はげちゃんの世界

人々の役に立とうと夢をいだき、夢を追いかけてきた日々

第30章 水素利活用への提言

札幌市は、次世代につなげる持続可能な社会構築に取り組むため、2030年頃までの当面の取組方針をとりまとめて「札幌市水素利活用方針」を策定しました。その内容はほぼ他力本願型のため、ブラックアウトの経験から実現可能な未来像を考えました。

1 太陽のエネルギー源は水素

 1-1 水素の誕生

宇宙の始まりは超高密度で超高温であったと考えられ、できたばかりの宇宙は中性子だらけであったと仮定されます。ものすごい圧力により電子と陽子が結合して中性子になっています。

宇宙が膨張を始めると圧力が弱まり、中性子がベータ崩壊という現象を起こして電子と陽子と、ニュートリノという素粒子の1つが生まれます。陽子1つのものが水素で、陽子2つと中性子2つが結びついたものがヘリウムとなり、陽子3個と中性子4個が結びついてリチウムというものができていったと考えられています

宇宙の温度が高いと、熱エネルギーにより陽子や中性子は激しく運動することになります。すると1度結合した陽子と中性子が離れてしまいます。水素やヘリウムができ始めたのは宇宙誕生から3分後で、温度は百億度から一千万度くらいといわれています。

水素もヘリウムもどちらもとても軽い物質で、水素は分子という形で宇宙に留まりました。水素の原子は「H」で水素の分子は「H2」ですが、ヘリウムの原子である「He」は存在しても、「He2」という分子は存在しません。水素よりもヘリウムの方が複雑な構造のため、シンプルで単純な水素の方が宇宙でたくさん構成されました

宇宙の初期に水素、ヘリウム、リチウムなどの軽元素ができ、その後は次々と重い元素である鉄までが星の核融合反応などに生まれ、さらに重い元素は重い星が最後に超新星爆発を起こした際などに作られたと考えられています。

水素は宇宙で最も豊富に存在する元素で、ダークマターとダークエネルギーを除いて総量数比では全原子の90%以上となります。これらのほとんどは星間ガスや銀河間ガス、恒星あるいは木星型惑星の構成物として存在しています。

銀河系の中心から約2万5千光年の距離に位置する太陽は、巨大な水素の塊で銀河系の恒星の一つです。推測年齢は約46億歳、中心部に存在する水素の50%程度を熱核融合で使用し、太陽として存在できる期間の半分を経過したと考えられています。

太陽が発する光のエネルギーは太陽の中心核でつくられます。太陽の中心核では熱核融合で物質からエネルギーを取り出す熱核融合反応により、水素がヘリウムに変換されています

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 1-2 水素はエネルギー

水素分子は、無色・無臭・軽い・燃えやすいといった4つの特徴があります。燃えやすいという性質から「爆発する気体」というイメージを持つ人は多いようですが、これは誤解です。

多くの人が初めて「水素」を認識するのは小学校の理科の授業です。試験管内に水素を発生させて、マッチで火をつける実験を行った人は多いはずです。わざと小爆発が起きる環境を作り出しているだけで、水素自体は着火しやすい訳ではありません

水素には静電気ほどのきわめて小さなエネルギーでも着火する特性がありますが、空気中の水素濃度が4%以上にならなければ着火しないのです。宇宙で一番多く存在する物質が発火しやすければ、宇宙のいたるところで爆発が頻発しているはずです。

人気商品である水素水や水素の入浴剤が爆発しやすいのであれば、危険で販売することはできません。「水素=爆発する」といったイメージをもたれがちですが、意外と条件が揃わなければ燃えないのが水素なのです

地球には重力がありますが、軽い物質は地上には留まらず逃げていってしまいます。水素水を開封後すぐに飲まなければ、軽いので空気中に逃げてしまいます。これでは水素水を飲む意味がありません。

水素は陽子1個と電子1個が結合した最もシンプルな物質です。宇宙だけでなく、地球上になぜ一番多く存在する物質かといえば、水素は水という形に姿を変えて地球に留ったためです。

地球には最初から水が存在していた訳ではありません。岩に閉じ込められていた水素と酸素が、岩が地殻の熱で溶かされるなかで結合して水が誕生したと言われています。つまり水素の結合する性質がなければ、水はおろか生命も誕生できなかったのです

そんな水素は今や産業や工業で幅広く活用され、21世紀の新しいクリーンエネルギーとしても注目されています。また、水素から金属を生成する新技術の開発も研究が進められているなど、意外に私たちの身近な場所に水素はあるのです。

