」、古くは世界最大の飛行船ヒンデンブルグ号の「水素爆発」などです。
水爆(水素爆弾)は、原子爆弾を起爆装置として水素の同位体である重水素、三重水素(トリチウム)の核融合反応を誘発して、巨大なエネルギーを取り出す爆弾のことです。水爆を保有しているのは、アメリカ合衆国・ロシア・イギリス・フランス・中国です。
東日本大震災時に起きた福島原発建屋の「水素爆発」は、津波によって被害を受けたことにより炉心冷却が出来なくなり、圧力容器内の水位が低下して炉心が損傷し、水素が発生しました。その水素が建屋の中にたまり、空気中の酸素と反応して爆発に至りました。
福島原発建屋では日常の水素利用では起きない例外的な状況下で水素が発生し、水素の基本原則である漏らさない、漏れたら検知して止める、漏れたら滞留させないが守られずに、水素が危険な状態になったため起こった事故です。
ヒンデンブルク号爆発事故は、浮遊ガスとして水素を用いた世界最大級の飛行船が、アメリカでの着陸時に発火することで爆発を起こし、墜落して多くの犠牲者を出しました。原因は静電気放電による発火から延焼し、爆発に至ったとの説が有力となっています。