1 彗星のふるさと
1) オールトの雲は未確認
惑星とは異なる公転軌道をもつ彗星はどこからやってくるのでしょう。彗星の故郷は、「オールトの雲」「エッジワース・カイパーベルト」の2つが考えられています。太陽系創成期には、原始太陽系円盤に存在していた微惑星が合体して惑星が作られたと考えられています。
オールトの雲は、太陽から約1光年のところを球状に取り囲んでいる、小惑星や氷、ちりなどが多く存在する領域を指しますが、観測では実証されていません。重力散乱で外惑星によってはじき飛ばされた天体が、太陽の重力圏でとどまってできたとされています。
エッジワース・カイパーベルトはまたは単にカイパーベルトは、地球から約50億km離れた太陽系の果てに、太陽系最古の始原天体「微惑星」の生き残りと考えられる半径1kmの小天体が星周円盤の一種です。 恒星の周りに存在しガス成分をほとんど含まず、固体微粒子を主成分とする円盤は残骸円盤と呼ばれ赤外線の放射で観測されます。
星周円盤は、星の周りに存在するガスを主成分とする円盤を指します。若い星の周りに存在するガスを主成分とする星周円盤は、惑星形成の現場という意味を込めて原始惑星系円盤とも呼ばれます。
太陽から遠い場所にあった氷と塵は入り混じって氷微惑星となりました。この氷微惑星のうち、大きく成長した惑星によって太陽系の外側へと散らされたものがオールトの雲、海王星より外側の領域で惑星の成長途中で取り残されたものがエッジワース・カイパーベルトになったと考えられています。
太陽系外縁天体とは、1992年にうお座の中で1つの小惑星が発見されました。その天体は普通の小惑星とは大きく軌道が異なり、海王星の外側をまわる天体は千個以上もの数になっています。このような天体が太陽系外縁天体とよばれる天体で現在では冥王星もその1つと考えられています。
オールトの雲は、太陽系の外側・太陽から数万天文単位付近をぐるりと大きく球殻状に取り囲む氷微惑星の集まりで、長周期彗星はここからやってくると考えられています。エッジワース・カイパーベルトは、氷微惑星が海王星軌道の外側にほぼ黄道面に沿った軌道で分布している場所で、短周期彗星はここからやってくると考えられています。
2) 彗星の正体
太陽系の果てに到達する太陽周りの軌道を周回するZTF彗星は、NASAによると5万年ぶりに北半球ではほぼ1月いっぱい夜明けの空に現れます。今後数週間でさらに明るくなれば、2023年1月下旬にかけては肉眼でも見えるようになる可能性があります。
ZTF彗星は2023年2月1~2日にかけて地球に最接近し、地球から約4200万キロの距離を通過します。地球に近づくと北極星の近くに現れ、夜の早い時間に観測できます。周囲を取り巻く明るい緑色のコマで恒星との見分けがつきます。
彗星は本体の大きさが数キロメートルから数十キロメートルのとても小さな天体です。成分はそのおよそ8割が水(氷の状態)で、二酸化炭素、一酸化炭素、その他のガス、そして微量の塵(ちり)から成ります。
いずれも、それぞれの場所にある氷微惑星が何らかの原因(惑星の引力)で軌道を変え太陽系の内側へ向かう軌道に変化し、やがて太陽に近づいて「コマ」や「尾」を持つ彗星へと姿を変えるのです。
このように太陽から遠く離れた冷たい場所をふるさととする彗星は、太陽系が生まれた頃の惑星形成時の情報をそのまま閉じ込めて太陽に向かって進んでくるのです。夜空にぼんやりと輝き、地球に近づくとほうきのような長い尾をひく彗星は、その姿から「ほうき星」とも呼ばれます。
彗星の主成分は水(氷)で、表面に砂がついた「汚れた雪だるま」にたとえられます。太陽に近づくと、その熱で彗星本体(核)の表面が少しずつとけて崩壊します。そのときに本体の氷が蒸発し、ガスと塵も一緒に表面から放出されます。
その結果、彗星の本体がぼんやりとした淡い光に包まれるように輝いて見えます。これは「コマ」と呼ばれます。さらに、本体から放出されたガスと塵がほうきのように見える「尾」を作ります。彗星の尾は、その成分と見え方から大きく2種類に分けられます。
一つは、ガスが作る「イオンの尾(または、プラズマの尾)」です。放出された電気を帯びたガス(イオン)は、太陽風に流されて太陽とは反対の方向に細長く伸びます。もう一つは、塵が作る「ダストの尾(または、塵の尾)」です。
3) 小惑星との区別