水素はエネルギー変換効率が高く、燃焼すると水(水蒸気)となり、温室効果ガスとされる二酸化炭素や大気汚染物質を排出しません。水素は主に化石燃料を使って製造していますが、将来的には水の電気分解やバイオマス・ごみ等を利用して製造できる可能性があるそうです。

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 1-3 水素利用の歴史

水素と言う言葉で頭に浮かぶのは「水爆(水素爆弾)」と東日本大震災時に起きた福島原発建屋の「水素爆発」、古くは世界最大の飛行船ヒンデンブルグ号の「水素爆発」などです。

水爆(水素爆弾)は、原子爆弾を起爆装置として水素の同位体である重水素、三重水素(トリチウム)の核融合反応を誘発して、巨大なエネルギーを取り出す爆弾のことです。水爆を保有しているのは、アメリカ合衆国・ロシア・イギリス・フランス・中国です。

東日本大震災時に起きた福島原発建屋の「水素爆発」は、津波によって被害を受けたことにより炉心冷却が出来なくなり、圧力容器内の水位が低下して炉心が損傷し、水素が発生しました。その水素が建屋の中にたまり、空気中の酸素と反応して爆発に至りました。

福島原発建屋では日常の水素利用では起きない例外的な状況下で水素が発生し、水素の基本原則である漏らさない、漏れたら検知して止める、漏れたら滞留させないが守られずに、水素が危険な状態になったため起こった事故です。

ヒンデンブルク号爆発事故は、浮遊ガスとして水素を用いた世界最大級の飛行船が、アメリカでの着陸時に発火することで爆発を起こし、墜落して多くの犠牲者を出しました。原因は静電気放電による発火から延焼し、爆発に至ったとの説が有力となっています。

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2 日本の取り組み

 2-1 WE-NETプロジェクト

日本では1973年に通産省工業技術院で、海洋に多数の筏を並べ太陽エネルギーを有効利用し海水から水素を製造する「ポルシェ計画」が検討され、1993年に水素利用国際クリーンエネルギーシステム技術研究開発(WE-NETプロジェクト)が始まりました。

地球上に広くかつ豊富に存在する水力、太陽光、風力等の再生可能エネルギーを水素等の輸送可能な形に転換して世界の需要地に輸送し、発電、輸送用燃料、都市ガス等の広範な分野で利用するネットワークを目的としたのです。

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 2-2 サンシャイン計画

第1次石油危機直後の1974年に、太陽、地熱、石炭、水素エネルギー技術の4つの重点技術の研究開発を進める、サンシャイン計画(新エネルギー技術開発計画)がスタートしました。

燃料電池発電技術、ヒートポンプ技術、超電導電力応用技術、セラミックガスタービン等のプロジェクトを推進し、最終的には廃熱利用技術システム、電磁流体発電、高効率ガスタービン及び汎用スターリングエンジンのプロジェクトなどがありました。

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 2-3 ムーンライト計画

1978年のムーンライト計画(省エネルギー技術開発計画)は、エネルギー転換効率の向上、未利用エネルギーの回収、エネルギー供給システムの安定化によるエネルギー利用効率の向上等のエネルギーの有効利用を図る技術の研究開発を行うものでした。

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 2-4 ニューサンシャイン計画

1993年に工業技術院は、上記の3つの計画「WE-NETプロジェクト・サンシャイン計画・ムーンライト計画」を一体化して「ニューサンシャイン計画」を発足させました。

ニューサンシャイン計画は、2020年までの必要費用総額1.55兆円と見込まれるエネルギー・環境領域総合技術開発推進計画で、持続的成長とエネルギー・環境問題の同時解決を目指した革新的技術開発を重点とした現独立行政法人産業技術総合研究所のプロジェクトです。

この計画による最大限の努力を織り込んだ場合の技術の潜在力として、2030年の日本のエネルギー消費量の1/3、二酸化炭素排出量の1/2の緩和に貢献することが期待されるとしています。

また、革新技術開発が主にわが国の地球温暖化防止行動計画に寄与し、適正技術共同研究が近隣途上国に対する寄与として働き、これらと国際大型共同研究が相俟って地球再生計画が着実に推進されることが期待されます。

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3 札幌市の水素利活用方針

 3-1 想定される水素の利活用分野

札幌市は積雪寒冷地であるとともに、大都会であるという特性を有しています。暖房に伴う家庭や業務・産業部門のエネルギー消費量は近年減少傾向にあるものの、依然として多く運輸部門においては増加傾向にあり、それらに伴うCO2排出量の削減が必要です。

札幌市における水素や燃料電池の利活用は、自動車分野、家庭分野、業・務産業分野の三つが想定され、すでに札幌市は自動車分野と家庭分野において、水素や燃料電池の利活用が始まっています。

自動車分野においては、札幌市燃料電池自動車普及促進計画を踏まえ、FCVや水素ステーションの普及に向けて取り組みを始めています。家庭用分野においては、将来直接水素を燃料としたものに代替えされていくことが想定される家庭用燃料電池の普及促進に取り組んでいます。

大量のエネルギーを消費する業務・産業分野では、省エネルギーの取り組みや太陽光等の再生可能エネルギーを利用する取り組みが少しずつ広がってきていますが、温暖化対策等の課題解決には十分ではありません。

この業務・産業分野において、水素エネルギーが普及し始めることで、温暖化対策や都市の強靭化などに大きな効果を発揮することが期待できます。札幌市は2030年頃の本格普及を目指し、自動車、家庭、業務・産業分野の普及推進を図ります。

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 3-2 水素利活用への推進計画

自動車分野では、燃料電池自動車の普及と水素ステーションの整備を推進します。このため、2030年までの目標値として、燃料電池自動車の普及は3000台以上とし、水素ステーションの整備は4ヶ所以上の設置を考えています。

家庭分野においては、水素社会の実現に向けた初期需要の拡大を目的に、ガス改質型の「家庭用燃料電池(エネファーム)の普及推進を継続します

純水素型燃料電池の普及促進に質するモデル事業を検討し、業務・産業分野における水素利用を促進します。業務・産業分野では、事業所などの施設に電気と暖房を供給する燃料電池の設定が考えられ、その普及と共に水素の安定的な調達のためにサプライチェーン展開も必要になります。

2030年頃までを目安としてモデル事業の実施を検討し、モデル事業では業務施設へ熱電供給を行う純粋素型燃料電池の設置を検討します。水素ステーショの近隣整備など燃料電池設備への安定的な水素供給についても検討し、モデル事業における設備の導入や水素の利用においてもその効果とともに事業採算性も加味し事業の実施を判断します。

平成30年5月に札幌市水素利活用計画が示されましたが、温暖化対策や安定的なエネルギー供給など次世代へつなげる接続可能なまちづくりに貢献するクリーンエネルギーの利活用を積極的に推進するのではなく、ほぼ他力本願型で傍観する内容になっています。

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4 太陽光発電と原子力発電

自然エネルギー財団は、太陽光発電の設備容量は2016年12月末で約4300万KWに達したと発表しました。前年から800万KW以上も増えて、過去6年間で10倍の規模に拡大しているそうです。

一方で原子力発電の設備容量は廃炉が決まった「福島第一原子力発電所」の6基を含めて、6年間で750万KWも減少しました。2016年12月末の時点で運転可能な原子力発電の設備容量は約4150万KWしかありません。

ただし同じ設備容量であれば、原子力発電のほうが多くの電力を生み出すことができます。年間を通して昼夜を問わず発電でき、通常は年に1回程度の定期検査のために運転を停止するだけで済みますし、1基ごとの設備利用率を80~90%程度に高めることも可能です。

太陽光発電は晴れた日中にしか発電できず、日本国内の設備利用率は10~15%程度にとどまります。このため、原子力発電と太陽光発電の設備容量を単純に比較しても意味がないと言われます。

太陽光発電は電力の需要が伸びる昼間に増えて、需要が減る夜間には発電しません。需要がピークになる夏の昼間には電力の卸売価格が上昇しますが、太陽光発電の電力は燃料費ゼロで供給できます。発電設備の価値は高まり、設備利用率が低くても需要と供給のバランスを考えると原子力にない利点があります。

これに対して原子力は季節や時間帯にかかわらず、基本的に一定の電力を供給し続けることができます。需要に関係なく、昼間と夜間の発電コストは同じです。現在のところ原子力発電所の大半は運転していませんが、いつでも運転可能な状態を維持するために一定のコストがかかっています。さらに再稼働させるには安全対策の投資が必要になり、運転に携わる要員のトレーニングを含めてコストは積み上がっていきます

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5 北海道のブラックアウト

 5-1 ブラックアウト発生

2018(平成18)年9月6日午前3時7分に発生した北海道胆振地方を震源とする震度7の巨大地震は、死者41名、重症9名、軽症646名、建物全壊64棟、半壊57棟、一部損壊72棟という被害を出しました。また、北海道全域停電「ブラックアウト」となり530万人の生活に甚大な影響を与えました。

9月6日午前3時7分の地震発生から間もなく、ほぼ道内全域で電気の供給が止まりました。このようなブラックアウトの前例は1977年のニューヨーク大停電(12時間)が有名ですが、日本でこれほど広範囲で長期間にわたり発生したのは初めてです