放出された塵は、太陽の光の圧力(光圧)を受けて太陽とは反対の方向に伸びますが、塵のサイズによって圧力の受け方が異なるために、彗星の軌道面に広がった幅のある尾になり、イオンの尾とは異なる様子になります。
一部の粒の大きな塵は、彗星と同じように彗星の軌道を周回し続けます。これが流星群のもとになるのです。このような彗星のコマや尾が目立って観測され始めるのは、彗星が太陽からおよそ1天文単位前後 、つまり地球の軌道程度まで近づいてからです。
彗星が太陽に近づくほど本体から放出されるガスや塵の量が多くなるため、コマは明るくなり、尾も明るく長く伸びます。天文単位(てんもんたんい)とは太陽系の距離を測るのに便利な単位で、太陽から地球までの距離を1天文単位と表します。
1天文単位は約1億5000万kmです。光は1秒間に約30万km進みます。太陽系の外の宇宙の距離を表すには、光年という単位が使われます。1光年は光が1年間に進む距離のことで、約9兆5000億kmです。
しかし、太陽に近づいた際にどの程度明るくなるか、地球からどのように見えるかは、彗星本体のサイズや表面の状態、成分、さらに地球との位置関係によっても異なるため、正確な予測は難しいのです。
もともと、観測されたときにコマや尾といった物質の蒸発が見られる非恒星状の天体が彗星、そういった蒸発が見られない恒星状の天体が小惑星とされていました。しかし、近年は、小惑星と認識されていた天体が、彗星のような蒸発活動が見られたために後から彗星とされたものや、逆に、彗星のような軌道を持ちながら蒸発が見られない小惑星のような天体も発見されています。
最近では、小惑星帯の中にも彗星活動を示す天体が見つかっています。このことから、彗星と小惑星の区別が次第にあいまいになっていると言うことができます。
4) 彗星の名前
彗星の名前には、発見者の名前が、発見・報告の早い順に最大で3名まで付けられます(一部例外もあります)。発見者名は個人や観測グループ、天体観測衛星の場合など様々です。個々の彗星を区別できるよう、正式には符号を付けることになっています。
まず、発見された年号と、発見時期を表すアルファベット、その時期何番目に発見されたかを表す数字が付けられます。さらに先頭には「C/」もしくは「P/」という符号が付けられますが、「C/」は彗星として発見された場合、さらに周期彗星として確認された場合には「P/」となります。
2013年3月に太陽に近づく「パンスターズ彗星」は、2011年6月前半の時期に発見された4番目の彗星です。そして一度太陽に接近して戻ってこない彗星(周期彗星ではない)のため「C/」が先頭に付けられています。そしてこの符号の後には括弧書きで「PANSTARRS」という発見者(観測プロジェクト)の名前が表記されています。
小説や歌の歌詞などでもよく耳にする「彗星」。その形から「ほうき星」とも呼ばれています。この記事では、一体どんなものなのか概要や構造、種類、よく似た形をしている「流れ星」との違いがおわかりでしょうか。
広い宇宙空間に存在し、我々人類の天文学の対象となる物体を総称して「天体」と呼びます。彗星とは太陽系のはるか彼方からやってくる氷塊のことで、核と呼ばれる部分の80%が水、残りの20%は一酸化炭素や二酸化炭素などの気体と砂粒や塵でできています。
彗星は大きさも1~10kmほどで、公転軌道も太陽を中心に回っているわけではありません。タイミングがよければ地球上からでも観測することが可能です。尾を引いている形から「ほうき星」とも呼ばれています。
核を気体や塵などさまざまな物質が覆っていることから、「汚れた雪玉」とたとえられることもある彗星。その構造は、本体である核とそこから放射状に伸びる「イオンテール」と「ダストテール」という2つの尾で構成されています。
核は80%の水と20%の塵でできていて、太陽からの放射圧と太陽風の影響で発散するガス体が「尾」のうように見えているのです。尾は進行方向とはまったく関係なく、太陽から遠ざかるように伸びています。
5) 彗星の魅力
突然のように現れて夜空に長い尾をたなびかせる彗星は、古来から忌まわしきものと言われてきました。大彗星の出現は天変地異の前触れなどとされていたようです。彗星の正体が分からなかった時代の人々は、人心を惑わす不思議なものと映ったのでしょう。