当時北電の総発電量は約310万キロワットで、主力の苫東厚真(とまとうあつま)火力発電所の最大出力は165万KWでした。6日午前3時7分の地震発生直後に主力の苫東厚真火力発電所1号機(最大出力35万KW)と2号機(最大出力60万KW)と4号機(同70万KW)が緊急停止しました

電力の周波数が大きく変動すると発電所などに負荷がかかり、大規模停電などを引き起こす恐れがあるため、電力会社は電力の需要量と供給量がほぼ同じになるように調整することで一定の周波数を保っています。これが崩れたのです。

電力の供給量が急激に減少したことで、通常時は50ヘルツで安定している周波数は急低下します。北電は一部地区を強制的に停電する「負荷遮断」を実施して需要を減らし、本州から約60万キロワットの電力の融通を受けて需給のバランスを図り、一度は周波数が50ヘルツをほぼ回復し危機は乗り越えられたように見えました。

ところが停電しなかった地域で、地震で目を覚ました住民たちが照明やテレビをつけるなどで需要が急増し、再び周波数が低下し始めたので北電は残存する火力発電の出力を上げて対応しました。3時20分頃に苫東厚真火力1号機(35万キロワット)の出力が低下し始めました。

周波数を持ち直した苫東厚真1号機は停止しました。その影響などで道内全域の風力発電や水力発電も連鎖的に停止しました。1分足らずで地震発生前の電力総需要310万キロワットの半分近い供給力が失われ、周波数は一時46.13ヘルツまで急落しました。

他の3カ所の火力発電も連鎖的に自動停止したことで、3度目の負荷遮断も周波数の低下を止めることができずに停止しました。他の発電所も発電機の故障を防ぐため次々に自動停止して3時25分にブラックアウトに至ったのです

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 5-2 緊急時に役立たない設備

苫東厚真発電所が緊急停止したため発電量が急激に減り、一定の周波数を保つことが不可能になりました。決まった周波数が保たれないと設備が壊れてしまうため、風力や太陽光などの再生可能エネルギーなどの分散電源は、周波数低下を検知すると大型火力などと同様に自動で停止するようになっています

今回の地震の影響がなかった発電所が停止した中に、大規模な発電所だけでなく小規模の再エネ発電所も含まれていました。電力会社の送電網を使わなければならないことが障害になったのです。

北海道と本州の間に津軽海峡の海底を通る「北本連系線」と呼ばれる送電線が敷かれ、最大で60万KWまで本州から電力の供給を受けることができます。北本連系線を使って電力の供給を受けるには、外部からの電源を使って電圧を調整する必要があります

周波数の低下で北電の送電網が使えなくなっていることから北海道内で一定程度の電力の復旧が進まなければ、本州と電力を融通し合う「北本連系線」で電力の供給を受けることができない仕組みになっていました。

地震発生当時に電力会社の社員は、停電をさせてはならないという使命感を持って寝ずの復旧作業を始めました。他の電力会社からも救援のため、同じ使命感を持った人たちが発電車両を駆って北海道に向かいました。

電力の需要と供給を合わせるのが難しくても、今は多くをコンピューターがやってくれます。しかし、ブラックアウトが起こったあと、一つ一つ発電所を復活させていくのは誰も経験したことのない未知の領域でした。想定も訓練もしていなかったのです

一度止まってしまった発電機を稼働させるには、種火となる電気が必要ですが北海道全体が停電していました。電気なしに発電を再開できるのは水力しかありません。北電は水力発電所で作った電気を貴重な火種として、砂川火力発電所を起動させました

一定の範囲に限って慎重に送電し、バランスが取れているとわかってから発電量と送電の範囲を少しずつ広げていきました。慎重さを欠くとバランスが崩れて発電機が破損します。このようにして広い北海道で、8日の夜にはほぼ全域で電気が回復しました。

東日本大震災では、福島第一原発などが停止した際に、東京電力は発電量の減少分に見合うように一部地域を強制的に停電させて電力需要を落としバランスを保ち、域内全域の発電所が停止するブラックアウトを防いでいました。

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6 学ぶべきこと

 6-1 失敗を糧として

ニューサンシャイン計画により、世界的規模での温室効果ガスの排出削減、国際エネルギー需給の緩和等エネルギー・環境問題の同時解決に資するものとされ、2002年2月7日に大阪に国内初の水素供給ステ-ションが完成しました。次いで香川県高松市と鶴見に完成、新たなプロジェクトである「水素安全利用等基盤技術開発」にとってかわることになりました。

水素の製造から輸送、貯蔵、充填等の技術について、性能、経済性、信頼性・耐久性向上、小型化などを目指した研究開発を行い、水素に係わる機器の低コスト化と性能の向上を実現し、燃料電池/水素エネルギーの実用化による水素エネルギー社会の構築に資することを目標としています。

実用的レベルで、電力はいまだ大量に貯蔵できない二次エネルギーです。水素製造の考え方は、「エネルギー媒体として、これらの再生可能エネルギーを貯蔵可能エネルギーである水素に変換して利用する」ということなのです

理想的な水素製造法は、水素源としての水を電気分解する電力を太陽光や風力・水力・地熱など、炭素原子を含まない再生可能エネルギーを使って生産できるようにすることです。

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、2002年6月にまとめられた「省エネルギー技術戦略」に沿って、産業、民生(家庭・業務)、運輸の各部門で、基盤研究から実用化研究、実証研究に至るまで、需要側の課題を克服し得る省エネルギー技術開発を戦略的に行っています。

国が推進する主なエネルギー技術開発プロジェクトには次のようなものがあります。
  A 燃料電池技術開発
  B 太陽光発電技術開発C バイオマスエネルギー技術開発
  D 省エネ型インバータ用デバイスの技術開発(Sicデバイスの技術開発)
  E 自動車軽量化のためのアルミニウム合金高度加工・形成技術
  F 天然ガス液体燃料化(DTL)技術開発
  G DME燃料実用化技術開発
  H メタンハイドレート開発促進
  I 原子力技術開発

太陽熱発電を目指して大掛かりなプロジェクトが動きだしました。平面ミラーによるタワー集光型太陽熱発電装置と、曲面ミラーとパラボラミラーによる集光型太陽熱発電装置が、日照時間の長い香川県仁尾町(現三豊市仁尾町)に設置されました。

タワー周囲に平面鏡を並べて太陽の移動に追従して鏡を動かし、タワーの頂部付近に集光する一種の太陽炉で、その熱によって水蒸気を発生してタービンをまわす構造になっていましたが、出力が計画値を大幅に下回ったため廃棄されました。

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 6-2 燃料電池の開発と利用

水素安全利用等基盤技術開発は、燃料電池自動車の燃料となる水素を対象として、水素エネルギー社会の実現に必要となる要素技術の研究開発と水素エネルギー社会実現のためのシナリオの検討等を行っています。

燃料電池は蓄電池のように電気をためておくものではありません。水素と酸素を化学反応させて電気を発電する装置で、酸素は大気中から取り入れて水素と反応させることで熱が発生し、副産物として水を排出します

酸素と水素の化学反応で発生した熱は、給湯や暖房に生かすことでエネルギーを効率的に利用するコージェネレーション設備(熱源より電力と熱を生産し供給するシステム)として利用できます。

燃料電池コージェネレーション設備には、水素を直接燃料とする「純水素型燃料電池」と都市ガスなどから水素を取り出して活用する「ガス改質型燃料電池」があります。現在は水素を供給するインフラが整っていないため、家庭用燃料電池(エネファーム)などのガス改質型燃料電池が電気と熱を効率的に利用できる省エネ機器として普及が進んでいます。

将来の水素社会では、「ガス改質型燃料電池」に替わり、「純水素型燃料電池」が家庭や様々な施設で利用されることが想定されます。そのための社会基盤整備には相当の期間が必要と考えられ、当面は水素社会に向けた初期段階として「ガス改質型燃料電池」の普及が期待されます。

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 6-3 燃料電池の安全対策

水素は元素の中で1番目の元素でとても軽く、軽いために非常に拡散しやすいのです。水素を利用する燃料電池自動車の水素タンクと配管は車外に配置し、もし水素漏れが発生したとしても車外に逃げていくようになっています。

水素は無臭でプロパンガスのような臭いが点いていないため、水素漏れセンサーを設置することが法令で義務付けられています。水素漏れをセンサーが検知したときは、水素タンクのメインバルブを閉じます。

配管系の漏れであれば少量ですし、漏れた水素はすぐに拡散します。例え、少量漏れた水素に火が付いてもポンという程度です。水素のもつエネルギー量はプロパンガス、メタンガスのようなガスと比較するととても低く、同じ体積での爆発力は低いからです。

燃料電池自動車のタンクは衝突したときに変形しないように、飛行機の機体に使われている非常に強いカーボン繊維でぐるぐる巻きにされています。700気圧の倍の圧力にも絶えられるほど強力で、衝突試験で車体が潰れてもタンクはまったく潰れないほどです。