彗星には大きく分けて、長周期のものと短周期のものです。彗星もまた惑星と同じように太陽系を構成する天体です。彗星が太陽に近づいた時に観測される、彗星頭部が明るく拡散状に広がった領域をコマと呼びます。中心にある彗星核から放出されたガスとダストで構成されます。
彗星は通常、中心部に輝く核と、それを取り巻くボーッとしたコマ、尾から構成されています。中にはコマがほとんどなく恒星状に見えるものや、尾がなく球状星団のように見えるもの、核がはっきりせず淡い雲のように見えるものなどがあり、様々です。
核は、彗星の中心部に輝く固体部分です。非常に小さなもので、過去に実際に核の大きさが測られた彗星は、現在のところハレー彗星など数個だけです。ハレー彗星の前回の回帰の際に接近した各国の探査機によって7×7×15kmのじゃがいも型の核がとらえられました。そして、その表面の所々からガスやチリがジェット状に吹き出しているのもあわせて観測されました。
コマは、核から吹き出したガスやチリが核を取り巻いているもので、大きさは10万~100万キロメートルもある巨大な塊です。コマは、太陽からのエネルギーの影響で放出されるものですから、彗星が遠くにあるときにはほとんど見られません。通常の場合彗星が太陽から2~33天文単位くらいまで近付くと発生することが知られています。
しかし、何といっても彗星の最大の特徴は、その尾にあります。明るく長い尾を伸ばした大彗星の姿ほど素晴らしいものはありません。まさにほうき星そのものの姿を見せてくれます。核から放出されたガスやチリが長く伸びて彗星の尾となります。
ガスは太陽から吹きつける太陽風によって、太陽の正反対側にほぼ直線状に伸びていきます。これをタイプの尾、またはイオンの尾と言います。一方、チリは核からの放出速度と彗星本体の速度との関係から、新たな太陽周回軌道を運動するようになります。この時放出時期やチリの大きさの分布など、いくつかの要素が絡み合って曲線状に伸びていきます。これをタイプⅡの尾、またはダストの尾といいます。
さらに、彗星の中には、太陽の方向に向かう尾を見せるものがあります。大きく曲ったダストの尾が、見かけ上反対方向に伸びる尾として見えるもので、これを特にアンチテイルと呼んでいます。このタイプの尾は、地球が彗星の軌道面を通過するときに、その位置関係から見られるものでほぼ直線状に見えます。
6) 長周期と短周期
彗星は放射状の光で、流れ星は直線的な光なので、実際に観測してみるとその差は一目瞭然です。彗星は大きく「周期彗星」「非周期彗星」の2つに分けることができます。
この2つの差は「離心率」というもので、離心率とは軌道の形がどれくらい円から離れているかを示す数値です。完全な円は0で、楕円へと細長く形を変えるごとに数値は上がっていきます。「周期彗星」は離心率が1未満のものを指します。公転周期が数年のものから100年を超えるものまで、300年を超える星が登録されています。
代表的なものとして「ハレー彗星」が挙げられるでしょう。初めて周期性が確認されたため、登録番号1番が割り振られています。その周期は75.4年で、人間の寿命を考えると一生に1度見られるかどうかです。
「非周期彗星」は離心率が1以上のものを指していて、公転周期が定義できず、1度太陽を通過した後は二度と戻ってこない、または数十万年以上の周期であるため観測不可能な場合が分類されます。
非周期彗星のなかで離心率が1以上であったとしても、周期が200年以上のものを「長周期彗星」、200年以下のものを「短周期彗星」と分けています。
エンケ彗星は2013年9月24日に地球へ近づき、日の出の直前に明け方の空にしか見えません。肉眼で見えるとは予想されていませんが、双眼鏡で観察できるようになる可能性があります。ハートレー第2彗星は2023年9月26日に地球へ近づき小型望遠鏡でも観測できます。
彗星はかすかでぼやけていて検出が難しい天体であるため、彗星の位置を確実に把握しておくことが最善です。2023年には、10等級以上になる可能性のある彗星が少なくとも10個発生するでしょう。これらの彗星のいくつかは、双眼鏡や肉眼でさえ見えるようになるかもしれません。
ZTF彗星を今すぐ見ることができます。すでに7等級に達しており、大きな双眼鏡や望遠鏡で簡単に観測できます。この彗星は、かんむり座の中にあります。ヘラクレス座のキーストーンのアステリズムと、うしかい座の明るい星のアルクトゥルスの間です。彗星は真夜中過ぎにすぐに見えるようになり、夜明け前に空で最も高く上昇します。