燃料電池自動車の車両火災の場合は、燃えて温度が上がるとタンク内の水素が膨張し圧力があがり、時間の経過とともに水素タンクが爆発しかねません。そこで水素タンクには温度が上がると溶けて穴が開き水素ガスを放出する「溶栓弁」が付けられています

水素ガスが放出されると放出した水素ガスに火が付きます。例え火がついても、溶栓弁からガスバーナーのようにシューっと炎を出しながら、ほんの数分で全部放出しきって燃え尽きます。

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 6-4 民間の水素利用計画

岩谷産業は、2021年3月期までの3年間で水素関連分野に300億円を投資すると発表しました。日本で水素ステーション30ヶ所を新設するほか、液化水素の生産設備の能力増強に充てるそうです。燃料電池車(FCV)の普及や電子部品工場などに使う液化水素の需要増加に対応する計画です。

堺市にある液化水素の生産設備も増強して、水素ステーションに100億円を投じて中部・関西エリアを中心に新設する計画です。また、同社は3月にトヨタ自動車、JXTDエネルギーなどと水素ステーション事業の会社を設立し、新会社を核に水素ステーションの整備を進めていく計画です。

同日発表した18年3月期の連結決算は売上高が前の期比14%増の6707億円、純利益は6%増の175億円でした。LPガスの輸入価格が高値で推移して販売価格が上がり、産業向け液化水素の販売も好調だった事によります。

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 6-4 牛乳の集乳システム

北海道胆振地方中東部を震源とした最大震度7を記録した地震は、全国の生乳生産の半数以上を占める酪農に大きな影を落としました。原因はブラックアウトによる搾乳機と冷蔵庫の機能停止でした。

電源を失った酪農家は自前の自家発電装置で搾乳・冷蔵を続けることができましたが、自家発電装置を持たない酪農家や乳業工場は相次いで操業を停止し、行き場を失った生乳は廃棄せざるを得なくなったのです。

牛は毎日、平均30~40キロもの生乳を生産するように改良された動物で、朝晩2回の搾乳は必須となっています。搾乳しないと乳腺にたまった乳汁で乳房ははち切れそうになり、炎症を起こして乳房炎になります。乳房炎はなかなか直りづらく、また抗生物質などを使って治療すると1週間くらいは生乳を出荷できません。

製品となる前の段階の牛乳を生乳と呼び、生乳の生産を行うのが各地の酪農家です。乳牛のうち子牛を産んで乳を出す牛を搾乳牛といい、305日間生乳を出すので酪農家は基本的に毎日搾乳を行います。

その後、次の子牛を産ませるまで乾乳期と呼ばれる休養期間があり60日間は搾乳を休みます。搾乳された生乳は、バルククーラーと呼ばれる冷却タンクに集められ、冷却されて出荷先である生産者団体から差し向けられた集乳車に引き渡します

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7 発想転換のヒント

 7-1 電気の問題点

2018(平成30)年9月5日午前2時に、北海道沖の日本海を通過した台風21号は北海道の各地に猛烈な風による深い爪痕を残しました。札幌市白石区でも最大瞬間風速は32.8メートルで、散策路の並木や公園の樹木が折れたり倒れました。

翌6日の3時8分、札幌市白石区で震度5強という揺れを布団の中で感じて体を起こすと、揺れが収まるまで動くのは危険と感じました。戸棚からワイングラスが落ちて割れる音が聞こえました。

揺れが静まったので居間へ走りテレビのスイッチを入れました。NHK東京放送局のアナウンサーが一瞬写って画面は真っ暗になりました。居間の照明のスイッチを押しても点灯しません。窓のカーテンを開けて外を見ると見渡せる範囲が真っ暗です。

街灯も信号も消え、建物の窓から漏れる明りもありません。ポータブルラジオで大地震が発生したことを知り、充電式のマイクロテレビでNHKは東京放送局のアナウンサーが傍観者のような説明を続け、STVに切り替えると胆振地方が震源らしいと分りました。

単一乾電池二本の懐中電灯を立てて天井を照らし、反射光の柔らかな光に包まれながらラジオに耳を傾けると北電の苫東厚真火力発電所の発電機が停止したので停電は長引くらしい。苫東厚真火力発電所の発電機に無理をかけ過ぎた結果と思われました。

北海道電力は原子力規制委員会の指摘に疑問を呈し、自己の甘い断層評価で泊原子力発電所の再稼働にこだわり続ける結果、苫東厚真火力発電所は一ヶ所で道内54%の電力を供給せざるを得なかったのです。しかも、「3基とも損壊し、長期間止まることは想定していなかった」との説明を聞き、甘すぎる認識に驚きました

私達が日常、家庭などで使っている電気は交流です。交流は一瞬たりとも貯めて置く事が出来ません。一方発電所は社会が消費している日中のピーク時の電気を目標に発電していて、夜間時の消費減にはどうしても余ってきます。

夜の余力電力で山の上の貯水地に水を揚げます。この余力電力を水の位置エネルギーに変え、昼間のピーク時に下流に流してその水の力で発電機を回し電力を得ています。位置エネルギーを利用することで電気を貯めているのです。

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 7-2 住宅用太陽光発電

太陽光発電は晴れた日中にしか発電できず、日本国内の設備利用率は10~15%程度にとどまります。

あちこちで見かける住宅用の太陽光発電システムは、太陽の光エネルギーを受けて太陽電池が発電した直流電力を、パワーコンディショナにより電力会社と同じ交流電力に変換し、家庭内のさまざまな家電製品に電気を供給しています

一般方式の太陽光発電システムでは電力会社の配電線とつながっているので、発電電力が消費電力を上回った場合は、電力会社へ逆に送電(逆潮流)して2019年までの10年間は電気を買い取ってもらうこと(売電)ができるようになっています

また、曇りや雨の日など発電した電力では足りない時や夜間などは、従来通り電力会社の電気を使います。このような電気のやりとりは自動的に行われるので、日常の操作は不要になります。

住宅用の太陽光発電システムの設置費用は約100万円から200万円と言われ、保証期間は基本10年ですからその後は有料でメンテナンスを継続する必要があります。

売電価格は2014年度に37円でしたが徐々に下がり、2019年には住宅用太陽光で10kw未満の場合の買取価格は、出力制御対応機器の設置義務がある場合は26円、設置義務がない場合は24円となっています。

太陽光発電の設置価格も10年前と比べると3分の1まで価格が下がりましたが、機能は15年前と比べると数十倍も良くなっている上に価格は3分の1です。ただし、一部地域で10kw未満の「再生可能エネルギー(太陽光発電)」の買取中断がありました。

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 7-2 産業用太陽光発電

産業用太陽光発電システムは、発電量が10KW以上で国や自治体の補助金の対象外となります。産業用太陽光発電システムは発電量50KWを境として、低圧電力と高圧電力に分類されます

東日本大震災以降、原子力災害及び原子力発電所がストップしたことにより電力の供給体制が見直されています。その1つが太陽光発電であり、これからは事業者や個人も産業用太陽光発電・住宅用太陽光発電を使って非常電源の確保に努める必要があるでしょう。

産業用太陽光発電も同じく固定買取価格制度の適用対象で、住宅用太陽光発電より優遇されている面があります。それは全量買取・固定価格適用期間20年という部分です。

産業用太陽光発電の売電は全量買取が適用されています。買取期間についても、住宅用太陽光発電が10年間に対して、産業用太陽光発電は20年間なので期間に関しても大きなメリットがあります。

しかし、一定量の変化のない電力と周波数の問題が解消しなければ、配線をつなげばすぐ利用できるというものではありません。

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 7-3 産業用風力発電

風の力を利用して風車を回して、風車の回転運動を風力発電機に伝えて電気を起こします。再生可能エネルギーの中では比較的発電コストが低く、工期の短さもメリットとなっています。太陽光発電と異なり、風さえあれば夜間でも発電できるのがメリットです。

現在主流の大型風車(一般に千KW以上が大型とされる)は、ほとんどがプロペラ式風力発電システムです。風のエネルギーから得られる機械的動力エネルギーの割合(出力係数))は最大約60%とされていますが、実際には増速機・発電機における摩擦損失などがあるため発電効率では30%程度とされています。

風車は一般に大型化するほど効率が上がります。大型化でブレードが長くなればタワーも高くなり、上空の安定した風を受けられるためメリットは増します。しかし、風車のブレードは軽量で高強度であることが求められるため設計の難易度が高く、大型のブレードを一体成型で作る設備や技術も必要になります。

風力発電は平均風速、瞬間風速、風向や風速の乱れなどにより発電出力が変動します。騒音の主因は、増速機の歯車からの機械音とブレードの風切り音とされ、台風や強風時には安全に風車を停止させるなどの対策も必要です。

日本では東日本50Hz、西日本60Hzの周波数の交流電力が供給されています。電力の需給アンバランスは電源の電圧や周波数の変動となって表れるため、発電・送電システム間の緊密な保護や協調によって変動が一定の幅に収まるよう管理されています。

風力発電は風の状態による出力変動が避けられず、発電した電力を電力系統に送る場合には配慮が必要になります。ウィンドファーム(風力発電)やメガソーラー(大規模太陽光発電所)のような出力の大きな発電設備では、周波数維持のための変動の吸収量も大きくなります。

こうしたことから電力会社は、「連系可能量」として風力発電施設や太陽光発電施設から系統への上限値を設定し、接続を制限しています。これが北海道でのブラックアウト時に、風力発電や大規模太陽光発電所の電力が利用できなかった理由です。

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8 水素エネルギー自給へ

 8-1 売電からの転換

ウィンドファーム(風力発電)やメガソーラー(大規模太陽光発電所)を設置する企業は、発電した電力を売るのではなく自社消費できる発想に切り替えます。売電したくても周波数の問題が絡んで接続を制限されることがあるので地産地消が最善です。

発電された電力の地産地消には水が必要です。敷地内に川から水を引き込み、余剰水を再び川へ戻す用水路が必要になります。敷地内に引き込んだ用水路のそばに工場を建てます。建物内には水の電気分解設備を設置します

水の電気分解は自宅で出来るほど簡素な設備でできます。水の電気分解とは、水に電圧をかけることにより起こる水の酸化還元反応のことをいいます。この時、陰極(-)で還元反応が起こり水素が、陽極(+)で酸化反応が起こり酸素が発生します。

ヒューストン大学物理学科教授 Zhifeng Ren 氏らの研究チームが考案した新しい触媒は、リン化鉄とリン化2ニッケルから構成され、市販の発泡ニッケル表面上に固定されています。

水の電気分解では通常2種類の触媒が必要で、1つは陰極で水素を分離する反応を促進し、もう1つは陽極で酸素を生成します。それに対して今回の新触媒は1つで両方の機能を果たす、優れた二元機能触媒であることが判ったのです

この新触媒は短時間で大量の水素を製造でき、水素を生成するのに必要なエネルギーを劇的に減少させる可能性があります。また白金族の触媒と異なり地球に豊富にある元素をベースとしていることから、開発された技術は水素を大量に製造できます。実際的で安価な、環境に優しい理想的なプロセスになると期待されています

これにより、水を電気分解する電力を太陽光や風力・水力・地熱など、炭素原子を含まない再生可能エネルギーを使って生産できるようにすることで、理想的な水素製造法が実現します。

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 8-2 水素の貯蔵

産業用のウィンドファーム(風力発電)やメガソーラー(大規模太陽光発電所)は、施設内に水素の貯蔵タンクを備えます。高圧水素タンクには水素で脆くならない特殊ステンレス鋼やアルミニウム合金、高分子複合材料が使われます。

液化水素を長期保存するためには、タンク内での蒸発を抑えることが重要です。川崎重工はLPG貯蔵タンクより高度な断熱技術を開発して液化水素貯蔵タンクを実現し、JAXA種子島宇宙センターで25年以上にわたり使用されています。

しかも、川崎重工業は2016年度の実用化を目指して、燃料電池車5万台分の燃料となる液化水素を貯蔵できる大型タンクを開発しています。これを活用しないのは大きな損失です

高圧水素タンクには水素で脆くならない特殊ステンレス鋼やアルミニウム合金、高分子複合材料が使われます。水素は非常に軽いガスなので、貯蔵する方法としては「高圧で圧縮・低温で液化」などが主に使われています。

超高圧水素タンク700気圧というとんでもない圧力で水素が充填されていて、この圧力を損なわないために、燃料電池車のタンクにも、水素ステーションの貯蔵タンクにも、水素運搬車のタンクにも、この超高圧水素タンクを使う必要があります。

700気圧はウォータージェット洗浄に使われるような圧力のためで、タンクに穴が空いたらそこから噴出する水素の勢いは相当なものです。しかし、水素は地球上で最も軽い分子ですから、勢いよく出てきたとしてもそれほどの威力はありません。

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 8-3 集水素車システム

牛乳の集乳システムでは、搾乳された生乳はバルククーラーと呼ばれる冷却タンクに集められ、冷却されて出荷先である生産者団体から差し向けられた集乳車に引き渡します。集乳車は定期的に巡回しています。

産業用ウィンドファーム(風力発電)やメガソーラー(大規模太陽光発電所)の高圧水素タンクに貯められた水素を、定期的に巡回して集水素車が回収して液化水素貯蔵供給所へ運び貯蔵します

貯蔵された水素をエネルギーとして発電を行えば、一定量の周波数の変動にも対応できるクリーンな電力を供給できることになります。原子力発電のリスクと維持費用を考えると、月とスッポンほどに匹敵するでしょう

問題は、だれがいつ実行するかです

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